Review

model home: Saturn In The Basement

2022 / Disciples
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地下室での不穏な実験

10 June 2022 | By Shinpei Horita

ワシントンD.C.のアンダーグラウンド・シーンで活躍する実験音楽家のPatrick CainとMCのNAPPYNAPPAによるユニット、model homeの2作目となるミックステープが、《Warp》のサブ・レーベルの一つでもあるロンドンの《Disciples》からリリースされた。最初のミックステープ『One Year』発表後に彼らのBandcamp上などでセルフリリースされた楽曲が、コンパイルされている。《Dischord》が誕生した地で活動する彼らは現行のワシントンD.C.を代表するレーベルである〈FUTURE TIMES〉から楽曲を発表したり本作『Saturn In The Basement』でも同じくワシントンD.C.を拠点とする実験音楽家のMichael R. BernsteinやGEO RIPのメンバーであるシンセ奏者、Mike Petilloが参加するなど先人たちの姿勢を受け継ぐようにコミュニティの繋がりやDIY精神に重きを置きながら自由に活動しているようだ。

彼らが作り出す音楽は奇妙で一見どこにも属していないようだが、聴き込めばヒップホップやダブ、テクノからノイズにコラージュ音楽と様々な要素が息づいている。海外のレビュー・サイトなどでは「スロッビング・グリッスルがプロデュースしたMF DOOM」とも評されている彼らのサウンドは、Patrick Cainのアナログ・シンセによって生み出される伸びきったテープのような腐食したノイズ・サウンド、歪んだビートにNAPPYNAPPAのフリーフォムなフローが加わる。こういった特徴は『Saturn In The Basement』でも一貫している。いやむしろこれまで以上にノイズにまみれ攻撃的でアグレシッブな作品となっている。サイケデリックなジューク/フットワークの「pidgin」、ベースラインと極端に変調された声が絡み合い蠢めく「couch」など冒頭からビートと声による実験の応酬が続く。また13分に及ぶライヴ・セッション「yard 1」など即興演奏の要素も作品通じてかなり高い。

中でも注目なのは日本からPhewが参加したM6「naked intentions」だろう。クレジットにPhewの名前を見つけた時は意外であったが、考えてみれば、彼らと同じように声とエレクトロニクスを用いて楽曲を作り出し更に《Disciples》からも作品をリリースしているPhewとのコラボレーションというのは必然的なものであったのかもしれない。PhewとNAPPYNAPPA、二人の声が徐々に境目を失いノイズに溶けていく。Phewから届けられたトラックをダビングしたテープに合わせて彼らがリアルタイムに演奏していく手法がとられているというこの曲は、地下室で人知れず行われている実験のような不穏な雰囲気を纏った本作を象徴するような一曲だ。

model homeの音楽は機能性とは程遠い。クラブで踊りやすい曲というわけでもでもないし、リラックスしたいときに自宅にゆっくり聞き流すような音楽でもない。ノイズとビートにまみれたNAPPYNAPPAのラップのように不明瞭で解読困難なものである。しかしだからこそ純粋に音に没頭できる。自分にとって音楽を聴くことは未知なるものに触れたいという欲求を満たす行為でもあることを本作は再確認させてくれた。(堀田慎平)

※フィジカルはヴァイナルのみ

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