奇妙な図案を音像化したような寓話的アート・ポップ
ワイズ・ブラッドやオルダス・ハーディングのそれぞれの新作あたりと並べて聴くと現在の女性アーティストの地図が相対的に描けるのだろうし(実際にオルダスの新作に参加しているステファン・ブラックがベースで参加)、とりわけアート・パンク的な「Mother’s Mother’s Magazines」や「Magnificent Gestures」あたりを聴くとブリジット・フォンテーヌやリジー・メルシエ・デクルーあたりを起点とするアヴァン・ロック系の流れが見えてきたりもする。過去何度も引き合いに出されたニコをさらに素っ頓狂にしたような表情も見せるヴォーカルと、ジャズやファンクも視野に入れつつも奇妙なフックを持たせたサウンドは、確かにそういったフィメール・ミュージシャンの横軸と縦軸をクロスさせたようなところにいることを伝えてくれる。
そういう意味でも前作『Crab Day』から3年、《Mexican Summer》移籍第一弾となるケイト・ル・ボンのこの5作目は、もしかしたら彼女の最高傑作かもしれない。これまでに自身の作品はもちろん、グリフ・リース(スーパー・ファーリー・アニマルズ)関連の作品に参加して広く知られるようになった彼女だが、LA拠点のティム・プレスリーとのユニット=The Drinksとしてアルバムを発表したり、ディアハンターの最新作をサポートしていたりとウェールズ出身アーティストの枠組みを大きく超えてジワジワと評価を高めていたケイト。だが、このアルバムは楽曲自体がこれまでになくパースペクティヴだ。椅子作りを学ぶべく建築学校に通いながら、イギリスの山間部の田舎町でこのアルバムの曲を書いていたというそうだが、なるほど、ただ声とメロディとアレンジとがストレンジなのではなく、様々な楽器が……それはサックス、ピアノ、ギター、パーカッション、あるいはオルゴールのような小さな楽器まで……一つ一つイビツに絡みながらもバランスをとりながらシャープに成立させ、その中でケイト自身が優美で飄々としたオペラ歌手のような歌を歌う様子は、なんというか、ちょっとアシンメトリーで奇妙な図案をしっかりと寸法をとりながら音像化したようでもある。
しかし、最終的にその楽器がどの音なのかを聴き分けるのが難しい曲も多い。その幻術的な音処理や配置からは、ありもしない世界を綴った寓話を読み解くかのようにファンタジックな本作のもう一つの側面を引き出す。もちろんそのファンタジーは不気味で恐怖的。《Pitchfork》では本作のレビュー記事の中で、映画『女王陛下のお気に入り』(2018年)などで知られるギリシャのヨルゴス・ランティモス監督の作品の持つ優雅/不条理を共存させたような表現が指摘されていたが、そのランティモスの作品であれば確かに『ロブスター』(2015年)のあの奇妙な童話性を思い出す。そして、リリックから推察できる、ここで描かれた奇妙な寓話があぶり出すのは、孤独という絶対的に逃れられない業のようなものへの愛着であるように思えてならない。
ノア・ジョージソン、ジョサイア・スタインブリックといったデヴェンドラ・バンハート周辺やジョシュ・クリングホファーといった西海岸周辺人脈、そしてカート・ヴァイルも参加。ともあれ、この人はもっともっと日本でも知られないと、聴かれないといけない。(岡村詩野)
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