FEATURES : 12 July 2019

New Order

From Joy Division To New Order, From New Order To Joy Division

By Tomoko Takahashi

FEATURES : 12 July 2019

New Order

From Joy Division To New Order, From New Order To Joy Division

By Tomoko Takahashi

Joy DivisionからNew Orderへ、New OrderからJoy Divisionへ 

『∑(No,12k,Lg,17Mif)』。暗号のようなこの文字列は7月12日に発売されるNew Order(以下NO)のライヴ・アルバムのタイトルだ。察しのよい読者なら、この文字列が何を言わんとするのかすぐ気づくだろうが、それぞれの要素を分解してみよう。Noはニュー・オーダー(New Order)、12kは12人のシンセサイザーによるアンサンブル、Lgはこのステージの演出と舞台美術を務めたアーティスト、リアム・ギリック(Liam Gillick)、17Mifは《2017マンチェスター・インターナショナル・フェスティヴァル Manchester International Festival(以下MIF)》の略号だとわかる。総和を意味するΣでこれらを括ってタイトルが完成する。会場のオールド・グラナダ・スタジオはマンチェスターに拠点を置き、主に英国北部を放送網とする《グラナダ TV(現ITV Granada)》のスタジオ。1978年9月20日、NOの前身、ジョイ・ディヴィジョン(以下JD)は『Granada Reports』でテレビ初出演を果たす。この番組のパーソナリティはファクトリー・レコード共同創設者のひとりで、その後のマンチェスターの音楽シーンの鍵となる重要人物、トニー・ウィルソン(Tony Wilson/ Anthony Howard Wilson(1950-2007))だ。この時JDは「Shadowplay」を演奏している。JDは1979年7月に再び《グラナダ TV》の番組『What’s On』に出演した。

Granada Reports 09/20/1978

What’s On 07/19 or 20/1979

NOのライブを見逃してしまったものの、筆者は2017年夏にマンチェスターへ赴き、《MIF》の一環としてマンチェスター・アート・ギャラリーで開催された展示『True Faith』を観ることができた。この展覧会はデザイン、映像、絵画といったJDとNOにまつわる視覚的な側面に焦点を当てており、この2つのバンドに触発されたアーティストたちによるインスタレーション作品、ポスター、レコードとCDのカヴァー・デザイン、ラフ・シモンズによるトレンチコートなどが展示されていた。NOのアルバム『Power, Corruption & Lies(権力の美学)』(1983年)のジャケットのモティーフとなったフランスの画家、アンリ・ファンタン=ラトゥール(Henri Jean Théodore Fantin-Latour(1836年-1904年))の『薔薇の花籠 A Basket of Roses』(1980年)の前では足を止めている人も多かった。

たとえばキャラクターとファッションをその時々で作り上げたデヴィッド・ボウイは自身のヴィジュアルも重視したミュージシャンだったが、JDとNOはメンバーがファッション・アイコンになるほどおしゃれというわけではなく、むしろメンバーの存在から離れたアルバム・ジャケットのデザインでバンドの強烈なイメージを確立してきた。JDの『Unknown Pleasures』(1979年)はレコードとその収録曲よりも、あの波形によるジャケットのデザインの方がよく知られていて、今では最も汎用性の高いTシャツのデザインのひとつだろう。その立役者はJD時代からレコード・ジャケットのデザインを手がけていたデザイナーのピーター・サヴィル(Peter Saville)だ。この展示は、いかにして彼がもはや記号ともいえる域にまでバンドの視覚的なイメージを作り上げたのか、その過程を概観する内容でもあった。

True Faith展会期中のマンチェスター・シティ・ギャラリー(撮影:高橋智子)

アンリ・ファンタン=ラトゥール Henri Jean Théodore Fantin-Latour「薔薇の花籠 A Basket of Roses」(撮影:高橋智子)

会場に展示されていたNew Order『権力の美学』LP(撮影:高橋智子)

《MIF》でのセットリストはJD時代も含めたNOの約40年に及ぶキャリアを総括しつつも、そこにはJDの「Love Will Tear Us Apart」「She’s Lost Control」、NOの「Ceremony」「Blue Monday」「Regret」といった、おなじみの楽曲は見当たらない。シングルカットされなかったアルバム収録曲、シングルのB面曲がセットリストの多数を占める。このライブはマンチェスター出身の作曲家、ジョー・ダデル(Joe Duddle)の編曲によるシンセサイザー12台のパートとNOとの共演で行われた。ダデルの指揮のもとでシンセサイザーを演奏するのはロイヤル・ノーザン音楽大学の学生12人。

ダデルとNOとの初共演は2014年に発表されたトニー・ウィルソンの追悼曲「St. Anthony: An Ode to Anthony H Wilson」にさかのぼる。この曲で彼はNOの「Your Silent Face」を弦楽に編曲した。もちろんダデルは本業のシリアスな音楽も書いている。彼のオリジナル楽曲は下記リンクを参照されたい。2014年から現在まで彼はNOのメランコリックな旋律の魅力をさらにひき出す編曲でNOのサウンド作りに貢献している。今回のライブでもストリングス系の音色を多用したシンセサイザーがバンドのサウンドを豊かにすると同時に、バンドの演奏に安定感をもたらしている。安定感。それは愛すべき不安定な演奏でファンから親しまれてきたNOにとっては画期的な要素だ。NOのオリジナル版と、ダデルの手が加わってより重層的な響きとなった《MIF》での演奏を聴き比べてみると、このライブ盤をより楽しめるだろう。

Mike Garry & Joe Duddle/ St. Anthony: An Ode to Anthony H Wilson

Joe Duddell/ Shadowplay: Concerto for percussion and orchestra, 2003

NOのライブのセットリストにはJD時代の数曲が必ず入っているが、今回37年ぶりに「Disorder」がNOによって演奏されたことは大きな話題となった(『∑(No,12k,Lg,17Mif)』のDisc1の4曲目に収録)。37年ぶりに、しかもNOとして初めて披露された「Disorder」は1979年6月15日、ファクトリーから発売されたJDのファースト・アルバム『Unknown Pleasures』を輝かしく幕開ける1曲である(2曲目「Day of the Lords」から最後の「I Remember Nothing」にかけて、彼らの楽曲は徐々に深い闇に分け入っていくが)。約30秒におよぶ(『Unknown Pleasures』での)「Disorder」冒頭では、“ヒューマン・ドラムマシーン”の名にふさわしく几帳面に刻まれるスティーヴン・モリスのドラム、ベースにしては高音域で奔放に駆け回るピーター・フック(以下フッキー)のベース、ヴォーカルを兼任するNOとは違い、演奏に専念できることから自信さえ感じさせるバーナード・サムナー(以下バーニー)のギターが次々と現れる。その背後で聴こえるのはマッド・サイエンティストに喩えられたプロデューサー、マーティン・ハネットによる効果音だ。荒削りなバンドの演奏と、英国の電子音楽家デリア・ダービシャー(Delia Derbyshire(1937年-2001年))を参照したハネットの実験性がイントロの30秒間で一体となり、この時点でJDのサウンドが既に完成してしまっている。そこに満を持して登場するのが、その率直さで聴き手を瞬時に捉えるイアン・カーティスのヴォーカルだ。これで役者が揃った。その後JDはマンチェスターを代表するバンドの1つとなるが、2作目のアルバム『Closer』発売を控えた1980年5月18日のイアンの死によってあまりにも唐突な終焉を迎える。同時に『Unknown Pleasures』唯一のメジャー(長調)の楽曲「Disorder」も2017年6月末まで演奏されることはなかった。

photo by Nick Wilson

このタイミングでNOが「Disorder」をNOとして演奏した具体的な動機や理由については推測することしかできない。キーボードでダンス音楽としてのNOに貢献しているジリアン・ギルバートの一時活動休止、フッキーの脱退とロイヤリティをめぐる裁判など、時に音楽活動以外の困難に直面しながらNOはバンドとして持ちこたえてきた。その時の逡巡はバーニーの自伝『ニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョン、そしてぼく』(萩原麻理訳/ele-king books/2015年)に詳述されている。一方で、ジリアンの復帰、ベースのトム・チャップマンとギターのフィル・カニンガムの加入、ダニエル・ミラー主宰の《Mute》レーベルとの契約など明るいニュースもあり、NOはその長いキャリアの中で絶えず前進しているともいえる。近年では、ある種の伝説として語り継がれている1985年の初来日時のような不安定な演奏の面影が薄れ、長年のファンにとっては若干の寂しさもあるが、NOは円熟とはほど遠く(それは今も手元を見てギターを慎重に弾きながら歌うバーニーの姿に象徴される)、常に新しいことに挑戦する態度を崩さない。

演奏が最も不安定だった頃のNew Order Age of Consent/ BBCラジオ、1984年

Subculture/ 新宿厚生年金会館ホール、1985年

実に消極的な理由でNOのフロントマンになってしまったバーニーが2017年、37年ぶりにJDの「Disorder」を自分で歌った。この一報に接して筆者は「ついにその時がきたか」と感慨深かったが、もしかしたらそれほど深い意味はなく、単にシンセサイザー12台用に編曲しやすいなどの技術的な理由だったのかもしれない。《MIF》でのセットリストはNOのキャリアをシンセサイザー12台との共演によって発展的な方法で振り返ると同時に、NOにとってのJDをバンドのメンバーのみならず、ファンにもこの2つのバンドの関係について何かしら考えさせるきっかけを与えている。

長いキャリアにもかかわらず、NOは決して円熟しないバンドだ(これは褒めている)。2015年の『Music Complete』から約4年。そろそろNOの新作を期待するのは気が早いだろうか。(文:高橋智子 トップ写真:Nick Wilson)

■New Order Official Site
http://www.neworder.com/

■Traffic内 アーティスト情報
http://trafficjpn.com/news/nomif/

関連記事
【INTERVIEW】
マンチェスターで開催中の展示《True Faith》のキュレーターが語るジョイ・ディヴィジョン~ニュー・オーダーとアートの相対関係
http://turntokyo.com/features/interviews-matthew-higgs/

Text By Tomoko Takahashi


New Order

∑(No,12k,Lg,17Mif) New Order + Liam Gillick: So it goes..

LABEL : MUTE / Traffic
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