FEATURES : 18 June 2019

Jordan Rakei

Jordan Rakei Is London's Louis Cole? Find Out The Attraction From The New Work "Origin" And The Career So Far

By Nami Igusa

FEATURES : 18 June 2019

Jordan Rakei

Jordan Rakei Is London's Louis Cole? Find Out The Attraction From The New Work "Origin" And The Career So Far

By Nami Igusa

《Ninja Tune》のソウル・シンガー / マルチ・プレイヤー、ジョーダン・ラカイはロンドンのルイス・コールか? 〜新作『Origin』とこれまでのキャリアからその魅力を探る

とかくトム・ミッシュやロイル・カーナーの影に隠れがちではあるが、ジョーダン・ラカイはロンドンのジャズ〜ソウルのフィーリングを備えたフレッシュなソング・ライターの”第三の男”と言っても過言ではない。彼ら二人との相互のコラボレーションも多く、親密な関係性の中で互いに切磋琢磨し共に成長してきたのがまさにこのジョーダン・ラカイなのである。ロイル・カーナーはサンファ、ジョルジャ・スミスといったゲストの客演を実現しつつも穏やかで内省的なトーンのラップの表現を深めた今年リリースのセカンド・アルバム『Not Waving, But Drowning』が確かな評価を受けており、トム・ミッシュに至っては朝のワイド番組「スッキリ」への出演を果たすなど日本でも大ブレイク中なのは周知の通り。だが、本稿ではあえてジョーダン・ラカイを彼らとは別の角度から考察することにしよう。トム・ミッシュやロイル・カーナーの影に隠れがちながら、彼らとは実は一味違うジョーダンの魅力を探るためだ。

現在はロンドンを拠点としているジョーダン・ラカイだが、生まれはニュージーランド、出身はオーストラリアはブリスベンである。オーストラリア出身ということもあり、ファースト・アルバム『Cloak』(2016年)まではネオ・ソウル的なアプローチから同郷のハイエイタス・カイヨーテと比較されることが多かった。ただし、ジョーダン・ラカイの独自性を考える上で外せないのが、セカンド・アルバム『Wallflower』(2017年)、そしてリリースされたばかりの2年ぶりのサード・アルバム『Origin』はイギリスのエレクトロニック・ミュージックの名門レーベル《Ninja Tune》からのリリースだということである。《Ninja Tune》と聞いてあなたは誰を思い出すだろう? 創設者二人のユニット=Coldcutや、DJ Food、Mr. Scruff…そんな名前がまずは思い浮かぶかもしれない。もっとも黎明期以降はアーティストの幅を広げ続け、最近ではザ・シネマティック・オーケストラのようなビート・ミュージックの域を超えたアーティストのリリースもある。ただそれを差し置いても、大きなくくりで捉えるならば明らかに“ソウルのシンガー・ソングライター”であるジョーダン・ラカイに《Ninja Tune》から声がかかったというのはやはり少し不思議な感じもしなくはない。

ただ、ジョーダンのこれまでを振り返ってみると、ファースト・アルバム以前にはディスクロージャーの『Caracal』(2015年)やFKJの楽曲への参加で話題になっただけでなく、“ダン・カイ”名義でディープ・ハウス・トラックメイカーとしても1枚シングルを出しており、実はエレクトロニック・ミュージックともクロスするポジションにいる存在でもあるのだ。さらにその事実を考える上でポイントになるのが、彼の作品に度々登場するレゲエの影響だ。ミニアルバム『Franklin’s Room』(2013年)収録の「Selfish」はもろにレゲエ〜ダブ・チューンであるし、『Wallflower』収録の「Clues Blues」にはスカの影響も感じ取れる。ジャマイカ系移民によってイギリスに持ち込まれたレゲエは、ジャングル、ドラムンベース、ダブステップ…と形を変えながらイギリスのエレクトロニック・ミュージックとは切っても切れない関係を築いてきたことは改めて説明するまでもないだろう。そしてなにより、《Ninja Tune》の兄弟レーベルである《Big Dada》にはルーツ・マヌーヴァがいる。

もともとレゲエにも傾倒しており、同時にエレクトロニック・ミュージック由来のプロダクションを得意とする…ジョーダンのそんな側面に注目してみると、彼がロンドンに移住し《Ninja Tune》から作品をリリースするに至った道筋もあながち不自然ではないと感じさせられる。その移籍を象徴するかのように、セカンド・アルバム『Wallflower』ではループするエフェクトが印象的に使われるようになり、さらには、ファーストに比べて明らかにビートの“解像度”が上がった作品となっていた。打ち込みのビートも駆使しながら、歯切れのよいドラムの打音を絡め、細やかなリズムセクションをクリアに響かせることに成功しているのだ。

そう、ビートだ。ジョーダン・ラカイの楽曲はビート・セクションが大きめにミックスされており、パーカッシヴに仕上がっているのが、トム・ミッシュやロイル・カーナーらとは一線を画す部分だろう。つまり、彼の音楽はソウルやジャズのコードづかいや歌、メロディ・ラインの意匠をビート・ミュージックに落とし込んだものだとも言えるのではないだろうか。そして、最新作『Origin』はその側面を深化、洗練させた1枚として位置づけられる。ライブで楽しめるような開放的な楽曲作りを目指したと本人も語る本作は、太く強調されたベースラインが楽曲を貫くようにグルーヴィーに鳴る一方、ドラムのアタック感を際立たせハンドクラップや打ち込みとクロスさせながら曼荼羅のように展開し、それをサウンドの前面に押し出しているのが特徴的だ。特にリード曲でもあった「Rolling into One」は、思わず踊り出したくなるファンク・チューンのかたちをとりながらも、ハンドクラップやシンバルをメインとしたリズム・パートを後半でボンゴやカウベルのような打楽器のサウンドをハウス風のエフェクトをかけたスネア音と絡めたものに変化させていくなど、ビート部分を緻密に組み立てていることに驚かされる。他にも、ドラムの細かな譜割が小気味よい「Mind’s Eye」や、規則的に繰り返されるスネア・サウンドに加えミュートされたギターもリズム・セクションに加勢する「Wildfire」などにも、彼のビートに対するこだわりを感じることができる。

そんな本作を聴いて思い出したのが、フライング・ロータス主宰の米《Brainfeeder》から昨年リリースしたアルバム『Time』も話題となった、ルイス・コールだ。エレクトロニック・ミュージックとファンクやジャズを横断しながらビート・ミュージックとしても聴くことのできるトラックに、甘美なソウル・ヴォーカルを乗せた作品という音楽的な共通点もさることながら、奇しくも《Ninja Tune》は《Brainfeeder》のアメリカ国外の流通を担っているレーベルでもある。思い切って言うならば、ジョーダン・ラカイは“ロンドンのルイス・コール”だ。ただ、“テクノロジーが乗っ取った未来の人類文明でサバイブする人間らしさ”をテーマにしたという本作は、ルイス・コールの作品より開放的で肉体的な印象が強くなってはいるのだが。

ちなみに、前作『Wallflower』にはレーベルメイトであるバンド、The Invisibleのデイヴ・オクムが1曲参加しており、一方でジョーダンはデイヴがプロデュースするソウル・シンガー、ロージー・ローの「Birdsong」のコーラスに参加するなど、少なからずジョーダンはデイヴから影響を受けているようだ。デイヴ・オクムは長らくジェシー・ウェアのプロデュースなども手がけてきた人物だが、最近ではUKソウルのニューカマーとして注目されるニルファー・ヤンヤ、コニー・コンスタンスなどの今年リリースの作品に関わっているのが興味深い。ここにきて存在感を強めているデイヴとともに所属している《Ninja Tune》から、エレクトロニック・ミュージックとソウルを跨ぐジョーダン・ラカイが切り拓いていくものこそ、《Brainfeeder》勢との海を越えた共振をも見せるロンドンのソウル・ミュージックの新たな潮流を作っていくことだろう。(井草七海)

■Jordan Rakei Official Site
https://www.jordanrakei.com/

■ビートインク内アーティスト情報
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10248

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自由奔放、変幻自在。UKソウルの超新星、ニルファー・ヤンヤという現代のギター・ミュージックの解
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Text By Nami Igusa


Jordan Rakei

Origin

RELEASE DATE : 2019/06/14
LABEL : BEAT RECORDS / NINJA TUNE

■amazon商品ページはこちら


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