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DIYなロックを確かに継承するSay Sue Meが語る、韓国・釜山という土地で育まれた自分たちらしさ

25 April 2019 | By Daichi Yamamoto

韓国は釜山発のインディ・ロック・バンド、Say Sue Meの初となる単独来日公演が4月の最初の週末の金曜日、渋谷『O-NEST』にて行われた。TURNではそのライブ前にバンドへ取材も敢行した。インタビューからのメンバーの言葉とともに、一時間以上たっぷり演奏してくれたライブから見えてきた、Say Sue Meというバンドの本質に迫る。(取材・文/山本大地 通訳/八幡光紀 写真/笹村祐介 )

Say Sue Meのプロフィールや魅力をカバーした【初の単独来日公演間近!コリアン・インディの代表バンド、Say Sue Meを知る!】はこちら→ http://turntokyo.com/features/features-say-sue-me/

「若い時から釜山で音楽を学んで活動して来て、当時は今ほどインターネットが発達していなかったので、ホンデ(ソウルのインディ・シーンの中心地)で何が流行っているとか、そういう情報は入ってこなかったので、自分たち独自のスタイルが形成された。それはいい点かもしれないと思います」(キム・ビョンギュ)

キム・ビョンギュ(ギター)、ハ・ジェヨン(ベース)、キム・チャンウォン(ドラム)、そしてチェ・スミ(ギター・ボーカル)という釜山で育った4人の若者が集ったSay Sue Me。ソウルと比べれば、決してバンド・シーンが活発ではないその都市をいまも拠点にして活動している。

「何より、自分たちにできることがそれくらいだったからだと思います。それが一番面白いと思ったから。もちろんシーンが小さいというのは事実だけど、あるのはあるし、ライブをやればお客さんも来てくれます。自分たちも苦労したことがありましたが、段々お客さんの反応もよくなって来たので、“続けてもいいんじゃないか”と思えるようになってきて」(チェ・スミ)

この「それが一番面白いと思ったから」という単純そうに聞こえる言葉こそが、このバンドの魅力を伝えてくれている。アーティスト写真などを見れば一見、シャイで大人しそうに見えるメンバーたち。だが、一度ステージに立って、楽器を鳴らし始めてみれば彼らの顔つきは一変する。ステージ上での彼らは、気の合う仲間同士で楽器を手にして、音を鳴らすということの喜び、そして4人が集まることでしか生まれない特別な化学変化を楽しんでいるように思えてならない。そんな姿こそがオーディエンスの私たちの興奮を生んでくれる。この日、何度も曲が終わるごとに「イェイ!」と爽快に叫ぶチェは象徴的だった。

ペイヴメントやヨ・ラ・テンゴなんかを引き合いに出されるローファイなサウンド。それはヒップホップやEDMを通過した、いまっぽいプロダクションとはシンクロするわけではない。時代遅れなのか? いやいや、このバンドにはそんなこと関係ない。気持ちよく「自分たちにフィットすると思ったスタイルで、気持ちいいと思った音を鳴らしてしまえ!」それこそが彼らが見つけた喜びなのだ。

「自分たちのスタンスとして無理に新しいことを取り入れようということはしないようにしています。その結果がこうなのかもしれないですね」(チェ・スミ)

だが、セットリストの楽曲は私たちが思っている以上に多彩で、ペイヴメントやヨ・ラ・テンゴのような名前を頭に留めることこそ、バンドの本当の魅力を掬い切れなくしてしまうようにも思えた。このバンドにはシューゲイザーやハードコア・パンクのような前述のバンドと年代や土地的にも近そうなものから、一気に遡って60年も前にアメリカでバンド・ブームを引き起こしたサーフ・ロックやガレージ・ロックもバンドに特別な味を加えている。中でもいくつもの曲で登場するサーフ・ロックの要素についてキム・ビョンギュにその真意を聞いた。

「ペイヴメントやヨ・ラ・テンゴのような90年代のアメリカのバンドは、本当に自分たちの好きな音楽として聴いていたものだったから、自然と自分たちのサウンドにもその影響は出て来たと思います。それとは別に、自分たちらしさを出す意味で、サーフ・ロックを取り入れたという気持ちはあります。だから「Fight The Shark」や「Say Sue Me」のような曲は意図的にそういうサウンドにしました」

先月亡くなってしまったサーフ・ロックのパイオニアであるギタリスト、ディック・デイルについても「熱心に聴いていたというわけではないですが、例えば「Spy on Motorbike」なんかはゆっくりとしたリズムだけど、確実に影響が入っていると思います」と話す。

加えて、メロディがしっかり耳に残りやすかったチェのボーカルはポップスとしての強度も十分だ。彼女の歌詞には「皆街から出て行った。私も出て行きたい/けど留まりたい」と歌う「Old Town」のように、毎日の暮らしのフラストレーションと、日常のふとした楽しさに浸る楽観的な部分が同居している。「いつも迷いがあったり、一つに決められなかったり、それが歌詞になっていると思います」と彼女は語るが、相反する感情が絡み合い、ぶつかり合う中でも、シンプルな言葉選びを徹底していることが強みだと教えてくれた。

「釜山のシンガーソングライターで、Geniusというバンドのシンガーも務めているキム・イルドゥの歌詞は、とてもシンプルなんだけど深い意味を持っていたりして「自分もこんなシンプルに書いていいんだ」って思えたので影響受けたと思います。あとは、Alex Gですね。バンドをやるようになってから他のアーティストの歌詞についても意識的に聞くようになりましたが、シンプルで自分が聞いても理解しやすい歌詞が好きなので、自分も伝わりやすい歌詞を書くことは心掛けています。」

Say Sue Meは単なる良質なインディ・ポップではない。この日のバンドの言葉、パフォーマンスからは、釜山という独自のシーンが形成されていない場所だからこそ受け継がれ、育まれた、DIYというロックの重要な精神とその歴史を体現するバンドの本質を感じた。最後にメンバーそれぞれが韓国のロックでお気に入りのアルバムを挙げてもらった。

■キム・チャンウォン(ドラム)のセレクト
Gong Joong Geu Neul 『EP (Gong Joong Geu Neul)』

■キム・ビョンギュのセレクト
Cogason 『Pop』

■ハ・ジェヨン(ベース)のセレクト
Barbie Dolls 『Pretty Enough to Live』

■チェ・スミ(ボーカル・ギター)のセレクト
Genius 『Bitch Choice Death』

■レーベル・オフィシャル・サイト
http://www.tugboatrecords.jp/6718

Text By Daichi Yamamoto

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