BEST TRACKS OF THE MONTH : 06 April 2019

Various Artists

BEST TRACKS OF THE MONTH ~2019.03~

By Shino Okamura / Kei Sugiyama / Nami Igusa / Koki Kato / Yasuyuki Ono / Daiki Takaku / Eri Mokutani

BEST TRACKS OF THE MONTH -March, 2019-

TURNライター陣による、2019年3月のベスト・トラック紹介!

Faye Webster – 「Room Temperature」

マック・デマルコ「Chmaber of Reflection」がドリーミーに夜を想わせるなら、フェイ・ウェブスター「Room Temperature」はさながら白昼夢だ。ペダルスティールの伸びやかでゆったりしたサウンドに、肩の力が抜けた彼女の歌声を聴いて昼寝でもしていたい。

「外に出なければ」と繰り返すリリック、彼女自身はインドアなのかもしれない。顎に手を置いて空に肘をつきながら、水には入らずシンクロナイズドスイミングする怠惰な彼女を映したMVも自身で監督している。写真家としても活動しているというから音楽以外の創作にもアクティブだ。

本楽曲はSecretly Canadianと契約後はじめてのシングルだが、前作までは彼女の拠点アトランタのヒップホップレーベルAwful Recordsからリリース、また彼女の写真作品の中にミーゴス/オフセットの写真があるから驚きだ。SSWとヒップホップ、ジャンルをひらりと飛び越えていく身軽さもある。(加藤孔紀)

Fontaines D.C. – 「Roy’s Tune」

NMEの2019年の注目新人に選出され、今期待されている新人ロック・バンドの1つが、ダブリン出身の5人組バンド、Fontaines D.C.である。4月12日にデビュー・アルバムリリースを控える彼らの5曲目のアルバム先行曲だ。この曲がこれまでにリリースした曲の中で最も異なるのは、まるで、ギターの弾き語りをしているかのごとく、雄弁に歌を歌いあげている点だ。他の曲はポスト・パンクやガレージ・ロックのような激しさや混沌がある中で異質ともとれる。

しかし、彼らの良さは、この曲のようなメロディアスな曲によく表れるのではないかと思う。クリアーで声量のあるボーカルには、声をつぶして歌うよりは、雄弁に詩や音を紡いでいくのが良い。その姿は、エルヴィス・コステロ、ニック・ロウ、ポール・ウェラーを想起させる。まるでシンガー・ソングライターのようなギター・ロックバンドである彼らの魅力は、イギリスでは一緒にライブをするシェイムとは異なるのだ。(杢谷栄里)

Kindness – 「Cry Everything」

首を長くして待っていた。カインドネスの久々の新曲だ。彼の楽曲にはいつも不思議な空虚さがある。腰から下に落ちるようなビートに下半身は引っ張られ、甘美なコーラスに上半身は舞い上がっていきそうになるけれど、その間を繋ぎ止める”芯”がぽっかりと抜け落ちたような…。今回の新曲もそんな彼らしいアレンジではある。また旧知の仲であるロビンが今回も参加しているが、メロディを担うその歌はコーラスと替わるがわるメロディを紡ぐので、とらえようとすると逃げていくような感覚さえある。

ただ本曲は、どこか静謐さをも湛えていた彼のこれまでの楽曲とは一味違う。キモはハウス風の四つ打ちの上にこれでもかと重ねられたクワイヤだ。ここにはトッド・ラングレンの「Pretending to Care」(1985)をサンプリングして重ねており、その分厚い声の層が導くラストでは高揚感の渦に吸い込まれてしまいそうになる。その音楽性がひとところに留まらないラングレンのキャリアからアカペラ曲を取り上げブルー・アイド・ソウル的な新たな輝きを与えながらも、同時にカインドネス自身のソウル志向をさらに洗練、アップデートすることに成功した1曲といえよう。彼の近い将来の本格的なカムバックに、期待大だ。(井草七海)

MC Magic – 「SEARCH featuring CUCO & LIL ROB」

チカーノのSSWでありラッパーのCUCOがトークボックスの使い手MC Magicとコラボした新曲「Seach」をドロップ。本作はチカーノ・コミュニティの新旧ミュージシャンがコラボしたというだけに留まらない、二人の相性の良さが結実した楽曲だ。確かに49歳のMC Magicと19歳のCUCOでは親子程の年齢差がある。しかし、トークボックスで加工されたMC Magicの声とCUCOのLO-FIなシンセサイザーのサウンドには、チープな揺らぎを特徴とした共通点があり、きわめつけは「世界中探してもあなたのような人は見つからない」というリリック。これらの要素が折り重なり作り出されるこの曲のノスタルジーは世代を超えた2人の相性の良さを物語っている。また2番から客演しているLil Robのラップは、全体的に淡くなっているこの楽曲で輪郭をはっきりさせるという意味で重要な役割を果たしており、三位一体とはこういう曲をいうのだろう。(杉山慧)

Tame Impara – 「Patience」

本年のコーチェラのヘッドライナーを手中に収め、世界的ロック・バンドの地位を名実ともに確立したテーム・インパラから待望の新曲が届いた。夕暮れ時の海岸線に響き渡るような、AOR的でメロウなメロディー・ラインに何よりも引き込まれる。リヴァーヴがかったボーカルや、エレクトロ/ドリーミーなシンセ・フレーズが本曲にサイケデリックな色彩を与えつつ、煌くピアノ・リフと、弾むコンガのビートによってダンス・チューンとしての強度も担保されている。

近年カニエ・ウエスト、シザ、トラヴィス・スコットら現在のポップ・ミュージックの主役たちとの共同制作という経験をケヴィン・パーカーは得た。その彼が新たに生み出したのは、前作『Current』からつながる、ソフィスティケイテッドなロック・サウンドとエレクトロ、サイケデリアの融合から生まれるポップ・ミュージック。ゆらぎないその姿は、ゆえにこれが現代のバンド・サウンドの理想像なのだと示しているようにも思える。(尾野泰幸)

FAZI(法兹乐队) – 「Mountain of Time(时间隧道)」

北京にMaybe Marsというインディ・レーベルがある。その中には、アメリカやヨーロッパツアーをし、2018年にはSXSWにも出演したバンドがいる。西安出身の5人組、FAZIだ。2010年に活動を開始し、2016年にアルバムをリリースしている。もとより、サイケデリック・ギター・ロックバンドであった彼らだが、欧米を回ったこともあってか、リズムによりグルーヴ感が増した。The Vaccinesの「If You Wanna」を思い出させるようなベースリフから始まり、浮遊感漂うシンセに導かれてギターのメロディが入る。クラウト・ロックのようなミニマムなパートもあり、シューゲイザーのようにギターをかき鳴らすパートもあり、さらにはヴァースの間のブレイクも効果的に使うことで、曲の構成にも緩急が付いた。低血圧であるがどこか熱さも感じるボーカルも癖になる。

今年に入ってから、イギリスでは、Toy、Yak、Foals、4月にはFat White Familyと、サイケデリック・ロックバンドのリリースが相次いでいるが、それらへの中国からの回答、と言っても過言ではない。(杢谷栄里)

さとうもか – 「ばかみたい feat.入江陽」

本曲は岡山の若きSSW、さとうもかの送る2作目のフル・アルバム『Merry go round』のハイライトと言ってもいい。「あなたも私も結局はね、自分のために生きていたいだけ」なんて投げやりな歌詞が続くが、ここで歌われているのは「好きで好きで仕方がないのに、傷つかないと信じられない。ならいっそ自分のためと言い切ってしまえ」という愛他主義と利己主義が交錯する恋愛のワンシーンだ。たしかにタイトル通り「ばかみたい」だけど、その瞬間に人の持つ愛すべき矛盾がギュッと詰まっていることを教えてくれるような暖かなムードが楽曲全体を包んでいる。

また前作に引き続きアルバムのプロデュースを務める入江陽がゲスト・ヴォーカルとしても参加。つい他人の恋愛話に熱くなってしまう第三者という本曲での彼の立ち位置も、恋には不可欠な気がしなくもない。この春、少しうつつを抜かしながら聴きたい1曲だ。(高久大輝)

田中ヤコブ – 「LOVE SONG」

これは強力な1曲だ。バッファロー・スプリングフィールドやリトル・フィート、ザ・バンドへの日本からの平成最後(?)のやるせない“ラブ・ソング”…というべきか。昨年、トクマルシューゴのレーベルからファースト・アルバム『お湯の中のナイフ』を発表した田中ヤコブが突如発表した新曲。最近4人組となった「家主」のメンバーとしても活動するヤコブだが、ソロとして届けられたこの全くの新曲はそれともまた違う布陣で録音されている。Layneのベーシストで最近は実妹と一緒に「浮」というバンドもやっているという米山弘恭、昨年初のEP『Slow Living』を発表した「いーはとーゔ」で鍵盤を担当する簗島瞬というヤコブにとっては年下のミュージシャンとの邂逅は、そもそもが全ての演奏を一人でこなした『お湯の中のナイフ』とは全く異なる温度感を引き出すことに成功。アラン・トゥーサンからビル・ペインまでを思い出させる簗島の鍵盤、ボブ・モズレーかリック・ダンコか…とも思える弾力ある米山のベース、そしてニール・ヤング張りにねちこいヤコブのギターとタメ気味にルーズに引きずるドラム……もうこれだけで過去でも今でも未来でもない、でも、過去かもしれないし今かもしれないし未来かもしれない、見えないけど確かにここにはあるというダウン・トゥ・アースな歌世界にトリップできてしまう。そして極めつけがアナログ録音をしたかのようなヤコブのザラついたヴォーカル。それらがメロディの強度の高さをさらにぶっとく押し上げたこの曲に、シレッと「LOVE SONG」というタイトルを与えてしまうヤコブはなんたるロック・ロマンティストなことか! (岡村詩野)


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