BEST 13 TRACKS OF THE MONTH – November, 2024
Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!
Bleachers – 「Merry Christmas, Please Don’t Call」
ブリーチャーズが以前からライヴで異なるヴァージョンを披露していたクリスマス・ナンバー。特に素晴らしいのは、ジャック・アントノフの表情豊かなヴォーカルであり、それはつまり悲劇的なストーリーテリングにある。恋人を失った孤独な主人公を囲うようにシンセサイザーやサックスが反響する。低音域で「私は永遠に傷ついたままでいたい」とロマンティックな願いを歌い、コーラスでは恋人の気持ちに感情移入するように叫んでいる。幸せを歌うクリスマス・ソングではないかもしれない。でも、冬にはこの繊細な曲が聞きたかった! ちなみにバンドからのメッセージは「あなたに悪いことをした人々を一掃する時期として休暇を過ごすすべての人々のために」だそう。(吉澤奈々)
Jamie xx & Nia Archives feat. Romy, Oliver Sim – 「Waited All Night [Nia Archives Remix]」
ニア・アーカイヴス(Nia Archives)はやはり凶悪なハードコア・ビートを扱っているときがもっとも興奮するよな。 そう、正直わたしは『Silence Is Loud』の評価をまだ下しきれていない。さてこの「Wasted All Night」はジェイミーxxのオリジナルよりもBPMもピッチも手数も大きく上がっており、「足踏みしてたら地に足つく前に空中を歩いてました」的な躁フィールにどこまでも連れて行ってほしい。そう言えばジェイミーxx『In Waves』もアルバムとしては抑制的かつストイックな仕上がりで、「KILL DEM」や「It’s So Good」の即物的快楽を期待していたリスナーには、このリミックスこそが本命だったかも?(髙橋翔哉)
Nadia Reid – 「Hotel Santa Cruz」
名匠、マシュー・E・ホワイトが率いる《Spacebomb》からフル・アルバムをリリースしていた、ニュージーランド出身のシンガーソングライター、ナディア・リードによる最新楽曲。老舗《Ba Da Bing Records》からリリースを重ねる同郷のフォーク・バンド、タイニー・ルーインズからトーマス・ヒーリーをプロデューサーに迎え制作された本曲は、ファジーなエレクトリック・ギターと唸るシンセサイザーがダイナミックに広がり、彼女の特徴である芯の通った骨太な歌声としっかりと支えるスケールの大きな一曲に仕上がっている。(尾野泰幸)
千葉雄喜 – 「誰だ?」
「オレワダレダ。オレワダレダ」。やばいよね。¥$「BOMB」やらLISA「Rockstar」やら、もちろんミーガン「Mamushi」やらで、すっかり英語ポップにおける日本語詞が耳馴染みのいいものになった時代に、かつて誰よりも日本語を素朴にカッコよく聴かせた千葉雄喜のラップもなんだか外国語のように聴こえる不思議。「チーム友達」タームもようやく一区切りして、次は友達じゃなくて俺、俺、俺の内省ターム? 鏡に向かって「あなたは誰だ?」と問うみたいなありきたりな自己の相対化だけじゃなく、強迫観念的な視線のベクトルがすべて我が身に突き刺さってしまう痛々しい独白……なーんてね、全部裏返し。MVも見てくれ、やっぱり笑っちゃう。(髙橋翔哉)
Ringo Starr – 「Thankful」
御年84のリンゴ・スターが年明けにリリースする新作『Look Up』が楽しみで仕方ない。T・ボーン・バーネットがプロデュース、共作したカントリー・アルバム。ビートルズ時代からバック・オウエンス「Act Naturally」をカヴァーしたりカントリー調の曲を演奏、作曲してきている彼は、70年にはその名もソロ『Country Album』を発表しておりカントリーへの愛情は筋金入りだ。2022年にバーネットと再会して具体化したという今作にはモリー・タトルら現在のナッシュヴィルの精鋭たちが大勢参加していて、この2曲目の先行曲ではアリソン・クラウスも参加している。ビヨンセのカントリー・アルバムにハマった人には英国のベテランによるこれもぜひ聴いてほしい。(岡村詩野)
070 Shake – 「Into Your Garden ft. JT」
カニエ・ウェスト(Ye)「Ghost Town」などへの参加、あるいは2022年のレイ(RAYE)との大ヒット・シングル「Escapism」でご存知の方も多いであろう、ニュー・ジャージーのシンガー兼ラッパー、070 Shake。彼女は新作『Petrichor』で、より大きな舞台へと照準を合わせ、アンセミックなスタジアム・ポップを作り上げた。とはいえ、そこには無味無臭のポップ・アクトの一つに成り下がることを拒むように、彼女らしい実験的な要素が注ぎ込まれている。今回はそんな今作の中から、壮大なラヴ・ソング「Into Your Garden」をピックアップ。嵐の中に現れる女王のようなJTのラップが、歌に比重を置いた今作全体で際立って聞こえる。(高久大輝)
Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!
BADBADNOTGOOD ft. Tim Bernardes – 「Poeira Cosmica」
ここまで正統かつ本寸法のMPBが2024年にドロップされるとは夢にも思っていなかった。2021年リリースの『Talk Memory』でブラジル音楽の巨匠であるアルトゥール・ヴェロカイを招き、最新作『Mid Spiral』では70’sのMPBを想起させるブギーなセッションを繰り広げるなど、ラテン/ブラジル方面への関心を折りに触れて表明してきたバッドバッドノットグッド。今年9月に開催されたバンド初のブルーノート公演で披露された「Poeira Cosmica」は、先日の来日公演でも熱狂を巻き起こしたオ・テルノのフロントマンであるチン・ベルナルデスをゲスト・ヴォーカルに据えたナンバーだ。ヴェロカイを再びアレンジャーとして迎えたこの上なく優美な一曲、往年のMPBファンは必聴です。(風間一慶)
Jorja Smith – 「Loving You (feat. Maverick Sabre)」
マーヴェリック・セイバーをフィーチュアリングとして迎えるのは、EP『Project 11』の「Carry Me Home」以来2度目で、安定のタッグだ。人を愛するとアイデンティティが欠除して自分自身の翼を失ってしまうという、ある意味での事実を、息づかいが残る声でもの悲しく歌っている。私小説的で近距離だからこそダイレクトに伝わるこの歌詞は、約10年前にマーヴェリックと共作されたものだという。繰り返される“Loving you”というラブソングそのままのフックに、不覚にもキュンとくるのは、彼ら男女の掛け合いが魅力的だからだろう。10年前のジョルジャを想像しながら、掘り起こした日記を読んでいるようなノスタルジーに浸っているせいかもしれない。ぜひ冬の夜に。(西村紬)
Knats – 「Tortuga (For Me Mam)」
序盤のストリングスからホーンに続く流麗な展開でたちまち虜になり、今月後半ずっとリピートしていた。どこか80年代ジャズ/フュージョンのおおらかなムードをまといながら、2ステップ的ワイルドネスが宿っているスリリングなビート感。とはいえ、いわゆる“人力ドラムンベース”といった形容とも異なる、ジャズとエレクトロニック・ダンス・ミュージックをなめらかに接合する新たなセンスとアンサンブルに感服しきり。ジョーディー・グリープのUKツアーでサポートを務め、アルバム・リリース間近のエディ・チャコンがバックバンドとして抜擢もされるKnats。この両者と渡り合えるバンドもそうそういないだろう。(駒井憲嗣)
Mên An Tol – 「NW1」
メン・アン・トルとはイングランド南西部にある小さな立石群で、コーンウォール語で「穴のある石」を意味する。この5人組バンドのフロントマン、ビル・ジェファーソンがコーンウォール出身で、その遺跡の名前を取って結成された。現在はロンドンを拠点にしていて、この曲でデビュー。出自を誇るようなケルティックなリズムとザクザクと刻まれるギター、疾走感のあるメロディが渾然一体となって迫ってくる。ザ・ポーグスやザ・ウォーターボーイズが持つケルトの面と、ブリット・ポップの高揚感を備えた90年代にはよくいたタイプのバンドだが、30年が経った今は新鮮に感じられる。なお、“NW1”とはロンドンの郵便番号で、彼らが活動しているカムデン一帯を指す。(油納将志)
NECO ASOBI – 「Wo Ai Ni」
今年の春から再始動したNECO ASOBIの最新曲。最近、最強マンボウ修羅ぼうや、琳子、そして三四少女など、歌詞に「我爱你」や「イーアルサンスー」を使ったイマジナリー中華風楽曲をよく耳にする。この楽曲もまさにその系譜と言えるだろう。最初の「Ao」が「会おう」で韻を踏むところや「Wo Ai Ni」の前に「Wow」を付けているところ、ニューロンや九龍、そして小籠包、締めにはイーアルサンスーと楽曲全体を通して、意味があるのかないのか、しかし語感がとにかく心地よい。どんどん話が大きくなって気が付けば、シンセの音と共に宇宙へ放り出される感覚は、ELOなど宇宙インスパイア楽曲とも言え、さらに空想感を強めている。(杉山慧)
岡林風穂 – 「スライス・オブ・ライフ」
岐阜出身のSSW、岡林風穂 with サポートが《Rose Records》の新レーベル《果実》から新曲をリリース。3分間にわたり間奏もなく連射される詩情のつぶては、日常をジェットコースターに変え、生命そのものを疾走させる。フォーキーという形容詞にはおさまらない岡林のダイナミズムを余すことなくグルーヴへと変換するリズム隊は小池茅と有泉慧。人懐っこい野生味を感じさせるサウンドをプロデュースするのは岩出拓十郎。つまり本日休演、ラブ・ワンダーランドで活躍するインディー・シーンの猛者たち。この《Rose》×《ミロク・レコード》という鉄壁の座組にふさわしい仕上がりに、来たるアルバムへの期待も否応なく高まってしまう。(ドリーミー刑事)
Tetsu Umehara – 「Touch」
ドイツにルーツを持ち、建築や現代美術などの分野を横断した活動を行うTetsu Umeharaの新曲。しなやかに蛇行するベースラインと、さらさらしたオートチューン風味のハーモナイズされたコーラスが隣り合っている。グリッチと共にフレーズが繰り返され、エモーショナルで、どこかうっすらと暴力的。ピタ(Pita)『Get Out』と並べて聴くこともできるだろう。前作と同様《Métron Records》のサブレーベル《small méasures》からリリースされるセカンド・アルバム『Ephemeral』に収録。サラマンダとしても活動するYetsuby、増田義基主宰かさねぎリストバンドとのコラボレーション曲も。(佐藤遥)
Text By Haruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiNana YoshizawaIkkei KazamaTsumugi NishimuraDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono