Back

「アメリカの音楽業界はオーディエンスを見くびりすぎている」
人生を包み隠さず音に変えて──
L’Rainが傑作『I Killed Your Dog』を語る

26 December 2023 | By Daiki Takaku

さて、何から説明すれば伝わるだろうか。L’Rainことタジャ・チークが素晴らしいミュージシャン(マルチ・インストゥルメンタリスト/コンポーザー/パフォーマー)であると同時に《MoMa PS1》などでも仕事をしていた優秀なキュレーターであること? L’Rainが黒人女性で、アーティスト名が2016年に他界した母の名前、ロレインに由来していること? セカンド・アルバム『Fatigue』(2021年)が《The Wire》の年間最優秀アルバムに選ばれていたり、今作『I Killed Your Dog』も年末に発表されているさまざまなメディアのリストに名を連ねていること? もしかしたらこの『I Killed Your Dog』というアルバムが、R&Bの未来をまるっきり別のものに変えてしまうかもしれないってこと?

エゴを通して申し訳ないのだけれど、ここでは私が『I Killed Your Dog』と出会って感じた喜びについて書かせて欲しい。少し寒さが忍び寄ってきた10月13日、ブルックリンから届けられた、L’Rainのサード・アルバムを初めて聴いたときのことを。

「世界の終わり/準備はいい?」。鬼才、ビル・T・ジョーンズのサンプルが終わると、滑らかなトランジションを経て、L’Rainの官能的で挑発的なヴォーカルが降ってくる。始まったばかりなのに、このアルバムは終わりを見つめている。奇妙なことだ。そしてさらに奇妙なことは続く。ところどころ不自然な声や音は、甘く美しく、それに軽やかで、ときどきスリリング。それはR&Bのような何かで、ロックのような何かで、エレクトロのような何かで、ジャズのような何かで……でも、どれでもない。と言うか、どれでもある。綴られた言葉のほとんどには、別離の悲しみがまとわりついているけれど、ときおりジョークのようなものも混じっている。曲がりくねったメロドラマなのか。からかわれているだけなのか。そもそも『I Killed Your Dog』というタイトルの“Dog”はスラングなどではなく、タジャが愛してやまない存在で、その象徴らしい。アルバムのタイトルにも内容にも矛盾ばかりが目立つ。L’Rainはどんな表情で歌っているんだろう。L’Rainはどんな気持ちで、このアルバムを作ったんだろう。聴いていると、心がかき乱されてしまう。はっきり言って、このアルバムはちぐはぐだ。

その不思議な体験が訪れたのは、このグラグラとしたフィーリングを“楽しい”とか“面白い”と表現していいものか考えていたときだった。何がきっかけかわからない。ふと再び耳に神経を集中してみると、「わかっているよ」と親友に耳元で囁かれたみたいに、不意にすべてが繋がっていく。もし心に輪郭があるなら、声が、音が、その内側に飛び込んで反響する。嗚咽が漏れそうだった。初めて恋に落ちたときとも、初めて音楽に夢中になったときとも、少し似ていて少し違った感覚。打ちひしがれるような、解き放たれるような、ズシリと重く、それでいて遠くの地平線を眺めているみたいな、清々しい心地よさ。この気持ちを、一体誰が正しく言葉にできるんだろうか。言葉にしたいときほど言葉は言うことを聞いてくれない。だからせめてありのままを。この身に起きたことを伝えたい──。気のせいなんかじゃなかったんだ。そこにあるL’Rainの取り乱した声が、いつの間にか私の内側にうごめく声と重なって聞こえていたのは。この瞬間を、私はどれだけ待ち望んでいたんだろうか。

冷静になってみるとわかる。その声は主張でもあるのだ。この社会に生きるすべての周縁化された人々の声を代弁していると言ってもいい。身に覚えはないだろうか。努力を積み上げてきたにも関わらず、自分の価値がまるでないもののように感じてしまったことが。悲しみを、痛みを、どうしようもなく誰かに理解して欲しいのに、その人が差し伸べてくれた手を握り返せなかったことが。笑顔の裏で、涙を流したことが。L’Rainが『I Killed Your Dog』で成し遂げたことは、そういった混乱、ときに愛とさえ呼べる感情の共有である。

「今日はうちの愛犬も一緒に」。自室からZoomを繋いでくれたタジャの膝の上には、可愛らしいオス犬のアイコンが乗っている。彼が映り込むたび、画面に並んだ大人たちの顔が弛む理由を説明する必要があるだろうか。このような状況ではなおさら口にするのが憚られるタイトルではあるが、L’Rainの最高傑作にして、その主なコラボレーターであるベン・シャポトー=カッツとアンドリュー・ラピン曰く、3部作の結びとなるアルバム『I Killed Your Dog』ついて話を訊いた。

編集部として付け加えておくと、記事公開日の関係上、TURNの年間ベストに『I Killed Your Dog』は含まれていないが、同作をTURNの選ぶ今年のベスト・アルバムの1枚として数えてもらって構わない。
(インタヴュー・文/高久大輝 通訳/竹澤彩子)

Interview with L’Rain

──まず二つのアルバムをリリースしたあと、今作『I Killed Your Dog』の制作に着手するまで、どのような心境だったのか教えていただけますか?

L’Rain(以下、L):新作を作るときは毎回コラボレーターたちと話し合って、やりたいことを明確にして、それをどういう形で作品に反映させていくのか徹底的に話し合うところから始めているんだ。どうやってお互いにサプライズを仕掛けるのか、まったく新しい感触を作れるのか、というところからスタートする。完全にオープンで白紙の状態から新たな冒険の旅に出るような心構えでね。

──これまでの作品、特に前作『Fatigue』は高い評価を受けた作品でした。そういったリアクションはどのように受け取っていたのでしょうか?

L:そもそもそういったリアクションが返ってきたこと自体が驚き。ただ、昔からずっと自分の作品に対しての外部の評価をできるだけ意識に入り込ませないようにしているんだ。外部からの声ではなく、自分の心の声に常に耳を傾けて、自分が心からやりたいと思っている音楽を形にしていきたいからね。とはいえ、どうしても気になっちゃうことはあって……以前より多くの人が自分の音楽を聴いてくれるようになったことで、若干ナーヴァスなモードに陥ってしまうこともあって。そうした状況で、外からのノイズやプレッシャーをできるだけ自分の音楽に入り込ませないように、ただ自分の内側から湧き起こってくるものにずっとフォーカスするように努めていたよ。

──過去のインタヴューで「15歳以降に録音したものはほとんど全部持っている」と話していました。そこからヒントを得ることも多いと思うのですが、これまで制作した音源やフィールドレコーディングされた音、自分の人生を覚えておくために録音したものなどはどのように整理して作品に反映させていますか?

L:もはや手に負えないんだ、もうぐちゃぐちゃ(笑)。それに音源を保存するときにクレイジーなファイル名をつけていたりするから、自分でもわけがわからない(笑)。整理しようと思っても物理的に不可能なレベルだね(笑)。でも、そこが逆に面白かったりするんだよ。折に触れて自分の音源をまとめて振り返ったときに、「何これ、くだらない」と思っていたものが「超面白い!」と感じるものに化けていたりしてね。だから、自分の頭ではなく直感で音に向き合うようにしているんだ。自分の内側の深いところから生まれた感覚を全面的に信頼して、それに従っていけば必ず何か素敵な展開に導いてくれると信じているんだよ。膨大な音源をどうやって裁いていくかが実は一番の難関なのかも(笑)。

──ではほとんどランダムに音源にアクセスしているんですね。

L:覚えていることもあるし……一応録った音源には全部名前をつけて保存するようにしていて。そこからハッと思い出すこともあるかもしれないから、念のためにね。そのファイル名をヒントにして、そこからどんな音だったかを想像したりもする。それから、新規のレコーディングに入るときにはできるだけそうした音源を聴き返すようにしているんだ。そのときは私も新しい自分になってるから、まったく新しいアイディアを思いつくかもしれない。折に触れて録った音源を聴き返すようにしてるのもそのためで、そのときは何も感じなくても別のときには何か思いつくかもしれない。だからできるだけ音源を聴くようにしてる。

──然るべきタイミングで出会ったものを大切にしていると。

L:その通り。ただ、私は同じ人たちとずっと一緒に曲を作っているから、コラボレーション相手の方が自分が昔作った音源を覚えていて、ふとした瞬間に「あのときのあれ、使えるんじゃない?」と提案してくれたり、それをどう組み立てていったらいいのか彼らの方でアイディアを練って、長い間眠っていた音源を歌に生まれ変わらせてくれることもあるんだ。私にとっては直感的な作業だけど、まわりのコラボレーターにとってはプランを描くような作業が入ってきたりするのかもしれない。

──自分の予期していなかったタイミングで過去の自分の感情や大きな何かに遭遇して驚くこともありますか?

L:毎回そういう驚きの連続。今回のアルバムの最初のトラック(「Sincerity Commercial」)がまさにそうで、大昔に書いた曲で完全に記憶の隅に追いやられていたんだけど、別の音源を探してて見つからないときに、あの音源に遭遇してワーッと一気にインスピレーションが湧いてきたんだ。結果的にそれまでの流れが一変するような、新たな扉を開いてくれるような、アルバム全体を象徴する曲になったんだよね。

──影響で言えば、アニマル・コレクティヴ(2022年)やシャロン・ヴァン・エッテン(2022年)、 ビッグ・シーフ(2023年)、LCDサウンドシステム(2023年)などとのツアーを経験したことも大きかったのではないですか?

L:本当にもう、今言ってくれたような人たちと一緒にツアーさせてもらえるなんてどれだけ自分はラッキーなんだろうって……みんないい人ばかりで。嬉しいのが、アーティスト本人から直に声をかけてもらったケースがほとんどってこと。事務所の圧力やバーター的なものでもなく「ぜひツアーに参加してよ」って。 よく覚えてるのはビッグ・シーフのツアーに出る前にドラマーのジェームズ(・クリヴチェニア)が最初に私たちの音楽を聴いたときの感想をメッセージにして送ってくれたこと。思いの丈をわざわざ言葉にして伝えてくれたんだ。それにもう感激しちゃって。 だって自分が大好きな音楽を作っている先輩が自分の音楽を聴いてくれて、その思いをわざわざ素敵な言葉にして、最後に一言「一緒にツアーしてくれませんか?」なんて、ヤバすぎ(笑)。

──ちなみに今言ったアーティストたちも実験的な要素を持った上でポップ・ミュージックのフィールドで活動しています。あなたの最新作『I Killed Your Dog』の素晴らしさの一つもまさにそういったところで、遊び心や軽快さに溢れていますよね。

L:本当に、自分は昔からそういうところを目標にしてきたと思う……ものすごくポップで親しみやすいんだけど、同時に実験精神にも溢れているような、そのバランスを探っているのかもしれない。自分が今言ったアーティストを好きな理由もそういうところにある気がするし、昔から自分はそうだった気がする。それに実験的な音楽だけ別枠扱いするのって、私自身はちょっと違う気がするんだよね。むしろ“普通”の人たちでも当たり前に、ちょっと変だったり、気持ちがザワザワしたり、脳味噌が一瞬ひっかきまわされるような音に触れられるような世の中の方がよほど人類の成長のために有効なんじゃないかと思う。要するに、自分は隔離された世界で音楽を作っているんじゃないってこと。人々の中で生きて暮らして、そこから音楽を発信しているんだよ。

──なるほど。人の抱えた葛藤や混乱に満ちた内容になっていて、だからこそリアリティに溢れた作品になってるとも感じます。あなたはどの段階でこのような作品の(あなた自身が「アンチ・ブレイクアップ」、“別れを拒む”作品だと説明するアルバムの)全体像を察知しましたか?

L:自分の中では、人間関係や恋人との別れついてテーマにしてみたい気持ちがあったんだよね。目指しているゴールは常にそこだった。ただ、自分が作っている音がそこにうまくハマるのかが疑問で。でも、ふとポップ・ミュージックのアーティストに目を向けてみると、みんな恋や別れについて歌っている。テイラー・スウィフトなんてまさにそうでしょ。だから自分もそんな作品に挑戦してみたら面白いんじゃないかって。そこが最初のスタート地点。 そしてそこからだんだんとその方向を開拓していくうちに「あ、これって自分が昔からずっとやってきたことだ」って気がついたんだ。常に自分と周りの人との関係や別れについて、それをどう克服していくかについて歌ってきたじゃないかってね。 最初は自分が目標にしているテーマとやっている音楽の間に差があるんじゃないか心配していたけど、今までだってちゃんとシンクロしていたことに気がついたんだよ。自分の人生を包み隠さずそのまま音に出していたんだって。

──これまでのインタヴューではあなたは影響を受けた人物についてあまり具体的な名前を挙げてこなかったと思います。そんな中でもニーナ・シモンやブランディといった黒人女性シンガーの名前があったのが印象的だったのですが、彼女たちから受けた影響について教えていただけますか?

L:子どもの頃から歌に関しては自覚的というか、前のめりで好きだったんだ。歌が圧倒的に素晴らしかったからね。それでR&Bシンガーの歌が大好きで聴きまくっていて。ブランディに関しては、理由もなく昔からずっと大好きだったんだけど、あるとき彼女がエンヤの大ファンだってことを知って。ブランディの音楽を通して、R&B以外のいろんな音楽を自分は感じ取って自然に反応していたことに気がついた。ニーナ・シモンに関しては元々クラシックのピアノを学んできた人でしょ? 私もそうなんだよね。子どもの頃からクラシックのピアノに慣れ親しんできたから。ニーナ・シモンもそれがいかに自分の音楽に影響を与えてるかについていろんなところで語っていて、実際、クラシックのピアノが彼女のサウンドの一部になってるんだけど、そこに自分を重ね合わせているのもある。それと何よりもあの声が好き。まさに個性的という言葉がピッタリ。彼女がどんな曲を歌ってようが声を聴いた瞬間に「ニーナ・シモンの歌だ」とわかる。自分もそういうシンガーになりたいんだよね。前回のアルバムとどれだけかけ離れたことをやっていても、 歌を聴いた瞬間に「あ、あの人の歌だ」とわかるような、そんな存在になりたい。

──腑に落ちました。

L:でしょ(笑)。

──今回のアルバムはロックの要素もあって、例えば「Pet Rock」は、少し皮肉っぽくもありますが、元々黒人にルーツのあるロックを軽やかに取り戻してる感覚があります。こういったアイディアは元々温めていたものなのでしょうか?

L:やるからには何かしら本当に意義のある音楽をやりたいと思っていて……しかも、軽やかにそれをやってみたい願望があるんだよね。だから……その指摘はめちゃくちゃ嬉しい。ロックンロール自体は昔から好きで聴いてたし、ブラック・ミュージックがルーツというのも知識としては知っていたけど、それってともすると忘れてしまいがちでしょ? だから、他の誰より、自分にそれを思い出させるために作ったんだよね。そしてそれと同時に、何も考えずにただ楽しみたかった。個人的にはすごくシリアスなんだけど、大事なことを伝えるためには、ユーモアと共に笑顔で伝えるのが一番の有効策なんじゃないかな……それを自分から実践してるってことなのかも(笑)。

──ちなみに既存のジャンルを用いているという意味では「What’s That Song?」は明らかにジャズを意識していて、これも皮肉交じりの曲になっています。あなたの祖父がジャズクラブを経営していたという話も耳にしましたが、あなたの中でジャズと呼ばれる音楽の存在はどのように変遷していますか?

L:鋭い質問。私自身、本格的にジャズを勉強した経験はないんだ。だから常によそ者という感覚がつきまとっている。それでも、どういうわけかガチでジャズを学んできた人たちに囲まれる機会が多かったんだよね。そこで自分もジャズについて知っている風に振舞えたら良かったんだろうけど……というか、ジャズ自体は本当にめちゃくちゃ好きなんだよ。折に触れて聴いてるし多くの人々がジャズに共鳴している理由もすごくよくわかる。もちろんジャズというものに対して絶対的な尊敬の念も抱いている。ただ、自分はその世界にドップリ浸かっていたわけではないというか、そもそも本格的にジャズをやってきたわけじゃなくて。それなのに気がついたらたくさんのジャズ・ミュージシャンに囲まれて演奏してる状況になっていて。

私自身はクラシックのピアノをずっと学んできたんだけど、ドビュッシーなんかのフランスのクラシック作曲家たちの作る音楽ってハーモニーの部分でジャズとものすごく共通点があるんだよね。だから私のジャズの入り方はちょっと特殊なのかも……正面からじゃなくて斜めからというか。ちなみにお祖父ちゃんのやっていたジャズクラブは自分が今住んでいるところから10分、15分の場所にあるんだよね。今はもうなくなっちゃってるんだけど、当時の様子についてはめちゃくちゃ興味があって、あの空間についてすごく知りたい。父親がたまに話してくれるんだけどね。もっともっと知りたい。

──これから先ジャズを深く研究する時期が来るかもしれませんね。

L:ほんとに! もっと深掘りしてみたい。ジャズは本当に可能性に溢れた音楽なんだよ。すごく面白いと思うのは、「ジャズとは?」っていう議論が多くなされてるじゃない? ビーバップ以外はジャズと認めない人もいれば、ある特定の時代や地域に限定してジャズを定義づけている人もいたりね。ただ、そもそもジャズ自体にものすごい広がりがあるし、時代と共にどんどん移り変わっている音楽のような気がするんだ。となると現時点ではジャズとは思われていない音楽が何年か先にジャズに化ける可能性も秘めてるってこと(笑)!

──その通りだと思います。ロックやジャズなど特定のジャンルについて話を訊いてきましたが、一方で現在は多くの音楽がジャンルに括ることのできない、ポスト・ジャンルの時代とも呼べるかもしれません。これはあなたにとって好ましい状況ですか?

L:大歓迎。そういう意味では、今の時代は最高だと思う。音楽業界、特にアメリカの音楽業界はオーディエンスを見くびりすぎている気がするんだよね。みんな音楽が好きでいろんな音楽を聴いていることをちっとも理解していない。ジャンル分けした方が売りやすいのはわかるけどさ。でも今ってみんながジャンルや流行に一切関係なく、自分が聴きたい音楽を聴くようになっている。それって素晴らしいことだと思う。いろんなサウンドに触れるのが当たり前なんて、すごく素敵。今、あちこちで小さなフェスが少しずつ起ち上っていて、メインストリームではなく普通にみんながいろんな音楽に慣れ親しんで、身近に楽しむようになっている。それってカルチャーにとってすごく豊かな恩恵をもたらしてくれると思う。

──そうしたインディペンデントのパーティやフェスであなたが今一番注目している、まだあまり知られていないアーティストがいたら紹介して欲しいです。

L:待って、今調べるね。めっちゃ楽しい! えーっとスマホをチェックしないと……最近は何を聴いてるかな。『Llisten to This(必聴)』ってタイトルでプレイリストを作っていて(笑)、気になるアーティストの曲はとりあえずその中に放り込んでるんだけど、もう1万曲ぐらいに膨らんでいて、全然追いきれていないんだ(笑)。えーっと、どこからいこう? そうだな……もしかして日本でもう知られてるかもしれないけど、Lyra Pramukは超おすすめ。あとサックス・プレイヤーのBendik Giske、たぶん日本でも演奏したことがあるんじゃないかな?

──ありがとうございます。

L:こちらこそ(笑)!

──では次の質問に……

L:あ、もう1人追加させて! Keiyaa!

(※チャットでも紹介したいアーティストの名前を送ってくれており、そこにはAlekbulanとも書かれていた)

──では気を取り直して。あるインタヴューであなたは「(私たちは)社会から、個人としてのトラウマに対処する時間も資源も与えられていない」と話していました。そしてその上であなたは主体的に「自分自身から始めること」の重要性を話しています。先ほども「自分で実践している」と話していましたが、このようなメンタリティはどのように培われたのでしょうか?

L:私はもともと自分の感情の処理をするのが苦手で。すごく大きな怒りや悲しみを内に抱えているのに、自分でもそれをどうやって扱っていいのかわからなかった。だからL’Rainというプロジェクトは自分自身の感情に責任を持ちたい気持ちと、もっとハッピーで健全な人間になりたい気持ちから始まっているんだよね。人生の探求の一環として……今だってその方法を摸索中で、まだまだ全面解決には程遠いけれど、それを目指して道半ばの状態ではある。自分がもっと幸せな人生を生きられるようになるために、自分の人生をもっとよく理解するために。だから、自分の頭の中にあるアイディアなり感情なりを処理していく上で、このL’Rainというプロジェクトをやることがものすごく自分の助けになっている。私はこれがあって本当に救われているんだ。

──パーソナルな感情の部分にフォーカスする中で、あなた自身の黒人女性としてのアイデンティティや、その他のさまざまマイノリティの置かれた状況をすごく冷静に捉えているような印象もあります。

L:そこがきちんと伝わっていてすごく嬉しい。リズムがだいぶクラシカルなものと違っていて変わっているという理由で私の音楽を知的なものとして捉えている人もいるから。私にとってはまさに感情的な音楽そのものなんだよね。自分のアイデンティティと結びついてる音楽であるってことも……感じ取ってもらえてすごく嬉しい。すごく大きな目で見たときに、パーソナルな問題って最終的に政治にも結びついてる気がするんだ。自分という一個人がこれまで生きてきた経験にとことんフォーカスを当てることで、自分と同じ生きづらさを抱えている人たちにアクセスできたらいいなって。こっち側の言い分をほんの少しでもいいから理解して欲しい……その上で、最終的には自分とまったく立場の違う人たちとも繋がれたらいいなと思う。本当にね……アイデンティティの問題は誰しもが共通して抱えてるものだし。入り口は何でもいい、どの角度からも働きかけることができるオープンな音楽を自分としてはやっているつもりなんだ。とりあえず自分の体験を元に、そこから社会とか大きなテーマに開かれていくような流れができてたら、すごく素敵だなって思う。

──本作では自分自身という概念も含め、形のないものを信じることについても歌っています。それは現在の世界においてすごく難しいことですよね。

L:……なんだか、今の話してくれたことの中に、今回のアルバムのエッセンスが美しい言葉として凝縮されている気がする。自分が音楽を好きな理由ってまさにそこなんだ。自分は絶対的に音楽を愛しているけど、音楽自体に形があるかっていったらそうじゃないでしょ? 形がないからこそ逆に国や言語、その他諸々の壁を越えて人々に響いているわけじゃない? それってものすごく強い。だからこそ、これまで音楽はたくさんの人の人生を変えていくことができたんじゃないかって、本当にそう思う。形はないかもしれないけど、確実に感じることができる。

──2曲目の「Our Funeral」でリリックに登場する「終わり(End)」という言葉はすごく重要な気がしています。あなたが「終わり」をどのように定義づけているのか教えてください。

L:また鋭い質問(笑)。アルバムの序盤から「終わり」というキーワードを掲げるなんて、たしかに「なぜ?」って感じなんだけど(笑)、でも現状世の中で起こっていることって理解できないことだらけじゃない? それこそこれまで人類が経験したことのなかったような大きな変化に直面するような。ある意味、リアルタイムで終末を生きているような、それくらいすべてが目まぐるしく変化している。だからこそ、終わりから始めたかったんだよね。ただ終わりがいつなのかわからない。新しい始まりに入ってからようやく気づくもの、古いサイクルを抜けて「あ、いつのまにか新しいフェーズに入っていた」と気づくものというか。ただ、今これだけ生きづらくて混乱している時代だからこそ、何かしら新しいものを作り上げることができたらいいなって。今よりももっと希望に満ち溢れていて、未来を信じられるような世の中になっていったらいいと思う。振り返って「あ、終わっていた、いつのまにか新しいフェーズに入っていたんだ」と思える日が早く来るといいな(笑)。

──ちなみに前作『Fatigue』にも参加していたスローソン・マローン 1ことジャスパー・マルサリスの新作『Excelsior』はすでに聴きましたか? 

L:もちろん!

──彼は今LAにいると思いますが、ぜひあなたの感想を伺いたいです。

L:私はもうジャスパーが好きすぎて。本当にインスピレーションの塊みたいな人だと思う。ジャスパーのやることすべてが自分にとっては刺激的なインスピレーションなんだよね。

──彼は今LAにいると思いますが、連絡を取ったりしてますか?

L:うん、友達だからね。一昨日も話していたくらい。ジャスパーがLAにいるときにはこっちからもこまめに連絡しているし、お互いにちょいちょい会う感じ。ジャスパーのような魅力的な人と音楽を通してだけじゃなくて友人としても繋がってるなんて、すごくありがたいことだよね。大尊敬しているし、もはや自分の音楽ファミリーの一員だと思ってるよ。そうそう、メールで感想を送ってくれたよ。えーっと、ちょっと待って……(と、スマホの履歴を検索する)。すごく心がほっこりする内容なの(笑)。えーっと、ごめん、すぐには出てこないけど、それ以外にもそれまでにさんざん今度の新作について2人で語り合っていたんだよね。私とジャスパーは、何て言うか、お互いに尊敬し合っていて、お互いにこの世に存在してくれているだけでよかった! みたいに思いやってる関係性なんだ。

──ゲストの話だと、今回の作品のトラックリスト・シークエンスにはダニエル・ロパティン(Oneohtrix Point Never)の名前がクレジットされています。彼は本作でどのような仕事をしてますか?

L:友達が働いている本屋さんで偶然ダン(ダニエル)に会ったの(笑)。何年も前に同じステージに出たことがあったんだけど、そのときに「今度音源を送るね」なんて話をしていて、それで(過去の)アルバムを送ったらすごく良かったと言ってくれて。今回のアルバムのシークエンスというか、曲と曲の流れを作る上で、ちょっと意外な人を呼んで一緒にやってみたくて、ちょうど前回の作品におけるジャスパー的な役割として。それでダンに協力して少しもらった……とはいえ、それをまたこっちでいじくりつつ、ダンが作ってくれたまんまの形を残している部分もあるような感じ。今回のアルバムに素敵な花を添えてくれた。

──では最後にこの先あなたが考えていることだったり、次にどんなものを形にしていきたいのかについて教えてください。

L:今はまだ古いサイクルの幕を閉じる最終段階にあって、新しいフェーズに移行しようとしてる最中な気がする。でも私のコラボレーターのベンとアンドリューの2人が「今回のアルバムは3部作の終わりだね」と言っていたんだよね。この次に何が来るとしてもまったく新しいスタートになるんじゃないかって……だから次に何が来るのか自分でもまるで未知(笑)。自分でもどこから始めていいのかわからない。それでも何週間か経ったらまたレコーディングに入る予定で、何が起こるかわからないからこそすごく素敵な状態。今ものすごくワクワクしてる!

<了>



Text By Daiki Takaku


L’Rain

『I Killed Your Dog』

LABEL : Mexican Summer / Big Nothing
LPの購入はこちら
Tower Records / HMV / disk union / Amazon


関連記事
【REVIEW】
Slauson Malone 1『Excelsior』
http://turntokyo.com/reviews/excelsior-slauson-malone-1/

【INTERVIEW】
「大掛かりな資金や高価な機材が揃っていないと刺激的なポップ作品は作ることはできないという概念に挑んでやりたい」
Eden Samaraがデビュー作『Rough Night』で示す
“Music is community”という哲学
http://turntokyo.com/features/eden-samara-rough-night-interview/

1 2 3 61