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REVIEWS: 10 February 2019

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REVIEWS: 10 February 2019

Future

Future Hndrxx Presents:The WIZRD

2019 / Epic / Freebandz

By Daiki Takaku

成功の先にある未来へ、フューチャー・ヘンドリクスは止まらない

稼いでは遣い、稼いでは遣い…生産と消費を繰り返す日々に疲れ切ったあなたはこうつぶやく。「なあ、このゲームはいつまで続くんだ?」本作『The WIZRD』を聴けばこのフューチャーと名乗るアトランタの伊達男がそんな資本主義社会のため息へ明確な回答を持つ者の1人だということに気がつくはずだ。

本作はミックステープやサウンドトラックを除けば一昨年初めに2週連続でリリースされた『FUTURE』、『HNDRXX』以来7作目のスタジオ・アルバムで、タイトルは彼のオルターエゴの名だ。不穏なトラップのビート、耳に残るフレーズに重きの置かれたリリック、歌とラップの間を滑らかに縫うようなフロウにオートチューン、本作もそんなフューチャー自らが作り上げたサウンドのフォーミュラから大きく逸脱するものではない。ただ、だからといって金太郎飴のように同じものを聴いている印象があるのかというと違う。本作と同名のタイトルを冠したドキュメンタリー(Apple Music内で視聴可能)の中でダンジョン・ファミリーの中心人物の1人、アウトキャストの片割れであるアンドレ3000はこう話す。「フューチャーの歌はある種の痛みを伴っている。それは魂とも言えるだろうが、俺には痛みに感じる」この1枚には衝撃的な革新はないものの、それ故にそんなフューチャーの重要な一面に触れることができる。

ヒット曲を量産し注目を集めるプロデューサー、テイ・キースのビートに引き込まれる「Temptation」や、突然転調する「F&N」、ミックス・テープを共作したヤング・サグと昨年からその注目度を一気に高めたガナを客演に招き、フロウのコントラストが心地いい「Unicorn Purp ft. Young Thug & Gunna」など、そのサウンドの中毒性を改めて認識できる楽曲群。中でも自身の過去作『DS2』から「Slave Master」をサンプリングしダイナミックにビート・スイッチする「Baptiize」の「金を稼ぐことだけが唯一オレを興奮させるんだ」というラインには自らのスピードで風が皮膚を切るようにヒリヒリとした感覚とそれを顧みずアクセルを踏み続けることのできる狂気がある。しかし『The WIZRD』が銃撃によって命を落としたFreeBand GangのメンバーOG Double Dの呼び名でもあることからも、それは狂気などではなく、生まれ育ったアトランタの貧困地域をサバイブした過去、そして仲間と家族を見たことのない未来へと導こうという、リアリティと愛に支えられた滾る情熱によるものだ。

このストリーミングでのヒットが念頭に置かれたであろう全20曲という長尺のアルバムに確固たるコンセプトを見出すことは難しいだろう。ただそこには、あなたがため息を恥じるほどの痛みとそれを補って余りある純粋な情熱が迸っている。彼は今日もフェラーリを走らせ、自家用ジェットで飛び立ち、ステージに立つ。そして、スタジオに戻ってくる。終わることのないビジネスの波がどれだけ彼を蝕もうと、フューチャー・ヘンドリクスは止まらない。『The WIZRD』というペルソナは成功の先にある未だ見ぬ未来へと音楽のマジックを信じ続ける彼の本質を体現する存在なのかもしれない。(高久大輝)

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