Review

butasaku: forms

2022 / Right Place
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具体と抽象のポリフォニー

26 March 2022 | By Shinpei Horita

アルバムの中に「abstract」というタイトルを見た時、これは自分が京都在住の荒井優作という音楽家に対して抱いていた印象そのものだと感じた。16歳にしてTHE OTOGIBANASHI’S「Pool」のトラックを手がけ広く名を知られるようになったのをきっかけに銀杏BOYZ、サニーデイ・サービス、oddeyesなどの作品にプログラミング、リミックスで参加する一方、自身の作品はsoundcloudやbandcamp上で散発的にリリースされることがほとんど。アップされた楽曲が消されることもある。パフォーマンスも何度か目にしたことがあるがiPhoneとサンプラーというシンプルな機材を用いながらサンプリング(楽曲だけでなく映画や動画の音声と思われるものまで)を交えたセットはライヴ・セットなのかDJセットなのか一見判断がつかない。まさにアブストラクトで神出鬼没、ゲリラ的な活動をこれまで繰り広げている。そんな彼がシンガー・ソングライターのbutajiとユニットを組みアルバムを発表する……。どんな作品が出来上がるのか想像がつかない、だからこその興奮を携えて待ちわびたファースト・アルバム『forms』が遂に到着した。

ビートレスで静謐さを含みながら進む前半部からサイケデリックなトラックの「abstract」、ハウス・ミュージックのような「silver lining」などを皮切りに徐々に温度感を上げていく。その途中にもbutajiの真骨頂ともいえるアコースティック・エレクトロニカな「sleep tight」が挟まれるなど両者の音楽家としての振り幅の大きさがそのまま反映されたような様相である。二人が共同で制作を開始したのは2017年ごろにまで遡るとのことだが、2015~2016年の間に制作された楽曲をまとめ上げた荒井優作のソロ作品『近く』にはすでに本作収録曲の原型になったであろうものが散見され、二人がゆっくりではあるが長い時間をかけアルバム制作に向かっていたことが窺える。実際、異なるジャンルで活動してきた両者が邂逅することによって生まれる緊張感と同時に親密な空気が作品全体を通して感じ取れるものにもなっている。

本人たちが名乗ったのかどうかはわからないがbutasakuは“アンビエントR&B”ユニットと銘打たれている。アンビエントR&Bというジャンルにおいてはそのサウンド面は勿論のこと、加工が施されていたり囁くようなものなど声もアンビエントを構成する要素のひとつとして捉えられる傾向にあるように感じる。そういった点では本作を純粋にそれとして聴くことは難しい。低音から高音まで自由に行き来する卓越した表現力を持つbutajiのヴォーカルは、周囲の環境に溶け込んだり聴き手を単純なリラックス状態にすることを許さない。むしろポリフォニー的とも言えるほどに声が重ねられていくさまは、butaji本人のソロ作品以上に彼の声に焦点が与えられているようにも感じられる。本作のプレスリリースの紹介文には“R&Bとミュージック・コンクレートの間を埋めるミッシング・リンク”とあるが、たとえば荒井優作の手によってbutajiの声を素材に構成されたミュージック・コンクレート作品として聴くことも可能なのではないだろうか。

前述のように神出鬼没な活動を続けこれまでもGOODMOODGOKUやdodoなど自由にコラボ活動を続けてきた荒井優作、一方でbutajiも昨年アルバム『RIGHT TIME』をリリースするなど精力的な活動を続けている。今後butasakuとしてコンスタントにリリースが続くのかは本人たちにしかわからない。本作限りとなる可能性もある。しかしそんな危うさすら彼らのアンビバレントな魅力のひとつだろう。(堀田慎平)

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