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来日インタヴュー
ヌバイア・ガルシアが語る新曲「Lean In」とロンドンを中心とするジャズ・シーンの現在

21 October 2023 | By tt

ヌバイア・ガルシアがジョー・アーモン・ジョーンズのバンド・メンバーとして来日したのが、デビュー・アルバム『Source』がリリースされるおよそ1年前の2019年のこと。UKはもとより世界各国で徐々に(もちろん2019年以前から)リスナーの裾野を広げていったロンドンを中心とするUKのジャズ・シーンは、ここ数年、アーティストの数、バリエーションともに百花繚乱、さらなる飛躍と成熟の季節を迎えているように思える。ヌバイアがインタヴューで挙げているアーティストの多くが何かしらの繋がりを持っているという、ロンドン出身のベーシスト、ゲイリー・クロスビーが運営する《Tomorrow’s Warriors》(音楽教育に力を入れているNPO)も今のロンドンのジャズを中心とするシーンの活況を支える大きな存在だ。そんな中でエズラ・コレクティヴ『Where I’m Meant to Be』がマーキュリー・プライズの最優秀アルバムを受賞したことは、シーンの現在の勢いを象徴する、2023年の最良の成果の1つではないだろうか。

ヌバイア・ガルシアの最新曲「Lean In」は忙しいメロディとコード展開にUKガラージのリズムをミックスした新境地とも言える1曲である。アフロビートやレゲエ、クンビアまでを取り入れた『Source』や、様々な国のアーティストやプロデューサーを迎えて制作されたリミックス・アルバム『Source ⧺ We Move』からはヌバイアのリスナーとしての雑食性が垣間見ることができるが、そんな彼女の新たな挑戦でもある本曲が、ピンクパンサレスを始めとする新世代のドラムンベース/UKガラージ周辺とどこかリンクしているだろうことも、ジャズやダンス・ミュージックを始めとする様々なジャンルの音楽とアーティストが行き交うロンドン或いは英国の現在を映し出しているようで興味深い。カリブ海の様々な音楽についてより深く学びたいと語り、最近ではアフロビーツやアマピアノをリスナーとして楽しんでいるというヌバイアの、来るべき新作がどのような音楽になるのか、少しばかり気が早いが、今からとても楽しみだ。

10月2日〜4日に《ブルーノート東京》で自身名義での初来日公演を行ったヌバイア・ガルシアに話を訊いた。

(インタヴュー・文/tt トップ写真/Fabiola Bonnot ライヴ写真/古賀 恒雄 協力/高久大輝)

Photo by Tsuneo Koga

Interview with Nubya Garcia

──2020年にリリースされたアルバム『Source』が翌年イギリスのマーキュリー・プライズにノミネートされました。改めて振り返ってみてマーキュリー・プライズ以降で活動の状況や環境に変化はありましたか? また、初来日から4年近くが経ちましたが、その間イギリス国内だけではなく、日本も含めた海外の様々な国でUKジャズがより多くの人に広まったように思うのですが、実際にそのような実感はありますか?

ヌバイア・ガルシア(以下、N): 確実にそれは私も感じています。段々とゆっくりと変化してきて、今本当に素晴らしいことが起こっていると思うんですよね。モダンなジャズにも言えることですが、アメリカでも日本でもヨーロッパでも南米でも色々な音楽が溢れていて、みんなが同じゴールに向かって色々な人を招き入れて、それをシェアしようという動きが広がっていっているように感じています。だからアメリカやUKでのノミネーションに関しても、自分みたいなアーティストであったり、様々なバリエーションのアーティストがノミネートされて、そうやって音楽が広まってきているのは素晴らしいことだと思いますね。

──前回はジョー・アーモン・ジョーンズのバンドの一員としての来日でしたが、彼が所属しているエズラ・コレクティヴが今年のマーキュリー・プライズで最優秀アルバムを受賞しました。その際の《Tomorrow’s Warriors》に対するコメントなどが印象に残っています。直接ご自身のことではありませんが、彼らの受賞に対して何か感じたことはありますか?

N:マーキュリー・プライズの日は、自分のバンドのツアーの真っ最中で、夜寝るときにみんなで「絶対に受賞するよね」って話をしていて。次の日の朝に彼らの受賞のニュースを見て本当に本当にハッピーな気持ちでした。やっぱり歴史を作ったし、一晩で起こったことではあるのですが、それが起こるまでに何年も何年も素晴らしい活動をして、それを変化に繋げていったと思う。なので彼らがマーキュリー・プライズの最優秀アルバムを受賞したことは本当に100%価値があり、彼らが受賞するのに相応しい資格を持ったバンドであることを証明した瞬間だったと思います。

Photo by Tsuneo Koga

──最新曲「Lean In」は’90年代のUKガラージからの影響、大きなインスピレーションを受けて制作された楽曲と伺っています。今回UKガラージを取り入れて表現しようと思ったことについて教えてください。

N:勿論UKガラージは自分の中にずっとある好きな音楽ではあるけれど、今回はUKガラージにインスピレーションを受けた曲を作ろうとあえて意識したわけではないんです。今回のような忙しいメロディやコード展開だったらUKガラージのようなビートがピッタリだから、とりあえずやってみようと思って。この曲に関してはそのまま使うのがしっくりきたんですよね。だからそれを使ってクールな曲を作りたいというよりかは、色々なジャンルの音楽を自分の中で混ぜ合わせてみたり新しく挑戦することが好きなんです。

──新しい挑戦に関して、自分の中で新たな音楽を作るときに自分の中で越えなければならないハードルを設定していたりするのでしょうか?

N:毎回何か目標を設けて制作するというよりかは、曲を作った後にそうなっている事があるという感じなんですよね。自分はストレートなジャズも大好きだし、音楽を混ぜ合わせることも大好きだし、他のタイプの音楽を聴くのも好きだし。だから、作っている時には逆に意識せず、あまり考えないようにしています。もちろん友人や一緒に演奏する人と話し合って音楽制作をすることもあるのだけれど、あまり分析し過ぎずに自然に自分から出てくるものを使って曲作りをすることが多いですね。昨日のショウも、即興で自分たちで自由にやってみて、どういうものが生まれるかを注視していました。そういうプロセスで作業したり、演奏することのほうが多いですね。

──新曲に関する話に戻ります。イギリスには多くのナイトクラブ、ダンスフロアがあると思うのですが、UKガラージであったりダンス・ミュージックの素晴らしさを体験した原体験のようなものはどこにありますか。

N:もちろんイベントにもクラブにも行くし、DJのプレイを観に行ったり聴きにいったりもするんですけど、同時に家でラウドにそういう音楽をかけて楽しむ時もあります。なので自分にとって常にウェルカムな音楽なんですよね。もちろんレストランでディナーを食べている時とかに、そういう音楽を敢えて聴こうとはしないけれど(笑)、本当に生活の一部みたいになっていますね。最近だとアマピアノやアフロビーツとかを聴くのも楽しいし、1ヶ月ひたすら聴き続けることもあります。今日の朝も散歩しながら音楽を聴いていたんですけれど、最初はソウル・ミュージックから始まって、段々歩いて色々と見ているうちに、やっぱり今はジャズが聴きたいなと思って聴いたりとか。なので本当に私の中には色々な音楽が存在していて、常にこれと決めるわけではなく、簡単に色々なものを切り替えて聴くことを楽しんでいます。



──お話を聞く限りは、新曲がUKガラージの影響を受けた曲に結果的になったということだと思うのですが、近年ではピンクパンサレスを筆頭にUKガラージやドラムンベースといったダンス・ミュージックのシーンでは新世代のアーティストが台頭してきています。ダンス・ミュージックに限らずですが、新世代の彼女/彼らに対してシンパシーを抱く部分はありますか。

N:素晴らしい若いアーティストがまた今また沢山出てきていて、おっしゃったようにドラムン・ベースなどのジャンルもまた戻ってきていると思います。常に自分は新しい世代のミュージシャンたちが、そういう音楽をどう更新していくのか、どんな新しいものを作っていくのかに興味があるし、彼らが何を作っているかをあまりジャッジせずに、オープンに耳を傾けて楽しんでいます。新世代のアーティストは、特にロンドンは今もたくさん出てきているし、これからももっと出てくると思います。《Tomorrow’s Warriors》の中にもたくさんの面白いアーティストがいますよ。

(メモにアーティストを書き出しながら)例えば、DoomCannonというアーティストはとてもプロパーなジャズをロンドンでやっていますし、Isobella Burnhamは優れたベース・プレイヤーであると同時にジャズからソウルまで歌いこなせる素晴らしいシンガーでもあります。最近《Brownswood Recordings》(ロンドンを拠点とするインディーズ・レーベル)と契約したOregloは全然音楽性は違うのですが持っているエナジーはエズラ・コレクティヴを思い起こさせるようなアーティストです。あとはこの間GIGを見に行ったのですが、Abengというカリビアン・ミュージックとジャズをミックスした新しいバンドがいます。Jas Kayserは一緒に私と演奏したこともあるのですが、ロンドンの素晴らしいドラマーです。他にも、ずっと書き続けられるくらい素晴らしいアーティストがたくさんいますね(笑)。

N:今挙げたアーティストはメモの1ページに収まっているけれど、音楽性がみんな違うんですよね。そこも面白いところだと思います。バンドにいる人も含めて、本当にみんなが自分が興味があることをそれぞれ追求して誠実に音楽を作り続けていて、力とか勇気とかをお互いに与え合っているように感じています。ラッキーなことに、私たちは今の音楽にも昔の音楽にもアクセスすることができるんですよね。なので、それらを全部混ぜて色々な視点から音楽を楽しんで自分なりの視点や感覚を追求して音楽を作っていくことを皆ができているということ、お互いに支え合ってそれをやっているということが今の状況を作っていると思うし、それを継続することは難しいことではあるのですが、とても素晴らしいと思います。

──今、挙げていただいた皆さんは《Tomorrow’s Warriors》の参加メンバー、参加者なのでしょうか?

N:関わってはいますね。(メモを見ながら)Balimaya Projectという16人が関わっている大きなプロジェクトがあって、メンバーはみんな若いのですが、何人かは《Tomorrow’s Warriors》にも関わっていますね。ジャマイカやキューバの音楽は触れる機会も多くて、そこをレプリゼントしているバンドも多いと思うんですけど、このプロジェクトは、私の母親の出身地であるガイアナだったり、色々なカリビアンの国の音楽をジャズと一緒に楽しむことができてとても面白いです。

N:後は…NOK Cultural Ensembleはサンズ・オブ・ケメットのドラマーが始めた、パーカッションをリーダーにしたアンサンブルで、全くの新しいプロジェクトなのですが、何歳になっても新しいことを始められることを証明していると思うし、とても面白いですね。本当に今紹介したアーティストはほんの一部で、まだまだたくさんいるのですが(笑)。



──ありがとうございます(笑)。ご自身の作品の中では例えばアフロビートやレゲエ、コロンビアのクンビアなど様々なリズムが取り入れられています。今もカリブ海の音楽の話をされていましたが、現在興味がある、惹かれているリズムやビートはありますか?

N:カリビアンの島々の伝統的なリズムに凄く興味があります。カーニバルで聴くような自分が慣れ親しんできたものや、グレナダやトリニダードの音楽。もちろんジャマイカのレゲエやダブもその一部なのですが、カリブの音楽といってもその中には異なるタイプのリズムが様々に存在していると思うんですね。なので、今はまだ興味を持っているくらいだけど、それをもっと追及して理解を深めていきたい、それを研究/勉強したいなという気持ちが高まってきていますね。

──少し前の話になりますが、2021年には『Source』のリミックス・アルバム『Source⧺We Move』がリリースされています。本作にはモーゼス・ボイドやカイディ・タタムといったUKのメンバーに加えて、ペルーのデンゲ・デンゲ・デンゲやアメリカのDJハリソンといった気鋭のミュージシャン、プロデューサーが多く参加しています。参加アーティストはどのように選んで依頼していったのでしょうか?



N:私の友人や尊敬している人だったり、私がファンだったり。選んだ理由や経緯は色々ですね。もちろん友達は頼みやすいけれど(笑)、それ以外の、友達ではない人たちには勇気を出して突破しようと思って頼んでみました。例えばSuricata(メキシコ出身を拠点に活動しているプロデューサー)は同じスタジオにいてDJもするんですねという話になってお願いしたらその場でリミックスを作ってくれました。彼女/彼らがどんなものを作り出してくれるか興味があったし、このレコードでは色々なアーティストの素晴らしい部分を散りばめて音楽の幅を広げたかったんですよね。

──最後の質問です。周りには若い世代からレジェンダリーな方まで多くのアーティストが活動していると思うのですが、キャリアを続けていく中でこの先一度は共演したいアーティストはいますか?

N:これもまた沢山いるから長くなるけど(笑)、1人今回選ぶなら……エリカ・バドゥかな。ファッションも好きだし声もとても素晴らしいし。ストーリーテリングもメロディもリズムもショウの作り方も好きだし。アイコニックで素晴らしいですよね。

<了>

Text By tt


Nubya Garcia (ヌバイア・ガルシア)

『Source (ソース)』

LABEL : Concord Jazz
RELEASE DATE : 2020.08.21
公式サイト
https://www.nubyagarcia.com
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Tower Records / HMV / Amazon

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