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《Now Our Minds Are in LA #5》
「LAミュージックの中にこそ、私たちの居場所がある」という、自覚と決意のシスターフッド

“Women in Music”というのが、すべてを言い表している作品だと思う。良い意味で、ではあるが、ハイムというアーティストのやっていることは、今作に至るまで、なんら大きく変わっていない。ホームである西海岸らしい力強くも煌びやかなメロディやコーラスを、躍動感のあるリズムワークと、三姉妹の陽気なキャラクターを武器に、今の時代にあったエンターテイメントとして提示する……そんな音はデビュー作から今作まで、一貫したテーマとしてブレることがない。ただ、今作ではそうした彼女たちの音楽性の「動機」の部分=“Women in Music”が、彼女たち自身によってより自覚的なものとなったことは間違いなく(だからこその、“Pt. Ⅲ”というタイトルなのだろう)、1曲1曲に確かな自信を感じさせる1枚だ。

バンドとしてはあくまで次女・ダニエルの貢献度の比重が高いという意味で、正直なところ、ハイムはメンバー間のバランスが良いグループではない、と外野からは見立てている。ただ、同時に、プライベートでは姉妹でもある彼女たち。ともに暮らしてきたホームタウンへの愛着こそが、彼女たちを公私にわたってつなぎとめているのだなと、今作で改めて感じさせられる。それというのもやはり、<ニューヨークは寒すぎる / 世界一の都市だけど / 私はすっかり孤独に感じた>などと、ホームタウン・LAへの愛情をカジュアルながらも誇り高く歌い上げる「Los Angels」から今作が幕開けるからであり、その意味でこの曲はやはり今作の象徴と言える1曲だろう。ちなみに、その「Los Angels」は、ダニエルがリリックを書くにあたって、2000年代には「今はニューヨークから生まれている音楽が面白い、LAなんて…」と言われていたことを振り返っていたそう。だが時代は移り変わり、現時点では、その立場は逆転。現在TURNでも連載を展開している《Now Our Minds Are in LA》で紹介しているように、まさに今この街はエキサイティングな音楽がこんこんと湧き出る泉だ(シングル「Summer Girl」でサックスを吹いていた地元の若い音楽家、ヘンリー・ソロモンも今作に再び登場しており、この地の才能のフレッシュさを実感する)。

そして、なかでもこの街が半世紀以上にわたって連綿と受け継いできたポップ・ミュージックの財産を自分たちの強みにかえているアーティストこそが、このハイムであるわけだが、今作での彼女たちはこれまで以上にその点に自覚的だ。だからこそ、今作は、LAが育んできた音楽の豊かな土壌を、彼女たちがひしと抱きしめるようなあたたかさに満ち溢れている。興味深いのが、特に、全編を通じてこれまで以上に明確に、60年代後半から70年代前半のシンガーソングライターやロックバンド、とりわけ、ウエストコーストのそれを意識したソングライティングが織り込まれているところだ。メロディをとってみれば「The Steps」や「I’ve Been Down」などでニール・ヤングや、ジャクソン・ブラウンを想起させるし、「Leaning On You」での姉妹のコーラスはクロスビー・スティルス&ナッシュにたとえても良さそうだ。

もちろん、フリート・ウッドマックからの影響が言及されるなど、それらはこれまでの彼女たちの作品にも見出せた部分ではあるのだが、華やかな“ガールズ・ポップ”風のアレンジの方が前面に出ていたことで、こうした音楽性がやや見えづらかった印象もある。そこに恐れずグッと一歩踏み込んだのが、今作の1番の進化 / 真価だと思うのだ。なにせ、こうしたウエストコースト・ミュージックには、どうしたって「いなたさ」がつきまとう。今作ではそのいなたさを、リズムのプロダクションをもって現代的に洗練させている点が、まずはやはり素晴らしい。ダニエルはドラム、三女・アラナはパーカッション、長女・エステはベース、と全員がリズムパートを担当できるゆえか、どの曲をとってもリズムセクションはバラエティ豊かに、アレンジが施されている。「I Know Alone」のようなデジタル・ビートで完結する曲もあれば(これは彼女たちの中でも異彩を放つ1曲で、筆者のお気に入りだ)、「Up From A Dream」では、プロデューサーのロスタム・バトマングリの存在あってかヴァンパイア・ウィークエンドが頭をかすめるアフロ・ビートを取り入れているのも、耳に面白い。また、一歩間違えると単調になりそうな、アコースティックギターをメインにした「Leaning On You」のような曲では、ロスタムのアイディアでギターパートをチョップドして使うことにしたらしく、サウンドの立体感へのこだわりにも並々ならないものを感じる。

とはいえ繰り返すようだが、ウエストコースト・サウンドには、いなたいイメージがつきまとう。と同時に、男性的なイメージの強い音楽でもある。これは、ギターという楽器、あるいはギターを中心にしたロックバンドがマスキュリニティと不可分な表象として見なされてきたことと大いに関係しているからだろうが、今作においても、「All That Ever Mattered」で聴けるエレキギターには、ハードロック~LAメタル的な、“マッチョ”な印象を受ける(*1)。ただ、だからこそ、あえてそうした表現にぶつかりにいっている点もまた、今作の果敢なところなのである。その点では、「Man from the Magazine」という曲が印象的だ。これはエステが音楽誌の男性ジャーナリストに「実際、本当に自分でベースを弾いてるの?」と質問されたことがあるという経験が元になっているのだという。

確かに、“きらびやかで、セレブリティ風の、陽気なお姉さんたち”というイメージが、その音楽性とややギャップがあるという印象は、筆者にもある。だが、だからと言って「そうした女性なら、クラシックな音楽をバックボーンに持ち、いなたいウエストコースト・サウンドなんてやらないだろう」というのは偏見だろう。ましてや、演奏家 / プロデューサーとしての有能さにはあまり関係がない。というか、もっと言ってしまえば、60年代後半から70年代前半のLAには、ジョニ・ミッチェルやキャロル・キングといった伝説的な女性のソングライターが残した作品もあるわけで、ウエストコースト・サウンドに“男くさい”とレッテルを貼るのが、そもそもの誤りでもあるのだが……。だから今作は、彼女たちがその中心にいた、ローレル・キャニオン的な意思を持った作品だ、と言い換えてもいいのかもしれない。

つまり、ハイムが今作において、LAサウンドにこれまで以上に踏み込んで、わかりやすい形で提示するようになったのは「男くさいと思われてきた音楽の中にだって、自分たち女性の居場所がないはずはない(=Women in Music)」という表明なのではないだろうか。となると、我々は、女性ソングライターの作品が出るたびに、背後にどんなプロデューサーがついているのか、と想像する癖がついてしまっているわけだけれど、それだって、「本当に自分でベースを弾いてるの?」と訊ねてしまうあの男性ジャーナリストの態度と大差ないものだと、(筆者は女性だが)気づかされる。もちろん、アリエル・リヒトシェイドやロスタムの、プロデューサーとしての今作への貢献は素晴らしい。だが、そこに無邪気にフォーカスをしてしまうのは、むしろハイム姉妹のソングライターとしての力を見くびっているということになる。

そんな主張をも内包しながらも、やはりあくまで軽やかに、カラリと陽気に、とっつきやすいポップな音楽を、エンターテイメントとして提示してくれるところが、ハイムの他に代え難い魅力だ。コロナ禍の只中に予定されていたリリースを、リスナーやスタッフのために2ヶ月延期し、その間もいつもと変わらぬポジティブさでSNSを更新(新曲のオンラインダンス講座、なんていうのもあった)していた彼女たちを見て、笑顔を取り戻した人は少なくないだろう。正直、1曲1曲がシングル級なので、後半以降はなんとなくのんべんだらりとしてしまう感も否めない作品ではあるのだが、聴き終えると、彼女たちはやりたいことをやりきったのだな、という快感に包まれる。そんなところも含めて、やはりハイムは現状もっとも正直でチャーミングなアーティストだなと思わされるのであった。(井草七海)

*1 ハードロックやメタルが男性だけのものだという主張ではない。ここではあくまで、これまで一般的にもたれてきたイメージや、貼られてきたレッテルについて言及している。

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Text By Now Our Minds are in LANami Igusa


Haim

Women in Music Pt.Ⅲ

LABEL: Polydor / Universal Music
RELEASE DATE: 2020.06.26

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