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Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Four Tet – 「Daydream Repeat」

フォー・テットことキエラン・ヘプデンが3月15日にリリースする新作『Three』からの先行曲の一つ「Daydream Repeat」は、春の訪れを感じさせるダンス・トラックだ。心地よく弾むテクノ・ビートに吹きすさぶ北風のようなノイズ、そして立ち現れる美しいメロディ。そろそろ桜の木はその枝に蕾を蓄えている頃だろうか。そんな感慨にも耽りたくなる、新たな季節が訪れ、それに慣れる度に、懲りることなくまた新たな季節の到来を待ちわびてしまう私たちを肯定する一曲だ。まずは『Three』の全貌を楽しみに、まだ冷える晩冬を乗り切りたい。(高久大輝)

Ghostly Kisses – 「Keep It Real」

昨年12月に初の来日公演を行った、カナダ・ケベック拠点のSSWマルゴー・ソーヴェことゴーストリー・キシズ。心理学を専攻した彼女は曲作りも感情や考えを整理する作業だと語り、この「Keep It Real」も心の一連の動きが見出せるだろう。トレモロの揺らぐシンセサイザー、そこに彼女の幽玄な歌声が絡みあい、ふくよかな揺れは増していく。こうした変化は些細なことに反応する気分の波をも表しているように思えた。5月リリース予定のセカンド・アルバム『Darkroom』はホームページ上でリスナーからの物語を集った“Box of Secrets”を介して制作されたという。心情をつなぎ合わせる彼女の新作を楽しみに待ちたい。(吉澤奈々)。

Nia Archives – 「Silence Is Loud」

孤独を感じたり気持ちがふさいだりすると、心拍がドカドカうるさく感じることがある。静寂すらもやかましい。そんな不安を抱えているのは自分だけじゃないんだなと安堵。いや、騒々しいジャングル・ビートはあまりに攻撃的、まるで責められているみたいだ。不在を嘆いているのはニア自身の弟のこと。語尾には過剰にエコーがかかっている。「君がいないないないない、、、」。声はこだまし増幅し、自分を守るコクーンとなる。彼女の“デビュー作”は4/12にリリースされる。例えばリキッドでatmosphericなドラムンベースもいいけれど、身体はもっと暴動を求めているはず。暴れて動く、つまり全てをかなぐり捨て踊るということだよ。(髙橋翔哉)

Reyna Tropical – 「Conocerla」

レイナ・トロピカルはLA在住のメキシコ系アメリカ人でクィア・アーティストのファビオナ・レイナを中心とするバンド。彼女は《She Shreds Media》という女性とノンバイナリーのギタリストに特化したカルチャー・マグ(ウェブサイト)の創設メンバーだが、コロンビアやプエルトリコなどを旅しながら作ったという曲をバンドでまとめたデビュー・アルバム『Malegría』を3月29日にリリースすることになった。これはそのリード・シングルで、その名の通りトロピカルなディアスポラを反映させた妖しくも幻想的な風合いのギター・リフとソフトな歌がクセになる1曲。アルバム・タイトルはマヌー・チャオの同名曲から頂いたもので、スペイン語をブレンドした“悪い幸せ”を意味する言葉だとか。クィア、人種的な壁などをテーマにしたというアルバムが本当に待ち遠しい。(岡村詩野)

youbet – 「Seeds of Evil」

ブルックリンを拠点として活動し、シャロン・ヴァン・エッテンやカサンドラ・ジェンキンスのリリースでも知られる《Ba Da Bing!》から2020年にはアルバムをリリースした、ニック・リョベットを中心としたバンド、ユーベットによる最新楽曲。ユニークなビートとうろうろとあてどなく道を彷徨うように演奏されるギター、歌うように鳴るエレクトリック・ピアノが絡み合い、魅惑的なフォーク・ロックに仕上がっている。ミックスは過去作にもプロデューサーとして関わっていた、ビッグ・シーフのギタリスト、バック・ミークのソロ・バンドでもギター・メンバーとして活動するアダム・ブリスビンによるもので、本曲の幻惑的なギター・サウンドの魅力を存分に作り出している。(尾野泰幸)

霊臨 & :Plue – 「アートかっこいいじゃん」

静寂なんてない。外に一歩踏み出せば、いや部屋を出なくとも、広告や実質を伴わぬフレーズがこびり付いた無数の口が、声高にアイデンティティをアピールしている。「繊細だわやっぱ色彩が違う!」。うんうん。……ついに出たぞ、霊臨のキャリアにおける発火点の一つ、「アートかっこいいじゃん」のリメイク版が。斜に構えて周囲を馬鹿にして、美術と服と女の子を語ってる “俺” が聴いたらどーかなっちゃうな。:PlueによるJersey clubとPluggをミックスしたようなトラックは、国外に点在する先鋭的なコミューンと共振。霊臨は頭文字Dのサントラばりに失速を知らない。焼き直しは一度もしていない。歴史は自分の手で作り変えていくものだよ。(髙橋翔哉)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

Ålborg – 「Felt」

2月の個人的なトピックの一つは昨年《カクバリズム》からデビューしたÅlborg(オールボー)のライヴを観たこと。全て英詩による最新USインディ・フォークと完全に呼応した音楽性、という外形的な特長は理解していたつもりだったが、実際に目の当たりにした彼らはスタイルありきではなく、聴き手と自分たちの間に真心を通わせようと本気で思っているバンドなのだと感じさせるものがあった。「言わなきゃいけないことがあるのにあなたはもういない」と深い孤独と後悔が歌われる新曲も、たおやかなリズムがそれを包み、トロンボーンが薄陽のような希望を映し出す。デコボコした人生における音楽の意義、なんてことまで考えてしまった。(ドリーミー刑事)

Jessica Pratt – 「Life is」

トロイ・シヴァン「Can’t Go Back, Baby」に「Back, Baby」がサンプリングされたこともあり、新作を心待ちにしていたところに届いたのはなんと、アコースティック・ギターのみのアシッド・フォークな空気から一転した、ブリル・ビルディング・ポップ的プロダクション。彼女の時代を超越した荘厳なヴォーカルとともに、時代との距離を測り自分自身でいようと宣言するリリックに圧倒される。来たるニュー・アルバムはカリフォルニアのダークサイドを象徴する人物たちが下敷きにあるとのことで、ケネス・アンガーやスタン・ブラッケージ、スコット・ウォーカーのステージ・パフォーマンス(!)からインスパイアされたMVも、その世界をめくるめくビジュアルで写し取っている。(駒井憲嗣)

Lip Critic – 「Milky Way」

NYの地下に蠢くツインドラムの凶獣。アイドルズやScreaming Femalesのツアーで前座を務めるなど着実に各地のリスナーを“わからせている”Lip Criticが、5月に《Partisan Records》よりデビュー・アルバム『Hex Dealer』をリリースする。家畜の鳴き声とユニゾンするシンセサイザーが汚く響く先行曲「Milky Way」は、彼らの新たな名刺となりうる一曲だ。フォンテインズD.C.をデス・グリップスがリミックスしたらこうなるんじゃないか? 国内スカム/ハードコア勢とも共振する、ダーティーかつダンサブルな彼らにぜひ注目を。(風間一慶)

Mac DeMarco – 「僕は一寸」

細野晴臣『HOSONO HOUSE』の50周年を記念するカヴァー・アルバムは、《カクバリズム》や《Stones Throw》などが協働し国内外を越えたアーティストが参加するようだ。すでに「Honey Moon」をカヴァー(2018年)するなど、参加は必然と言えるマック・デマルコは「僕は一寸」というテーマにどう答えたのか。ギター一本(と最低限のシェイカー)による剥き出しの弾き語りスタイルに、日本語詩の歌声が驚くほど生々しく響く。いい曲を教えてあげるよ、とおもむろに歌い始めたような親密さも宿しながら、その魅力を再確認させてくれるだろう。そして何より、そんな飾り気のない実直なカヴァーから尊敬するヒーローへの敬愛を十二分に感じないだろうか。(寺尾錬)

Maya Q – 「Starburst」

3月にリリースされる《Wisdom Teeth》のコンピレーション・アルバム『Club Moss』に収録の一曲。爽やかで穏やかで、初夏の夜のようなドラムンベースだ。Maya Qの拠点はロンドンで、活動を始めたのは2020年頃から。初期はクラブのフロアを前提としたトラックを中心に制作していたが、昨年の『it’s only forever』はよりポップで控えめなEPだった。水の音を織り交ぜたり、ニューエイジ的なサウンドとフレーズが聞こえたりもする。yunè pinkuやジョージ・ライリーと並べたい気もするが、もっとローテンション。Maya Qの今後の作品もコンピレーション・アルバムのリリースも楽しみだ。(佐藤遥)

MICHELLE – 「DNR」

アーロ・パークスやミツキのオープニング・アクトを務めるなど、注目を集めるNYを拠点に活動する6人組コレクティヴMICHELLE、最新EPからの一曲。この最新作では、フェニックス「LISZTOMANIA」を通過したモータウン・ビートが心地よい思わず踊りたくなる「GLOW」や、シンプルな楽曲も4人のマイク・リレーで映画の場面が変わっていくような効果を持たせている「NEVER AGAIN」など、全編通して完成度の高いEPだ。本楽曲は、コレクティヴの特徴の一つでもある4人の歌声を重ね合わせていくコーラスが心地よく、ロック・バンド然としつつも、コーラス・グループの魅力も併せ持つ部分が出ている。(杉山慧)

mongtong – 「Felt」

台湾のインディー・バンドmongtongが今春、新しいEPをリリースするとのこと。今回は、シングルとしてリリースされた、この”感じる”べき音について書こうと思う。 縦/横・音階・キメなどを含んだ、THE音楽という場所とは距離があるように思う。それは、低下層で蠢いている何かの振動、自然で言うと地層や樹幹流、身体で言うと脈。だからか、ドクドクする。台湾の民間伝承や伝統音楽から着想を得ている彼らの音からは、いつも音楽とかけ離れた情景が浮かぶ。私には、ベース、ジャンベ? タイの伝統楽器「ピン」…?といった程度しか使用楽器や演奏方法が分からないが、抽象的であればあるほど、聞き手が発想する余地のある良い作品だと思う。是非、mongtongの奏でる音を自由に感じてみてほしい。(西村紬)

SHERELLE – 「HENRY’S REVENGE」

シェレルはロンドンのDJ/プロデューサーで、ジャングル~ドラムンベースのレーベルである《Hooversound Recordings》も共同運営している。また、昨年9月からBBC《Radio 6》でも番組を担当するようになったが、その前後に電車で強盗に遭ってアルバムの音源すべてを失ってしまったという。このトラックはその衝撃的な事件からの再出発となる1年ぶりのシングルで、やりようのない怒りを性急なビートに叩きつけているようで、再び制作されるアルバムも失われたアルバムとは大きく変わってきそうな予感も抱かせる。なお、曲名のヘンリーとは英国でよく見られた掃除機のキャラクター。そういえば最近はあまり見かけなくなった。(油納将志)

Text By Haruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiNana YoshizawaIkkei KazamaRen TeraoTsumugi NishimuraDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono


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