Back

ロンドン、ニューレイヴの新世代? ファット・ドッグinterview
「J-POPだって、“ポップなプログレ”だなと感じる」

06 January 2025 | By Shoya Takahashi

こんばんは。UKのインディー・ロックには日々複雑な思いを抱きつつも、新たなバンド音楽に出会い続けられるという点でやはり英国の土壌は驚くべきと感じざるを得ない。「特に2018年から2021年初頭にかけては本当に刺激的な時期だった」と感じている方もおそらく多いかと思うが、わたし自身も何度か飽きがくる瞬間があり、その度に自分の音楽的なテイストを見失いそうになった(わたしのテイストは70年代末から80年代前半のニュー・ウェイヴ〜ポストパンク/ニュー・ポップに強く影響を受けている)。それも踏まえて、いわゆる「ゼロ年代を経由した80年代リバイバル」が限界を迎え始めたタイミングと、そのムーヴメントにあるていど依拠していたUKインディーが自家中毒的な臨界点に達しつつあった時期が重なるのは、ある意味必然のことだったと言えるかもしれない。

この状況と相似形を描くことのできるムーヴメントとして、ゼロ年代のニューレイヴを挙げることができるだろう。ニューレイヴは、次の4つのフェーズに分けられると考えている。
  1. Proto-New Rave(1999〜2005年ごろ):CSS、ソウルワックスなど
  2. New Rave(2006〜2008年ごろ):クラクソンズ、レイト・オブ・ザ・ピアなど
  3. Post-New Rave(2009〜2013年ごろ):ヤー・ヤー・ヤーズ、トゥー・ドア・シネマ・クラブなど
  4. New Rave Revival(2023年以降?):The Dare、ファット・ドッグなど
現在はまさにThe Dareのアルバム『What’s Wrong With New York?』を一つの起爆剤とした、ニューレイヴリバイバルの真っ只中にいる。さらにポーター・ロビンソンやFrost Childrenといった元EDMやハイパーポップ勢の最近の楽曲にも、この要素を聴き取れるかもしれない。振り返れば、フランク・オーシャンやトラヴィス・スコットが2018年ごろに録音にボーイズ・ノイズやジャスティスといったニューエレクトロ勢を起用していた時期から、すでにその兆しは見えていたと言ってもいい。

ファット・ドッグは、ニューレイヴのギラついて猥雑なスピリッツを引き継いだ最新型のバンドだ。ヴォーカリストであるジョー・ラヴには、残念ながらニューレイヴに関する質問を時間の都合で訊くことができなかった(不覚!)。とはいえ彼らがニューレイヴの影響を受けているかどうかにかかわらず、インディー・ロックが多人数/多楽器構成/文脈化/アート化を進めてきた反動として、アーティストがニューレイヴ的な原始的/幻視的なエネルギーを求めるのは、必然的なことのように思える。

ジョーディー・グリープとの関係? 日本の音楽はプログレっぽい? ジョーがこの日の朝食をとった牛丼チェーンは? など興味深い話が飛び出した。ぜひ、楽しみながらお読みください。最後に、取材を代行いただき貴重な対話を盛り上げてくださったライターの油納将志さんに、心より感謝の意を表します。
(質問作成・文/髙橋翔哉 協力/油納将志 写真/Pooneh Ghana)

Interview with Fat Dog (Joe Love)

──東京とロンドンで、違うと感じたところはありますか?

Joe Love(以下、J):東京は外食や飲みに行くのにそれほどお金をかけなくてすむし、凍えるような寒さの中でタバコを吸う必要もない。だから東京とロンドンでは全然違うけど、それぞれの良さがあると思うよ。日本のオーディエンスが楽しみだなあ、どんな感じなんだろう?

──ファット・ドッグの音楽が好きな人たちばかりだから、きっと盛り上がると思います。

J:それは良かった。日本にくる前に香港で演奏したんだけど、観客がすごく暴れていて驚いたよ。自分の音楽を知ってくれている人たちの前で演奏するのは、特に地球の反対側でやるとなんだかシュールな気分になる。すごいよね。

──私も今日観るのを楽しみにしています。

J:いいね。ツアーでは短いセットをやることもあるけど、今夜は長めにやるつもりで、1時間10分くらいになると思う。まあ、途中でサボらなければの話ね(笑)

──80年代の音楽についてお聞きしたいのですが、ファット・ドッグの音楽には、コイルやデペッシュ・モードのようなダークウェイヴ、あるいはDAFやキャバレー・ヴォルテールといったEBMの要素が感じられます。80年代の音楽やシーンで影響を受けた部分があれば教えてください。

J:コイルは素晴らしいね、僕の昔のキーボーディストもコイルに夢中だったよ。でもそうだな、みんなからは「ナイン・インチ・ネイルズみたいだ」って言われるけど、僕には80年代の警察に追われる音楽のように聴こえる。DAFのファーストは本当に最高だけど、80年代の多くのプロダクションはやりすぎ感があったように感じるね。僕はもっと生々しくてドライな音が好きなんだ。じつは僕も母親も80年代の音楽が大好きで、僕が音楽を始めたころいつも家で母親が流していたんだ。「All the Same」は、90年代のクラブ・ミュージックのようにしたかった。なんというか、タイムスリップして自分の父親を踊らせるような曲なんだよ。

──ロシアや東欧のダンス・ミュージック、特にリトル・ビッグ(Little Big)のようなアーティストがTikTokなどでミーム的に人気を博していましたが、「All the Same」もそのような中毒性を感じさせます。ロシアや東欧の音楽に対する愛着や視点についてお聞きしたいです。

J:東欧か。じつは「All the Same」は一番アメリカっぽいというか、『GTA』のゲームとかラジオ局みたいなイメージだね。でも、僕は東欧のダンス・ミュージックとか、Excess Projectって人たちとか、そういうハイテンションな音楽が好きで。リトル・ビッグはひどくてあまり聴けない。でもファット・ドッグの作品の多くも、本当にひどいか、本当にいいかのどちらかだと思う。ちょっと安っぽくても、多くの人が踊りたがるようなものがいいんだ。

僕はガールフレンドがポーランド人になったから、こういう絶対的にゴミみたいな曲をたくさん見せられるようになったんだけど、ハイテンポのエレクトロニック・ミュージックにヴァルカン的なエッジを効かせたような曲で、すごくいい。彼女たちポーランド人はヴァルカン音楽に夢中なんだ。だから、僕の音楽から東欧の要素が聴こえるのはいいことだと思う。多くの人にアラビアっぽいと言われるけど、僕はアラビアや中東の音楽を聴いたことがないんだ。ぜんぶ東欧、ポーランドやロシアの要素なんだ。

──次の質問はまさに中東に関連した内容ですが、ファット・ドッグの楽曲に頻繁に使われるハーモニック・マイナー・スケールは……、

J:そうそう、アルバム全部で使われているよ(笑)

──ハーモニック・マイナー・スケールは西アジアの民族音楽を彷彿とさせます。意識的にそのような音階を使用しているのでしょうか?

J:ハーモニック・マイナーにエレクトロニックな側面が加わると、「Vigilante」のように、全体のサウンドがダークな感じになるんだよね。「I am the King」や「Clowns」のようなチルな曲では、ハーモニック・マイナーを使いたくなかった。このサウンドを使うアイデアが何由来なのかわからないけど、みんなには『シリアス・サム4』というゲームのサウンドトラックが全体的にハーモニック・マイナーだったからって話したな……。

──「King of the Slugs」や「Running」に代表される、大仰な楽曲展開が印象的ですが、そのような大仰さのルーツは何でしょうか? オペラ、プログレ、民族音楽など、なにか特定の影響がありますか?

J:ブリクストンでは一時期、みんながプログレに夢中になっていて。当時はプログレがクールで好きだったけど、いまとなってはあまり興味がない。曲を退屈させないためにいろいろな変化をつけているとはいえ、エレクトロニックであってプログレではない。あなたの質問は僕のソングライティングからきてる内容だと思うんだけど、そうだな、僕が本当に好きだったのはサンプルをベースにした音楽で。アルバム全体を通して、くだらないサンプルがたくさん使われている。銃声や雷鳴、ワシの鳴き声、犬の鳴き声とかね。

──プログレが流行っていたというのはいつごろですか? みなさんはどんなバンドを聴いていたのでしょうか?

J:ブラック・ミディはすごくプロッギー(proggy)。僕はブラック・ミディのジョーディ・グリープの同級生で、彼はほかのみんなを辱めるようなタイプだったけど、そういう人を尊敬してしまうのは彼がクレイジーなミュージシャンだからだと思う。僕には彼みたいにできる才能はないから、ぜんぜん違うサウンドになっちゃうんだ。それで、4分の7拍子で曲を作ろうと思ったんだけど、結局はガバみたいな感じになってしまった。14分もあるプログレの曲なんて最初の45秒で飽きちゃって聴きたいとは思わないから、プログレの大ファンだとは言えないんだ。つまりブラック・ミディは良い曲を作ってたし、すごく上手くやってたんだよね。

──流行っていたのはブラック・ミディのようなプログレでしたか! 70年代のプログレではなくて。

J:フランク・ザッパとかキング・クリムゾンとか、そういうのは好きなんだけどね。僕の音楽がプログレッシブに聴こえるのは、ある意味で、日本の音楽がプログレっぽいからだと思う。J-POPだって、“ポップなプログレ”だなと感じる。ミュージシャンの腕がとんでもなくいいんだろうね。イギリスでは、キーが変わったりするようなポップソングはあまり作られないよね。J-POPは、僕がいままで聴いてきた音楽のなかで、もっとも変なもののひとつだ。ハイストリートでは流れていないし、レストランとかで聴かない限り、どうやったら人々に聴かせることができるんだろう? それとも人々はJ-POPに腹を立てているか、だとしても口にしないようにしているのかな?

──じっさいに人気があって聴かれていますよ。

J:そうか、本当にへんな感じだよ。イギリスでは、レストランやパブに行けば音楽が流れているけれど、ハイストリートにあるような、政府がこの音楽を聴けと言っているような雰囲気とは全然ちがうんだ。というのも、ハイストリートに流れている音楽はとてもマインド・ネーミング的な歌詞なんだよね。歌詞はいつも、「なにもかも大丈夫、あなたは虐げられていない。今やっていることを続ければいい」っていうような内容で、それをハイストリートで流すなんて、僕にとっては本当にワイルドなことだよ。「いいものを手に入れました、なにも言うことありません」って感じ。

ロンドンのマクドナルドでも、平和な雰囲気を演出するためにクラシック音楽が流れるようになったんだ。店内で大規模なトラブルが発生しても、喧嘩になることはなくなったんだよ。いまでは深夜になると、本当に落ち着いたクラシック音楽が流れている。考えてみるとちょっとディストピア的だよね、そこで食事をしている人たちがいるんだから。ハイストリートの体験とよく似ている気がする。「大丈夫、なにもかも落ち着いている」って。

──日本の牛丼屋の松屋でも……

J:イギリスのWetherspoon(パブチェーン店)みたいな? 待って、なんて牛丼屋? 今日行ったと思うんだけど。黄色い店、黄色い店だね! 今朝そこに食べに行ったんだ。

──その松屋でも、朝になると70年代のジョージ・フェントンの音楽が流れていて……

J:うん、うん。そんな感じだ。

──ジョージ・フェントンが流れていて、ディストピアな感じがするかもしれません。

J:僕は上出来だと思っていて。複雑なJ-POPが流れているよりもいい休養になると思う。(松屋は)朝食にしてはとても安い。スープとライスボウルで600円くらいだったかな? とても良い食事だよ。イギリスのカフェ料理とは違うんだ。イギリスのカフェは、まるで心臓発作センターみたいな感じで、油っぽくて揚げ物が多いんだ。Wetherspoonの紅茶はおかわり自由だよ(笑)

──J-POPの話で、なにか印象に残っているアーティストや曲はありますか?

J:J-POPをちゃんと聴いたことはないんだ。ああ、もしかしたら昔のものを聴いたかもしれないな。良い意味でも驚いたけど、レストランで一日中聴いていると疲れてしまう感じのものもあるかも。時差ぼけで頭が爆発しそうなときに聴いたというのもあってさ。いや、J-POPアーティストと仕事をするチャンスを台無しにしたくないな(笑)

──次の質問です。あなたがライヴでよく身につけているカウボーイ・ハットや空手着についてですが、これらは映画『ナポレオン・ダイナマイト』や『スーパーバッド』のような、ナードでギャグ的なティーン映画みたいなイメージがあるんです。映画からインスパイアされることはある?

J:ああ、僕は映画から大いにインスピレーションを受けているんだ。ファット・ドッグの半分くらい、つまり僕のすべてのアイデアは、音楽を思いつくにしても、視覚的なものに基づいている。歌詞は、頭のなかで起こっているイメージを作り出す感じ。もちろんアンディ・ウィリアムスやネストル・マルコーニのサウンドトラックもそうだし、『オールド・ボーイ』もそうだね。『オールド・ボーイ』は日本の映画?

──『オールド・ボーイ』は韓国映画ですね。

J:そうか、そうか。

──音楽以外のことで最近よく考えていることはありますか? 例えばカルチャーやライフスタイル、健康面など。

J:僕が音楽以外になにかしているか? サッカーをしたり水泳をしたり、少し体を動かすのは好きだけど、でも1日10時間とか15時間とか座っているから、太らないようにするのってなかなか難しいよ。映画を観たり、映画館に行ったりするのは好きだよ。ガールフレンドがいつも言うんだ、「あなたはずっと音楽のことを考えているから、ぜんぜん会話に参加していない。ゾンビみたいに『yeah, yeah』みたいな感じだ」って。ただ音楽って本当に素晴らしいもので、映画を観るときにも散歩に出かけるときにも、なんにでも使うことができる。

──次の新曲もできていますか?

J:新しい曲は作ってるんだ。でも作曲って、自分のなかに閉じこもってひたすら没頭する感じで、本当に難しいと思う。いま取り組んでいる60個の曲について、できるだけ早く作ろうとしているけど、早すぎると音が良くなかったり進行がうまくいかなかったりするから、完成には程遠いんだ。ツアーが多いのもクレイジーだしね。そして音楽性について言えば、ロックダウンされた環境のなかで作曲しているとき、どこかに行きたい気持ちがあるから、音楽や歌詞は宇宙のような別世界みたいに聴こえるように作りたいと思っている。でも僕たちはたくさんツアーをしていて、少しホームシックになることもあって、次のアルバムはもう少し親密な感じになるかもしれない。

──コロナのロックダウン中に描いていた外の世界が、実際にツアーをとおしてリアルになってきていますよね。ツアーの経験であらたに得た視点が音楽にどう表現されそうですか?

J:もしかしたら、今後2ヶ月以内にセカンド・アルバムのレコーディングをしなければならないかもしれないから、ファット・ドッグらしい作品をつくりたいと思っている。『WOOF.』は壮大で、多くの人に聴かれている感覚がある。それは巨大な絵画を前にしたときのようなもので、部屋二つぶんくらい大きな絵画が広がっているけれど、次はその絵画に一人でじっくりと浸るような親密さを感じられる作品をつくりたい。

なにが起こるかわからないから、いまはなにも作りたくないという気持ちがある。ファースト・アルバムは、プレッシャーもあったし自分が楽しむことを忘れてしまっていたかも。だから次のアルバムでは音楽作りを楽しみたいね。最近作ったシングル「Peace Song」も気に入っているし。アルバムはまだ完成しないけど、マドリードでヴォーカルを録ったりして、少しずつ進めている。フランスあたりでまたヴォーカルを録る必要がありそうだけど、いまはラップトップを使って好きな場所で作業ができるから、2ヶ月も部屋に閉じこもっているより良い方法だね。

──新曲「Peace Song」、すごく良かったです。

J:「Peace Song」は、けっこうJ-POPに近い気がする(笑)。クリスマスらしいクラシックな感じの曲にしようと思ったんだ。この曲は、先に子供たちの合唱だけ録っていて、ほかになにも録音していなかったから、曲作りとしてはもっとも愚かな方法だった。でも最終的にはうまくいってよかったよ。アルバムの最初に作った曲って、まるで自分ひとりでプロデュースしたような感覚があるから好きなんだ。

<了>

Text By Shoya Takahashi


Fat Dog

『WOOF.』

LABEL : Domino / BEATINK
RELEASE DATE : 2024.9.6
購入はこちら
BEATINK


【関連記事】
【INTERVIEW】
ブラック・ミディの活動でも知られるジョーディー・グリープ インタヴュー
「ザッパのまあまあな作品群をなんとか聴くことができれば、彼の最高傑作を聴いたときに真の価値がわかると思う」
https://turntokyo.com/features/geordie-greep-interview/

1 2 3 73