Review

Le Ren: Leftovers

2021 / Secretly Canadian / Big Nothing
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大切な人への愛する気持ちを縫い上げたキルト

23 October 2021 | By kenji Komai

カレン・ダルトン、ヴァシュティ・バニヤン、ジュリー・ドワロン、ジェシカ・プラット──ル・レンは2020年のEP『Morning & Melancholia』により、聴いた瞬間に胸を掴まれる深いメランコリーを湛えた声を持つそれらシンガーの系譜に一躍名を連ねることになった。かつて日本でファッションモデルとしても活動し、2019年には原宿の《BIG LOVE RECORDS》でインストア・ライヴも行っているル・レン=ローレン・スピアは、COVID-19によりこのファースト・アルバム制作が延期になったことを契機に、4年間ほどの間で書き溜めた楽曲を研磨し、自らの感情にじっくりと向き合った。その結果浮かび上がったテーマは、恋人、友人、家族への愛情、そうしたシンプルで普遍的な思いだったという。

ミドルネームのローレン(Lauren)にちなんだニックネーム“ル・レン”を名付けた母親への感謝を綴った先行シングル「Dyan」の率直さはどうだろう。ウィルコのジェフ・トゥイーディーが「こんなにスウィートなトリビュートはない。ママを愛する歌をもっと増やそう!」と賛辞を贈ったほどだ。一方「I Already Love You」では、母親の視点から子供の成長を祈り、キラキラしたアコースティック・ギターの音色と豊かなチェロの響きが子守唄のような心地よさを生み、いつまでもここにいたいと思わせる(ミュージック・ビデオでは母娘共演を果たし仲睦まじい様子が伺える)。大切な人にどんなに辛いときでもそばにいると呼びかける「May Hard Times Pass Us By」のようなUKトラッド/フォーク的な感触の間に、幼少期に両親からブルーグラスの手ほどきを受けたことをキャリアの出発点とする彼女にとっては原点となる「Willow」のようなオーセンティックなカントリーの様式に則った楽曲が挟まれ、手作りのぬくもりを残したタペストリーとして構成されている。

『Morning & Melancholia』が、彼女とペダル・スティール奏者アーロン・ゴールドステインのほぼふたりで制作されたのに対し、今作では元ディアフーフの才人クリス・コーエンをプロデューサーに迎え(ギター、ベース、ドラムスも担当)、様々なミュージシャンが参加。まもなくデビューとなるカナダのシンガー・ソングライター、セドリック・ノエルやマウンテン・ダルシマー奏者Kori Miyanishiらがそれぞれのパートを北米各地で別々にレコーディングした素材をパッチワークのように組み合わせて完成させた。2月にゴードン・ライトフットの楽曲「Early Morning Rain」のデュエットを発表したのに続き、ビッグ・シーフのバック・ミークもギターで加わり優しく繊細なアルバムの空気に貢献している。

そしてこのアルバムの個人的なハイライトは、Tenciのヴォーカリスト、Jess Shomanを迎えた「Annabelle and MaryAnne」だ。昨年のアルバム『My Heart Is An Open Field』の透徹した空気にやられてしまった身からすると、ふたりのハーモニー(このアルバムでスピアが唯一自分以外のコーラスを迎えた曲だ)が聴けるだけでも鳥肌モノだが、「あなたのそばにいると楽になれる/私たちはきっと大丈夫」と、物理的な距離が離れていても、深い絆で繋がったソウルメイトの関係に胸に迫る。相手を思いやる心、そして包容力に満ちていると同時に、「言いたいことはあまりない/でも歌いたいことはたくさんある」(『Your Cup』)と言い切る誠実さも表現されており、アルバム全体のまどろみのなかに凛とした表情が浮き彫りとなっている。

アルバム・タイトルの『Leftovers』(食べ残し)とは、彼女の喜怒哀楽の断片のコレクションという意味で、スピアはアルバム制作と平行して、実際にパッチワーク・キルトを縫い上げたそうだ。アルバムのインナースリーブで、スピアがそのキルトを掲げているのを見ることができるが、多様な布の切れ端(Leftover)で織り上げられたそれは、彼女の音楽と同じように、バラバラなようでいて不思議な統一感があり、素朴で、美しい。(駒井憲嗣)

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