菅原慎一の魅惑のアジアポップ通信 : 07 August 2019

古一小舍(guyicafe)

菅原慎一の魅惑のアジアポップ通信 #1

By Shinichi Sugawara

菅原慎一の魅惑のアジアポップ通信 : 07 August 2019

古一小舍(guyicafe)

菅原慎一の魅惑のアジアポップ通信 #1

By Shinichi Sugawara

第1回:『古一小舎』〜今後の台北音楽シーンを担う、
どう考えても普通じゃないカレー店

菅原慎一のアジア熱が止まらない! 近年、すっかりアジアン・カルチャーに魅せられているシャムキャッツの菅原慎一が、ここ『TURN』で執筆レポートしてくれた人気記事《ex透明雑誌・洪申豪(モンキー)が作った理想のスペースとは?》に続いて、とうとうアジアのポップカルチャーをテーマにした連載コラムをスタートしてくれることになりました。それがこの《菅原慎一の魅惑のアジアポップ通信》です。 8月2日(金)〜8月25日(日)にかけて代官山の蔦屋書店でカレーフェア《SPICE RHYTHM & SONG WEEK》も企画開催中、8/30(金)にはオトトイにて開催される《夜間音楽ラボ〜アジア音楽編〜》でアジアの音楽についてたっぷりとトーク、カセットテープDJも披露する予定だそう。この夏もすっかりアジア漬けのそんな菅原からのアジア定期便コラム、どうぞお楽しみください!(編集部)


記念すべき第1回目は、2018年10月に台湾・台北にオープンしたカレー店『古一小舎(guyicafe)』を紹介したい。『古一小舎』は桃園国際空港空港からのアクセスも良好な台北捷運松山新店線北門駅から歩いて10分ほどのところに位置する小さなお店だ。

そもそも台湾にはインドやタイ、ネパール、スリランカといった国々から影響を受けた、本格的な(という言葉が適切かはわからないが)カレー店が非常に少ない。「日式」(日本風)スタイルの欧風カレー店が街のほとんどを占める台湾だが、この一見おしゃれなカフェ風の『古一小舎』は、従来の規範的な台北カレー市場に颯爽と登場した。

本格的! 目玉焼きや野菜がのっかったチキンカレー=香料雞腿咖哩(Indian chicken curry)

しかしお察しの通り、当連載はカレーについてのあれこれを深く追求するものではない! 

タイトルにもあるように、ここはただのカレー屋ではないのだ。

台北で最も大きな河川である基隆川沿いを南北に伸びる環河高速道路。オートバイの喧騒がこだまするこのエリアの近くには、観光地として有名な「迪化街」があるが、『古一小舎』はその華やかな街並みさからは少し外れた場所にある。どこかの商店のガレージなのか、はたまた誰かの倉庫なのか、日中通してシャッターが閉まり人通りも少ない路地に、このカレー屋は突如現れた。

僕が店に到着したのは平日午後の2時過ぎ。普通に考えるとランチタイムは終わる頃だというのに、店内は多くの若者で賑わっていた。

『古一小舎』はEverforのギタリストでもある杜易修が仲間と一緒に経営している

少し時間を巻き戻そう。

今年3月に台湾のシティ・ポップ・バンド、Everforの来日公演が渋谷《7th Floor》で開催され、僕はそこにカセットDJとして出演したが(アジアを中心に収集しているカセットテープのみでDJをしている)、Everforでギターを弾くナイスガイ、杜易修(Du Yi Sho)と楽屋でこんなやり取りがあった。

「菅原、今日はありがとう。ところで渋谷の美味しいカレー屋を教えてくれないか?」

「OK、リストにして送るからLINEを交換しよう!」

その後、修氏とはLINEやInstagramのメッセージで何度かカレーについてのやり取りをした。音楽やギターについてではなく……。

そう、ここ『古一小舎』は、その修氏がかつてのバンド・メンバーと共に切り盛りをする、ミュージシャンによるカレー店なのだ。冒頭でも触れたが、そもそも台北には本格的なカレー店が少ないため、修氏は相棒の許嘉航(Xiu Jia Hang)と共に、バンドのツアー中もその研究に余念がなかった。様々な国のカレーからインスパイアされた、しかし全く新しいオリジナルカレーを提供すべく、日々奮闘しているのだ。

本題に入るが、そもそもなぜ『古一小舎』はどう考えても普通じゃないカレー店なのか。その答えは修氏自身にあると僕は考える(あえて記さないが、カレー自体もとても美味しくそれだけでスペシャルな店である)。

修氏と僕とは約3年前、シャムキャッツとEverforとのライブ共演ではじめて知り合ったが、彼には様々なミュージシャンとしての顔があることを後に知った。今やアジアを代表するバンドになった落日飛車(Sunset Rollercoaster)のメンバーを中心に結成されたバンド、Angel Babyや、静寂さと激情が同居するロック・バンド、昏鴉 The Murky Crowsのメンバーでもある修氏は、ギターではなくドラムを担当している。他にも枚挙にいとまがなく、彼はこれまでになんと30以上のバンドにメンバーとして出入りを繰り返してきたという。

そんな彼がいる『古一小舎』は、おそらく台湾のインディー史上最も多種多様なアーティストたちが集まるスポットとなっている。全くもってただのカレー屋ではない!

(その必要がないとしても)仮に台湾のインディー音楽地図を俯瞰しようとするとき、僕たち日本人にはなかなかその全体像を容易にイメージすることはできないだろう。特定のジャンルや音楽性、世代、ライブハウスを手がかりに目を凝らすと、どうしてもその文脈でしかそれぞれのバンドに触れることができないのは当然のことだ。しかし修氏が15年以上かけて築き上げてきた彼の交友関係によって、ここ「古一小舎」を定点観察するだけで、新しい視点でその魅力を一望できる。

僕が特に推したいバンドとアーティストを挙げるだけでも、 「Angel Baby」、「落日飛車 Sunset Rollercoaster」、「VOOID」、「透明雑誌」「來吧!焙焙!」、「Manic Sheep」、「Everfor」、「安溥 anpu」、「落差草原」、「South Bad Boy」、「林以樂」、「雀斑 Freckles」、「愛是唯一 love_1」 、「Deca Joints」、「劉以豪」、「盪在空中」、「昏鴉 The Murky Crows」、「音速死馬 Sonic Deadhorse」、「The Fur.」、「隨性 Random」といった面々が、美味しいカレーと修氏とのコミュニケーションを求めにここへとやってくる。



おそらくここまで年代、ジャンル、テリトリーにしているハコ/エリアを問わずバンドが一堂に会する場所は他にないだろう。何より素敵なことは、彼らがここへやって来る大きな理由を占めるのは「食事」をするためだということ。フランクにラテを飲みながらミーティングをしたり、カレーの辛さに痺れながらレコードの話に花を咲かせる時間が、豊かな音楽文化を育む栄養剤となっている。暮らしの延長線上にある彼らの表現の魅力が垣間見える『古一小舎』は、今後も台北の豊かなインディーシーンを支えていくサロンのような役割を果たしていくだろう。

実際、台湾インディの伝説的バンド、透明雑誌のドラマーTrixは、ここへ来るといつもおしゃべりが止まらずついつい長居していくという。お互い住む場所が離れているEverforのメンバーは、営業時間後にバンドの練習場所として活用しているという(僕はここが新たなライブスポットになる想像をしてしまった)。そして落日飛車のヴォーカル、國國は、バンドの運営面で重要な話をしにマネージャーとよく来店するらしい。

台湾では個人の起業後の存続年数がとても短いといわれている。とりわけ飲食の分野では競争が激しく、オープンから半年足らずで閉店へと追い込まれる店は多い。そんな中、開店から9ヶ月経っても毎日たくさんの客の笑顔が見える『古一小舎』は非常に稀有な存在らしい(修さんは自らそんなことは言わなかったが、取材時に同席していた台湾の友人は「本当にすごいことだよ」と静かに僕に耳打ちしてくれた)。「ミュージシャン仲間のサポートあってこその店だ」と修氏ははにかみながら僕に言った。

読者の方々に近いうちに台北を訪れる予定のある人がいたら、是非ともこの店を訪れて〈インディアンチキンカレー〉を食べて欲しい。舌鼓をうちながらふと横を見ると、あなたのフェイヴァリット・アーティストが仲間と一緒にコーヒーを飲んでいるかもしれない。そして彼らがまたここから生みだす新しい音楽に、一緒に驚いたり感動したりしよう。

次回の《菅原慎一の魅惑のアジアポップ通信》は、この『古一小舎』を営む台湾インディーの最重要人物、杜易修(Du Yi Sho)さんにさらにフォーカスした内容をお届けする予定です。(文/写真 菅原慎一)

杜易修と菅原

古一小舎(guyicafe)
No. 113號, Section 1, Huanhe North Road, Datong District, Taipei City, 台湾 103
https://www.instagram.com/guyicafe/
営業時間: 12:00~21:00
定休日:月曜日

■菅原慎一 Instagram
https://www.instagram.com/sugawarashinichi

■菅原慎一 Official Site
https://someedosomeedo.wordpress.com/

■シャムキャッツ Official Site
http://siamesecats.jp/

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Text By Shinichi Sugawara


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