Review

Mustafa: Gaza is Calling

2024 / Jagjaguwar
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デモに行った日のこと

08 October 2024 | By Daiki Takaku

先日「パレスチナのための全国アクション」に参加した。わかりやすく言えば、彼の地で起きている戦争、ジェノサイド、民族浄化などに対する抗議を表明する平和的なデモ行進である。渋谷から表参道を経由してまた渋谷へ、シュプレヒコールと共にただ歩いた。土曜で人通りの多い街中では、怪訝な視線を送ってくる人も、冷笑を浮かべ眺める人も当然のようにいたけれど、たくさんの声が重なって響くと、それに意味がないとは到底思えなかった。

その日の帰り道、電車で明らかに先ほどのデモを批判している声が聞こえた。内容は「うるさい」とか「歩きにくい」とか、「せっかくの休日に水を差された気分になったよね。まあわかるよ」と流せる程度のものだったが、その連れ合いの「思想は人それぞれだし文句言えないよね」というフォロー(?)にモヤモヤしてしまう。「虐殺をやめろ」と訴えるのは思想だろうか。それともこういった行動で何かが変わると信じることが思想だろうか。その場をやり過ごすための言葉に過ぎないのか。グルグル考えながらイヤフォンを付けてムスタファの「Gaza is Calling」を再生する。ここで口論するよりも、この曲が彼らに届く方がずっといい。そんなことを、中東風のサウンドと柔らかなフォークのメロディーに包まれながらぼんやりと思っていた。

勘違いしないで欲しいのだけれど、「Gaza is Calling」はプロテスト・ソングではない。この曲自体は6月にリリースされているが、収録された最新作『Dunya』がリリースされたばかりなので、あらためて触れてみよう。そもそもこれは3年前に書かれた曲で、ムスタファが歌っているのは10代の頃に出会ったガザ地区から幼少時にトロントに移住してきたパレスチナ人の少年との友情と別離についてだ。彼は主に中東で用いられている弦楽器、ウードの音に乗せてこう歌う。「そして私たちは、あらゆる戦争が交差する通りに育った」「あなたの名前を口にするたびに/戦争が邪魔をする」。ムスタファはここで端的に描写しているのだ。地元であるリージェント・パークと呼ばれる公営住宅の周辺に蔓延った暴力の記憶を──彼と密接に関わり合っていたヒップホップ・コレクティヴ、ハラル・ギャングのメンバーだったSmoke Dawgは銃撃に遭い亡くなり(その影響とジャントリフィケーションにさらされる街の様相は2021年の前作アルバム『When Smoke Rises』に克明に刻まれた)、彼の兄であるモハメドも1年前、昼間の銃撃事件の犠牲となっている──。暴力が2人の友情を引き裂いたことを。

また、最後の一節は、このブラック・ムスリムとしてアメリカン・フォークの歴史に接続した偉大なシンガー・ソングライターがアラビア語で歌っている。翻訳アプリを使うとそこには「祈り」という言葉がある。詳細なニュアンスは理解できないが、どこかに希望を見出そうとしているのはたしかだろう。そしてアウトロで、この楽曲を収録した最新作『Dunya』の中では唯一とさえ呼べる歓喜の瞬間を迎える。この華やかさはザ・ウィークエンドやジャスティン・ビーバーの仕事に携わってきた彼らしさとも言えるだろう。暗い現実を跳ね除けるような明るい響きに湧き上がる、晴れ晴れとした気持ち。決して明確に救いや希望が歌詞の中で提示されているわけではないが、このパーソナルな歌は、今もなお争いによって友情が途絶えようとしている人々がいることを、同時に争いを止められる可能性が存在することを想像させる。だからそう、電車でデモの愚痴を言っていた彼らにもきっと届く。いや、もちろんそう思うのはおそらく容易すぎるけれど、簡単なきっかけで人は変わりもすると思うのだ。ムスタファは最近のインタヴューで社会正義に向き合う理由についてこんな風に話している。「一度学んだら、二度と忘れることはできないんです」。だからこの機会に聴いてみてほしい。

ちなみに「Gaza is Calling」も収録したアルバム『Dunya』にはアーロン・デスナーやロザリア、ダニエル・シーザー、クレイロ、ニコラス・ジャーらが参加。全体としては極めて地味ではあるが、ゾッとするほど美しい瞬間に溢れた作品だ。なお、この「Gaza is Calling」で得た純利益はPalestine Children’s Relief Fund(パレスチナ子供救済基金)に寄付されているそうだ。(高久大輝)




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