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「炭鉱労働者のストで得た視点とは違う社会活動を考えるようになった」
中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)が29年ぶりに問うビリー・ブラッグの気骨

16 December 2021 | By Takashi Nakagawa

ビリー・ブラッグと言えば、1980年代のイギリスを代表する労働者支持アーティストという印象が今なお強いかもしれない。クラッシュでパンクに目覚めてバンド活動開始。僅か3日間で2トラックのテープに録音した45回転7曲入りのミニ・アルバム『Llfe’s A Riot With Spy VS.Spy』でインディ・チャートのトップに輝いたのは1983年のことだ。“ワンマン・クラッシュ”との異名そのままに、路上演奏で怒りのエネルギーをぶちまけたり、音楽誌の編集部に乗り込んで歌ったり、反核団体(CND)のベネフィット・コンサートや炭鉱労働者のスト支援ライヴなども行なった。彼の働きかけでポール・ウェラー、コミュナーズ、ザ・スミス、マッドネスらを巻き込み、イギリスの音楽史上最初の政治圧力団体《Red Wedge》の旗頭として時のサッチャー政権を厳しく批判した。

だが一方で、彼はアメリカ、アイルランド、イングランド、スコットランド、あるいはロシアやアジア各国のフォークロア・ミュージックの熱心なリスナーとしても知られている。90年代にはウィルコと組み、ウディ・ガスリーの未発表の詩に独自に曲をつけたコラボレート・アルバム『Mermaid Avenue』シリーズ(1998年、2000年)の制作に腐心もした。

そんなビリー・ブラッグがニュー・アルバム『The Million Things That Never Happened』をリリース。そこで、今から29年前に『MUSIC MAGAZINE』で対談をした、自他共にみとめるビリー・ブラッグ・ファンの中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)にメールでインタビューをしてもらったのでお届けしよう。洋の東西をそれぞれ代表する社会派であり、パンク・スピリットの持ち主であり、心優しき音楽ファンの二人。短くも貴重な“再会の時”をお楽しみいただきたい。
(前文/岡村詩野 通訳/相澤宏子 協力/MUSIC MAGAZINE、前原猛)

Interview with Billy Bragg

──いつもインタビューされる立場で、純粋にインタビュアーになるのは、実は29年ぶりなんです。その29年前の相手が、あなたビリーだったのですよ(笑)。偶然と言えどこの縁に驚いています。前回は、ちょうどあなたが『International』(1990年)や『Don’t Try This At Home』(1991年)をリリースした頃で、俺はニューエスト・モデルというバンドをやっていました。覚えていますか?(笑)

Billy Bragg(以下、B):こんにちは、タカシ! 随分と久しぶりだね! 以前会ったこと自体は覚えていないんだけれど、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットのバージョンの「International」は大好きだよ。名曲の演奏ではななかなか聴くことができないような、ファンタスティックでパンキッシュなエネルギーに満ちたパフォーマンスだと思う。


ビリーと中川敬(提供:『MUSIC MAGAZINE』 1992年8月号掲載 撮影:前原猛)

──ありがとう。あれから随分と時がたち、世の中も大きく変動し、お互い老年に差し掛かっても、相変わらず「政治的シンガー」の烙印を押されながら(笑)、変わらず曲を書き、歌い続けていることに、俺自身、ある種の感慨を抱いています。前回29年前のインタビューで、あなたが「単なるストーンズ・ファンであった自分がクラッシュなどのパンク・バンドに刺激を受けて、サッチャーに対する怒りが俺をシンガーソングライターに押し上げてくれた」と語っていたように、極東アジアの「単なるストーンズ・ファン」だった俺も、あなたを筆頭に、80年代初頭の、社会と切り結ぶ英国パンク・ロックに刺激を受けて、歌い始めたのでした。折にふれて、俺がインタビュー等で「ビリー・ブラッグの登場は、俺にとって大きかった」と語ってきているので、この日本では、微力ながら、あなたのレコードの売り上げに貢献していると思います(笑)。
さて、近年の『Mr Love & Justice』(2008年)、『Tooth & Nail』(2013年)も滋味あふれる好盤で、遠方からの旧友からの便りのように、幾度も、俺のターンテーブルに賑わいを与えてくれましたが、ジョー・ヘンリーとのコラボ作『Shine A Light: Field Recordings From The Great American Railroad』(2016年)は、ことの他、嬉しい便りになりました。俺自身、アイルランドのドーナル・ラニーやアルタンとコラボをしたり、ビリーも聴いてくれたソウル・フラワー ・モノノケ・サミットという日本列島音楽ルーツ探訪バンドをやっていることもあって、20世紀前半の米国移民労働者をテーマに、埋もれた民謡を取り上げるという企画は、大歓迎だったのです。その『Shine A Light』、素晴らしいアルバムでしたね。

B:ああ、ありがとう!

──早速ですが、あなたにとって、幼少期の音楽原風景としての「民謡」(Traditional Folk Song)とは、どういったもので、そしてどんな存在でしたか? そして、それらが、ロックンロールやパンク・ミュージックを経たのちに、あなた自身の人生に再度浮かび上がってきた経緯を教えてもらえますか? 特に、幼少期や少年期の、イギリスやケルトのトラッド・ミュージックとの出会いで思い出される逸話とかがあったら、教えて下さい。

B:僕が最初に「民謡」に出会ったのは地元の図書館で15歳ぐらいの時だったかな。その図書館にレコード・ライブラリがあって、そこに《Topic Records》っていう1930年代に始まったイギリス共産党のレコード・レーベルからリリースされたコンピレーション・アルバムがあったんだ。僕はThe Watersonsというアカペラ・グループと Shirley and Dolly Collinsっていうハーモニーが素晴らしいヴォーカル・デュオにものすごくハマったんだ。

僕が伝統音楽味再び出会ったのは、1984-85年の炭鉱労働者ストライキの時に、北部の炭鉱でストライキ参加者の前で演奏した時のことだった。そこで、伝統音楽をやっている歌手の曲は自分の音楽なんかよりもよっぽど過激だってことに気づいたんだ。クラッシュにインスパイアされて音楽をやっていたのにも関わらずね(笑)。

──そして、今作『The Million Things That Never Happened』では、1曲目「Should Have Seen It Coming」、2曲目「Mid-Century Modern」からいきなり、あなたのルーツの主幹であるボブ・ディランやスモーキー・ロビンソン等を思い起こさせる、王道ビリー・ブラッグ節の旋律で、頬が緩みました。アル・クーパー風のオルガンや、ツボを抑えたメロトロンの導入、曲に彩りを添える力強いフィドル、ダイナミクスの効いたバンド・アンサンブル等、久しぶりに明快な華やぎを感じ取ったのですが、8年ぶりの今作、曲作やサウンド・メイキングにおける心境の変化などがあったら聞かせて下さい。

B:大きな変化は、アルバムをプロデュースしたロメオ・ストダートとデイヴ・イズミが参加したことかな。彼らはアレンジの能力に長けていから、一緒に仕事したいと思ったんだ。基本的なdemoを託せる人が必要だったんだ。そういう意味で、今回のアルバムはコラボレーション色があるのかもしれないね。

──今作のレコーディングの進め方にパンデミックの影響はありましたか? 俺のバンド、ソウル・フラワー・ユニオン(Soul Flower Union)は去年末新作『Habitable Zone』をリリースしたのですが、ダビング等はメンバーとのリモート作業を余儀なくされました。

B:ああ、僕も影響はあったね。僕らは去年の12月にスタジオを押さえていたんだけど、政府がロックダウンを宣言したからセッションのために行くことができなくなったんだ。でもこれは実際ポジティブな出来事でもあったんだよね。ロメオとデイヴがバッキング・トラックを作るのに、僕が彼らの後ろに座って決定に疑問を投げかけたりすることなく、集中して作ることができかたらね。

──今作の膨よかなサウンド・メイキングに貢献したと思われる、そのロメオとデイヴはどういった方たちなんですか?

B:ロメオはイギリスのバンド、マジック・ナンバーズのギタリストでソングライターなんだ。デイヴはブライトンの海岸沿いにあるイーストボーンで《Echo Zoo Studio》を経営している。彼らとはいくつものプロジェクトで一緒に作業してきたんだ。

──それと、息子であるジャック・ヴァレロさんとの共作もありますね。自分の息子と一緒に音楽を制作する作業はどうでしたか?

B:素晴らしかったよ。彼は10年以上曲を書いていて、それぞれの曲を一緒にプレイしたことはあったんだけど、実際に曲を一緒に書いたことはなかったんだ。彼はバンド、The RPMsでパワー・ポップの曲を元々書いていたんだけど、数年前に解散してからは、よりシンガー・ソングライターに近づいた感じがするね。今回がソングライティングのパートナーシップの始まりだと願うよ。


ビリーと息子のジャック・ヴァレロ

──あなたがかつてフェイセスのイアン・マクレガンらと共に組んでいたBlokesや、Red Starsもいいバンドでしたが、今作のバンドは特にいいですね。このメンツは固定的バンド的なものですか? このバンドでツアーに出る予定等ありますか?

B:このアルバムに参加しているミュージシャンは、ロメオがこのプロジェクトのために集めてくれて、ストリーミング・ライヴを一緒にしたりしたんだけど、ロメオが他の仕事をしていたこともあり、ユニットとしてツアーに出ることはできなかったんだ。今はキーボーディストだけ一緒にUKツアーを回っているよ。

──パンデミックの中、ツアーを組んでも中止になったり、先行きが不透明で、俺自身、なかなか移動の大きいツアーは組めずに、限定人数、配信付きのライヴをやったりしてなんとか生き抜いています(笑)。とはいえ、配信ライヴで、地方の重度障害者のファンがライヴを観られるようになったり、新しいライヴ作法への手応えもあります。パンデミックの中、今、ライヴ活動についてどう考えていますか?

B:僕は今もツアーを回っていて、ここ数ヶ月間はイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド、アイルランドに行ったんだけれども、それぞれの場所で異なるコロナ・ウイルスに関する規定があるんだ。アイルランドでは、オーディエンスは皆フェイス・マスクをつけていないといけないけれど、イングランドではワクチン接種済み、もしくは当日の検査で陰性であれば会場に入れるって具合にね。僕自身や僕のクルーはとても注意深く対応していて、イングランドではすでにマスク着用の義務はなかったけれど、会場のバックステージやホテルでは必ずマスクをつけていたんだ。みんなライヴには来てくれるけど、中にはナーバスになっている人もいるんだよね。マスクをする人もいれば、しない人もいる。不思議なことが起こっているよね。

──これは911以降、この20年来の傾向ですが、ここ数年特に、トランプ主義者の台頭やコロナ禍により、左右ともにありとあらゆる「陰謀論」で溢れかえっています。人心の不安が膨張すると、古今東西、人の世、常に「陰謀論」や「カルト」が溢れかえりますが、この状況をどうみていますか? そして、一部のインフルエンサーの手を離れた「陰謀論」が、大衆的レイシズムを呼び込んで、酷いヘイトクライムが起こったりする現況に、あなた自身いかに切り結ぼうと思っているのか、聞かせて下さい。

B:これは「自由」と「自分の行動に責任を持たない」ことを結びつけるネガティヴな傾向の一つだと思う。自分の言葉が引き起こすかもしれない害の結果に向き合わず、言いたいことを言える権利があると信じている人々が一部にはいるんだ。彼らは挑戦を受けると、陰謀だとかキャンセル・カルチャーだと文句を言う。メディアが「キャンセル・カルチャー」と呼んでいるものは、ソーシャルメディアの発明以前にはなかったよね。権力者たちがその言葉についての責任を問われているに過ぎないんだ。僕は2018年にこのことについて『The Three Dimensions of Freedom』という本を書いていて、真に自由であるためには、自由、平等、説明責任を尊重すべきだと論じているんだ。

──これも日々、かなり頻繁に質問されていることだと思いますが、英国のベテラン・ミュージシャン、例えばモリッシーの差別発言や、ヴァン・モリソンやエリック・クラプトン等、著名ロック・ミュージシャンの陰謀論的発言をどう捉えていますか? ブレグジットやスコットランド独立等の時も、地球の裏側から見届けていると、かなり英国ミュージシャンの中でも意見が割れていましたね。彼らミュージシャン個人、ということもありますが、英国の文化潮流として、ベテラン勢がフェイク等に傾いてゆく流れがあったりするのか、俺自身、彼らの音楽を若い頃に聴いていたので、非常に興味があります。

B:ここでキーになるのは年齢だと思うね。君が例に出したようなミュージシャンたちは今みんな年老いてきている。僕も含めてね。ポップ・スターとして、かつて人々は彼らの言うことを聞き、リスペクトしていた。だから彼らは自分の意見が時代遅れに聞こえる可能性について考えないんだ。僕も同じ問題に苦しんできたけど、ソーシャル・メディアで若い人たちの行動をフォローすることで、今は炭鉱労働者のストライキで得た視点とは違う社会活動を考えるようになった。今回のアルバムではこの苦労について「Mid Century Modern」という曲で振り返っているよ。

そうそう、最近、時代の変化を反映させるために、「Sexuality」という自分の曲の歌詞をアップデートしたんだ。元々その曲はゲイやレズビアンたちのアライシップについての曲なんだけれど、30年たった今、ゲイやレズビアンは他の人たちと同じ権利を持っているし、偏見や差別に直面しているのはトランスセクシャルやノン・バイナリの人たちなんだ。

だから、僕はかつてこう歌っていた。

「君がゲイだからといって君を拒まない/君が側にいれば、きっと共通の場所を見つけられる」

でも、今はこう歌っているよ。

「君が誰であろうと君を拒まない/君が側にいれば、きっと正しい代名詞を見つけられる」

ってね!

──なるほど。世界的に「先進国」の間で新自由主義が蔓延して格差が広がり、ここ日本でもカルト右翼による歴史改竄がもはや当たり前になり、先の大戦を体験した世代が亡くなっていくことも手伝い、近代史におけるマイノリティの迫害史、マジョリティの加害史が見えなくされていっています。例えば、BLM運動は、当事者にとっては命の問題ですが、奴隷貿易まで遡る、歴史の捉え直しの運動でもありますね。もちろん我々の世代が次世代に伝える、ということが大前提にありますが、こうしたことについて、どんな考えを持っていますか?

B:ここでは歳を重ねることが助けになるよね。なぜなら、自分たちの経験を若い世代のミュージシャンに伝え、社会の中で疎外されている人たちとの連帯を築くために自分たちの音楽をどのように利用したか、より良い世界のために人々をどうやってまとめ上げたかを示すことがきるからね。例えば、気候変動のためにライヴ・エイドを開催してもいいのでは? とかね。

──俺も歌い始めて35年、遂に「心の中のライバル」は、ミック・ジャガーとビリー・ブラッグだけになってしまいました(笑)。体に気をつけて、末長く歌い続けて下さい。あなたと会わなかったこの30年間の間に、2つのバンド(ソウル・フラワー・ユニオン、ソウルフラワー・モノノケ・サミット)とソロで20作以上リリースしてきました。ぜひあなたに聴いてほしいです。そして、またいつの日か、会える日を楽しみにしています。今日はどうもありがとう。お元気で!

B:ありがとう! 僕もまたいつか日本で再会できるのを楽しみにしてるよ。信念を貫け!

<了>

Text By Takashi Nakagawa


Billy Bragg

The Million Things That Never Happened

LABEL : Billy Bragg under exclusive licence to Cooking Vinyl Limited / Big Nothing
RELEASE DATE : 2021.10.29


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