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Flamagra、それはフライング・ロータスが歴史を把捉しながら描く新たな音楽の設計図

21 May 2019 | By Tetsuya Sakamoto

これまでフライング・ロータスことスティーヴン・エリソンは、ビート・ミュージック、エレクトロニック・ミュージック、ジャズ、ヒップホップ、ファンクを自由に撹拌し、自在に往来しながら、エクレクティックでフレッシュなサウンドを我々に提示し続けてきた。そんな彼の発言で印象的に残っているものがある。

「俺は自分の音楽の中で、そして自分の人生を通じて、別に”ジャズという物語”だけを語っているわけじゃないっていうことに気付いた。それで、自分として”ジャズだけに狭めることはできない”と考えたし、音楽的にも自分にはもっと言いたいことがあったんだよ。だから、そこからもっとコンセプトや音楽の幅が広がったし、ジャズという母体になったアイデアから、更に発展していくことになったんだ」

これは筆者が2014年の『You’re Dead!』リリース時、『MUSIC MAGAZINE』誌で電話インタヴューを行った際に投げかけた、このアルバムはジャズ作品にしようという構想があったのかという問いに対しての彼の答えだ。この答えからは大袈裟にいわずとも、彼が単に音楽の伝統を受け継ぐだけでも、それを無作為に壊そうとしているだけでもないことが理解できる。つまり、彼は音楽の伝統や歴史を尊重/把捉しながら新たな音楽的語彙を蓄えていき、それとは異なる視座を持った、音楽の新たな見取り図を描こうとしているのだ。

そして、その音楽の新たな見取り図とは何も彼の音楽に限ったことではない。彼の主宰する、昨年10周年を迎えたレーベル《ブレインフィーダー》のこれまでのリリースをみてもそれは明らかであろう。初期の《ブレインフィーダー》、あるいは当時のLAのビート・ミュージックを象徴するといってもいいティーブスやマシューデイヴィッド、デイデラスなどLA出身のアーティストの新作をコツコツとリリースする一方で、オランダ出身でテクノとダブステップを融合させたプロデューサーのマーティンや、イリノイ州出身のビートメイカーのローンなどもリリースしている。さらには、ピアニストのオースティン・ペラルタやベーシストのサンダーキャット、サックス奏者のカマシ・ワシントンなど、ビート・ミュージックの枠に収まらないアーティストの作品をリリースしながらも、ジューク/フットワークのプロデューサーのDJペイパルやUK出身のイグルーゴーストやロス・フロム・フレンズなど新世代のアーティストを紹介するのも忘れてはいない。やや駆け足だが、このように彼は《ブレインフィーダー》というレーベルを通しても、出身やジャンル、あるいはシーンに囚われることなく、多様かつ新たな音楽の価値観を提示しているのだ。

そんなフライング・ロータスがおよそ5年ぶりの新作『Flamagra』をリリースする。今作にはソランジュやアンダーソン・パーク、ティエラ・ワック、トロ・イ・モアから、ジョージ・クリントンやハービー・ハンコック、さらにはデヴィッド・リンチまで、今まで以上に古今東西、多種多様なゲストが参加している。それゆえ、前作の『You’re Dead!』同様に様々なサウンドが渾然一体になりながら襲いかかってくるかと思いきや、驚くほどにアルバム全体にまとまりがある。もちろん、アンダーソン・パークの地に足の着いたしなやかでソウルフルなラップをフィーチャーした「More」や、フライング・ロータス流の新たなニュー・エイジ感覚の提唱ともいえる「All Spies」やそれに続くほぼベースとパーカッションのみのトラックでティエラ・ワックがポエトリー風のラップを展開する「Yellow Belly」、甘美なピアノと重心の低いゆったりとしたR&Bのビートの上でソランジュがささやくようなヴォーカルを披露する「Land Of Honey」など、ほとんどの曲でジャンルやスタイルは異なるし、今までと同じくアルバムの大半を1分台や2分台の曲が占めており、サウンドの玉石混淆具合は今まで以上かもしれない。だが、曲、あるいは素材を強引に詰め込んだ感じはまったくなく、アルバム全体が1トラックのような、繋がりのあるシームレスな音楽として聴かせてくれる。それは、一見矛盾し合っているような曲と曲、素材と素材が干渉し合いながら見事に繋がっていく様ーー例えば、昨年の《ソニックマニア》での様々なビートや素材が余剰を削ぎ落としながら混ざり合っていた3Dライヴにおける緊張感ーーがいかに魅力的で醍醐味があるかを伝えているようでもある。

ここで筆者が想起したのは昨年リリースされた《ブレインフィーダー》の2枚組のコンピレーション・アルバム『Brainfeeder X』における、ジャンルもスタイルも違うアーティストの曲が、《ブレインフィーダー》という強烈なレーベルの色を出しながらもまったく取っ散らかることなく、自然な繋がりを持ったまま展開されていく様だ。『Flamagra』の製作にはおよそ5年ほど費やされたというが、このシームレスなコンピレーションを編纂したことが、『Flamagra』を完成させる上で少なからずヒントになったように思える。

そんなニュー・アルバムを聴いて思うのが、牽強付会を承知でいうが、彼の音楽は過去と未来が同じ場所に居合わせているような音楽、つまり、今だけに繋ぎとめられるような音楽ではないということ。この音楽の沃野が広がっている今、彼の音楽の思考の中では、現存する音楽とは異なるランドスケープ、あるいは未知の新しさを作ろうという意思だけでなく、タイムレスという言葉も宿っているように思えて仕方がないのだ。(文:坂本哲哉 写真:Renata Raksha)

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Text By Tetsuya Sakamoto


Flying Lotus

Flamagra

RELEASE DATE: 2019.05.22
LABEL: Warp
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