Review

TOROZEBU: TOROZEBU

2022 / Black Acre
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旅するプロデューサーと打楽器の響きが導いた、祝祭の音楽

30 March 2022 | By Shoya Takahashi

かつて、音楽メディアがイタリア人プロデューサー、クラップ!クラップ!の音楽に「Afro」のタグを付けたとき、その後のアフリカ由来の音楽の爆発的な普及は予測できなかったろう。西アフリカのアフロビーツや南アフリカのアマピアノはもちろん、アンジェリック・キジョーやRokia Konéの近作は、フォンやマンデといった民族音楽を更新し話題を呼んだ。アフリカの音楽のリズム感覚や、パーカッションの音色は、耳馴染みの良いものになっている。

クラップ!クラップ!ことCristiano Cristiはこれまで、ジューク~ベースのビートに、アフリカの楽器や環境音や声のサンプルを乗せることで、独自の風景を描いてきた。また、作品ごとに明確なテーマ設定の中で旅をする、未知の世界の案内人でもある。『Tayi Bebba』、『A Thousand Skies』の2枚では、架空の秘境や宇宙の神話など、ファンタジックなモチーフを扱ってきた。ところが前作『Liquid Portraits』では、世界各地の旅先での風景や出会った人々、それらの想い出の記念写真という、地に足のついた主題に。フィールド・レコーディングを大々的に取り入れたサウンドもより親密な印象を添え、リスナーに旅の記憶を追体験させたのである。なお、本作『TOROZEBU』におけるコラボレーターで、Cristiと同じくイタリア人のパーカッショニスト、Domenico Candelloriとの初共演も果たしている。

Candelloriは民族音楽および音楽療法の研究家であり、地中海、中東、アフロ・キューバンのパーカッションの使い手だ。セッション・ミュージシャンとして世界各地のフェスティバルに参加しながら、楽器講師や音楽療法士としても活動している。そんなテイストや活動の幅広さゆえに、Cristiとのジャンルを越えたコラボレート、“TOROZEBU”を組むに至ったのだろう。

本作『TOROZEBU』では、Cristiのビートの骨組みはそのままに、電子音とアフリカの音色のサンプルがすべて、Candelloriが演奏するパーカッションに置き換えられている。これはCristiが、前作で試行したフィールドレコーディングよりも、さらに身近で有機的な音色を目指したためだろう。その結果、ぐっと力強い作品になった。生音は、微妙なズレのニュアンスを残しながらもエディットされ、空間に余白を生みながら、いくつもの打点が高密度に連なり重ねられている。ビリビリと震えるようなサブベースは、パーカッションの音にコンプレッサーをかけ音域を調整したものだ。楽器の皮や胴の振動が響いてくる、ポスト・プロダクションゆえのダイナミズムと、生音ならではの身体の躍動感と生命力が共存したアルバムである。

前作同様、異国の人々に目を向けた音楽であり、想い出に寄り沿う親密な音楽である。「torozebu」という単語は、「雄の瘤牛」を意味するようだ。アートワークにはカウベルをかたどった紋様と、楽器を鳴らす牛たちの姿が描かれている。牛飼いと家畜の雄牛、農民と信仰、祝祭の音楽ーーそれらのポートレートは、旅のできない時代においても、かつて出会った人々の息遣いを思い出させる。身体や精神に踏み込み作用するような音像やモチーフに、音楽療法士としてのCandelloriの感覚が活かされているかは分からない。しかし、誰もが自分ひとりの現実と向き合わねばならない状況でも、この音楽をとおして躍動感や生命力あふれる祝祭のムードを確かに追体験できるのだ。(髙橋翔哉)
※フィジカルはアナログ・レコードのみ(2022年3月現在)

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