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BEST TRACKS OF THE MONTH – September, 2019

TURNライター陣による、2019年9月のベスト・トラック紹介!

Cashmere Cat – 「WITHOUT YOU」

アリアナ・グランデ、カニエ・ウエストなどなど数多くの大物と楽曲を制作するノルウェー出身のミュージシャンであるカシミア・キャットのセカンド・アルバム『PRINCESS CATGIRL』に収録された「WITHOUT YOU」はティーンのポップシンガーだったヘイリー・スタインフェルド「Love Myself」(2015年)をサンプリングしている。「Love Myself」は、みんなで盛り上がれる陽性のポップソングというだけでなく自分を愛することの大切さ訴えて、失恋からの立ち直りソングとしても支持された、MVは2億5千万回以上再生されている大ヒット曲だ。しかし、それを下地にした「WITHOUT YOU」は、元ネタと全く逆の感情をつづっている。それは恋愛に溺れ、居なくなった相手に対する後悔。

ハードな感覚を持ったゴツゴツしたビートが感傷的なメロディーを解体して再構築するサウンドは「With Me」(2013年)でも見られる彼のスタイルだ。バイタリティーと幸福な感覚に満ちた原曲が、真逆の失恋引きずりソングへ変貌しているのが面白い。執拗なまでの“Without You”のリフレインは、引きずりを超えた怨念のようにも思えてくる。(杉山慧)

Cate Le Bon & Bradford Cox – 「Secretary」

今年の顔の一人といってもいいケイト・ル・ボンが絶好調だ。海外メディアで高い評価を得ている最新アルバム『Reward』の日本盤も遅ればせながら11月にリリースされるが、ウェールズ出身ながら現在はLAを拠点に活動している彼女は、先ごろ発表されたデヴェンドラ・バンハートのニュー・アルバム『Ma』にも参加するなど今や引っ張りだこの活躍を見せている。そこに届いたディアハンターのブラッドフォード・コックスとの共演曲がこれ。去年のフェスで初めて顔を合わせたのをきっかけに、ディアハンターの今年頭にリリースされた新作『Why Hasn’t Everything Already Disappeared?』にケイトが参加、そして間髪入れずにコラボでEPをリリースするという流れだったようで、この曲も一週間で共作し録音までしてしまったのだそう。にも関わらず、ミレニウムやサジタリウスを思わせる室内型サウンドになっていて、明らかにケイトに寄せたようなクラシカル~アート・ポップ・タッチの素晴らしい仕上がりになっていてその丁寧なアレンジや構成に驚かされてしまう。ブラッドフォードの影があまり感じられないが、逆に言えば音作りに徹した彼の献身的な仕事には拍手を送りたい。ケイトとの作業でもお馴染みホワイト・フェンスのティム・プレスリー、ウォーペイントのステラ・モズガワらも参加。(岡村詩野)

Gang Starr – 「Family and Loyalty Featuring J.Cole」

まさかギャング・スターの新曲を聴くことができるとは!DJプレミアは匂わせていたものの、グールーが他界してからもう10年が経過しようというときに、それもギャング・スターとしては実に16年ぶりの新曲である。なによりそんな驚きと興奮の中でわたしたちに大切なことを伝えてもくれる。

ローファイ感漂うビートにクラシックなピアノのサンプルがメインのDJプレミアのトラックにグールーのいなたいフロウが重なり、本曲が最後の客演だと仄めかしていたJ.コールの“グールーはダイヤモンドのように永遠にフロウする”というラインの通り、どの時代もフレッシュに響く。そしてコールの視点は若い世代へと向かい「もう少し生きて、痛みから賢明さを学べ。それは別の理解をもたらす」と説く。世代を超えて繋がった彼らだからこそそこに説得力がある。そして同時に今、世界が注目するアクティビスト、グレタ・トゥーンベリ氏の演説を若者と大人の対立構造へとすげ替えようと煽る人々にも刺さるのではないだろうか。我々は先達から学び、ときに手を取り合い、未来へと歩を進めるのだから。(高久大輝)

Post Malone – 「Enemies feat.DaBaby」

歯切れの良いプラック音がリズムを刻み、深みのあるしわがれ声が少しだけ陽気に舞う。ポスティと多くの名曲を作り上げてきたプロデューサーのルイス・ベルにとって、余計な装飾は必要なかった様だ。2コードをベースとしたループでありながらも、聴くものを最後まで退屈させない。コーラスパートの美しく浮遊感のある教会音楽的アレンジが束の間の休息感やノスタルジーを演出し、緩急ともなっているのだ。最も、この曲を一つのポップソングとしてより優れたものとさせているのはダベイビーことジョナサン・カークのラップヴァースであることは間違いないだろう。

ラップ始まりの”Enemies(敵)”と”Energy(エネルギー)”の押韻に象徴される様に、自分にとっての”Enemies(敵)”を”Energy(エネルギー)”とし、エッジの効いたユーモアを交えながらかつての友人達を痛烈かつドライにこき下ろす彼のラップは、ポスティのぼんやりとした嘆きをもすくい上げ、意識的にアンサーを出している様でもあり、結果、ポスティのヴァースの持つ意味をも浮き彫りにさせている。ダベイビーのラップがポスティのヴァースを何倍にも増幅させる要素として機能しているのだ。ポスティとダベイビー。時に過去を振り返りながらも、感傷的空気とは一定の距離を置き、あくまでもドライに今を歌おうとする二人の姿が、まさに2020年に向かっていくヒーロー像として浮かび上がるのではないだろうか。(Si_Aerts)

Rex Orange County – 「10/10」

ブリット・スクール出身の若きポップ・マエストロ、レックス・オレンジ・カウンティ。本曲は来月発売のアルバム『PONY』のリード・トラックで、アルバムの1曲目にあたるようだ。

ブリル・ビルディング産のウェルメイドなポップスをまるごとポップ・パンクのグルーヴに乗せたような、ある種飄々とした佇まいが彼の持ち味。しかし本曲は、ぶ厚いシンセサイザーとドラムマシン、後半のギターソロのみで構成されたとてもシンプルなナンバーとなっている。彼のライブは基本的にバンド編成だが、実際今年のグラストンベリーではシンセサイザーの弾き語りで披露されていたらしい。

これまで原則配信のみでリリースを行い、ヒップホップ・アーティストにも近いインディペンデントな姿勢を貫いてきたレックスだが、今作はソニーミュージックに移籍して最初のリリース。制作も、ベックやアデル等トップクラスの面々を手がけたエンジニア、ベン・バプティと共に行っていたようだ。目まぐるしい社会と自らの身辺をナイーブに憂うようなリリックは、活動を広げるにあたっての心をつくした告白にようにも思える。アルバム自体も、この曲のようにシンガーソングライター然としたアルバムになるのだろうか。心待ちにしているところだ。(吉田紗柚季)

Sinead O’Brien – 「A Thing You Call Joy」

言葉が先か、音が先か、それとも同時か。ミュージシャンである以前に詩人であるSinead O’Brienは間違いなく言葉が先だろう。アイルランド出身、現在はロンドンを拠点とする彼女のライヴは、今はバンド・スタイルだが、以前はBo Ningenのツジ・ユウキなどのサポート・ギターを伴って詩の朗読でライヴを行っていたこともある。曲自体は以前からあるが、ライヴを行う中でブラッシュ・アップを行い、今回、リリースとなった。

言葉の語感を大事にする彼女の音楽は、歌っているよりも詩を朗読しているといったほうがしっくりくる。黄昏時の明暗二つの光の間にいるあいまいな感覚(Thrown two ways at twilight.)を表現しているかのような詩を補強する音は、淡々としたダークなバンド・サウンド。彼女の力強い意思を持ったアルト・ボイスにも合う。このスタイル、彼女も敬愛するポスト・パンクのレジェンド、詩人と呼ばれたマーク・E・スミスを思い出される。

BBCRadio1のNext Waveに選出され、The Brian Jonestown Massacreやガール・バンド等のミュージシャンからの支持もある彼女、今後の活躍が期待されるところだ。(杢谷えり)

思い出野郎Aチーム – 「同じ夜を鳴らす」

平日は仕事をし、土日の余暇でアホな友達らと音楽を鳴らして楽しく暮らしていた“WEEKEND SOUL BAND”である思い出野郎Aチームが、なぜに社会の閉塞感やヘイト・クライムに対する憂いを歌わねばならんのだ!3作目のアルバムとなる『Share the Light』はこれまでの彼らのパーティー・チューンに忍んでいたレベル・ミュージックとしての側面が表裏入れ替わって前面に出た仕上がりになっている。冒頭を飾る本曲はゴスペル調のオルガン・フレーズから高橋一(Vo / Tp)が歌にもラップにもならなかった言葉を乗せていく。夜通し続くパーティーの狂乱とは程遠い“憎しみに慣れすぎた午前四時の街”を歌うシリアスな内容だ。しかし彼らのレベル・ミュージックはシュプレヒコールを促すものではない。タイトルに冠した「the Light」はスポットライトではない。今、辛く悲しんでいる人たちに救いの祈りを捧げ、希望の灯火を分けあおうとしているのだ。またしこたまに楽しいだけのパーティー・チューンを鳴らすために、彼らは社会と向き合う。(峯大貴)

パソコン音楽クラブ – 「hikari feat.長谷川白紙」

電気グルーヴ、YMOやケン・イシイに衝撃を受け、中古のシンセやサンプラーを買い集めて夜な夜なしょうもない楽曲を作るといういかにも90’sな中高生時代を過ごした私にとって、パソコン音楽クラブのベッドルームの打ち込み感あふれる音像はお腹のあたりがこそばゆくなる楽しさをもたらしてくれる。それと同時に、ユニット名にも象徴されるこのいかんともしがたいナード感を、洗練されたサウンドのど真ん中にぶち込んで2019年のダンスミュージックとして成立させてしまう思い切りの良さと卓越した技量に、完全に新しい世代のダイナミズムを感じずにはいられない。

最新アルバム『Night Flow』のラストを飾るこの「hikari」では長谷川白紙とコラボレーション。彼のデビュー作『草木萌動』も、古今東西のエレクトリックミュージックを鼻から思いっきり吸い込み一気に放流したような大傑作だったが、この曲を聴くとボーカリストとしての存在感もすでに次の地点に達していることが伝わってくる。ボカロ/歌い手文化までも取り込んだメロディを過剰なまでに性急なビートに乗せたドラムンベースポップチューン。これこそ真のクールジャパンと称すべき、感じる楽しさと読み解く喜びに満ちた、オタク文脈の最新形態と言えるだろう。(ドリーミー刑事)

Text By Si_AertsDaiki MineSayuki YoshidaDreamy DekaShino OkamuraKei SugiyamaDaiki TakakuEri Mokutani

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