Back

カレント・ジョイズが語った──庵野秀明からの啓示、100ゲックスのユーモア、そして叫ばずにいられないわけ

03 May 2024 | By Shoya Takahashi

カレント・ジョイズはネバダ州ヘンダーソン出身、現在はロサンゼルスで活動しているシンガー・ソングライター、Nick Rattiganによるベッドルーム・ポップ・プロジェクト。彼は2013年からローファイバンドのSurf Curseのドラムスとして活動し、同時期にカレント・ジョイズとしての活動も開始。カレント・ジョイズ名義では、スラッカー・ロックやスロウコアなどアルバムごとに異なるサウンドに挑戦。前々作『Voyager』(2021年)でもインディー・ポップを軸にしつつ室内楽の影響も感じさせるサウンドが印象的だった。

ここで、昨年リリースされた前作『LOVE + POP』である。100ゲックスやスクリレックスに代表されるエレクトロニック・ダンス・ミュージック~ハイパーポップ、また2017年にオピオイドの過剰摂取で亡くなったラッパーのリル・ピープへのオマージュ、さらにレイヴへの憧憬まで呑み込んだ本作。12曲30分というコンパクトな作りのなかで、これまでのキャリアをゆうに飛び越えるアクロバティックなサウンドを魅せた、まぎれもない彼の最高傑作。

さて今回は4/9、初来日での《青山月見ル君想フ》公演時に行われたインタヴューをここに掲載する。終始フランクな調子で話を聞かせてくれたという、彼のパーソナリティも存分に味わえる貴重な会話。今後の貪欲かつ豪胆すぎる展望も含めて、ぜひ記事の最後まで楽しんでください。

(質問作成・文/髙橋翔哉 通訳/竹澤彩子 トップ写真/Julien Sage 記事内写真/SHUN ITABA 協力/吉澤奈々)


Interview with Nick Rattigan(Current Joys)

──今回が初の来日公演なんですね。日本と言えば、あなたは庵野秀明監督の映画『ラブ&ポップ』を新作のコンセプトに掲げています。素晴らしい映画ですよね。

Nick Rattigan(以下、N):映画の内容よりも、映像面で影響を受けていて、映画の内容自体は援助交際してる16歳の少女の話なんでキツいっていうか、めちゃくちゃ病むんだけど(笑)。 それでもあの映画は大好きで。ちょうど『新世紀エヴァンゲリオン』にどハマりしてる時期で、同じ監督が映画も作っていると知って、絶対に見なきゃ!って思ったんだよ。何しろヴィジュアルが強烈で、カメラワークは斬新そのものだし、撮影方法も大胆かつユニークで。全部ビデオカメラで撮ってるんだよね。DIYな感じで、ヴィジュアル言語としてものすごく刺激的で興味深い。

その影響を受けて、自分も自宅のホーム・スタジオでアルバム制作に取り組もうと思って。プロダクションも最小限に抑えて作ってて。というか、『ラブ&ポップ』ってタイトル自体も最高すぎるでしょ(笑)。実は、そこからタイトルをパクらせてもらった。でも、庵野監督の作品はアニメも好きなんだよね。

──役者の頭や腕にカメラを取り付けた独特なカメラワークや、様々なシーンのモンタージュと、とてもハイパーポップ的な映画だと思います。

N:まさにハイパーポップな映画だよね。時代の何歩も先を行っちゃってる。「ハイパーポップ」って言葉がふさわしい。

──映画『ラブ&ポップ』は必ずしもポジティヴなエンディングではないですが、その点も含めてあなたの作品や、参照している作家や作品とムードを共有している気がします。そんなあなたのアルバム『LOVE + POP』も非常にクールなアルバムでした。先ほど『新世紀エヴァンゲリオン』からも刺激を受けたとおっしゃってましたが、アメリカでもすごい人気ですよね。あの作品のどのようなところに影響を受けていますか?

N:『ラブ&ポップ』にしろ『新世紀エヴァンゲリオン』にしろ、従来の常識を覆すような新たな表現領域に挑んでいるところ。特に『新世紀エヴァンゲリオン』は、ストーリーを伝えるという点でも新たな領域を切り拓いている。アニメというフォーマットにおいて哲学やシュールリアリズムを取り入れる手法はものすごく斬新だし、あのカメラ割りも……。

エヴァンゲリオンの映画(『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』)のラストでは、ライヴ映像みたいに色んな角度からの(実写の)カメラワークがカット割りで挿入されている。それがデヴィッド・リンチのような相乗効果を生み出していて、今回のアルバムを作ってるときに大いにインスパイアされたんだよね。なんというか…歪んでいるというか、いい意味でいびつな効果を生み出している。

──あなたには、『エヴァンゲリオン』のアスカみたいなところがあると思います。あなたの歌詞はどこか刹那的で、ポジティヴさとネガティヴさを兼ね備えていると感じます。その点で、私は「アスカ的」だと思うのです。

N:あー、確かに今回のアルバムの登場人物の何人かはアスカ的だけど……。でも、自分がエヴァの中で共感しているのはシンジなんだよね(笑)。

──理由は(笑)?

N:シンジってほら、いつも頭の中がワチャーーーーって感じだから(笑)。自分が特に好きなシンジの場面って、シンジがエヴァと同化するときに脳みそがバーンッて爆発して、自分の魂が蒸気みたいに散って、巨大なマシーンに溶け込んでいくシーン。まるで別次元の意識に飛んでいく感覚。今回のアルバムのイメージもまさにそんな感じなんだ。あのイメージから強烈にインスピレーションを受けまくってる。なんだか神経を逆なでするようなザワザワした感覚というか、脳みそバーン!って感じ。

──(アスカのような)二面性を意識して歌詞を書いたことはありますか?

N:もちろん、それは絶対に。二面性は表現においてかなり強烈なツールだと思うんで。世の中、何でもかんでも白黒つけてしまいがちで、みんな誰でも答えを求める傾向があるから。それでも、人間には二面性があり、そこからグレーゾーンという領域も生じる。自分の中での感情の葛藤だよね。結局、優れたアートはそういったところから生まれるもののような気がする……自分の中にある矛盾する両面と、丁寧に対話していくことで。

もし自分が今回のアルバムの中で描こうとしていたことがあるとしたら、まさにその二面性って部分じゃないかな。あるいは多面性というか、自分の内部のあらゆる面をぶつかり合わせることで、そこから生まれるエネルギーを捉えたかった。

──ちなみにアスカ的ということで言うなら、ピュアネスが侵されることによって、アスカは次第に正気を失っていく。その点は今回のアルバムにも通じるものがある気がします。

N:あー、なるほど、確かにその通りだね。堕落とか腐敗というテーマも今回のアルバムには含まれているので。やっぱり、みんな普通にピュアでありたいし、純粋な何かを求める気持ちがどこかにあるわけだろ。でも、世の中にはピュアなものばかりじゃないし、自分だってピュアであるだけではいられないし、悪いと分かっているのに悪に手を染めてしまったり、心が汚れてしまうこともある。うん、たしかに……今回のアルバムってアスカ的なのかもしれないね。

──あなたの歌詞は「普通の」人々の日常を描いているとも言えます。あなたはヒップホップの良さについて、携帯電話について言っても安っぽく聴こえないと話していましたね。あなたの新作にも同じことが言えます。

N:そう、何年も前から、携帯のテキスト・メッセージみたいなノリの歌を目指していて(笑)。しかも、違和感なくサラッとした形で。ヒップホップはその可能性を広げてくれたんだよね、何でもやってみていいっていう。それは今回のアルバムでも目指してた感覚で。というのも、自分たちが生きている今の時代の感覚をそのままアルバムにも反映させたかったから。スマホを通してどれだけ多くの感情がやりとりされてるか、そこに挑んでいるんだよ(笑)。

──TikTokでバイラル・ヒットしているあなたの楽曲ですが、TikTokユーザーはそれに乗せてダンスするわけではなく、日常的な映像に曲を重ねて動画を作っています。あなたがヒップホップにシンパシーを感じるように、TikTokユーザーもあなたの音楽に、生活に馴染む音楽としてシンパシーを感じているんだな、と感じます。


N:自分が作品を作った後の影響については、正直なところ、全く意識したことがなくて。その辺りに関しては、むしろできるだけ自分本位であろうと意識しているし。ただ純粋に自分のためだけに曲を作り、その曲の持つ雰囲気とか感情を通してコミュニケーションしたいと思ってるんで。

作品っていったん世に出すと、完全に自分の手を離れていっちゃうもので。だから自分の曲がバズったことに関しても、つくづく不思議だし興味深い現象だなと思ってて。自分の曲がなぜTikTokユーザーに響いたのか、自分でも理解できないから、何とも答えようがないっていうか。音楽自体がそもそも主観的なものだから。曲を聴いた人が自分なりに解釈できるのが音楽の魅力なわけで。

ただ、アートって本質的にそういうものだと思うんだよね。人々の潜在意識に触れるような、人間の活動の根源に触れるみたいなもの。たまたまそのツボにヒットしたときに、ただの音楽以上のものが広がっていくんじゃないかな。何かのきっかけで多くの人に響くツボを押しちゃったという。

──さて、次は、あなたが度々言及している100ゲックスやスクリレックスについて訊かせてください。私も彼らの音楽はフェイバリットです。両者とも、様々なジャンルを横断して参照しているにもかかわらず、聴いた印象は非常に直線的ですね。

N:うん、ほんとそうだよね!

──それは今のあなたの音楽にも感じられますが、その辺についてはいかがですか。

N:すごくわかる。自分はジャンル・ホッパーだし、自分の音楽も時間とともに常に進化し続けてる。でも、そこには自分なりの指紋を残そうとしているわけで。特定のジャンルのスタイルの美学に基づいてサウンドを作り出すことも大切だけど、やっぱりどこか自分のパーソナルな爪痕が必要だと思うんだよ。どんなジャンルでも、特定のサウンドが自分の中に響いた裏側には、その人にしかない個人のストーリーがあるわけだから。

ジャンルっていうのは、その背景にある自分なりの感情やメッセージを伝えるための雰囲気を作り出すためのツールであって、ある種のエモーションの背景を描き出すためのものというか、本当に絵の具のパレットみたいなものだよね。

──特に100ゲックスの音楽は、文脈や計算高さを感じない、つまりユーモラスなところが魅力だと思います。

N:わかる、100ゲックスが打ち出してるユーモアは自分も大好き。リスナーにウィンクで目配せするみたいな感じで。最近の音楽って、わりとシリアスになりがちっていうか。そう言えばユーモアって最近の音楽で忘れ去られがちだったのかなあって、今思った。……って、言った後で自分のここ最近の音楽ってユーモア足りてたかな?って、今振り返って反省してるとこ(笑)。まあ、これをいい機にそろそろ自分の中のユーモアの部分をもうちょっと開拓してみてもいいのかもしれないね。

──あなたがもう一人、重要な位置づけをしているアーティストにリル・ピープがいますね。彼はサウンドの独自性はもちろんですが、メンタルヘルスやドラッグ使用への言及など、精神面での影響力も大きかったと思います。あなたも音楽だけでなく、精神的/思想的にも影響されたのでしょうか?

N:うん、本当に、リル・ピープの表現からは絶対的な影響を受けているし。一つ前の質問の答えの続きみたいになっちゃうけど、サウンドって要するに絵の具のようなものなので……自分の独自の世界観を描いていくための舞台作りというか、大切なのはそれを通して何を伝えたいかってことだと思う。メッセージなくして優れたアートは成り立たないような気がするから……そうなるとどうしても自分の中にあるものすごくディープでパーソナルな部分に触れていかなくちゃならない。

自分はよく曲作りをカクテル作りに例えるんだけど、一番重要な材料は、やっぱり自分の一番パーソナルな部分だとか、ストーリー……。だから、自分が歌詞を書く場合でも、自分という人間についての何かしらの手掛かりとかヒントを差し挟むようにしてる。他の人が見たら「え、これが重要なの?」みたいなものでも(笑)、自分にとっては大切な一部というかね。

──自分の精神面での健康を保つためにしていることはありますか?

N:イエス、何しろありとあらゆる精神病歴を辿ってきているんで(笑)。不安症から強迫性障害まで、すべて経験してきてる。自分は本当に不安に駆られやすい人間で、だから、できるだけシラフの状態を保ちつつ、運動もして瞑想もして、日々の努力をしてきた。メンタルヘルスというか、自分の正気を保つために……そう、「正気を保つため」って言葉がピッタリだよ(笑)。これまで何度も精神崩壊しかけたり、精神に異常をきたしたような状態に陥る経験を幾度となく繰り返してきてる ……。

とは言え、それって何も自分だけの特殊な経験ではない気がするんだよ。今のこの世の中で生きてて、誰だって何がしかの精神的な葛藤や混乱を味わってるはずで……だからそう、日々の努力が必要だってこと。今の世界で自分の精神をまともな状態に保っておくためにはね、ハハハッ。

──個々の楽曲についても訊かせてください。100ゲックスやDrain Gangを連想させる「Dr Satan」や「Rock n Roll Dreams」などで、あなたはシャウトを披露しています。あなたの歌声は、以前と比べて攻撃的になっています。シャウトするには何かこう自制心を手離す、じゃないですけど──

N:わかる、解放するみたいな(笑)。それは今回のアルバムのテーマの一つでもあって、無駄な抵抗は一切やめて自分を手放すみたいな……自分の安全圏を飛び出して未知の領域に全身で突っ込んでいくみたいな感じ。

「Dr Satan」なんかは、それこそアメリカの医療システムに対するフラストレーションについて歌った曲で。アメリカの医療機関は腐りまくってて、肉体的、精神的に助けを求めているのにまともな治療を受けさせてもらえない。それを言葉で表現しようと思ったら叫ばずにはおれん!……みたいな(笑)。

「Rock n Roll Dreams」に関しては、自分のロックンロール幻想を断ち切るみたいな……自分がロックンロールをやっていることに付随する役割というか、そこに紐づいているイメージとか名声だとか、そうしたものについ憧れを抱いてしまう自分のエゴみたいなものを断ち切る、みたいな感じかな。それもまたきちんと表現しようと思ったら、叫ぶしかない、みたいな(笑)。

──「CIGARETTES」は、東ヨーロッパのコールドウェイヴのようなビートでした。ジョイ・ディヴィジョンを現代風にしたようでかっこいいなと思ったのですが、実際にはどんな音楽を参考にしていますか?

N:あの曲に関しては、昔のカレント・ジョイズの表現にモダンなひと捻りを加えたっていう感じかな? だからまあ、自分にインスパイアされてるようなもので。自分が作ったあのビートに今風のヒップホップの要素を加えているという。元ネタのインスピレーション源は映画監督のグレッグ・アラキで、『ノーウェア』とか『ドゥーム・ジェネレーション』のサウンドトラックに影響を受けてて。 この曲は友達のModel/ActrizのRubenと一緒に作った曲で、Rubenがあの全体にトラップ・ビートをつけてくれて、その瞬間に「あ、できた」って(笑)。「自分が求めてた捻りはこれだったわ」みたいな。

──ポストパンクからの影響は、『Wild Heart』(2013年)のころから顕著ですよね。

N:うんうん、そうだよね。

──あなたにとってのポストパンクのルーツはどこにあるのでしょうか?

N:うわー、えーっと、どうしよう…………ポストパンクって何つうか……うー、弱ったな(笑)……なんかその、自分がポストパンク観について話したら、読者から「いやそれ、ポストパンクじゃないし!」って総ツッコミされそうで(笑)。邪道かもしれないけど、自分のパンクとの出会いで言ったら、ポップ・パンクが最初の入り口で、ブリンク182とか。 そのポップ・パンクから、リアルなパンクに行って、一時期デッド・ケネディーズばっかり聴いてた時期があったり。

ポストパンクってことで言うなら……ピクシーズとか自分の中ではポストパンクなんだけど、みなさん的にはどうでしょう(笑)? 世間的にはあんまりポストパンクとみなされてないかもしれないけど、自分の中ではそうなんだよね。 あとは定番でテレヴィジョンとか、ものすごく影響を受けてるし……それと言うまでもなくザ・キュアーとか、ジョイ・ディヴィジョンとか、その辺り。とりあえず自分のパンク遍歴を辿るとそんな感じ? ポップ・バンクからリアルのパンク、そしてポストパンクっていう流れだよね。

──最後の曲「U R THE REASON」が圧巻で、他の曲は1分台か2分台なのにこれだけ8分もある(笑) フォー・テットやカリブーのようなUKハウスに近いと感じました。この曲の制作は、どのようなインスピレーションから始まったのか教えていただけますか?

N:LAの深夜のレイヴ・パーティにインスパイアされた曲で、ハウス・ミュージックを作って、そこに自分なりの捻りを加えてみたいと思ったのがきっかけで……というのも、そのレイヴ・パーティでかかってるハウス・ミュージックでほんとに開眼したっていうか、意識が別の次元に吹き飛ぶみたいな感覚があったんで。具体的な曲名やアーティスト名はわからないんだけど、というのもDJの影に隠れちゃってるんで……。ただ本当にレイヴ・パーティから感化されるところがたくさんあって、それでカレント・ジョイズなりのレイヴ・ソングを作ってみたいと思ったところから、あの曲が生まれたんだ。

──現在の音楽シーンでは、一部のインディー・ロックがプロダクション至上主義からローファイなアマチュアリズムへ回帰しています。しかしあなたの作品は逆に過剰なプロダクションに進化しており、だからこそあなたはオルタナティヴな存在でいつづけられるのだと思います。あなたは自身の作品と音楽トレンドとをどの程度意識していますか?

N:そう、なんか面白いなって思って。自分が十年前に作ってたいわゆるDIY的な音楽が今ここに来てすごいメジャーになってきてる。ただ、自分が当時そういう形で音楽作ってたのはあくまでもリソース不足ゆえに必要に迫られてであって、その場にあるもので音楽を作っていくしかなかった。そうやって限られた状況下で作った曲のおかげで、どんどん使えるリソースが増えていったことで、ちゃんとしたスタジオに入ってレコーディングできるようになった。

とはいえ、自分自身の中でも原点回帰みたいな動きが起きてて、宅録的なアプローチで作った作品としては2021年に出した『Voyager』ってアルバムがあって。あともう一枚はまだリリ―スされてないんだけど『East My Love』って作品で。そっちはほんと美しいフォーク・アルバムって感じでね。

で今回の『LOVE + POP』にしても、完全に自分と友達だけで作ってるし、まさに宅録DIY的なもの……だから、 自分も宅録からスタジオに移動し、そこからまた宅録へっていう流れではある。やっぱり、一番ピュアな素の表現って、自分一人でいる瞬間に生まれてくるものだと思うんで。

スタジオを介すとなると、そこからデモを作って最終的にポリッシュさせていく流れにどうしてもなっちゃう……。その過程で失われるものもあると思うし、最初の輝きみたいな……輝きというか、むしろアラだったりするんだけど(笑)。宅録とか自分一人で作るとなると最低限のリソースに頼るしかないし、自分の能力値にも限界があるんで、どうしても生々しい自分をさらけ出さざるを得ない気がして。そこが今の人達に響いてるんじゃないかな。その穴だらけで人間的な感じというか。

──最近リリースされた作品で、エキサイトしたものはありますか?

N:最近はもっぱらヒップホップを聴きまくってて、プレイボイ・カーティやヤング・リーン、LUCKIとか。あと他に何を聴いてるっけ? 最近アメリカでDJをよくやってるから、その縁でヒップホップを聴きまくってる。

──ちなみに私は、あなたの『LOVE + POP』はキム・ゴードンの新作と並べて聴くことができると思いました。

N:あー、それは光栄な(笑)。

──ここまでの話に出てきていないアーティストで、制作中によく聴いていた音楽があれば教えてください。

N:あー、もうすでに出てるけどDrain Gangは絶対的に。ヤング・リーン、 100ゲックス、リル・ピープとか。あと音楽以外で最初の方に戻るけど、アニメとか、『新世紀エヴァンゲリオン』とか……うん、そんな感じ。

ツアーメンバーと一緒に。一番左はオープニングアクトのCwondo。


──今回のアルバムは30曲ほど作ってあって、それをパート1とパート2に分けて発売しようとしていたんですよね。それで、そのパート2にあたるアルバムを少し聴かせていただきました。こちらもさらに多彩で、クールでした!

N:そう、自分の中では「裏LOVE + POP」と呼んでるんだけど、『LOVE + POP』に比べてよりアグレッシヴな音でヒップホップの要素が強い……さらにスクリームも多く、さらにヒップホップであるという(笑)。

──パート2には、あなたより10歳ほど年下の、若手プロデューサーが何人も参加していますよね。

N:イエス。

──彼らとのコラボレーションはどのような経緯で生まれたんですか?

N:なんか、流れでって感じなんだけど……パート1のほうで、自分と友達で面白いプロダクションをやってる人達とだけでここまでできるんだって手応えを感じたんで。それでインスタを通して知り合ったFearDorianやGonervilleといった若手のプロデューサーたちとも、一緒に音楽を作ってみたいと思って。彼らは本当に個性的な音を持っているクリエイターだし、それまでとは違う人たちと音楽を作ってみたいという興味もあって。そしたら、何か新しい景色が見えるかもしれないし、面白いことができるかもしれないなあという好奇心と、そこに自分の表現を乗せてみたいなっていうのとで。

実際、そういう年齢が下のアーティストたちと一緒に音楽を作ってみて、とてもインスパイアされるものがあったし、本当に井の中の蛙が知らない世界に放り込まれたみたいな感覚があって(笑)。彼らからは多くのことを学んだし、これまで一緒に音楽を作った全員に対して感じていることでもある。彼らの音楽世界を少しでも垣間見ることができたのは、自分にとっても本当に大きな喜びだった。

──最後に、あなたが次に計画しているというロック・オペラのアルバムについて教えてもらえますか。

N:うわ、最後にそう来るか(笑)。もう長年かけて取り組んでるプロジェクトではあるんだけど。一応、物語の設定としては、チンピラがドラッグを見つけて摂取したら、地獄にワープしちゃうみたいな感じ。素材自体は山ほど作ってあるんだけど、なんか色々忙しくて後回しになってて。最近で言えば、それこそ『LOVE + POP』の世界に没頭してたからね。だから、そこからいったん離れて、新たな視点であのプロジェクトに向き合うのもすごくいいんじゃないかと思う。

自分の中ではミートローフ的な、純粋にロック的な世界観を想定して進めていたんだけど、ここにきて新たな要素も取り入れたいという欲も出てきて、そこは自分の中でも構想を練ってる最中で(笑)。

──ミートローフ以外にも、アイディアの元になったような作品や作家があれば、教えていただけますか。

N:まあ、ジム・スタインマンとか、とりあえずスケールのデカい音楽なら何でも! 子供の頃からロック・オペラに興味があって、ザ・フーの『Tommy』とか、『ジーザス・クライスト・スーパースター』とか『ロッキー・ホラー・ショー』とか……とにかく壮大なものにしたいんだ! だから今はまだ初期の構想段階なんだよね。

東森(BIG NOTHING):日本映画で好きなのは?

N:そうだ、こないだ友達とその話で盛り上がってて。誰だっけ、『戦場のメリークリスマス』の監督?

──大島渚ですか。

N:そうそう、大島渚監督の作品が好きで、『愛のコリーダ』とかマジで素晴らしかったし! あとは(伊丹十三)『タンポポ』とか、言うまでもなく黒澤作品とか、『AKIRA』とか……みんな一昔前の作品だから、今の日本の監督の作品もチェックして、自分の中の日本映画のカタログをアップデートしないとね。

<了>


Text By Shoya Takahashi

Photo By Julien Sage / SHUN ITABA

Interpretation By Ayako Takezawa


Current Joys

『LOVE + POP』

LABEL : Secretly Canadian / BIG NOTHING
RELEASE DATE : 2023.8.4

購入はこちら
Tower Records / HMV / Amazon / Apple Music

1 2 3 65