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BEST 11 TRACKS OF THE MONTH – April, 2021

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Foxing – 「Go Down Together」

《Count Your Lucky Stars》、《Triple Crown》といった現行エモ・シーンにおける重要レーベルから優れた作品をリリースし続けてきたフォクシング。去る2月には謎のティーザー・サイト《DrawDownTheMoon.org》を公開し、3月には新曲「Speak With The Dead (feat. WHY?) 」をリリースするなど、マンチェスター・オーケストラのアンディ・ハルと共に取り組んでいるという4thアルバムへの期待が高まる中でリリースされた新曲が本曲である。弾むシンセサイザーと乾いたビートに導かれるキャッチーな一曲であるが、異なるエフェクトを用いて幾重にも重ねられたヴォーカルによって奥深さを担保する設計も見事。ちなみに、上述のティーザー・サイトにはあと4つの“Ritual(儀式)”と題された謎解き?が残されているが……。(尾野泰幸)

Laufey – 「Magnolia」

アイスランド出身で、先日バークリー音楽大学を卒業したばかり、現在ニューヨークに住むSSW、LaufeyのファーストEPの1曲。ビリー・ホリデイやエラ・フィッツジェラルドといったジャズ・シンガーを彷彿とさせる歌、ギターによる弾き語り、幼少期から弾いていたというチェロの響きがゆったりと溶け合いながら、まるで絵本を読み聞かせるようにシンプルな言葉で「誰もがマグノリアのように美しい」と、人間の美しさを花に例えて歌う。人種差別のニュースを見て気落ちすることの多い今日、中国人の母とアイスランド人の父を持ち複数のアイデンティティを自覚する彼女から届けられた、聴く者の胸を撫で下ろす優しい人間讃歌。(加藤孔紀)

Peter Zummo – 「Tone Bone Kone」

今年生誕70年(没後29年)となるアーサー・ラッセルのトリビュート的企画が前衛系レーベル《Unheard of Hope》からスタートした。基本2組によるスプリット・7インチ・シングルで2曲ずつ発表していく企画のこれは第一弾の1曲。生前のアーサーと共演経験のあるNYのトロンボーン奏者、ピーター・ズモを中心に、前衛チェロ奏者のマベ・フラッティらと共に『World Of Echo』(1986年)の1曲目の小品をとりあげているが、徐々にリズミックになり、中盤から徐々にフリージャズ〜ファンク的に展開していく構成が面白い。スプリットのもう1曲はこの曲にも参加するピーター・ブロデリックとマベ・フラッティによる「All-Boy-All-Girl」。(岡村詩野)

Squirrel Flower -「 I’ll Go Running」

以前もこの連載で取り上げたマサチューセッツ出身のSSW、Squirrel Flowerのセカンド・アルバムからの先行曲。前作リリース後も間をあけることなく、カバーや新曲を次々に発表する胆力にも恐れ入るが、オルタナ・ロックへの愛を貫く硬派ぶりにも驚かされる。本曲もそうした楽曲に準ずるものだが、それゆえか、聴き進めるほどに胸を焦がされていく。ギター・歌・ドラムだけで淡々と始まりながら、不穏なコードが徐々に明るい調子に変わっていくにつれてサウンドは開け、繰り返す<I’ll be newer than before>というリリックの一言ごとに歌声は自信を深めていく。誰の声にも耳を貸さずに進む様子を歌った本曲は、まさに彼女の意思の頑強さそのものである。(井草七海)

Yoshinori Hayashi – 「Shut Up」

前作『Ambivalence』(2018年)と同じく、ノルウェーはオスロの世界的なレーベル《Smalltown Supersound》からリリースされた最新作『Pulse of Defiance』からの1曲を紹介しよう。まさに脈打つようなシンセサイザーにカットアップされたヴォーカル、高速で打ち鳴らされ中盤では離散し終盤に掛けて再縫合されるかのようなブレイクビーツ。エクスペリメンタルで不安定に、でもフロアへの目線だってたしかにある。室内で聴くことを前提にされたアンビエント寄りの作品が多い現在の流れの一端として聴くも良し、汗と酒とタバコの匂いが充満したダンスフロアに想いを馳せながら聴くも良し。(高久大輝)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し注意の楽曲をピックアップ!

Charm La’Donna – 「See It」

ザ・ウィークエンドのハーフタイム・ショウやケンドリック・ラマーのグラミー授賞式におけるパフォーマンス、さらにはデュア・リパやファレル・ウィリアムズらとも仕事経験のある振付師/ダンサーのCharm La’DonnaがEP『La’Donna』でデビュー。怪獣映画を思わせるような重厚なビートに負けない発声で「信じなかっただろうけど、私の成功が見える(See It)だろ」とスピットするさまは、キャリアの短さを感じさせないほどの迫力に満ち、板に付いている。ライティング・レコーディングの段階からビジュアルを意識しているという彼女のことだから、この曲のMVも発表してくれることを期待したいところだ。(奧田翔)

Moment Joon – 「distance(feat. Gotch)」

現実がフィクションを追い越し、目の前に広がる理不尽が想像力を凌駕する2020年代。アーティストは何を表現すればいいのか。私たちはどのように社会を取り戻せばいいのか。Moment Joonの新曲「DISTANCE」はその一つのあり方を示しているように思う。コロナ禍によって露わになった社会全体の、あるいは私たち自身が抱えている矛盾と孤独、利己性を徹底的に突き詰めていくフロウ。その罪深さを慰撫するような坂本龍一のピアノと、闇の中で響く祈りのようなGotchの歌声。目をそらないこと、微かな光を見逃さず、もう一度信じること。遠くなりすぎた私たちの距離を縮める希望は、この道程の先にしかない。(ドリーミー刑事)

SHINKAN1000 – 「Madras Night (feat. Ryugo Ishida, NENE, BRON-K & NORIKIYO)」

原稿に追われているさなか、突如リリースされた『THA GREAT ESCAPE』はまさに鬱屈した日常から連れ出してくれるような作品だった。KOYANMUSICとestraによる無国籍な銀河系ミュージックとRyugo Ishida、NENE、NORIKIYO、SALUの無秩序なラップが織り成すスペースラップオペラだ。音楽が違法となった宇宙で“まだ合法”の地球を目指すシナリオは、アートやエンタメが不要不急とされている今の時勢と皮肉にもリンクする。マッドなベースのムーンバトンビートと妖艶なインド歌謡をブレンドした狂気のトラックにBRON-Kが降臨する「Madras Night」が個人的ハイライト。(望月智久)

Sorry – 「Don’t Be Scared」

ノース・ロンドンの5人組が持つ、ジャンルレスと形容するのも不適当に思えるほどの境界が溶け合う感覚。それは本作でも存分に発揮されているが、驚くべきは時代のムードを機敏に察知する描写の精度だろう。バウンシーなビートに乗せて当てもなく彷徨うように歌うルイス・オブライエン。「僕がそばにいるから怖がらないで」とマントラのように繰り返す様子は、もはやそれしかできない絶望の色味が滲み出ている。そこにラップのようなフロウで、思わず漏れ出たかのように割って入るアーシャ・ローレンツの猜疑と不安の心象。ハロウィンを思わせるサウンドも、もはや笑い飛ばすしかないリアルタイムのムードを皮肉なほどに描き出しているではないか。(阿部仁知)

Warpaint – 「Lilys」

LAの暗黒カルテットが5年ぶりの本格復帰。元々はクリスティン・ミリオティ主演のTVシリーズ『Made for Love』に提供したナンバーだったが(ウォーペイントも一部出演)、レーベルからの勧めでシングル曲として公開に。ほぼトリップホップとも言えるダビーで蠱惑的なサウンドと、〈あなたは放浪者/自分をさらけ出して/また会いにおいで〉と、死後の世界から語りかけるような歌唱にゾクゾクする。プロデューサーのサム・ペッツ・デイヴィースはレディオヘッド関連作にも携わる人物で、彼女達が「UK人脈」を頼ったのは2作目のフラッド以来。ギャング・オブ・フォーのカヴァーも極上だったし、来たるフォース・アルバムはたぶん、過去最高に攻めた1枚になるはず。(上野功平)

William Doyle – 「I Need to Keep You in My Life」(※3月リリース)

ソロプロジェクトであるEast India Youthtとして活動するウィリアム・ドイル本人名義での新作から(アルバムは3月にリリース)。ハードディスク消失により、偶然にもカセットMTRでトラック作りをすることになったことが結果的に好転し、ニューエイジ、アンビエント、プログレなどの要素から無数の音像が浮かぶユニークなサウンドデザインになった。ヴォーカルは、美しいファルセットで朗々と歌い上げ、ブライアン・フェリーにも通じる耽美的な世界に引き込まれる。自己探求型のアーティスティックな側面が強いのかと思いきや、レコーディングでのピッチのずれやエラーもそのまま採用しいるというハンドメイドな温もりと歌心に溢れ、冷たいコンクリートの隙間から芽吹いた野草のような眩い一曲。(キドウシンペイ)

 

【BEST TRACKS OF THE MONTH】
アーカイヴ記事

http://turntokyo.com/artists/best-tracks-of-the-month/


Text By Sho OkudaHitoshi AbeTomohisa MochizukiDreamy DekaShino OkamuraNami IgusaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki OnoKohei UenoSinpei Kido

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