FEATURES : 26 March 2019

Nilüfer Yanya

"Freedom, Ever-Changing" A Solution To Modern Guitar Music Called Nilüfer Yanya, A Supernova In The UK Soul

By Nami Igusa

FEATURES : 26 March 2019

Nilüfer Yanya

"Freedom, Ever-Changing" A Solution To Modern Guitar Music Called Nilüfer Yanya, A Supernova In The UK Soul

By Nami Igusa

自由奔放、変幻自在。UKソウルの超新星、ニルファー・ヤンヤという現代のギター・ミュージックの解

ニルファー・ヤンヤには、文字通り、“新世代”という冠がふさわしい。もちろん、あらゆるジャンル、あらゆるシーンにおいて、そうした新世代と呼ばれるアーティストは常に出てくるもの。だが、ニルファー・ヤンヤをジャンルという概念で捉えるのは、そもそも難しい。彼女には、はじめからジャンルの壁などない。そして、この度リリースとなったデビュー・アルバム『Miss Universe』で、いよいよその真の姿が明らかとなった。

イギリス・ロンドン在住の23歳のニルファー・ヤンヤ。アーティスト・ネームだと思う人も多いだろうが、本名なのだという。トルコ系の父、バルバドス系の母を持つ彼女は、2016年にファースト・シングルをリリースし、2018年には英《BBC Sound Of 2018》の注目新人にも選ばれ、確実に知名度を高めてきた。そんな彼女に付けられたキャッチ・フレーズは、“UKソウルの新星”。なるほど、確かにこれまでのシングルやEPを聴く限りならば、そうだろう。アンビエンスを効かせた音像に、およそ年齢に似つかわしくないという意味でエイミー・ワインハウスやアデルをも思い浮かべる深みのあるヴォーカル、また米《ピッチフォーク》でベスト・ニュー・トラックを獲得した「Golden Cage」(2017年)のようなレイド・バック感のある楽曲が目立つことからも、その評価には頷ける。あえて喩えるならシャーデーが良いかもしれない。

だが、もう1つ、彼女には見逃せない側面がある。それは、これらの楽曲の骨格はすべてエレキ・ギターの弾き語りであることだ。彼女は、ギターという楽器に強いこだわりと愛着を抱いているアーティストでもあり、実際、自身の影響源として、ザ・ストロークスやザ・リバティーンズといったロック・バンドを挙げてもいるのだ。そして、このデビュー・アルバムの幕開けこそ、まさにそのことを象徴するものになっていると言っていいだろう。これまでの楽曲を知っているリスナーには意外かもしれないが、イントロ・トラックを経てまず耳に飛び込んでくるのは、それこそ2000年代前半のガレージ・ロック・リバイバル期のUKロックを思わせるノイジーなギターをかき鳴らしたロック・サウンドと、奔放に駆け回るヴォーカルを聴かせる「In Your Head」だ。そしてそこから続けざまに、分厚いギターをフィーチャーした楽曲がさらに2曲畳み掛けられる。

ただ、今作でのニルファー・ヤンヤの末恐ろしさというのは、あくまでこうしたインディー・ロック的なスタイルだけに留まることのない、その楽曲バラエティのあまりの自由自在さである。なおかつ、面白いのがそれらの楽曲の並べ方だ。よく聴くと、インタールードによって区切られたパートの中に近しいアレンジの楽曲を集め、かつそれぞれのインタールードが、次に続くパートをイメージさせる内容や曲調となっていることに気づかされる。上述の3曲の後は、ゴスペル風のコーラス(「Experience?」)が華やかでダンサブルでファンキーな楽曲を呼び込み、〈身体が溶けるほど気温が上がるでしょう〉(「Warning」)とのアナウンスが、ブリージングなドリーム・ポップ調の曲へと繋ぐ。さらに、レトロ・ゲーム風の8ビットのSE(「“Sparkle” GOD HELP ME」)に続いてエレクトロ・チューンが流れ、そして最後に、シングルやEPで聴かせてきたようなソウルフルなナンバーへと辿り着く。電話から聞こえてくるような、もしくはラジオのようなインタールードのサウンド(いずれも”WWAY HEALTH ™”という架空のセルフケア・プログラムからのメッセージという設定だ)も相まって、まるでアルバムが1つの番組のようでもあるし、あるいは扉絵のついたオムニバス小説のようにも思えてくる。

全17曲の中で、カメレオンのようにその姿を目まぐるしく変えていく、彼女の変幻自在すぎる楽曲の多様性は一見、アルバムというフォーマットとは相性が悪そうでもある。その課題に尽力したのはおそらく、今作のプロデュースを手掛けた、ジョン・コングルトンだろう。つい先頃までニルファーがツアーの前座を務めていたシャロン・ヴァン・エッテンしかり、インディー・ロックの女性ミュージシャンを洗練されたアーティストへと“エスコート”する手腕に定評のあるジョン・コングルトン。ニルファーに関しては、その魅力である奔放さを120%引き出したうえで、あえて逆手に取ることで、非常にコンセプチュアルな作品にまとめあげることに成功したのではないだろうか。

あたかも既存のカテゴライズなど意識したことがないかのようにごく自然に、ジャンルを横断し、今作ではエレクトロニックな曲で新境地も見せるニルファー・ヤンヤ。しかし、繰り返すようだが、彼女のソング・ライティングの中心にはギターがあるのだ。このギター・ミュージック不況の時代に、である。改めて聴いてみると、シンセや打ち込みのビートをふんだんに使った楽曲も多いが、それぞれの楽曲ごとにギターの音色を細やかに変え、ギター・パートをフィーチャーした部分もしっかりと盛り込んでいる。ギターという楽器はもう落ち目だと囁かれることが多い中、彼女の手にかかるとまるで魔法の筆のように、こんな風にカラフルに、様々な筆致で楽曲を描き出すのか、と嘆息させられるのだ。

そういえば、彼女の弾き語りの楽曲での、ルーム・リバーヴの少しかかったクリーン・トーンのギターは、フランク・オーシャンの「Self Control」にも少し似ている。またギターを生かしたR&B~ソウルという意味ではH.E.R.の「Carried Away」や、同じくロンドンの同世代であるキング・クルールにも共鳴しているようにも思える。そしてニルファー・ヤンヤは、ギター・ミュージックという範疇においては、そうした新世代の筆頭格にさえなり得る器ではないだろうか。彼女は、ソウルからのインディー・ロックへの呼びかけであり、かつインディー・ロックからソウルへの呼びかけである。なぜなら、今作を聴けばわかるように、そのいずれかを出自としてもう片方を取り入れたのではなくて、彼女の中ではそれらは初めから一緒に存在していたはずだからだ。つまりは、ニルファー・ヤンヤという存在と彼女の音楽こそ、このギター・ミュージックの暗黒期に私たちが長らく待ちわびていた、ひとつの解なのである。(井草七海)

■Nilüfer Yanya Official Site
http://www.niluferyanya.com/

■ホステス・エンターテイメント内アーティスト情報
http://hostess.co.jp/artists/niluferyanya/

Text By Nami Igusa


Nilüfer Yanya

Miss Universe

LABEL : ATO Records/ Hostess Entertainment
■amazon商品ページはこちら


MORE FEATURES

  • FEATURES : 18 June 2019

    Jordan Rakei

    《Ninja Tune》のソウル・シンガー / マルチ・プレイヤー、ジョーダン・ラカイはロンドンのルイス・コールか? 〜新作『Origin』とこれまでのキャリアからその魅力を探る

    By Nami Igusa

    とかくトム・ミッシュやロイル・カーナーの影に隠れがちではあるが、ジョーダン・ラカイはロンドンのジャズ〜ソウルのフィーリングを備えたフレッシュなソング・ライターの”第三の男”と言

  • MAP OF THE K-POP : 18 June 2019

    Yerin Baek

    ノスタルジーの先に生まれた、ミステリアスで未来的なR&B。
    上半期のK-POP最重要作を紐解く!

    By Daichi Yamamoto

    ナマ音を強調したオーガニックなR&Bサウンド。その心地よいグルーヴは日本のシティ・ポップにも近くてどこか懐かしいのに、例えるならフランク・オーシャン『blonde』を聴いた時のような「今まで

  • FEATURES : 10 June 2019

    春野

    ポップスは夜に濡れている
    春野の作品にみる「夜の描かれ方」の考察

    By Kei Sugiyama

    【春野とは?】 まずはここから話を進めよう。 春野(haruno)とは、ボカロPとして話題となり、現在はLo-Fiヒップ・ホップを通過したインスト楽曲や、70年代や80年代のポップスの要素を取り込んだ

  • FEATURES : 07 June 2019

    Bon Iver

    ボン・イヴェールはどこを目指すのか?
    新曲2曲にみるコミュニティ・ミュージックという理想主義

    By Tsuyoshi Kizu / Shino Okamura

    今月頭にボン・イヴェールの新曲が2曲発表された。「Hey, Ma」と「U(Man Like)」。現地時間6月2日にロンドンのヴィクトリア・パークで開催された《All Points East Londo

  • BRINGING THE PAST TO THE FUTURE : 06 June 2019

    Azimuth

    神話時代のブラジリアン・フュージョン、そして〈プログレッシブ〉

    By Yuji Shibasaki

    ブラジリアン・フュージョン界の絶対王者であり、旧くはNHK-FM『クロスオーバーイレブン』のテーマ曲「Fly over the horizon」(79年作)で、90年代以降はUKを発信源としたレア・グ

  • BEST TRACKS OF THE MONTH : 06 June 2019

    Various Artists

    BEST TRACKS OF THE MONTH – May, 2019

    By Dreamy Deka / Kei Sugiyama / Nami Igusa / Koki Kato / Sinpei Kido / Eri Mokutani

    black midi - 「Talking Heads」 9月に来日も決まっているロンドン出身の注目の4人組バンド、ブラック・ミディ。この曲は6月にリリースされるデビュー・アルバムからの先行シングルだ

  • INTERVIEWS : 05 June 2019

    玉名ラーメン

    忘れてしまうことと思い出すことの境目で
    18歳女子・玉名ラーメン、登場!

    By Shino Okamura

    2001年6月東京生まれの今年18歳。現役女子高生。ラッパー。トラックメイカー。詩人。それが玉名ラーメン。とにかくそれが玉名ラーメン。呟くように、囁くように、独り言のように……いや、独り言などではない

  • FEATURES : 30 May 2019

    Sufjan Stevens

    スフィアン・スティーヴンスが《Pride Month》を前に新曲を突如発表!
    マントラのように繰り返される愛と苦悩の行方

    By Shino Okamura

    来月(6月)の《Pride Month》を前にスフィアン・スティーヴンスから突如新曲「Love Yourself / With My Whole Heart」が届いた(6/28日に7インチ・シングルで