らしさを保ちつつ、より神秘的かつ複雑なサウンドで世界を俯瞰する野心作
ポスト・ロックやマス・ロックを軸とした変則的なリズムにダンス・ミュージックの要素を加えたサウンド、流れるようなギター・アンサンブル、独特な歌い回しのボーカルなど、フォールズはデビュー当初から明確な特徴を持つバンドだった。こうした特徴が顕著だった1stアルバム以降、音の重なりを極端に排除してシンプルながら、聴かせる曲を2nd、ハード・ロック転向!?と思いたくなるようなヘヴィーなサウンドを多用して新境地も切り開いた3rd、そこから更に重さと深みを増したサウンドへと変貌した4thと、常に変化しつつも、らしさを失うことがなかった。
この約10年もの間、中だるみすることなく常にある一定の独自ポジションを保ち続けた彼らの、4年ぶりの新作となる『Everything Not Saved Will Be Lost Part1』。パート1という名の通り、2部作構成のうちの1枚目という位置付けである。本質的には対になった2作品とのことだが、この1枚だけでも十分に聴き応えがある。変則的なリズムを確実に刻むドラムやマイナー・コードのメロディアスなサビは健在。それらの強みを最大限に活かした上で、何重にも音を重ね、壮大かつ神妙な音を出せるバンドへと変化した。
ミステリアスで不穏なシンセのイントロで幕を開ける「Moonlight」、キャッチなーメロディではないのに何故かアンセム的に聴こえるボーカルが耳から離れず、まるで迷宮から抜け出せなくなるような雰囲気に満ちたリード・トラックの「Exits」、繰り返される不穏なメロディーにも関わらず心地良さを覚える「cafe D’athens」、軽快なドラムが耳に残る疾走感あるダンサブルなナンバーで、まさにフォールズらしさ全開の「In Degrees」や「Syrups」、80年代のディスコのような雰囲気が新鮮な「On The Luna」、曲の後半に向かってガラリと展開を変えていく「Sunday」など、これまでの作品同様、他のバンドには出せないミステリアスなメロディと空気感が炸裂するとともに、全体的に曲の展開や構成がより複雑になった印象を受けた。
そうした複雑さは、「世界がもう昔みたいに暮らすことができない場所になっているという確固たる考えがあるんだ」とヤニスが言うように、不安や絶望感に覆い尽くされながらもそこから抜け出そうとするもがきにも聴こえた。これまでフォールズの楽曲の醸し出すミステリアスさは、世の中で起こっているあらゆる出来事から一線を画した、浮世離れしたものを世界観を想起させた。しかし今作の楽曲は、目まぐるしく、そして予測できない方向へと変化していく、混沌とした世界に目を向けずにはいられなかった彼らなりの意思を表明するものだと感じた。現在の世界との断絶を思わせる「I’m Done With The World (& It’s Done With Me)」で締めくくったPART1を聴き終えた今、PART2はどんな方向へ向かっていくのか不安と期待に満ちている。(相澤宏子)