Review

flowerovlove: A Mosh Pit In The Clouds

2022 / Self-released
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何も心配していない”あの頃”の感覚を再現する16歳

11 December 2022 | By Kei Sugiyama

学校に通いながらflowerovloveとしてミュージシャンだけでなくいまやモデルとしても活躍、ロンドンを拠点に活動しているJoyce Cisseのソロ・プロジェクト。彼女の音楽制作における初期からのパートナーとして兄のWilfredがおり、EP『Think Flower』(2021年)は兄の部屋で録音された。現在も楽曲制作に関わっており、「I Gotta I Gotta」ではMVに出演している。本作では、「Out For The Weekend」に関わっている。こうした兄妹の関係は、どこかビリー・アイリッシュを思わせる。彼女が楽曲制作で心がけている事として、子供の頃の何も心配していない多幸感溢れるあの頃の感覚を再現しようとしていると語っている。そうした発言からも分かるように、前作から本作の間にリリースされた楽曲は多幸感と高揚感を感じさせつつも、「I Love This Song」のノイズ混じりの音像、「Will We Ever Get This Right」(2022年)のアウトロ部分の歌詞、そして「Hannah Montana」の冒頭の鍵盤の音色など、ノスタルジーを喚起させる作りになっている。彼女の楽曲の魅力は、「Hannah Montana」や本作収録の「Out For The Weekend」など、この瞬間はすぐに去ってしまうけどそれを理解した上で楽しんでいるような部分だと思う。それは彼女の人間関係に対する「友情とは互いの秘密を知る事ではなく、いま共有している時間を楽しむ事」という考え方がそうさせるのだろう。本作を一つの物語として捉えた場合、彼女のこうした考えが浮かび上がってくるようだ。

前作ではテーム・インパラ『Currents』が最も大きな影響源と語ってきた彼女らしく、テーム・インパラのドリーミーな側面にフォーカスしたような印象があった。しかし、冒頭の「Get With You」のドラムの音質など本作ではテーム・インパラ『Lornerism』の方が近いように感じる。この曲の数字をカウントするブリッジ部分の歌詞で、「一緒に踊って」の後にローランドのリズムマシンTR-808を歌詞の中で引用している所に、このリズムマシンを使った数多の楽曲が脳裏をよぎり、どの曲で踊っているのだろうかと脳内トリップできる仕掛けも面白い。続く「I Gotta I Gotta」は、楽曲の雰囲気だけでなく、太陽、空、愛など歌詞もハッピーな雰囲気に溢れた楽曲だ。こうした楽曲のMVとして、映像全体にフィルターをかけて80年代後半~90年代を思わせるような雰囲気の映像に仕上げていることで、MVでの不思議の国のアリスごっこしているような探検も含め、多幸感、高揚感、そしてノスタルジーが同居した彼女のコンセプトを体現したような楽曲になっている。これらの曲でもみられるように、彼女の魅力の一つは大きな物語を語るのではなく、自分の周りの小さな物語を語る所だ。本作に収録されている「Out For The Weekend」は、「Saturday Yawning」(2021年)に続く彼女の十八番の週末黄昏系ソングだ。彼女はテーム・インパラの他にStrawberry Guy「Mrs Magic」(2019年)をフェイバリット・ソングとして挙げていたが、この曲は彼女のそうした趣向が反映されている楽曲と言えるだろう。この曲の微睡の中にいるようなサウンドを聴いて、私はスクール・オブ・セヴン・ベルズ「Half Asleep」(2008年)を思い出した。この曲は、彼女が影響を受けたテーム・インパラがシーンに登場する頃に、現実逃避の音楽としてシューゲイザーの00年代後半~10年代前半的解釈として一部はチルウェイヴとも言われるなどしたシーンの中で盛り上がった楽曲だ。この1曲と彼女の発言からここ10年ほどのこうしたシーンの流れが浮かび上がるようで、そうした連なりを感じさせてくれるという意味でも、面白い楽曲だ。

本作は「Gone」で終わっていることで、この物語において親密な関係の一つの終わりと捉えられるが、もう少し多義的な意味が含まれているように感じる。まず、この曲はピアノの弾き語りのニュアンスが強く、楽曲の作り方が他の収録曲とベクトルが大きく違う。彼女の楽曲をノスタルジーの視点から見た場合、何の心配もない子供時代にはもう戻れないという意味合いも含まれているように感じる。しかし、それは成長でもあるというニュアンスが去っていくのを決断したのは自分であるという歌詞から感じられる。来たるデビュー・アルバムに向けて彼女がどのような作品を考えているかは分からないが、この曲は一つのフェーズの終わりを示した楽曲なのかもしれない。(杉山慧)


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