“アジア発”が目立つ今年の夏フェス・ラインナップ、その背景を追う
今年の夏のフジロック・フェスティバル(以下 フジロック)、サマーソニックのラインナップには例年以上に東アジア・東南アジア出身のアーティストの名前が目立っている。K-POP、アジア出自のヒップホップ・R&Bを拡散した88risingの成功、インディでもミツキ、ジャパニーズ・ブレイクファストをはじめアジア出自のアーティストの作品に大きな注目が集まっていることなど世界的な傾向を考えればごく自然なことだ。だが、BLACKPINKやNCT 127などのK-POPグループから、ヒョゴ(hyukoh・韓国)、サンセット・ローラーコースター(SUNSET ROLLERCOASTER・台湾)、プム・ヴィプリット(Phum Viphurit・タイ)を始めとしたインディ勢まで、幅広い国、シーンから万遍なく集まる今年のラインナップには、東アジア・東南アジアの中でも、何か新しい風が吹いているでは、とワクワクさせられる。
そこで、今年両フェスティバルに出演するアーティスト、特にインディ系のアーティストの作品を改めて聴いてみると、今度は日本、韓国、台湾、タイ……など拠点とする場所や使う言語が別々なのに、そんなことを意識することなく同列に聴けてしまうことにも気付かされた。それはこれまで、”韓国の”インディ、”台湾の”インディというように地域性、ローカルなシーンを意識して作品を聴いたり、アーティストを探していた自分はなかなか気づけなかったことだ。
そんなタイミングだからこそ本稿で、今年のフジロック、サマーソニック両フェスティバルでこれほどまで東アジア・東南アジア出自のアーティストが目立つようになったのは何故なのか、ここに辿り着くまでどんな道のりがあったか、出演アーティストにも触れながら述べたい。(トップ写真はサンセット・ローラーコースター)
まず、ここ最近の東アジア・東南アジアのポップ・ミュージック、特に両フェスティバルにも出演アーティストの多いインディ・シーンの状況から考えてみたい。実際に出演者の名前を見てみれば、2度ジャパン・ツアーを成功させているヒョゴ、2018年4月、12月、今年も5月と昨年以降だけで何度も来日公演を行なっているプム・ヴィプリットをはじめ、何らかの形で日本公演を既に実現したことのあるアーティストが多いことに気付く。さらに、今年2月には台湾のサンセット・ローラーコースター(SUNET ROLLERCOASTER)と日本のヨギー・ニュー・ウェーヴスが東京・ソウル・台北を巡るツアーを行ったように、カップリング公演やツアーも盛んだ。他にもコラボ曲を出したプム・ヴィプリットとスタッツ、スプリット・シングルを出したサンセット・ローラーコースターとシャムキャッツなど作品を通した共演も珍しくない。アメリカやイギリスと比べれば、作品が拡散されるための環境も整っているとはいえないこの地域のインディ・シーンでは、お互いのローカルなシーン同士で交流することの価値はより大きい。今年の両フェスティバルにおける東アジア、東南アジア・アーティストの数の多さも、何もここ1,2年の新しい動きがそうさせたというわけではなく、以前からアーティスト同士、レーベル同士が互いに近づき、進化・拡大をしてきたことの結果とも言えるはずなのだ。
アーティストたちの音楽性からも考えてみよう。今年の両フェスティバルに出演するアーティストの楽曲を聴いていると、「東アジア・東南アジアのシーンにおいてもジャンルをクロスオーバーすることが当たり前になっている」こと、「彼らの間でシティポップが共通項になっている」ことの2つに気付かされた。
例えば、ダイナミックなロック・サウンドを軸にするヒョゴは、ジャズ、ソウル、ファンク、ブルース、ボサノバ、韓国の伝統的な歌謡音楽まで幅広いジャンルをそのバックに感じさせる。また、サイケデリック・ロック・バンドのサンセット・ローラーコースターも、「Jinji Kikko」(2016年)以降はシティポップやAORのテイストが一気に濃くなり、ファンク、ディスコ、スムース・ソウル、ボサノバなど幅広いジャンルの影響を感じさせる音色、リズムが前面に出て来た。セ・ソ・ニョン(SE SO NEON)の場合は、単にジャンル折衷なだけでなく、メンバー自身がヴィンテージな音を意識していたり、ボーカルのソヨンがK-POPも伝統的な歌謡音楽も好んで並列に聴くというだけあって時代を超越する魅力も感じさせる。あくまでこれらも一例だが、いまどき、”パンク”、”シューゲイザー”とか一つのスタイルに収まってしまうタイプのアーティストの方が珍しいことがわかるだろう。
また、単なるジャンルの折衷だけではない「新しいスタイルのポップ」にも注目だ。イエジ(yeaji)はアンビエントで心地いいトラックを武器にするが、代表曲「raingurl」、「drink, I’m sipping on」は中毒性も強くポップスとしての強度も高い。前者はハイテンポなハウス・ビートに「Make it rain girl, make it rain」と、後者はスロウでヘヴィなトラップ・ビートに「그게아니야(クゲアニヤ〜/”そうじゃない”の意味)」と耳に残りやすいフレーズが繰り返される。メロというより一つの音としてボーカルを落とし込むそのスタイルはアトランタ発のラッパーたちともシンクロするし、後者では彼女のバックグラウンドを生かして韓国語と英語を自然にミックスすることで新感覚を演出している。「エレクトロ・ミュージック」の枠に収まることを拒み、あくまで柔軟なポップスを楽しんでいるかのようだ。
ヒップホップやR&Bとインディ・ロックの壁を壊したドレイク、ウィークエンドやフランク・オーシャンらの登場に始まり、ビリー・アイリッシュの大ブレイクや未だ全米首位をひた走るカントリー・ラップ、「Old Town Road」で幕を閉じそうな2010年代。ジャンルのクロスオーバー現象が東アジア・東南アジアでも顕著だったことは、欧米のシーンとの距離を自然と近づけることに繋がったはずだ。
関連記事:SuperorganismとBROCKHAMPTONが体現するポップ・ミュージックにおける「二項対立」の無効化。その4つの理由とは?
また、日本国外でのシティポップの流行という現象において、東アジア・東南アジアがその中心にいることも重要なトピックだ。今回両フェスティバルに出演するアーティストだけ見渡しても、シティポップの軽やかでメロウなグルーヴ、ボーカルは、サイケデリック・ロックのサンセット・ローラーコースターやファンキーなプム・ヴィプリットに色濃く共有されているし、実際に日本の80年代のポップスをフューチャー・ファンクとしてアップデートするナイト・テンポ(Night Tempo)や、ソウル・シンガーで竹内まりやの「Plastic Love」をカバーした9m88がいたり、韓国でチャート1位曲を連発する赤頬思春期も「韓国版シティポップ」とも呼ばれている。(シティポップ人気のバックグラウンドは別な記事に譲るが)日本のシティポップという一つのスタイルが、東アジア・東南アジアのシーン全体の共通項として存在していることは、互いの交流、進化・拡大を加速させ、地域の異なるアーティストの作品も自然と同列に聴けてしまう大きな要因になったはずだ。
関連記事:ペク・イェリン (Yerin Baek)〜ノスタルジーの先に生まれた、ミステリアスで未来的なR&B。上半期のK-POP最重要作を紐解く!
今回ライブを見る機会のあるアーティストたちを機に、日本、韓国、台湾、タイ、そういった地域性は一度無視して、自然と同列に彼らのポップスを聴いてみてほしい。プレイリスト時代のいまだからこそ気軽に出来ることでもあるだろう。今後も、東アジア、東南アジアの間の地域間の交流が加速し、5年後、10年後には各国のフェスにヘッドライナーの1組はアジアのアーティストがいる、という状況になっていても何も不思議ではないと思うのだ。(山本大地)
今年フジロック、サマーソニックに出演する東アジア・東南アジア出自のアーティスト
FUJI ROCK FESTIVAL
July 26th Fri
yaeji (韓国人の両親を持ち、現在はニューヨークを拠点とする)
July 27th Sat
SUNSET ROLLERCOASTER (台湾)
hyukoh (韓国)
July 28th Sun
HANGGAI (中国)
Night Tempo (韓国)
THE PARADISE BANGKOK MOLAM INTERNATIONAL BAND (台湾)
SUMMER SONIC
August 16th Friday, TOKYO
八三夭831(台湾)
XIAO BING CHIH (台湾)
Supper Moment(香港)
NCT 127 (韓国)
August 17th Saturday, TOKYO
STAMP (タイ)
Phum Viphurit (タイ)
TELEx TELEXs (タイ)
August 18th Sunday, TOKYO
BLACKPINK (韓国)
THE BOYZ (韓国)
赤頬思春期 (韓国)
SE SO NEON (韓国)
9m88 (台湾)
August 17th Saturday, OSAKA
SEVENTEEN (韓国)
THE BOYZ (韓国)
Text By Daichi Yamamoto