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O.: WeirdOs

2024 / Speedy Wunderground
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『1000 gecs』以来のロックンロールレコード、間違いないね

06 August 2024 | By Shoya Takahashi

O.は、ロンドンのサックス奏者のJoe HenwoodとドラマーのTash Kearyによるデュオ。Henwoodはニュージャズバンド、ヌビアン・ツイストのメンバー。Kearyもいくつかのジャズ作品に関わっている。その二人が組んだO.もジャズかというとそうではなく、《Pitchfork》や《Allmusic》は彼らの音楽を語るためにスクイッドブラック・ミディブラック・カントリー・ニュー・ロードなどを引き合いに出している。なるほどロンドンのライヴ・シーンを中心とした、先鋭的なパンク/ロックとジャズとの邂逅として目する向きがあるよう。

しかしそれらのバンド群の、難解で文化度が高く、知性とワイルドさが融合した「Pitchfork的」な属性に、O.はまったく当てはまらない。むしろこの5年間、複雑化しゆくポストパンクに、頭でっかちで「わかる人にだけわかる」的な言説が飛び交っていたシーンを笑うように、このたった二人のメンバーからなるアンサンブルはもっとシンプルでプリミティヴ。つまり100 gecsに最も近似値がとれる音楽ともとれる。わたしは100 gecsのデビュー・アルバム『1000 gecs』をロックンロールとして聴いていたところがある。いうまでもなくロックンロールとはギター・リフとリズムの音楽。つまり『1000 gecs』の、中音域に寄せられたひずんだベースと、トラップやEDMに裏打ちされたビートとの奇抜な組み合わせはまさにロックンロール的だった。

O.の『WeirdOs』はどうだろう(注:この一文を声に出して読むと笑える)。Henwoodによるサックスにはディストーションやリヴァーブのエフェクトがかけられ、エレキギターやエレキベースのような表現力を持っている。そしてひたすらリフ、リフ、リフ。KearyのドラムはそのHenwoodのリフにキメを合わせるように同調し、3の倍数で割った細かな刻みや意図的なズレが随所にさしこまれる。細かく過激なドラミングと打ち付けるリフとの応酬は、アークティック・モンキーズの「I Bet You Look Good On The Dancefloor」、「Brianstorm」を想起させたりもする。だが彼らのリファレンスには90~2000年代のポストハードコア~オルタナティヴ・メタルがあり、ギグではデフトーンズのカヴァーを披露している模様。つまり二人は、そもそもロンドン内の現行アート・パンク/ニュージャズ系のバンド群とはまったく異なる回路によって現在の表現にたどり着いたのである。同様に男女のデュオであり不協和な表現をしているウォーター・フロム・ユア・アイズ(Water From Your Eyes)も思い出すが、やはり突如として現れた、ノイジーで変則的な表現にはいつも刺激を受けるなと思う。

シリアル食品か洗剤かのパッケージをパロディにした、人を食ったアートワーク(やバンド名)からして、ジャンクな作品でもある。キックとスネア=二つの打点を強く意識させることで複雑なリズムを単調化させる「176」や、冷や水をかけるように曲調がコロコロ変わる「TV Dinners」など、ズボラ、雑多とも言えるジャンクネス。散らかった部屋でもどこに何があるかわかる人のための音楽──100 gecs『1000 gecs』と並べることになんの違和感もない(音楽批評におけるクリシェと化した「ハイパーポップ的」というタームは、このニュアンスを必ずしも指していない)。

加えて驚くべきは、このアルバムが全曲ライヴ録音されていること。プロデューサーはロンドンのバンドシーンを支えるダン・キャリー。彼はアーティストの表現の生々しさやライヴ感をレコードに刻むのに長けており、近年はスロウタイ、グリアン・チャッテン(フォンテインズD.C.)のアルバムを手がけた。彼がプロデュースしたO.『WeirdOs』は、確かにライヴ録音ならではのシームレスさを感じさせるレコードだが、二人の息の合ったアンサンブルや、Henwoodの音色づかいには目を見張るものがある。

ノー・ウェイヴ、ダブ、ニューレイヴ、ドラムンベースといった意匠も巻き込んで、各要素が原色のまま混ざりあったカオスは、一方で原初的な衝動や爆発とミニマリズムを残したままやがて、大泣きや大笑いをしたあとの心地よい倦怠にも似た安らかな読後感へと行き着く。そう、ロックンロールとは、この爆発的なエナジーと先鋭的なアイディアの衝突や、聴衆の感情を沸き立たせるダンス音楽のことだったはずだ(『WeirdOs』も実は終始、踊れる)。そこにも100 gecsとの結節点を見つけることができるし、そんなO.には小難しく思索にふけりがちなロンドンのライヴ・シーン/パンクシーンに風をふかせてくれることを期待する。(髙橋翔哉)


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