「マントラみたいな感じなのに、ポップ・ミュージックのようなメロディでもある。僕たちはそういう組み合わせが大好きなんだ」
キャロラインが語る最新作『caroline 2』
ヴァイオリン、クラリネット、チェロ、それらのアコースティック楽器を用いてポストロックを奏でる新しいフォークのアプローチ。3年余りが経ったいまでも、2022年にリリースされたキャロラインのファースト・アルバム『caroline』の音楽が頭の中に残り続けている。このアプローチは少なくない数のロンドンのインディーバンドに影響を与え、インタヴューなどでも度々その名前を目にした。《Rough Trade》のジェフ・トラヴィスが熱を上げたロンドンの不可思議な8人組みのバンドは、当時流行していたモノクロのポストパンクのシーンとは異なるやり方で新たな視座を与えたのだ。
だが3年経ったいま、キャロラインはもうそこにはいない。いや正しくはもう一つの独立した世界がそこに重なったということなのかもしれない。このセカンド・アルバム『caroline 2』でバンドは前作の延長線上にありながらそれとは違った印象を与えてくる。電子ノイズが鳴り響き、オートチューンが使われ、キャロライン・ポラチェックの声が連なり、心地の良い小さな違和感が積み重なったような音楽が聞こえて来るのだ。それは意図的に巻き起こされる柔らかな混乱なようなもので、この音楽を聞いていると感情にバグが生まれたような、あるいは重なった世界のズレを見つめているかのような、不思議な感覚に陥る。
インタヴューの中で繰り返し“Shared language(共通の言語)”という言葉が出てきたように、今回の音楽制作は実験的なものというよりも、目の前にあるカタチのない現象を見出していく作業のようなものだったのかもしれない。詳細に作り込まれたアルバムであるのと同時に、手作りのラフな感触がそのまま残った不思議なアルバム。この美しく響く違和の音楽はいかにして作られたのか? スコットランドの農舎で得たインスピレーション、キャロライン・ポラチェックが参加した経緯、マントラのように響く歌詞について、ギターのマイク・オマリーに話を訊いた。
(インタヴュー・文/Casanova.S 通訳/青木絵美 写真/El Hardwick)
Interview with Mike O’Malley(caroline)
──2022年のセルフタイトルのデビューアルバムから3年が経ちました。その間色々とあったかと思いますが、バンドや個人として変化した部分があるとすればどんな部分ですか?
Mike O’Malley(以下、M):本当に色々なことがあったよ。3年しか経っていないのかと思うくらい。まずは年を重ねたこと。3年前、メンバーの多くは20代だったのに対して、今は30代になった。それは大きな変化だった。それからバンド活動にしてもあらゆる側面での変化があった。ファースト・アルバムの時はほとんどの人がキャロラインというバンドのことを知らなかったから。アルバムが出て、徐々に僕たちのライヴを見にくる人が増えて、今はこうやって新しいアルバムを心待ちにしてくれている人たちがいる。だから大きな違いとしてオーディエンスが増えてキャロラインというバンドに対する関心が高まったことがあると思う。
それとバンド全員で演奏することがすごくしっくりとくるようになったっていうのはあるね。ツアーに出るまで今みたいな感じの居心地の良さ、馴染みの良さはなかったから。今はすごくまとまりがあって、バンドの中に“Shared language(共通の言語)”があると感じられる。共通の言語感覚っていうのは初期から少しはあったんじゃないかと思うけど、今はそれが定着した要素のように感じられるんだよ。3年前と比べると、僕たちは全く違うバンドになったって気がする──本当はそんなに変わっていないんだけどね。とにかく、変化はたくさんあった。プライベートにおいてもいろんな変化があったけど3年間も経てばそれは当たり前だよね。
──あなたとジャスパー、キャスパーの3人は今回スコットランドへ作曲のために滞在したんですよね? スコットランドという場所を選んだのはどうしてですか。
M:ジャスパーの友達にスコットランドに住んでいる人がいるんだけど、その人が農舎を改装して、アーティストが作業できるスペースにしたんだ。日常にアート活動ある場所だとコミュニティーの人たちと知り合いになって、お互いにリソースを提供し合うことができるよね? アート活動の素晴らしい点はそういうところだと思うんだ。静かに制作ができるスペースというのは非常に貴重で、そういう場所でできるんだっていうのならそうしない手はないって思った。だからスコットランドに行ったんだよ。それが最初の音楽合宿だった。その他にも何回かロンドンを離れて、バンドのみんなと音楽合宿をしたんだ。恵まれた環境で楽しみながら円滑に制作を進めていく最高の環境だった。
──農舎での滞在はどのような感じでしたか?
M:素晴らしかったよ。とても美しい所だった。スコットランドの田舎で、苔の生えた土地に森が広がっていたんだ。集中できたし、充実した時間を過ごすことができた。それまでに何年も「次のアルバムはどうしようか?」という話をしていたんだけど、スコットランドに来てようやく実際に取り掛かることができた。何だか実感が湧かなかったけれど、制作を開始するという決断ができたのはすごく良かった。僕たちにとってそれが重大な瞬間だったんだよ。そこではアルバムの重要な要素になる“種”を蒔くことができた。たとえば、誰かがマイクを持ちながら、ある環境からまた別の環境へと移動する音を聞くという体験だったり。結果としてこの体験はアルバムの重要な側面となった。その様子が直接的にアルバムの中で何度も聞けるってわけではないけど、アルバムのエートス(理念・精神性)やコンセプトに大きく影響するものになった。農舎で演奏すると、音が凄く反響してガタガタと空間が震えてカオティックな感じになるんだ。そのサウンドが今回のアルバムの雰囲気やドラムサウンドなどの基盤になった。特にドラムの音がすごく大きく聞こえてそれがずっと頭に残っていて。だからそのサウンドを念頭に置いて曲作りを進めていったんだ。書き上がった曲をレコーディングする時も農舎で鳴っていたような、大きなガタガタしたドラムの音を再現できる場所を探して録って。そういうわけだからスコットランドでの体験はこのアルバムの曲の最終形態に大きな影響を与えたと言えるね。
──ファースト・アルバムはアコースティックなサウンドで、ポストロックのようなアプローチをしていたのが印象的でした。その前後で、キャロラインのメンバーが参加しているBroadside Hacksやショベル・ダンス・コレクティブ、あるいはナイマ・ボックなどの新しいフォークのへのアプローチの潮流が出来ていたようにも思いますが、あなたの眼にそれはどう映りましたか?
M:確かに流れはあったかもしれないけど、でもそれはムーヴメントみたいなものではなかったんじゃないかな。ショベル・ダンス・コレクティブは、キャロラインよりも1年くらい後に結成されたグループでキャロラインのオリヴァーとアレックスがそこで演奏している。彼らのコンセプトはフォーク・ミュージックを演奏するというものだから、確かに彼らの曲はフォークなんだろうけどでも伝統的なフォークの演奏方法ではないこともある。曲の根底にあるのはフォークだとしてもね。ナイマ・ボックも同じ時期に知り合いになったんだけど、実は僕らのマネージャーのジョシュがナイマのマネージメントもしていたんだ。僕やオリヴァー……確かにこうやって考えてみるとキャロラインの多くのメンバーが彼女のアルバムに参加しているね。僕は彼女のファースト・アルバムでベースを弾いたんだけどキャロラインからその時のセッションに参加したのは僕だけだった。その後に他のメンバーが彼女のアルバムに参加したんだと思う。僕も全てを把握しているわけじゃないんだけど、オリヴァーなんかは今でも彼女と一緒に演奏しているし、彼女のセカンド・アルバムのストリングスのアレンジの大半を担当した。話を戻すと、あれはフォーク・ムーヴメントというよりも、むしろ色々な人たちがお互いに知り合って、それぞれのバンドに参加するようになったっていう自然発生的な出来事だったと思う。ジャンルとしてどうこうって話じゃなくてね。僕自身としても昔の方がフォーク・ミュージックと深く関わっていた。それが今でも影響して音や演奏に出ることがあるけど、でも現在は積極的にフォークを演奏したり追求したりはしていないんだ。いつかまたそうすることがあるかもしれないけどね。
──今のお話にも通じる話なのかもしれませんが、セカンド・アルバムのキャロラインは、ファースト・アルバムから大きく離れたようなアプローチをしていますよね。曲によって電子音が目立っていたり、オートチューンが使われていたり。今回こうしたアプローチを試みた理由はなんだったのでしょう?
M:これといってはっきりとした理由はないけど、今回はそういう音や機材を使うということが、当然だって感じられたんだと思う。とても自然なことだったよ。曲に対して、芸術的に最適だって思える決断をしたら自然とこうなった。確かに違いはあるね。ファースト・アルバムとセカンド・アルバムを続けて聞いたら大きな違いや飛躍が感じられると思う。でも制作段階におけるその違いは劇的なものではなくて、段階的な変化がたくさんあったって感じなんだ。だからその過程における全てのものが、僕にとって同じ言語の一部に感じられる。たとえば、オートチューンやアコースティックギターの組み合わせなんかは、ファースト・アルバムでもやっていたことのように感じられるんだ。もちろん実際にはやっていないんだけどね。つまりそれが同じ言語の一部として感じられるということなんだ。あとはサウンドとして、良いと感じられるもの、美しいと感じられるものを使う……それだけが理由だったりもする。どうしてその組み合わせにしたのかはっきりとした説明はできないけれど、ただ単に響きが美しいということが、正しいことのように感じられた。そういう機材を起用する際に僕たちはそれについて話し合う必要性を感じていないんだ。本質的にいいサウンドだと思ったらそれで作曲を進めていく。その後で、振り返ってみて自分たちがそういう機材の音を曲の様々な部分に使用しているということに気がつくんだ。
──アルバムからの最初のシングル「Total euphoria」は異なる世界がひとつに接続されたような楽曲で、最初に聞いた時に複数の、別の世界の出来事を受信した混線ラジオのようなイメージを抱きました。この曲はまさにセカンド・アルバムでのキャロラインのアプローチを象徴するような曲だと思うのですが、この曲のインスピレーションはどういうところから来ているのでしょうか?
M:とても素敵な表現だね! 曲のコンセプトはまさにその表現通りで、それは同時にアルバム全体にも通じるものでもある。大事なのはどうやって異なった環境を一つにまとめることができるか、個々に独立していてかつそれが同じタイミングで起きている状態にするかということなんだ。「どうやってまとめるのか?」というよりも「それをやったらどんな音になるのか?」という問いの方が正確だろうな。その状態を生み出すための組み合わせや要素、方法はたくさんあるんだから。正しい要素を用いれば、面白い音、美しい音が生まれる。シンクロ状態ではないものたちを同時に進行させた時の音を聞くということ自体に興味があったんだよ。そういう音を聞くと、意識せずとも脳が音のパターンを作り出して自然とシンクロ状態を見出していく。今回のアルバムはこの感覚を追求したかった。多くの曲でそれがテーマになっていて、異なった環境を合わせたり、違った意図を並走させたりしている。だから聞いていて別々の環境が同時に起こっているという現象を味わえると思う。「Total euphoria」ではあまり感じられないかもしれないけど、アルバムの他の曲では別々の音が存在するけど、それらはお互いの音を完全に無視した状態というか、お互いの音が聞こえていない状態のようになっているのも感じられると思う。お互いの行動に関係なく、自分たちのことをやっているみたいな。
──アメリカツアー中に アレックス・Gの『God Save The Animals』を頻繁に聞いていたそうですね。その影響はたとえば「U R UR ONLY ACHING」のような曲に出ていると思うのですが、声や音を加工することをはじめとしたコンピューターを使っての今回の曲作りのプロセスについて教えてください。
M:確かに「U R UR ONLY ACHING」のような曲を聞くと、僕たちが『God Save The Animals』を頻繁に聞いていたことがわかると思う。あれは本当に素晴らしいアルバムだよ。完璧だって言ってもいいくらい。アレックス・Gは僕らが長い間ファンでいるアーティストの一人なんだ。彼のファースト・アルバムを聞いたのは僕たちが大学にいた時だったんだけど、それ以来ずっとファンなんだよ。彼も声の加工やオートチューンを良く使うけど、それはもはや現代音楽おける基礎的なツールという感じがする。彼がやっていたから僕たちもそういうツールを使ってみようって感じになった。後はオート・チューンを使う典型的なポップ・ミュージックも参考になった。声の加工やエフェクトを使い始めたのはアメリカツアーの前にクレア・ラウジーの「peak chroma」をカヴァーした時だったんだ。その時に声の加工や編集なんかを色々やってみたけどそれが凄く面白くて、今後も追求してもいいんじゃないかって思ったんだよ。キャロラインの曲でも使ってもいいんじゃないかって。ツールを使うようになった理由は、それが「いい感じ(felt good)だった」としか言えないんだけど、使っているうちに、一つの曲に複数のキャラクターを登場させることが出来るということに気がついた。多くの人にヴォーカルを歌ってもらわなくてもいいってこともあるけど、同一人物が自分の声を使って様々なキャラクターを行き来できるのが面白いと思ったんだ。ツールによって声を低くしたり、ピッチを高くすることができるから。オートチューンに関していうと、マグダレーナの声をオートチューンにかけたら、すごく素敵な感じになって。それがとても美しい組み合わせだと思ったんだ。
──アレックス・Gの他によく聞いたり、参考にしたアーティストはいますか?
M:とにかくポップ・ミュージックをたくさん聞いていたよ。ジェーン・リムーバーとか。ジェーン・リムーバーは最近アルバムを出したけれど、僕たちが聞いてたのは前の曲。あとはチャーリー・XCX。特に『BRAT』以前の楽曲。『BRAT』は素晴らしいアルバムだし誰もが聞いていたと思うけど、実は僕たちは昔からチャーリー・XCXのファンなんだ。彼女はいつも先進的なプロデューサーと組んでいるし、彼女自身も自分の曲をプロデュースしている。すごく未来的で楽しくて面白いサウンドだよ。それから、彼女のアルバムをプロデュースしたA・G・クックも素晴らしいアルバムを何枚も出している。彼の音楽も僕たちのサウンド─特にメロディや攻撃性のあるプロダクション─に大きな影響を与えている。
あとは、具体的に影響を受けたアルバムとして3年か4年くらい前に出た、エレン・アークブロとヨハン・グレイデンの『I get along without you very well』がある。ベース・クラリネットやチューバ、トロンボーンのアレンジが美しくて、今回の僕らのアルバムでどうやってそういう楽器を取り入れようかと考えていた時に参考にしたんだ。これは今まで話していなかったから伝えるべきだと思うんだけど、前回からの変化として、フレディとアレックスが担当していたトランペットとサックスを使うのをやめたということがあるんだ。その代わりにベース・クラリネットやトロンボーンみたいな低音域の楽器や柔らかい音の楽器に変えた。この変化はエレン・アークブロのアルバムが影響していると言えるね。この二つの楽器の関係性を追求して、低音域を探ってみたいという意図があった。
──「Tell me I never knew that」にはキャロライン・ポラチェックが参加していますよね。正直かなり意外だったのですが、彼女が参加した経緯はどのようなものだったのでしょうか?
M:あの曲はかなり昔からあったものだったんだ。キャスパーが作ったギター・ループがあって、僕らはそのループが大好きだった。二度目の音楽合宿でフランスに行った時だったかな、ループしているそのメロディが砂糖のように甘ったるく中毒性が高くて、みんなで何度も聞いて一緒にヴォーカル・メロディを書いていった。あるヴァージョンが完成した時に「これはキャロライン・ポラチェックが歌いそう、彼女が書いてそうな歌だね」ってみんなで話していたんだ。僕らはみんなキャロライン・ポラチェックの大ファンでアルバム2枚とも夢中で聞き込んでいたからそんなことを言ったんだと思う。その後1年くらい彼女に歌ってもらえるか聞いてみようか?って考えたりしてたんだけど、真剣に検討してたってわけじゃなかった。でもある日、「とりあえず聞いてみよう」って意を決してインスタグラムで彼女にメッセージを送ったんだ。僕たちの音楽について以前彼女が投稿してくれたことがあったから、そこまでクレイジーなことじゃないって思って。少なくとも彼女は僕たちの音楽に興味を抱いていくれたみたいなんだから。そしたらすぐに「もちろん!」って返信があって。それで1ヶ月後にレコーディングの為に彼女に会った。本当に素晴らしかったよ。彼女は追加のハーモニー・パートを書いてきてくれたし、たくさん即興のパートを録らせてくれた。その後編集する時に再び会って録音した全てのパートを曲に組み込んだ。彼女は本当に凄い人だよ。実際に仕事ぶりを目の当たりにして、本当に凄い人だと思った。
──びっくりついでに聞いてしまうのですが、「Coldplay cover」というタイトルの曲がアルバムに収録されていて驚きました。これは曲の出発点が、コールドプレイっぽい曲だったというところから来ているのですか?
M:そう、この曲のゆっくりで、陳腐な、アコースティックな感じが、少しコールドプレイっぽいなと思って冗談でこのタイトルをつけていたんだ。この曲が2つの曲みたいに分かれる前の、デモ・ヴァージョンの時の話だよ。何か名前をつけないといけないから、その場で思いついた適当な名前をつける。この時もジャスパーが「Coldplay coverでいいじゃん」って言ったんだ。おかしいのはこの曲はなんのカヴァーでもないのにカヴァーって言っていること(笑)実は今回のアルバムの多くの曲はデモの名前をそのまま使ったものなんだ。「Total euphoria」もその場で思いついたデモの名前だったし、「Song two」もそう。だから「Coldplay cover」もそうだったわけなんだけど、本当にバカバカしい名前だからそのままにしたら笑えるみたいな感じだった。
──歌詞についての話も聞かせてください。キャロラインの歌詞は聞き手の頭の中のイメージを呼び覚ますきっかけとなる、キーワードや呪文のようにも思えます。かなり響きを意識しているように感じるのですが、実際にはどういうところから歌詞を思いつくのですか?
M:“呪文”という表現はいいね。確かに歌詞は反復したマントラみたいなものだから。別にそういうものにしないといけないというルールはないんだけど、結果としてそういうものができるんだと思う。ジャスパーが大部分の歌詞やヴォーカルのメロディを書いているから、彼の言葉を代弁して答えたくはないけど、でも今回のアルバムでは前回よりも歌の部分や歌詞をみんなで書いていたよ。書き方で特徴的なのは、90%は即興でできたものだということ。即興で歌ったものや即興で作られたメロディ、サウンド、リズム。即興で歌い始めると、音節やリズムが徐々に言葉という形を帯びてくる。脳がその音を聞いて、自分の知っているものに自然と近づけていこうとするからね。歌詞はそうやって作られることが多い。即興という形から始まり、徐々に言葉という形になっていく。マントラのような反復する響きは、キャロラインが作る音楽に昔からフィットしていたと思う。けどそれと同時に歌詞にはある感覚も求めているんだ。僕たちが歌詞やメロディとして残すものは、いつだってキャッチーなものなんだ。それがおかしいよね。マントラみたいな感じなのに、ポップ・ミュージックのようなメロディでもある。僕たちはそういう組み合わせが大好きなんだと思う。
──提供された歌詞の改行・配置が独特で暗号のようにも思えたのですが、これは意図してのものなのですか? レコードなどフィジカルで何か仕掛けがあったりするのでしょうか?
M:そういうところに気がついてくれたのは嬉しいね。歌詞の配置をしたのはジャスパーなんだ。秘密の仕掛けはないと思うけど、でもレイアウトを見た時に即座に彼が何でそうしたかが理解できた。言葉のペースが把握できるというのもあるし、何よりも曲のキャラクター(登場人物)の立ち位置みたいなものがつかめる。音を加工したりデジタル的な処理をほどこしたことで、一つの曲の中に複数のキャラクターがいるように感じられるんだ。歌詞が分かれて表示されていることで、そのキャラクターたちが登場する場面が明確に分けられている。もしくは二人の人物が同時に歌っているけど、合唱しているわけではない、そういう歌の動きを歌詞の配置でうまく表現していると思う。僕にとっては凄く納得のいく配置だよ。ヴォーカルのタイムラインを“可視化”したみたいな感じなんだ。
<了>
Text By Casanova.S
Photo By El Hardwick
Interpretation By Emi Aoki

caroline
『caroline 2』
LABEL : Rough Trade / BEATINK
RELEASE DATE : 2025.05.30
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