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BEST 9 TRACKS OF THE MONTH – August, 2021

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Coco – 「Knots」

ダーティー・プロジェクターズのマイア・フリードマン、ダン・モラド(Lucius、Chimney)、オリヴァー・ヒル(Pavo Pavo)による3人組がこのCoco。「Empty Beach」「One Time Villain」「Last Of The Loving」と去年から発表してきた曲は全て清楚なハーモニーを生かしていて優美だが、今回の新曲が最も翳りや儚さが歌詞にもメロディにも投影されている。「私たちの昨日は全て消えてしまった」というフレーズに心を痛めつつ、10/29にリリースされる予定のアルバムにこの壊れ落ちそうなほどに美しいメロディと調和がどのように形作られるか楽しみにしていたい。(岡村詩野)

ermhoi – 「Mountain Song」

小林うてならとのユニットでの活動、映画劇伴の共作に加えソロでのリリースも加速させ、ここにきて八面六臂の活躍を見せているermhoi。実際ここ数作のシングルでは、トラックも歌唱も分厚い殻を突如破って出てきたような印象がある。特に本曲は出色だ。コントラバスやパーカッションや琴のような楽器のサウンドを交えたオーガニックな響きを生かしたサウンドにはブライアン・イーノを思い浮かべ、millenium paradeといった大所帯での歌唱の経験も影響しているのか、強くしなやかに進化を遂げたヴォーカルには突き抜けるような生命力を感じさせる。ビョークにも肉薄すると思うがそれよりもずっと人懐っこく、6分50秒があっという間。森林浴のような清々しい1曲。(井草七海)

Kevin Abstract – 「SIERRA NIGHTS (feat. Ryan Beatty)」

ケヴィン・アブストラクトの新作アルバムから2曲目のリード・シングル。プロデューサーには、Romil Hemnani、Goldwash、Baird、客演にはRyan Beattyと、ケヴィンがリーダーを務めるブロックハンプトンで繋がりのある面々が揃った。チープさのあるMVを見ても「レトロフューチャリズム」をコンセプトにした彼らの直近作『ROADRUNNER: NEW LIGHT, NEW MACHINE』(2021年)と繋がる部分もあるだろう。跳ねるビートに合わせて「リストラされた / テキサスのガキだった俺はLAを夢見ていたんだ」と始まるこの曲で語られるのは、少年時代と大人になった今のことや恋のあれこれについて。アルバムの全貌はまだ明らかでないが、グループとソロでどのような違いを見せるのか楽しみだ。(高久大輝)

Joyer – 「IWas Wrong」

ニックとシェインのサリヴァン兄弟によるユニット、ジョイヤーが9月にリリースするニュー・アルバ厶『Perfect Gray』からのリード・トラック。素朴で淡色なアコースティック・ギターが基調となるも、歪み轟きながら空間を埋め尽くすダークかつサイケデリックな音色のエレクトリック・ギターとシンセサイザーが重なり合いながら展開することで楽曲はまだら模様に色を変えていく。落ち着いたテンポと暗いメロディー、思索的な情感を伝えるボーカル・スタイルはスロウコア的と言えるだろうが、フォークとドゥーム的な音像を横断する幅と厚みのあるサウンド設計がこのユニットにオリジナリティを付与している。(尾野泰幸)

環ROY – 「Flowers (冥丁 Remix)」

昨年のアルバム『Anyways』収録曲のリミックス企画『Anyways Remixies』。角銅真実による「憧れ」のリミックスに続いてリリースされたのは、冥丁による「Flowers」のリミックス。原曲でもノスタルジックな印象は強かったものの、リミキサーである冥丁のヒスノイズに覆われたサウンドと、とりわけ女性をひとつのモチーフとした『古風』(2020年)の流れを汲むようなヴォーカル・サンプルは、別のアングル(これについてはどこかで詳しく書きたい)からノスタルジーに光を当てている。環ROY自身が全曲、作曲までを手がけた『Anyways』だからこそ、リミックスという批評的な試みがひときわ面白い。(高久大輝)

Pegasus Warning – 「First Will Be Last」

LA拠点のモッキーと音楽を共にするシンガー達を辿っていくと、ニア・アンドリュースやジョーイ・ドーシック、モーゼス・サムニーら素晴らしい面々に気づく。この人、ペガサス・ウォーニングもその1人で、本楽曲は約5年ぶり待望の新曲だ。《ザ・レイト・レイト・ショー》のハウスバンドでドラマーとしても活動する本名ギレルモ・E・ブラウン、本名名義での諸作は複雑なビートが絡み合う実験的な表現が面白い。本楽曲では、歌に専念した印象の強い前作EPからイメージを変え、リヴァーブの効いたピアノと多重コーラスによってスピリチュアルに、ドラマーとしての諸作にあるような前衛的で重厚感あるビートによってミステリアスにも感じさせ、作曲やセルフ・プロデュースに重きを置いた印象。この刷新は以降の展開に期待が募る。(加藤孔紀)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴きる逃し注意の楽曲をピックアップ!

cero – 「Nemesis」

艘は去り太陽は翳った。これまでの活動で象徴的だったモチーフに別れを告げる本作は、前作シングル「Fdf」以降の日々で僕らが直面することとなった、時代の受難と失われたものの残り香が影を落としている。だが小田朋美(CRCK/LCKS)と角銅真実が繰り返す「interplanetary(惑星間の)」などの宇宙のモチーフは、これから向き合わなければならない苦難の底知れなさを匂わせつつも、どこか前向きな決意も感じさせはしないか。『POLY LIFE MULTI SOUL』の複雑なリズム解釈を血肉化し、簡素ながらも多様な響きが絡み合うceroの新章。不安や葛藤も抱えながら、僕もともに次の時代へと歩み出していきたい。(阿部仁知)

Francis – 「反撥 Repulsion」

なんと27年。ギネス級の空白期間を経てニューアルバムをリリースする小里誠のソロプロジェクト・Francisの先行MV。かつてはオリジナル・ラブやザ・コレクターズのメンバーとして、その後は田島ハルコとのユニットやDJとして精力的に活躍する、東京の音楽シーンの裏通りまでも熟知した彼らしく、フリーソウル、シティポップ、ヴェイパーウェーブなど、この街の数十年を彩ったポップミュージックのエッセンスが漂っている。しかしこの曲の主役はなんと言っても彼の日本人離れした洒脱なダンディズムだろう。寡黙なベーシストがサングラスの向こう側に秘めていたかくも大胆な音楽愛。白根賢一、佐藤優介らが参加したアルバムにも期待。(ドリーミー刑事)

Okay Kaya – 「Nightswimming」

真夜中に仲間と裸で池に飛びこんでそのまま置き去りのシャツ、車のダッシュボードで反り返る色あせた写真、迫りくる九月、低く明るい月、思春期の無邪気な夏の終わりの風景を切り取った「Nightswimming」はR.E.M.屈指の名曲。マイケル・スタイプのケルアック的な散文詩を6小節で循環するピアノが永遠に閉じ込めた完璧なマスターピースを、ノルウェー出身のオケイ・カヤが軽やかに換骨奪胎して幾重にもレイヤーを重ねたカバーがとても美しい。失われた季節を想う感傷と郷愁。世界を変容させたコロナ禍と20年目の米軍アフガン撤退が後押しして僕の胸をかゆくさせる。アメリカ老舗インディーレーベル《Jagjaguwar》設立25周年記念コンピレーションからの先行配信。(山田稔明)

Text By Hitoshi AbeToshiaki YamadaDreamy DekaShino OkamuraNami IgusaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki Ono

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