BEST TRACKS OF THE MONTH : 26 December 2018

Various Artists

BEST TRACKS OF THE 2nd HALF, 2018

By Daichi Yamamoto / Nami Igusa / Yasuyuki Ono / Daiki Takaku

BEST TRACKS OF THE MONTH : 26 December 2018

Various Artists

BEST TRACKS OF THE 2nd HALF, 2018

By Daichi Yamamoto / Nami Igusa / Yasuyuki Ono / Daiki Takaku

BEST TRACKS OF THE 2nd HALF, 2018

TURNライター陣によるベスト・トラックのピックアップ。
今回は2018年下半期(7月以降)版をお届け!

Adrianne Lenker – 「Symbol」

昨年、傑作『キャパシティー』を届けたビッグ・シーフのボーカル&ギター、エイドリアン・レンカーによるソロ・ワーク。

丹念に爪弾かれるアコースティック・ギターの音色の上を、囁くように、けれども芯の通った歌声がなめらかに滑りゆく。この憂いと、底から湧き上がるような強さを同居させたエモーショナルな歌声で描く「シンボル」とは何か?

多くのインディー・ファンの期待を集めたビッグ・シーフの前作ツアー中、来る孤独、焦燥と不安の中、自らの心を支えた家族や友人を想いながら本曲は作られた。本曲のMVで親子、友人、恋人同士が楽しそうに過ごす遊園地に入り込み、一人きりで舞う彼女の姿にはこの曲が書き上げられた際の感情を見るようだ。そのMVの最後に現れるマークは「家」。それは、本曲のタイトルが示すのが、愛すべき人が集う「家」であると伝える。

今はかの地にいる親しき人を想い、歌を紡ぐ。例えば亡き妻に捧げられたマウント・イアリの新作、前作とも共振するような穏やかで、ひたむきで美しくさえある愛の歌。それは、現在のインディーが行き着く内省的表現の重要なテーマとなっていると思う。(尾野泰幸)

Dave – 「Funky Friday (Feat. Fredo)」

こう言って早過ぎるということはないだろう。ストームジー、Jハスに続くイギリスの新世代スターMCの誕生だ。年初の特集でも取り上げたサウス・ロンドンのラッパー、デイヴのフリードをフィーチャーしたこの曲は初登場で全英1位を獲得した。リリック自体は人気上昇中の彼らの「いま」を誇示するラップ音楽の典型的なもの。だが、これまでもデイヴの曲を多数手がけてきた169によるトラックには、年初に全英2位のヒットを記録しサマソニにも来たラムズの「Barking」のようなダンスホール曲の陽気なムードもなければ、肝心な”コーラス”も無い。その代わり、ひたすら緊迫感あるトーンの二人のラップがリズミカルで、これだけで十分に耳を楽しませる。

ドープなトラックがあれば、あとはラップのヴァースだけで勝負できる。そう、これは3年前のストームジーのフリースタイル曲、「Shut Up」のヒットと地続きなのだ。来年はそのストームジーがグラストンベリーのヘッドライナーを飾るという。UKラップの勢いはまだまだ留まることを知らない。(山本大地)

Julien Baker, Phoebe Bridgers & Lucy Dacus – 「Souvenir」

女性ボーカリストによるインディー・ロックの良作が多かった2018年。昨年から本年にかけてそれぞれがソロで活躍の場を広げた、ジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・デイカス、三人の女性アーティストによるグループ、ボーイジーニアスが届けたEP『ボーイジーニアス』は、まさにそのような本年を象徴する1枚といえよう。

その中でも特筆すべきは三人が順番に歌い上げ、徐々に重なり合った歌声が、最後一つのハーモニーに溶け合う本曲。三人の歌声を包み、澄み渡るアコースティック・ギターの音色に心を奪われる。

ベイカーは、「(悪夢を解消してくれる)ドリームキャッチャーはまだ何も捕まえていない」と歌い、デイカスは「あなたは目の前に見えるものが嫌い?」と私たちに問う。辛いことも、逃げ出したいこともある。そんな日が続いていく。それでも、現実に目を背けずに行こう。穏やかに、そしてしなやかに音の中に凛と佇む三人の姿は、きっとそのような生きづらい時代に生きる私たちの道標にもなる。(尾野泰幸)

Juice WRLD – 「Black & White」

シカゴ出身、若干20歳で先日初の来日を果たしたラッパー、Juice WRLD。彼が今年5月に発表したアルバム『Goodbye & Good Riddance』から10月にMVがドロップされた本曲は、フックを要約すれば「黒いベンツに乗って黒人の友達とコカインをキメて、白いベンツに移って白人の友達とコデインのキメる。俺たちは夜明け前にハイになる」といういわばアンチ・レイシズム・ソング…なのだが、そのメロウでリズミカルなフロウを辿るとその印象は全く別のものになる。

「(ドラッグの使用が)ときどき手術でもしている気分になる」とドラッグの使用を治療と捉え、「ヘイターに囲まれて、テラスには自動小銃」と銃社会で成り上がることの危うさを表現し、きわめつけは「俺は動物園のライオン」と見世物としての自覚を歌う。つまり本曲は彼のような若いラッパーたちの置かれている現状を的確に風刺しているのだ。そう考えると冒頭のフックもリベラル的表現すらエンタメとして消費される現代と重なる。目を背けたくなる社会と対峙する若者たちをシリアスに描いた1曲だ。(高久大輝)

Lennon Stella – 「Bad」

センチメンタルなメロディと繊細な歌声が直ぐに耳を惹きつけた。ナッシュヴィルのカントリー・シーンを舞台にしたドラマで妹とともに子役としてブレイク。19歳のレノン・ステラのソロ・シンガーとしてのデビュー曲は、涙で枕を濡らしてしまいそうな切ないストーリーを歌っている。

優しくされているうちに恋に落ちてしまう。夢のようと思っていたのに、長続きせずに関係が終わってしまう。それなら最初から愛されていなかったと思いたい…。「永遠ってあなたには長い?/彼女にもその言葉言ったの?」その語り口は彼へ宛てた手紙か、いや今時ならインスタグラムのポストかのようなリアルなものだからより心に突き刺さる。カリッド、ノーマニの「LoveLies」やアリアナ・グランデ「God is Woman」にも似たミニマムなR&Bビートは誰かを失った後の空虚な空間を演出する。痛みに打ち勝つ必要はない。部屋に閉じこもってメランコリックになるあなたに寄り添ってくれる一曲だ。(山本大地)

Loco – 「It Takes Time (Feat. Colde)」

ラップを題材にした人気サバイバル番組「SHOW ME THE MONEY」の初代王者で、つまりラップのスキルも認められているロコだが、むしろ彼の武器はメロウなトラックに乗せた物憂げな雰囲気のシンギング・ラップだろう。その歌とラップの境界を感じさせないフロウは韓国版ドレイクと言っても言い過ぎではないが、気怠そうなトーンで恋人との別れを受け入れるのに「時間がかかるなあ」と歌うこの曲は特に象徴的だ。「過ぎ去った夏の夜 心地よい秋風」と黄昏の風景を描写するように、ビートではなくピアノの伴奏とキーボードのメロで導くトラックはひたすら心地良く、フックとなる派手なコーラスの出番さえも作らせない。

金成玟による『K-POP 新感覚のメディア』では、韓国における90年代からのラップ音楽の定着について「差別と貧困ではなく、豊かさと新しさを表す感覚として溶け込んだ」と述べている。この曲は韓国のシングル・チャートで初登場2位を記録した。オーセンティシティと大衆性を巧みに組み合わせるロコは、韓国におけるヒップホップの価値観を象徴する存在だ。(山本大地)

Mitski -「Nobody」

恐るべし、ミツキ。ごまかしの効かない楽曲ほど作曲者の力量が如実に表れるのだろうが、「ノーバディ」はその極みだ。ほとんどの部分がAマイナーのスケール、つまりピアノで言うと白鍵しか使っておらず、コードもオーソドックス。アレンジも最小限だ。それなのにここまでキャッチーで、洗練されているとは。ニュー・アルバム『ビー・ザ・カウボーイ』の中でも、彼女の才覚を最も感じさせる1曲と言えよう。

哀愁のあるメロディーは確かに、影響を受けたという日本の歌謡曲にも通ずるが、マイナー調のディスコ・チューンであるこの曲からまず連想したのは、宇多田ヒカルの「Goodbye Happiness」(2010年)。それを意識したかどうかはわからないが、この曲のミツキは、自らを宇多田のような“ポップ・シンガー兼コンポーザー”として再定義しているようにも感じる。実際彼女はメディアで、自分の楽曲は単なる“脚色のない日記”というわけではないとも述べている。

転調を挟み、高揚感に満たされながらも「Nobody」と繰り返すラストは、自分を肯定できるのは自分だけ、という真理と希望を示すようでもある。そのメッセージこそ、まさにポップスの真骨頂なんじゃないだろうか。(井草七海)

Red Velvet – 「Power Up」

「英米のポップスからK-Popへやってきた」私はもういない。確かに、昨年のトロピカル・ハウスの「Peek-A-Boo」、ブルーノ・マーズ「That’s What I Like」でヒットを飛ばしたプロデューサー・デュオ、ステレオタイプスによる「Bad Boy」といった一連のシングルこそ、Red Velvetを追い続ける理由の一つでもあった。でも、今度はどうだろう。この「バ・バナナ~」という誰の耳にも残るコーラス、中田ヤスタカが使いそうなゲーム音に、ひと息つく暇も与えないBPM160の忙しないトラック。間違いなく究極のバブルガム・ポップだ。そして何より昨年の彼女たちの大ヒット「Red Flavor」よろしく、MVは次々とカラフルに色を変え続け私はそこに溺れてしまいそうになる。そして彼女たちが連れ込む非現実的な世界こそが、Red Velvetの本当の魅力だと気付かせてくれる。私の目の前にあるのは「洗練されたポップス」ではなく「K-Pop」そのものだったのだ。(山本大地)

ROTH BART BARON -「HEX (Chicago Mix)」

ROTH BART BARONが意外な形で帰ってきた。というのも、この「HEX」は、チャンス・ザ・ラッパーの『Acid Rap』(2013年)を手がけるなどシカゴのヒップホップ・シーンに深く関わるエンジニアが、ミックスを施した1曲だからだ。まず耳を引くのは、ドラム。それこそシカゴ出身のKnox Fortuneによる「Lil Thing」(2017年)のようなフレージングが印象的だ。よく聴くと、わざとタメやモタりが強調され、楽曲に独特のゆらぎがもたらされていることがわかるだろう。さらに注目すべきは、三船のヴォーカルの重ね方。ソウルさえ思わせるラストのコーラスも圧巻だが、楽曲前半では左右それぞれに振られた二声に、あえて微妙なズレを残しているようにも聴こえる。

“魔法”という意味の「HEX」。ゆらぎやズレを残したサウンドが物語るのは、人の手によって整然と整えられていないものの不思議な魅力を彼らが信じているということ。ただ、同時に「HEX」とは、人工の構造物に用いられることの多い、“六角形”も意味している。楽曲にザラリと重ねられたデジタル・ノイズは、一方ではテクノロジーや人工物も否定しない彼らのまなざしの象徴だ。どちらか一方を礼賛するのではなく、いずれも抱き込む。彼らの新しい音楽はこれまで以上に抱擁力に溢れ、力強く、そして優しい。(井草七海)

Strange American Dream – 「Rayland Baxter」

ボブ・ディランやライアン・アダムスのバンド・メンバーとして活動したマルチ・ギタリストを父に持つ、ナッシュビル出身のシンガー・ソング・ライターが、ケンタッキー州にあるトウモロコシ畑に囲まれたスタジオに3か月間こもり、書き上げた一曲。

ウェスト・コースト・ロック風の調和したコーラス、キャッチーに跳ね上がるピアノと、飄々としたギター・サウンドが、この曲に第一線級のポップネスを与えている。かすかな哀愁を帯びたメロディーを走らせながら、曲後半でのサイケデリック・アレンジや、スキャット・パートが展開する様には、後期ビートルズの装いも感じる。

「ぼくは目を閉じて気づいたんだ、この奇妙なアメリカン・ドリームの中で生きているということを」。直接的過ぎる歌詞ではあるが、それゆえにこの歌は今の時代をはっきりと見据えた歌でもある。時代の憂いと、ゆるぎなきポップネスを共存させたロック・ミュージックがここに。(尾野泰幸)

Sweet William と 青葉市子 – 「からかひ」

夏の夜風が運んでくるのは、昼間の熱を冷ます涼しさだけではなかったことをこの曲は思い出させてくれる。Sweet Williamの手掛けるトラックは一音一音が豊かに生き生きと鳴り、青葉市子の緩急を抑えた歌声と折り重なり絶妙なハーモニーが紡がれてゆく。その中でも特筆すべきは刻むビートが鳴り止む瞬間だ。その間に美しく響く上音に浸っていれば、再びビートが鳴り始めたときほんの僅かだが体感的なズレが生じ、青葉市子がSweet Williamの幼少期の記憶からインスピレーションを得て描いた歌詞と相まって、まるで天狗に化かされたかのような感覚に誘われる。そしてそれは夏の眠れぬ夜、縁側に出て風を浴びながら感じた小さな恐怖心を呼び覚ます。あの、夏特有の、妖しさともいえる不可思議な感覚を…。

思えばSweet Williamが唾奇との共作『Jasmine』をリリースした際に応えたインタビューで、次に仕事をしたいアーティストとして挙げていたのが本曲にて共演を果たした青葉市子その人だった。そのときのラブコールが届いていたかはわからないが、そんな待望の共演によって生まれた本曲は、様々な所に残された夏の痕跡を知らせる、紛れもないサマーチューンだ。(高久大輝)

ZieZie – 「Fine Girl」

先日のサマソニでのサウス・ロンドンのラッパー、ラムズのステージ。彼の後に出演する日本のロック・バンド群を待っていたであろう10代、20代のオーディエンス達も積極的に体を揺らしていたのがとても印象的で、アフロビーツ・サウンドの「地理的な壁を軽々超えていく魅力」を改めて実感したワンシーンだった。

コンゴ出身、同じくサウス・ロンドンを拠点とするザイザイの「Fine Girl」も、飽和状態も感じていたこのシーンに私を引き戻す一曲だ。アフリカの民族音楽のような鮮やかなウワモノ使いやビートの軽さはムラマサのような洗練されたビート・ミュージックを感じさせるし、コーラスでは「Fine Girl Mamacita」というスペイン語を混ぜたキラー・フレーズで中南米の陽気なムードを匂わせる。彼らがいるのはロンドンでも西アフリカでもジャマイカでも無い。私たちの直ぐ側である。(山本大地)

イ・ラン -「よく聞いていますよ」

彼女はなぜ歌を作り、歌うのか。韓国のみならず、日本でもそのファンを増やしているシンガー・ソングライター=イ・ランがアップした新曲は、自身のエッセイ集の日本語版《悲しくてかっこいい人》(リトルモア, 2018年)のあとがきにも引用されている曲だ。セカンド・アルバム『神様ごっこ』(2016年)のリリース以降、多くの人に“(あなたのことは)よく聞いていますよ”と声をかけられるようになったことへの戸惑いが、チェロとギターだけのシンプルな弾き語りで歌われている。

 映像作家やコミック作家の顔も持ち、自らを“生産業者”とも称する彼女は、そんな風によくも悪くも有名になっても、何かを作ることをやめられないようだ。「質問でしかないこの歌」と歌われているように、彼女の創作の根源は常に“問い続けること”。それは、現状を安易に呑み込まない意思と同時に、決して絶えない好奇心も意味していよう。

 <韓国で生まれ暮らすことにどんな意味があるとお考えですか>と問う楽曲「神様ごっこ」がデモで使用されたりと社会活動家のように見られがちなイ・ランだが、エッセイからは周りの人間に興味津々な人懐っこい素顔も垣間見える。身の回りの出来事や世の中への疑問と好奇心から生まれる彼女の歌。だからこそそれは国境を越え、社会に疑問を抱きながら生き抜かなくてはならないここ日本でも「よく聞かれる」歌となりつつあるのだろう。(井草七海)

舐達麻 – 「LifeStash」

埼玉県の北部、今夏には史上最高となる41.1度を記録した暑過ぎる街・熊谷。本曲はそんなHOT TOWNを中心に活動するヒップホップ・クルー、舐達麻のセカンド・アルバム『GODBREATH BUDDHACESS』からYouTubeに先行公開されたものだ。

7SEEDSによる歌ネタを逆再生させたようなトリップ感のあるサンプリングと自然と首が動くようなバウンシーなビート。そこに乗るGPLANTS、賽a.k.aBADSAIKUSH、DELTA9KIDによるマイクリレーはサグでイリーガル、かつ力みがない。何より初めてヒップホップを聴いたときに感じた路地裏を覗き込んだような、あるいは社会を反対側からみたようなリアルな感覚を鮮烈に思い出させてくれる。前作『NORTHERNBLUE 1.0.4.』がじわじわとストリートで注目を集め、既にかつてのMSCやSCARSの再来との呼び声も高い彼らだが、今後のさらなる飛躍を確信させる1曲だ。(高久大輝)


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