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現代のUKフォーク・ミュージック・シーンにおける共同体精神

24 February 2024 | By Kohei Yagi

2021年にリリースされた『Songs Without Authors Vol. 1』というコンピレーションを知っているだろうか。本作はそのタイトルの通り、著者が不明なフォーク・ソングばかりを集めたものであり、序文には「フォーク・ミュージックの素晴らしさは、本質的にローカルでありながら、あらゆる時代と場所で関連性を見出す。このように、フォーク・ソングは村や町、地方にしっかりと根を下ろしたまま、何世紀も大陸を隔てた個人によって取り上げられることもある」とある。古のフォーク・ミュージックを現代に蘇らせようという試みがコロナ禍で行われていたのだ。レーベルは、イギリスはロンドンを拠点にしたレーベル、《Broadside Hacks》。調べていけばわかることだが、彼らはレーベルであるだけでなく、音楽パフォーマンスをするコレクティヴであり、フォーク・クラブの名前でもある。自分たちのドキュメンタリー映像を作成しているのも興味深い。《SXSW》でパフォーマンスした経験があるのも面白く、彼らは既存のフォーク・ミュージック好きとは違った層に対してそのジャンルが持つ魅力を伝えることに成功している。このフォーク・プロジェクトの主催には、ソーリーのベーシストであるCampbell Baumが関わっていることも注目すべきだろう。

『Songs Without Authors Vol. 1』に参加したメンバーを見てみると、Shovel Dance Collectiveや、Junior Brother、ランクムのメンバーであるDaragh Lynch、Katy J Pearson等、現在のUKにおいてフォーク・ミュージックが盛り上がってきていることを示すような面々が顔を覗かせている。特にShovel Dance Collectiveとランクムの活動は、改めて「歌」の古い歴史と向き合い(彼らは19世紀のフォーク・ソングを演奏する)、そこに実験性を持たせ、その作品が高い評価を受けたことの代表例であり、『Songs Without Authors Vol. 1』は彼らのようなアクトがシーンを形成していることを可視化する役割を担っている重要なコンピレーションといえる。UKのフォーク・ミュージックが盛り上がってきていることを示す材料は『Songs Without Authors Vol. 1』に留まらない。ランクムのメンバーのサイド・プロジェクトでもあるØXNはランクムとも呼応する『CYRM』(2023年)をリリースし、『Look Over the Wall, See the Sky』(2023年)がエクスペリメンタル・フォークの傑作だったジョン・フランシス・フリンは各メディアの年間ベストリストにもランクインしていた。デビュー作『caroline』(2022年)が評判を集めたキャロラインは、メンバーがShovel Dance Collectiveと重なる部分があり、そのサウンドにはフォークの影響が強く出ている。《ele-king》に掲載されたランクムのインタビュー記事で松山晋也さんが挙げていたYe VagabondsやLisa O’Neillを挙げてもいい。ブラック・カントリー・ニュー・ロードのような、本来フォークとは違った畑にいるように見られているバンドのサウンドが、フォーキーなテイストを宿しつつあることも重要だ。また、ここで名前を出した固有名詞のいくつかが、コレクティヴとして活動していることが伝わるだろうか(特にShovel Dance Collectiveやキャロラインに顕著だ)。その点について、《Broadside Hacks》の立ち上げ人のひとりであるソーリーのCampbell Baumは以下のように言及している

「みんながいろいろな角度から(フォーク・ミュージックに)アプローチしているのが興味深い。そしてパンデミック以降、こうした大規模なアンサンブルをさまざまな場所で目にするようになった。そこには、フォーク・ミュージックの“コミュニティ精神”というものが明白に現れていたと思う。そのことはとても重要で、それが今のイギリスで一種のムーヴメントが起きている理由だろうね。ただ人々が集まって音楽を演奏することは、個人的な意味を超えて、もっと重要なことなんだ」

ここでCampbell Baumは、フォーク・ミュージックの持つコミュニティ精神に言及している。フォーク・ミュージックは「個」であることを乗りこえて、音楽家たちに伝搬していき、そこで交流が起こって新たな音楽が産まれるという、そういう特性を持つ音楽だと彼は確信している。かつて60年代のイギリスではフォーク・クラブのムーヴメントがあった。一説によると64年にはロンドンに約400のフォーク・クラブ(店舗ではなく、あくまでイベントレベルの話ではあるが)があったそうだ(小西勝『英国フォーク・ロックの興亡』P61)。それについてフェアポート・コンヴェンションのリード・ギタリスト兼ソングライターであったフォーク・ロックのレジェンド、リチャード・トンプソンは次のように言及している。

「当時のフォーク・クラブは、パブやコーヒー・バーのバックルーム、ホテルの貸しスペース、大学や教員養成所、看護学校のホールなど、いたるところで次から次に誕生していた。ほとんどが運営というにはほど遠く、その実態は、パブの上のちょっとしたスペースを利用して、ときにPAシステムが使われる程度のものだったが、たしかにそこには美しい共同体感覚と家族的精神に満ちた素晴らしいシーンがあった」(《Uncut》IPC Media: 2014 Oct.)

リチャード・トンプソンの発言はCampbell Baumと共鳴している。フォークが共同体的な音楽であるというメッセージが時代を越えた二人の音楽家の言葉で語られている。かつてイギリスで栄えたフォーク・ミュージック・シーンはそのような共同体精神によって形作られていった側面が大きいのだろう。ストリーミング・サービスの発達により各人の趣味に適した音楽がアルゴリズムによってチョイスされるような時代になった今、共同体精神の話など暑苦しいだけだろうか。とはいえ、パンデミック到来によって「個」であることを強いられていたことに対しての反発が、イギリスではフォーク・ミュージックを通じた共同体精神として立ち上がらせたという構図はなかなかに興味深い。ここでさらに音楽家の言葉を重ねたい。本稿で何度も固有名詞が登場しているShovel Dance CollectiveのメンバーであるMataio Austin Deanの言葉だ。

「私が言っているのは、フォーク・ソングを受け継ぐさまざまな世代を通して、時代を超えて築き上げられた連帯のことだ。苦闘しているさまざまなグループの間には連帯がある。労働者階級の連帯とクィアの連帯について考えるとき、必ずしも自動的に連帯があるとは限らないから、これらのつながりを構築し、クィアの歴史、黒人の歴史、女性の歴史、これらすべてのことについて考えることが大切なんだ」

マタイオはここでは「共同体」(community)ではなく「連帯」(solidarity)というフレーズを使用している。彼はフォーク・ソングを通して、様々な困難に直面した人々の間につながりを持たせることができるということを信じている。そのつながりは世代や時代を越え、人々を連帯させていくという。それを夢想的と思う人々もいるかもしれないが、現代のUKにおけるフォーク・ミュージック・シーンを形成している音楽家の中にはそのような思想を持つ人間が中核にいるということが、Campbell BaumやMataio Austin Deanの言葉に現れており、シーンの思想的な柱になっていることがわかる。そんなフォーク・ミュージック・シーンに、またひとつユニークな存在が現れた。それがTapir!だ。

Tapir!は、2019年にシンガー/ギタリストのIke Grayと、キーボード/ドラム・マシーンのWill McCrossanによってサウス・ロンドンで結成され、現在は総勢6人のコレクティヴとなっている。《Broadside Hacks》主催のフォーク・クラブに参加したり、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのライヴのサポート・アクトとして出演することで徐々に知名度を高めていった。Tapir!の活動で注目すべき点は、彼らのYouTubeを観ればわかるが、自分たちがメインになって演劇の動画やストップ・モーション・アニメを作成し(多くのMVで監督を務めるのがIke Grayだ)、MVという形でリリースしていることだ。音楽だけではなく、多様なアウトプットをしているところは、フォーク・バンドというよりも、アート・コレクティヴといった方が、彼らの活動の本質に合っているような気もする。そんな現在のTapir!のアウトプットは、デビュー作『The Pilgrim, Their God and The King Of My Decrepit Mountain』で語られ、鳴らされている物語が下敷きになっている。この物語は、MVやライヴ・パフォーマンスで頻繁に見られる、赤い被り物をしたキャラクターとリンクしている。この赤い頭を持ったキャラクターは、ピルグリムという名前を持っており、物語の主人公だ。物語ではピルグリムが架空の宇宙を舞台に、神話の世界を旅し、その過程でさまざまな幻想的な出来事に直面する様子を描いている。キャラクター主導の物語へのアプローチという点では、ランディ・ニューマンやハリー・ニルソンからのインスピレーションがあるという。

『The Pilgrim, Their God and The King Of My Decrepit Mountain』はAct 1 ~ Act 3の3章仕立てで構成されている。Act 1とAct 2までがEPとしてリリースされ、そこにAct 3が付け加えられることで、ひとつのアルバムとしてリリースしたというわけだ。この章立てについて、なぜ「『Part』ではなく『Act』と表現したのか、音楽を演劇的に捉えているのか?」というジャーナリストからの質問に対しての、メンバーであるIkeとRonnieの答えが、このコレクティヴの在り方やアルバムについての的確な説明になっているため引用する。

「Ike: 長い目で見れば、ライヴを単なるバンドパフォーマンスとしてではなく、映画や演劇など、他のメディアを統合し、別の世界を探求することを目標としてきたんだ。演劇やミュージカルとしても成り立つかもしれない」
「Ronnie: このアルバムは、マルチメディア・プロジェクトの音楽的な側面なんだ。アート・プロジェクトであり、映画の側面があり、ドローイングの側面があり、本作は音楽の側面なんだ」

Ikeの言葉通り、彼らのライヴでは演劇的な要素も取り入れており、ユニークなものになっている。Tapir!の活動はある種のマルチメディア的なエンターテイメントなのだろう。彼らが自身の作り上げた物語の登場人物を模して赤い被り物をしているのは、ユーモアというだけではなく、ある種儀式的な側面があり、それをすることで自分たちの作り上げた世界観に観るものを誘うのだ。

音楽としての『The Pilgrim, Their God and The King Of My Decrepit Mountain』は、インディー・フォークを中心としながらストリングスやホーンを携えた、シンフォニックなバロック・ポップ~アート・ロック的な要素も持ち合わせ、スパイスとしてエレクトロニクスも導入されている。フリート・フォクシーズやグリズリー・ベアといったゼロ年代後半のUSに現れた才能たちに通じるフォーク解釈が、彼らのサウンドからも嗅ぎ取ることもできる。アルバム収録曲をいくつか見ていこう。各章冒頭の「Act」シリーズでは、なんとUSインディー・ミュージシャンのカイル・フィールドによるユニット、Little Wingsがナレーターを務めており、物語の進行を務める重要な役どころを担っている。「On A Grassy Knoll, We’ll Bow Together」はどことなくレディオヘッド「Jigsaw Falling Into Place」を思わせるアコースティック・ギターのアルペジオからはじまり、各楽器の音色が少しずつレイヤリングされ、切ないフィーリングを宿したチェンバー・ポップとなっており、3拍子で展開されていく「Swallow」はドラム・マシンに導かれ、2本のギターが音色を紡ぎながら、ささやかなホーンやシンセの響きに彩られた幽玄としたサウンドが魅力的だ。アコースティック・ギターのリフレインと軋むように響くチェロ、不穏な空気を醸し出す鍵盤、そしてたまに波打つように寄せては引いていくディストーションがかったギターが絡み合う、聖書からインスピレーションを得ているであろう「Broken Ark」からは彼らの才能の懐の深さが伺える。本作でもっとも興味深い楽曲「Gymnopédie」はそのタイトル通り、エリック・サティが作曲した傑作のフレーズを引用しており、彼らの世界観に19世紀ヨーロッパの風を吹かせた。ややもするとスベってしまいそうな大ネタ使いだが、これを彼らにしか成しえないようなシンフォニックなサウンドへと昇華させてみせた。「My God」はヴォーカル・フレーズがメアリー・ウェルズ「My Guy」を想起させ、歌詞にiPhoneやヒューゴ・ボス、メイベリンといった現代のブランドを忍ばせながら、神について歌うというユーモラスな楽曲だ。そしてアルバムのラストを締める、7分にも及ぶ大団円「Mountain Song」はシンプルな弾き語りから始まり、その後ドラム・マシン、エレキギター、シンセサイザー、ホーンなどが折り重なってゆき、楽曲はその表情を変えながら展開される。そしていつしかリズムはドラムが形作るものになってゆき、Ike Grayが繰り返す鼻歌のようなフレーズはメンバーたちの分厚いコーラスとなり、ダイナミックなラストを導くことで、この壮大な物語は締められる。

Tapir!のギタリスト、Tom Rogers-Coltmanは次のような発言をしている。

「今の時代、人々がフォークロアやフォーク・ミュージックと結びついているのは、ある種の過去に対する思索的な解釈によるものだと思う~そもそも存在しなかったものへのノスタルジアのようなものだ。でも、例えばアルバムを通して自分のフォークロアを作れば、みんなが違った形でつながることができる、オルタナティヴなノスタルジアを創り出すことができる」

フォーク・ミュージックを通した人とのつながりについて、本稿で取り上げた音楽家たちは「共同体」や「連帯」といったフレーズを用いていた。そしてTapir!のメンバーも同様の話をしている。「オルタナティヴなノスタルジア」を通じて、人々をつなげることを、彼らはその活動を通して行っていくという。Tapir!が本格的にその活動をスタートさせたのはコロナ禍のことだ。パンデミックが導いたロックダウンの中で、人が人とのつながりを求めることを心底望んだ結果が、UKではフォーク・ミュージックを通じて共同体を形成し、それが徐々に美しい華を咲かせてゆく様を我々は今、目撃している。(八木皓平)

Text By Kohei Yagi


Tapir!

The Pilgrim, Their God and The King Of My Decrepit Mountain

LABEL : Heavenly / PIAS
RELEASE DATE : 2024.1.26
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Tower Records / HMV / Apple Music


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