Back

ベッドルームのピーター・パンから、大人のアーティストへ
ソングライターとして急激な成長を遂げた、“ガス・ダパートン”というアイコン。その弱さと痛み

21 September 2020 | By Nami Igusa

ブレンダン・ライス、またの名を、ガス・ダパートン。このステージネームについて、「自分自身を再創造するレーベル」と前作のインタビューでは語ってくれているように、本当の自分自身を表現するために生み出したアイコンが、彼にとって“ガス・ダパートン”という存在だ。そのアイコンは「永遠の子ども」のようなとびきりのおおらかさと自由さを、まだ20代前半の彼にもたらしていたに違いない。個性的なヘアスタイルに、90年代ライクなラグジュアリーかつスポーティーな独特のファッションをまといステージに立つ彼。DIYなベッドルーム・ポップを携え、それこそ「永遠の子ども」ピーター・パンのように、ベッドルームから世界へと飛び出し、フェスやツアーで飛び回ってきたそのガス・ダパートンではあるが、デビュー作から1年、今回リリースしたセカンドアルバム『Orca』は、子どもから大人へ、そして、ソングライターとして、大きな成長を遂げた1枚である。

ツアーや世界各地のフェスへの出演で20代の前半を特に忙しくしていたガスは、自身のことを「大人への成長過程っていう、人生においての大きな変化の時期を逃してしまった」と振り返る。華やかな見た目に反し、ツアー中は寝不足で、酒を飲んだり、ドラッグにハマり、健康的な生活をしていなかったのだそう。タイトルの“Orca”とはシャチのことだが、彼自身が「外見に囚われて、内面を無視される人間のメタファー」と説明しているように、これはガス本人のことだろう。今作では、愛や別れ、痛みや赦しまでもをリリックに落とし込み、さながらエリオット・スミスのように、繊細に、そして激情的に絶唱するガス。得意ではなかったヴォーカルで、あえてありのままの自分をさらけ出す今作には、そんな弱さをも “アーティスト=ガス・ダパートン”として表現していく決意が込められているように思えてくる。

その一方で、前作のリリース以降、旧知の友人や実の妹がサポートするバンドと数々のライブをこなしてきたことで、サウンドの躍動感とパワフルさ、ソングライティングのストレートなシンプルさを、一足跳びに増している今作。特に、Weezerのブルー・アルバム(1994年)を思わせる「Grim」などには、90年代のエモ / スクリーモ〜エモ・パンクが頭をかすめるが、なかでも胸をうつのが2曲目の「First Aid」だ。今現在のガス・ダパートンが、過去の自分自身に対し、実の妹(バンドのキーボード / コーラスでもある)が、癒しと導きを与えるという展開のこの曲は、今作の核と言えるだろう。

自分の弱さが見えると、それを支えてくれる人たちの存在に気づくことができる──大人になるということは、そういうことだ、と今作のガス・ダパートンからは気づかされる。そんな風に、一人の大人のソングライターとして地に足をつけ、自分と向き合うことを決めた、胸にまっすぐに突き刺さる、エモーショナルなアルバム『Orca』の制作と、そこに込めた想いついて、ガス本人に語ってもらった。

(インタビュー・文 / 井草七海、通訳 / 滑石蒼)

Interview with Gus Dapperton

──昨年末には日本でも初めてのライブを行うなど、前作のリリースの前後から、ツアーやフェス出演などで国内外を飛び回っていましたね。そうした経験はあなたにどんな変化をもたらしましたか? また、今作『Orca』の制作の過程や内容にも、影響を与えているのでしょうか?

Gus Dapperton(以下、G):僕もバンドメイトも、この年齢で色々な国をツアーで廻れるっていうのは恵まれていると思ってるんだ。皆が皆できることではないから。でもそれと同時に、去年まで2年間ぐらいツアーをやっていて(21歳~22歳の時期)、その間に一所に留まっていなかったことで、大人への成長過程っていう、人生においての大きな変化の時期を逃してしまったような気もしている。それが今回のアルバムにも反映されているんだ。いい経験にはなるけれど、ホームを離れてツアーに出ることで、自分の学びや成長の機会を逃してしまう不安も抱いているっていう、自分のアンバランスさを表してるんだ。

──ライブでは、前作のベッドルーム・ポップ的な作風と比較すると、想像以上にアグレッシブでエネルギッシュなパフォーマンスをされますよね。サポートメンバーの他の3人とも息の合った演奏で、メンバー皆で“ガス・ダパートン”という1つのバンドを作っているようにも感じます。彼らとの演奏を重ねることは、バンド感の色濃い今作の作風にも影響しているのでしょうか?

G:いや、自分のライブのスタイルがレコーディングに影響するとは全く思っていないんだ。でも逆に、チルなサウンドが録音されて作品になるとしても、ライブはロック・バンドのようにやりたいっていう思いはあって。

バンドメンバーとはすごく相性がよくて、ステージでも自然に演奏ができる。それに楽しいしね。そのおかげで、ライブだともっとエネルギッシュな演奏ができているんだと思う。パフォーマンスが自分のサウンドの変化に関係しているわけではないけど、音楽を始めたころから、サウンドや楽器に関してはなんでも試して、自由に曲作りをしてきたよ。

──前作『Where Polly People Go To Read』には、リヴァーブのかかったシンセサウンドやアーバンソウル風のソングライティングに、どこか80年代のポップスを感じさせるような印象を受けたのですが、今作はより生の楽器のサウンドが前に出た、躍動感のあるバンドサウンドになっています。アコースティック・ギターの割合が増えて、クリーンなピアノのパートも目立ちますよね。こうした、楽曲に用いるサウンドに変化が起こった背景を教えてください。

G:ツアー中にたくさん曲を作るようになって、その場合はアコースティックギター1本を使ってやるのが一番楽だから、そういうサウンドになったんだ。スタジオにこもれなくなって、マシンを使いながら曲作りをすることができなくなったことで、サウンドとかコード進行自体を今までよりパワフルに聞かせられるようにしたんだよ。特にライブだと、それがいい具合に表われるなと思う。

──そんな今作は、ミックスをスパイク・ステントが手がけていますね。今までは、ミックスからマスタリング、プロデュースまでを全て自分で手がけていたと思いますが、今回、自分以外のスタッフに制作の過程、特にサウンドに関する部分を任せてみるという経験は、あなたにどんな効果をもたらしましたか?

G:うん、これまではずっと、ミックスもマスタリングも全部自分でやってきてた。それが必須だと思ってたんだ。学生時代は、自分の作品に誰かの手がかかるのがいやだったんだ。どう仕上がるか分からないものにコストをかけるのも、どうなのかな?っていう考えだったから。

でも今回は、僕ではない別の人にそれをやってもらえることが楽しみだった。これまでは自分で全部やっていたけど、いずれは、僕の声を僕よりもうまくミックスできる人に出会えると思っていたから。だから、スパイクとの出会いでひとつの夢が叶ったよ。彼とはすぐに意気投合できたし、彼に携わってもらえるなんてかなりエキサイティングだった。すべてが完璧にスムーズに進んで、本当にいい経験になったんだ。

──今作には、サウンド面のみならず、ソングライティングにも大きな進化が見られますね。特にメロディはこれまでよりシンプルだけれど、とてもストレートでエモーショナルなものになっていて、とても心動かされました。自身でも、自分のメロディ・ライティングへの取り組み方にこれまでとの違いを感じますか?

G:そうだね、メロディも曲の構造も前作よりシンプルになったと思う。それは、これまでとは違う自分の感情を考えてみたかったから。愛とか、恋愛関係とか、別れとか、そういうことだけじゃなく、本当の心の痛みだったり、心の奥底に見つけたもっと深い感情を表現したかった。そういう感情を感じて、それについて考えたものを曲作りに導いていくと、結果的にシンプルなものになったんだ。

──ヴォーカルも、前作に比べて生々しく前面に出てきていて、シャウトする部分も多くなったりとよりストレートな表現になっていますよね。妹さんのアマデルとの美しいハーモニーも印象的です。以前のインタビューでは「本来、自分がどうしても歌いたいわけではなかった」ともおっしゃっていましたが、今作でのヴォーカルに対する向き合い方の変化はどういったところから来ているのでしょう?

G:うん、僕はそもそも、自分を「ヴォーカリスト」だと思っていないんだ。生まれつき歌がうまく歌えたわけではなくて、たくさん練習してそうなったし、それでもまだまだだからね。その上で今回やりたかったのは、これまでよりももっと自分自身の弱みとか、分かりやすい部分とかを見せることだったんだ。そういう部分は隠すこともできるけど、今回は自分のヴォーカルの粗さもそのまま聞かせて、曲の中でも他のサウンドよりもヴォーカルをメインにしたかった。

バックヴォーカルには妹のアマデルと友人たちにやってもらったけど、そのきれいなハーモニーのおかげで、僕のヴォーカルが曲の中で迷子にならずにすんだよ。それにバックヴォーカルに関しては、リアルな家族と友だちでもある彼らの声を入れることによって、自分にとって曲がよりパーソナルに感じられるようになったんだ。だから彼らの声はできるだけ活かしたかった。

──今作のリリックは、あなたの過去の別れや愛、執着、あるいは罪と償い、赦し……といった感情がテーマになっていますね。例えば、「Post Humorous」では臨死体験をテーマにしていますし。前作同様パーソナルな題材ではありますが、前作以上に、自分の内面に迫ったような内容になっています。今作でそうしたリリックを書く必要があると考えたのはどうしてでしょうか?

G:エモーショナルで、内面の深いところを表現する歌詞はこれまで書いたことがなかったからね。例えば恋に落ちる曲を書くんだったら、単純にアップビートな曲にする方が合っていると思ってた。でも色々なミュージシャンと演奏を重ねているうちに、自分が無意識的に、深い痛みとか悲しみの感情を表現するのを避けてきていたことに気づいた。だから、そこに今回は挑戦したんだ。

──今までお話してきたような、今作のエモーショナルでセンチメンタルなリリックやメロディ、躍動感のあるDIYなバンドサウンドには、90年代から2000年代のSunny Day Real EstateやWeezerのようなエモ~エモ・ポップのような印象を抱いたのですが、あなた自身、こうした年代の音楽やジャンルから影響を受けたと思いますか?

G:影響はあると思う。具体的にそういう音楽を参考にしてきたとかそういうことではないけど、そのあたりの時代のロック・ミュージックはすごくシンプルで、使われているのはギター、ベース、ヴォーカル、ストリングス、ピアノぐらいで奇をてらったものはなかった。そういうシンプルさが、自然と自分の意識の中にあるとは思うよ。

──今作のタイトルの『Orca』というのは、“シャチ”という意味ですよね。ここにはどんな意味が込められているのでしょうか?

G:これは、檻に閉じ込められているシャチを表しているんだ。外見に囚われて、内面を無視される人間のメタファーとしてね。身体が健康そうに見えるから、メンタルも大丈夫だろうと決めつけられたりする。そこから、(水族館の)檻に閉じ込められて人間の意図のもとに生きているシャチとかイルカを連想したんだ。生きる環境としては、自然界の方が過酷ではあるけどね。

僕たちは、もっと自分の感覚とか感情に敏感になるべきだと思うし、周りの人の心の健康状態ももっと気にかけるべきだと思う。このアルバム自体もそういう懸念だったり、やるせなさについて歌っているから、アルバム・タイトルと繋がっているんだ。

──以前のインテビューでは“ガス・ダパートン”という存在のことを、“自分を再創造するためのレーベル”と語ってくれていますよね。でも、2曲目の「First Aid」はまるで、ガス・ダパートンとしてのあなたが、過去のあなたであるブレンダン・ライス(注:ガスの本名)に対して癒しと導きを与えるようなリリックで、とても印象的でした。そうした音楽を始める前の自分について歌っている「First Aid」の生まれた背景について、教えてください。

G:「First Aid」は、一人称と三人称両方で、遠くから見た自分が若さと過去に囚われて、本当の自分を見せたり隠したりしていることを歌っている曲なんだ。一方方向な自分自身に憤慨しているんだよ。1人の自分が、過去に囚われてそこから抜け出せない自分自身のもどかしさについて語っているんだけど、最後の妹が参加している部分で、彼女がそんな僕を解放してくれるっていう流れになっているんだ。

──収録曲「Post Humorous」のリリックビデオはステイ・ホーム中に制作されたものでしょうか。あなたの住んでいる地域は、コロナ禍にあって特にとても大変な状況だったのではないかと想像しています。このビデオは、世界中の友人があなたの曲に合わせて踊っているという様子をつなげたシンプルな映像ではありますが、あなたがこんなにも多くの人々に愛されているんだなということがわかって、心が温まりました。このビデオもあなたがディレクションをしていますが、どんな気持ちでこれを作り上げたのでしょうか?

G:そうなんだ。色々な友だちに声をかけて、全部で30人ぐらいは参加していると思う。iPhoneで、リップシンクしながらダンスしている動画を撮って送ってもらった。ロックダウン中に新しい人との繋がり方について考えていて、リアルな友だちに参加してもらって手作り感のあるビデオを作るのも楽しいかなと思って。説明的で、映画みたいな感じの手の込んだ作りのミュージックビデオも好きだし、自分でもそういうものを作るけどね。

──ちなみに、そのビデオにも出演している、あなたとコラボした楽曲がTikTokで話題になったニュージーランドのアーティストのBENEEや、今作で共演しているオーストラリアのChelaとはどんなきっかけで知り合ったのでしょう?

G:実は、BENEEにはまだリアルで会ったことがないんだ。FaceTimeで話しているだけ。共通の友だちが何人かいて、そこから繋がった。お互いの音楽が好きでコラボもしたけど、実際にはまだ会ってない。Chelaは、共通の友だちの集まりで何回か顔を合わせていて、だんだん仲良くなったんだ。最初の出会いは覚えてないけど、オンラインでチャットするようになって、そのあと僕がイベントでDJをやった時に持ってたDJセットを一緒にいじって、曲を作ったりもした。オーストラリアのツアーにも一緒に来たんだ。

──YouTubeに上がっている「Post Humorous」のホームライブの映像には新たにギタリストが加わっていますね。彼女とはどういう関係なのでしょう?

G:新しいギタリストを探していて見つけたんだよね。僕は自分の曲は全部自分でプロデュースをしているけど、4ピースバンドで僕がギターヴォーカルだと、妹がキーボードとシンセで、あとはベーシストとドラマーだけだから、もっと色々なことをやりたくなるとちょっと足りないんだ。それに、僕のパートを任せられる人を見つけて安心したかった。その人にリードギターを任せて、僕はリズムとかコードだけ弾けばいいっていう状態にしたかった。

それで、色々な友だちにギタリストを探しているっていうことを伝えて、その中で紹介してもらったのがサラ(・ラブリオーラ)だった。住んでいる場所も近くて、すぐにメンバーと一緒に会って即決したっていう感じだね。運命的な感じで。彼女が加わってから曲に新しいアレンジを加えたりして楽しいし、彼女のパフォーマンスもすごくいいよね。

──前作をリリースされた時の、他の媒体のインタビューで「音楽は世界の共通言語だから、言葉の通じない人たちにも届けたい」ということをお話しされていましたね。また、自分で手がけているMVや、個性的なファッションであったりと、“ガス・ダパートン”という存在を様々な角度から表現したいという欲求をあなたからは感じ取れるのですが、そうした気持ちは前作までと比べて、今作においても変化はありませんか?

G:変わってないよ。例えばヴォーカリストが外国語で歌っていて、言葉の意味が全然分からない曲なんてたくさんあるけど、音節とかをくみ取って、なんとなく発音して歌えたりする。それって、みんなやることだと思う。

それに、ピアノとかギターとか、楽器って言葉がないのに感覚として通じるし、ピアノで愛のバラードを弾けば、それが愛についての曲だって分かる。ホラー映画のスコアでは、誰にでも怖い感覚が伝わる。僕自身、海外でライブをするときには自分の発音をわかりやすくするように気をつけたりするんだけど、メロディーとかコードに対するオーディエンスの反応は万国共通なんだ。僕の歌詞の意味は伝わっていないかもしれないけどね。でもそういう外国の地でライブをして、みんなが一緒に僕の音楽に身を委ねてくれているのを目の当たりにすると、最高だな、音楽をやっていてよかったって、心から思うんだ。

──今作の制作を通じて、あなたにとって、ガス・ダパートンという存在の持つ意味に、何か変化はありましたか?

G:音楽を作る理由というのはアーティストによってそれぞれ違うと思うけど、僕がガス・ダパートンとして音楽を作る理由は、自分の感情を感じて、それを健康的な形で解放するためなんだ。感情を、曲という肉体的なものとして形にするのはすごく満足感のある行為だから。それに、そういうものを人に聴いてもらうことによって、誰かに「自分と同じ気持ちを抱いている人がいるんだ」って安心してもらえて、その人のためにもなるかもしれない。社会のための音楽になるかもしれない。音楽はみんなのためのものだと思っているし、僕もみんなのための音楽を作りたいんだ。それができたら、アーティストとしていい仕事ができたと思えるからね。

【関連記事】
■Interview
「ガス・ダパートンは僕自身であり再創造するためのレーベル」ニューヨークの新たなポップ・アイコンがついにアルバム・デビュー!
http://turntokyo.com/features/interviews-gus-dapperton/



Text By Nami Igusa


“orca”

Gus Dapperton

Orca

LABEL : Gus Dapperton / Beat Records
RELEASE DATE : 2020.09.18


購入はこちら
Tower Records / HMV / Amazon / iTunes

1 2 3 23