FEATURES : 21 March 2018

Black Panther

Footmarks Emerging In Repeated History

By Daiki Takaku

FEATURES : 21 March 2018

Black Panther

Footmarks Emerging In Repeated History

By Daiki Takaku

『Black Panther: The Album』〜繰り返される歴史に浮かび上がる足跡〜

3月1日、映画『ブラックパンサー』の公開日。渋谷にある映画館の夜9時半スタートの回は満席の劇場のほぼ半数を外国人(そのほとんどが黒人)が占めていた。上映中、彼らは素晴らしいシーンに躊躇なく歓声を上げ、拍手を送り、隣人と抱き合う。彼らとの感性の違いに少し戸惑いながら、その開けた光景に興奮を隠せなかった。その輪に飛び込みたいとまで思うほどに。これまで抱いたことのないそんな感情にどこか違和感を覚えていた。これはその違和感についての考察と発見(編集部注:トップ写真はロンドンAce Hotel London Shoreditch前で2月に撮影した公開時のビルボード)。

まず気がついたことがある。それは黒人の黒人による黒人のためのムーヴメント、ブラックスプロイテーションが起こった70年代前半と2018年現在のアメリカの社会背景に類似点が散見されることだ。私はその当時を知らない世代(20代前半)ではあるが、70年代前半といえば、カーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイらがニュー・ソウルブームを牽引しブラック・ミュージックがシーンを席巻、またブロンクスではヒップホップが産声を上げた時代。そして一方で、マルコムXやキング牧師らが銃弾に倒れ公民権運動が指導者を失ったショックを引きずった時代でもあることは広く知られている。対して現在、ヒップホップ・R&Bはアメリカで最も支持される音楽ジャンルになり、初の黒人大統領バラク・オバマの後を引き継いだのは差別的な発言を厭わない白人大統領ドナルド・トランプだ。また5年程前、黒人少年が自称自警団の男に射殺された事件を発端に始まったBlack Lives Matter運動は警察側にも死者が出るなど過激さを増すばかりで、警察が黒人を殺害する事件は未だ起こり続けている。このような状況から現在もアメリカが混迷の只中にあることがわかるだろう。ここに、黒人にとっての音楽的盛り上がりと政治的希望の喪失が同居する時代という共通項が浮かんでくる。そのような状況で生まれたのが70年代前半であればブラックスプロイテーションの中心と言われる『黒いジャガー(シャフト)』であり、現在においてはこの『ブラックパンサー』なのではないだろうか。

ここで注目したいのが、『黒いジャガー(シャフト)』のサウンドトラックはアイザック・ヘイズが、『ブラックパンサー』にインフルエンスされたアルバム『Black  Panther:The Album』はケンドリック・ラマーがプロデュースを手掛けていることだ。アイザックが活動の中心にしていた場所は南北戦争以前に綿花産業を支える奴隷売買の大きな市場であり、それゆえに60年代には公民権運動が盛んな地でもあったテネシー州メンフィス。ピアノやサックスをはじめとする様々な楽器を独学で習得し、スタジオ・ミュージシャンとして音楽の道を歩み始め、1971年『黒いジャガー(シャフト)』の音楽を手掛けてグラミー賞(映画・テレビサウンドトラック部門)やゴールデングローブ賞(作曲賞)という白人が多数の投票権を持つ賞を受賞している。(後になって気がついたのだが、ジェイZが彼の楽曲をサンプリングソースとして用いていた。私は無意識のうちに彼と出会っていたのだ!)対してケンドリックはアメリカで最も犯罪率の高い都市の一つであり、伝説的ヒップホップグループN.W.Aを生んだ街、コンプトンで育った。友人たちが犯罪に手を染める中、彼はラッパーとしてその場所で見たリアルを音楽に変える道を選んだ。そして2015年に発表したアルバム『To Pimp A Butterfly』ではグラミー賞史上、ラッパーとしては過去最多の11部門にノミネートされ5部門を受賞、私の個人的な2017年ベストディスクでもある最新作『DAMN.』では7部門にノミネートし4部門を受賞と、現行の音楽シーンにおいて最も影響力を持つアーティストの一人となった。二人に共通することは、歴史的に重要な意味を持つ場所で孤独に表現を磨くストイシズム、加えてそれを自己満足でなく広く大衆に向けて描く才覚だ。

つまり、歴史的なタームの類似性がケンドリック・ラマーという稀代の才能の存在と重なることで『ブラックパンサー』及び『Black  Panther:The Album』はブラックスプロイテーション・リヴァイバルともいえる大作、ということになる。しかしこの気づきの中で最も重要なことは、ブラックスプロイテーションとの類似性を明らかにすることによって見えてくる相違点にあると思っている。その相違点とは『ブラックパンサー』及び『Black  Panther:The Album』が葛藤を中心に描かれていることに他ならない。『黒いジャガー(シャフト)』及びサウンドトラックは映画というエンタメそのものが白人によって独占されていたその時代(現在でもホワイトウォッシング問題は残ってはいるが)、登場人物、そして主人公のヒーロー(「黒いジャガー(シャフト)」では探偵)を黒人が演じること、音楽も黒人にルーツのあるものを用いることによる、黒人が共感し楽しむことのできるもの、黒人であることを肯定的に捉えることのできるものとしての存在意義が大きかった。黒人のアイデンティティが軽視されていた当時、その存在が強く求められていたことは理解できる。しかし反面、黒人とはこういうものだというイメージを固定化する意味合いも持ってしまったのだろう(それは後にこのムーヴメントの衰退にも繋がるワケだが)。

対して、『ブラックパンサー』は葛藤が中心にある。劇中で主人公ティ・チャラが国王として秘密を守り自国の平和を維持する責任と1人の人間として秘密を公にし他国へ手を差し伸べたいという正義感との葛藤はもちろん、ティ・チャラに猛烈な憎しみを抱くキルモンガーとその憎しみの根源にある悲しい過去とのコントラスト、そしてワカンダで、いや、世界中の国々で生きる人々にまで感情移入し、その葛藤を描いている。通底しているのは、黒人はこういうもの、白人はこういうもの、という一元的な見方ではなく、人それぞれが違った価値観を持ちながら生き、それを知ろうと、理解しようとすることで理想の社会を目指すというメッセージだ。『Black  Panther:The Album』でも映画の世界観と連動するように、どこかアフリカの大地を連想させるような壮大なメロディと、現在の音楽の最前線、トラップを思わせる極限までサスティンを抑えたハットの刻みによってファンタジーと現実を繋げ、人種を問わず誰もが楽しめるカタチで提示されている。全米アルバムチャート初登場1位というセールスはこのような表現が世の中に受け入れられ、求められていることの証明だ。

ケンドリック・ラマーは今年、グラミー賞の受賞スピーチでアーティストの成功についてこう話した。「自分を表現することで、次の世代、その次の世代に向けて世界を進化させるためのキャンパスに絵を描いていくことなんだ。わかるよね?」アイザックからケンドリックにバトンが繋がれたように、過去から現在へ、現在から未来へと素晴らしい表現は受け継がれ、アップデートされてゆく。『Black  Panther:The Album』は人類が繰り返す歴史の中で、分かり合うために歩んだ道のりを克明に映し、私たちは確かに進んできたのだと、顔を上げて現実と向き合い続ける勇気を与えてくれる。同時に、あの日覚えた違和感の正体を暴く。私が今まで持っていた「黒人は差別されている」という画一的な「人種差別」の定義自体がステレオタイプだったということを。私は黒人に、もっといえば差別を受ける全ての人々に対して、憐れみや同情といった類のフィルターを通して少なからず接していた。あるいは対岸の火事として捉えていた部分があった。もちろんそれは無自覚だったのだけど、それは差別を支持する人々の対極にいるように見えて枠にはめ込み判断している点で同等にコンサバティブなのではないだろうか。意識して日常を生きれば、「あの人は○○人だから…」なんて枕詞が溢れていることに気がつく。言う人も聞く人も差別を意識しているつもりはないことにも。私が、いや、私たちが向き合うべきものは、深層心理の中で生き続ける無自覚の人種差別であり、ひとりひとりが当事者だ。この作品は私たちが理想に向かう道中のどこにいるかまで示し、手を取って共に歩んでくれる。あの日覚えた違和感は、描かれる葛藤によってそれまで持っていた価値観が更新された証だったのだ。

因みにアイザックはその後俳優としてデビューした。ケンドリックも今作についてのインタビューの中で『ブラックパンサー』の次回作に悪役として出演したいと語っている。映画やドラマといったエンターテイメントの世界へ進むことは、彼の音楽に触れる間口が広がることを意味するだろう。まるでキャンパスそのものを広げるようなその歩みに、胸を高鳴らせるだけでなく、より多くの人がその中で表現される葛藤に影響を受け、世界中がお互いを当事者として認め、手を取り合うことに近づくのではないだろうか。あの日はできなかったけれど、ケンドリックがスクリーンに現れるときには、隣人と抱き合い、ハイタッチしてその素晴らしさとお互いの存在を喜び合うんだ。(文/高久大輝 撮影/笹村祐介)

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Text By Daiki Takaku


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