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2019年最大の謎!?なぜリル・パンプは入学してもいないハーバードをドロップアウトしたのか

22 March 2019 | By Daiki Takaku

「…Gucci Gang Gucci Gang Gucci Gang Gucci Gang Gucci Gang Gucci Gang」

2000年生まれ、フロリダで育ったリル・パンプことガジー・ガルシアは16歳という若さでSoundCloudから流星の如く現れ、2年ほどの驚くべき短期間でミリオネアへと成り上がった。キャリアの大きな一歩「Gucci Gang」のわずか2分程度に詰め込まれた、このほとんど意味のない言葉の連呼。いやはや、バカバカしくて仕方ない。加えてSNSに仲間と暴れる様子を投稿したり何かと物議を醸す彼の印象は基本的に良くない。ただなぜか聴いてしまう。どうして?そんなモヤモヤを抱えながら過ごしているとき、1本の動画が話題を呼んだ。それはアメリカの高校生、ガブリエル・クレイグが“リル・パンプがいかにしてラップ・ゲームを救ったか(How Lil Pump saved the Rap Game)”についてスピーチする様子を収めたもの。ここにはパンプの存在を読み解くヒントがいくつか散らばっている。少し引用してみよう。“彼の曲は様々なバックグラウンドを持つ人々に届いた。「Gucci Gang」のようなアイコニックで、繰り返しが特徴的なリリックは多くの人に受け入れられた” つまり彼の曲にあるバカバカしいほど意味のない言葉の連呼には、言葉でありながら言語の壁を超える、キャッチーさと、矛盾を恐れずにあえて言うなら無意味さがあった、ということかもしれない。また、この動画の中に嘲笑にも似た笑い声が収められていることも覚えておいて欲しい。

「見て、ボキャブラリーが増えているわ!」

これは2月22日にリリースされた『Harvard Dropout』から先行シングル「Butterfly Doors」のMVのYouTubeコメント欄で最も多く高評価のついたコメント。「Gucci Gang」をはじめとする彼の楽曲のバカバカしさに誰もが気づいていたことがわかる簡単な皮肉である。先の動画に収められた笑い声もそうだが、彼のブレイクの影には常に冷笑が横たわっている。いや、冷笑に支えられていると言ってもいい。宝石まみれの両腕と首、見るたびに色の違うドレッド・ヘア、チープなサウンド、表面的で中身の無いリリック、SNSの投稿まで…無知で傲慢だと思わせる材料がそこには掻き集められ(「Butterfly Doors」はリリックにアジア人差別用語が含まれておりパンプはSNSでレイシズムに対する軽々しい認識が滲む言葉で謝罪したのみで動画自体も削除されておらず、これも彼の無知さの露呈した出来事のひとつだ)、それらはストリーミングという音楽再生環境において猛威を振るうことになる。話題性やコントロバーシャルな発言や行動、そして無知であることに対する批判や罵声、冷笑でさえ再生回数に直結。現状の音楽ビジネスにおいて非常に効果的に収益を生み出しているのだ。リル・パンプ本人が先日「最も無知でリッチなラッパー」を目指していると語ったが、チャート・アクションを見れば、彼は既に目標を達成しているだろうし、音楽業界で話題となったリル・パンプ計画なるものの存在も納得がいく。

リル・パンプの掴んだ“無知の勝利”は我々に何をもたらしたのか。高校生、クレイグの言葉をまた少し引用しよう。“リル・パンプがいなければラップゲームはアメリカ政府のように、数人の億万長者によって所有され支配されていた。ラップゲームが普通の人々によってコントロールされているのはリル・パンプのおかげだ” ラップゲームがアメリカ政府どうこうはさておき、資本主義社会の生んだ大きすぎる貧富の差は若者たちに明確な環境の差を与えている。それと呼応する教育の格差は彼らの将来の明暗を分け、ディスプレイに溢れかえる情報は決して明るくない未来のことを教えてくれるだろう。リル・パンプも幼い頃に両親が離婚。理想的な環境とはいえなかったはず。だが彼の掴んだ勝利は、クレイグの言うようにラップゲームの偏った力関係にバランスをもたらしただけでなく、世に蔓延る、金=知識=力という抗い難い構図を覆してみせた。『Harvard Dropout』という最新作のタイトルはカニエ・ウエスト『The College Dropout』のオマージュであるとともに、知の象徴=ハーバード(権利問題を避けるためかタイトルのスペルはe→aに変えてある)を入学してもいないのにドロップアウトするという、構図を逆転させる彼の存在感を的確に言い当てている。

リル・パンプの音楽は不適切な表現を多分に含み、下品で、刹那的で快楽的、内容はとことん薄い。ちなみに『Harvard Dropout』は ≪Pitchfork≫で3.8点(かなり低い)をつけた。だが相変わらず世界的に若者の死因の上位には自殺があり、かつ若者の貧困が深刻な今、これをひとつの希望と呼ぶのは乱暴だろうか。たしかにリル・パンプは見習うべき存在ではない。ただ少なくとも私は、彼を無知で価値のないラッパーだと簡単に切り捨てることはできない。むしろ知識や努力を強いる世の中にちょっとだけ疲れてしまったとき、口ずさみたくなるのだ。「Yes, I’m hella ignorant, I don’t give a fuck(ああ、俺は死ぬほど無知なんだ、でもどうだっていいよ) 」(「Be LIke Me」)こんな風にうそぶいてみる瞬間が、あったっていいじゃないか。(高久大輝)

■Lil Pump ツアー情報
https://unhappy.com/pages/tour-2

■ワーナーミュージック・ジャパンHP内アーティスト情報
https://wmg.jp/lil-pump/

Text By Daiki Takaku

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