Back

【From My Bookshelf】
Vol.11
『グループサウンズ』
近田春夫(著)
名語り部・近田春夫が誘う「GS再々吟味」の楽しみ

05 October 2023 | By Yuji Shibasaki

なにがしかの体系的な視点をもって過去の音楽を語るという行為は、必ず、「歴史の線の引き直し」を伴う。「現在」の視点からある文化現象を眺めようとするとき、当然ながらそこでは常に、「現在」を見つめる目に映る「過去」の像が重ね合わされる。

1960年代後半に日本の芸能界を(徒花の如く)賑わわせたグループサウンズ(以下GS)も、今から30年以上前に大きな再評価を受けている。1980年代後半以降、それまでは主に(団塊の世代以下の大人たちの)「懐メロ」として扱われていたGSが、当初とは異なる文脈をまとった上でにわかにリバイバルしたのだ。ネオ・ガレージ・シーンの勃興に端を発するネオGSの盛り上がりや、海外リスナーによる「和製ガレージ・パンク」としてのオリジナルGSへの注目、更には音楽評論家・黒沢進らによる数々の仕事を通じて、一部のGSが非リアルタイム世代から大きな人気を博したのだった。

こうした一連のGS再評価の流れの中で、ある種の逆転現象も起こっていく。(往々にして安価で入手可能な)有名バンドのレコードにはあまり関心が集まらず、「ガレージパンク性」や「サイケ性」を発散する(と判断された)「カルト」で「B級」なバンドの方が優先的に聴かれるという状況に至ったのだ。

まさしく、かつて私自身がそんな「リバイバル後」のリスナーの典型例だった。昨日は『Nuggets: Original Artyfacts from the First Psychedelic Era, 1965-1968』や『Pebbles』にシビれ、今日は「カルトGS」にイカれ、明日は「硬派な」ネオ・ガレージ・バンドに酔う、といった風の。

GS全盛期に青春時代を過ごし、自身も末期GSの一員として活動した経歴を持つ近田春夫による本書は、四半世紀以上に渡って受け継がれてきたそうした「リバイバル後のGS観」との明確な差別化を計った一冊だ。

こう紹介すると、「リアルタイム世代による思い出本」なのだろうと早とちりしてしまう人もいるかもしれないが、決してそんなことはない。語り口はあくまでフレンドリーで読みやすいのだが、同時に大変に批評的で、刺激的なのだ。

プロローグを含む第一部では、まず上述のような「マニアック」な視点を退けて、ザ・スパイダース、ブルー・コメッツ、ザ・タイガース、ザ・テンプターズ等、リアルタイムで大きな人気を誇った重要バンドの足跡を紹介しながら、その音楽性を論じる。商業的な規模という点からしてもこのチョイスは当然順当なものだが、例えば、私のようなリバイバル以降のリスナーの大勢が、ザ・ワイルド・ワンズやヴィレッジ・シンガーズといった「品の良い」バンドについてマジメに考える機会がこれまでほとんど無かっただろうことに鑑みると、むしろ挑戦的なラインナップであるとすらいえる(もちろん、ザ・ゴールデン・カップスらの「本格派」についても章が割かれてはいるが)。

各バンドを紹介する中で提示される論点もとてもスリリングだ。中でも、プロローグで言及されるエレキブームからの影響は特に重要な指摘だろう。「GSはビートルズに影響されたムーブメントである」という、これまでしばしば唱えられてきた「通説」に大きな疑問符を投げかけ、むしろ前身となるエレキバンド文化の発展を受けつつ主にテレビ業界の中で育まれたムーヴメントであったと喝破する。

関連して、(ザ・スパイダースらに顕著な)初期GSにおけるカントリー&ウェスタン的要素の残存ぶり(「スチールギターを加えたロックコンボ」のドメスティックな特異性を指摘するくだりも流石だ)に触れながら、欧米のロック・カルチャーとは隔絶したあくまで「芸能的」なムーヴメントであったことも改めて指摘される。

また、GSバンドへ楽曲を提供した作詞家/作曲家の優れた仕事に迫っていくことで、ガレージ・パンク派生の再評価後世代(再びいうが、私だ)が往々にして思い込んでしまいがちな、「芸能臭が強くて甘ったるいシングル曲はダサくて、B面曲およびアルバム曲や、洋楽カヴァーを中心としたステージにこそGSの本領があった」という見方(もちろん、ある程度の真実を孕んではいるだろうが)も、徐々に解きほぐしてくれる。逐一立ち止まりながら(かつては何気なくスキップしてしまっていた)ヒット曲を聴き直し、その魅力に開眼するという体験を繰り返すことになった。

第二部は、対話編だ。ザ・タイガースのドラマー瞳みのる、ザ・ゴールデン・カップスのリード・ギタリストであるエディ藩、近田の三者による鼎談(第10章)は、はじめて知るエピソードも豊富で、当時の業界/シーンの裏話や意外な真実が飛び出す非常に読み応えがある内容だ。

続く11章は、「三大邦彦」の一人である鈴木邦彦へ近田がインタヴューを行う。GSブームへ至る時間軸の中で、作曲家としてどのように活動し、世に出ていったのか、その中では、同時代の作家、筒美京平への思いも語られており、全編が実に貴重な証言となっている。

巻末に付く「近田春夫が選ぶGS10曲」も、独自の視点が反映されたチョイスとレヴューで、本書をより深く味わうための優れた参考資料となっている。

なお、付録として、本書の聞き役と構成を務めたライターの下井草秀が選ぶ10曲のリストも掲載されているが、こちらは明確に「カルト」なGS観に寄せた選曲となっている。こうしたバランスの取れた編集にも唸らされるし、加えて、本書を通読して感じる圧倒的な読みやすさはというのは、紛れもなくその下井草の聞き出しの巧みさ、ライティングの上手さによるものであるはずだ。そういった点で、一人のライターとしても大変得るところの多い本だった。

本書は、しかつめらしい顔で「GSの正史」を語ろうとするものではない。むしろ、「GSの楽しさ」をカジュアルに、しかし、知らず知らずのうちに深いところまで教えてくれる書だといえる。だからこそ、この本で展開されている「歴史の線の引き直し」は、これまでGSに対して強い興味を懐いてこなかった若い読者の関心を捉えるはずだ。GS再々吟味の入門書として、広く推薦したい。(柴崎祐二)

Text By Yuji Shibasaki


『グループサウンズ』

著者 : 近田春夫
出版社 : 文藝春秋
発売日 : 2023年2月17日
購入はこちら


書評リレー連載【From My Bookshelf】


過去記事(画像をクリックすると一覧ページに飛べます)


関連記事
【FEATURE】
わたしのこの一冊〜
大切なことはすべて音楽書が教えてくれた
http://turntokyo.com/features/the-best-book-of-mine/

1 2 3 65