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Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Knucks – 「I Suppose ft. Larry June(prod. Kenny Beats)」

昨年、SLやM1llionz、Ragz Originale、ストームジーらの参加したサード・アルバム『Alpha Place』でそのストーリテリングの才を存分に発揮し、自らがどこから来たのかを伝えた上でUKラップ界のスターの仲間入りを果たしたKnucks。そんな彼がサンフランシスコ出身のラッパーで最近ではThe Alchemistとのタッグ作を発表し注目を集めたラリー・ジューンと共に、来日公演も迫るケニー・ビーツのビートにライド。ケニー・ビーツらしいグルーヴィーなトラックに余裕のあるラップが癖になる。Knucksがこの先どこへ向かうのかにも注目だ。(高久大輝)

Lost Girls – 「With the Other Hand」

ジェニー・ヴァルとハヴァード・ヴォルデンによるノルウェーのプロジェクトが、10月20日に2020年のデビュー・アルバム『Menneskekollektivet』に続く新作『Selvutsletter』をリリースする。この曲は最初の先行曲「Ruins」に次ぐ新曲。ビートが立った曲だがレナード・コーエンにインスパイアされたそうで、なるほど例えばコーエンの『I’m Your Man』(1988年)あたりの神秘的なダンス・チューンに通じるものがあってとても興味深い。ヴォルデンが書いたコードをヴァルが手を加えて完成させたというプロセスは、ファースト・アルバムの時より制作スタイルが多様になっていることを伝えてくれる。新作が楽しみ。(岡村詩野)

My Brightest Diamond – 「Black Sheep」

これはとにかくMVを見てほしい。ASL(アメリカ手話)を用いたモノクロのクラシカルなフィルムと、かなりディープなゴスペル、ブルーズの要素を取り入れた楽曲とのコンビネーションが実に刺激的だ(コンテンポラリー・ダンサーのAnna Gichanとの共同制作)。スフィアン・スティーヴンスやデヴィッド・バーンらとの共演、交流でも知られるデトロイトのSSW、シャラ・ノヴァ(以前はシャラ・ウォーデン)によるソロ・ユニットの最新曲。主体性と自分の体の所有のことを歌った曲だそうだが、MVのASLではタイトルの“黒い羊”を表す言葉がないため、ASLで“黒人”を意味する“反逆者”と表現したという。つまりこの曲はレヴェル・ソングなのかもしれない。(岡村詩野)

Petey -「Did I Mention I’m Sorry」

デトロイト出身のシンガー・ソングライター/TikTokなどのソーシャルメディア・パーソナリティとして活動するPetey。9月22日発売の新作『USA』からの先行曲は感傷的なロック・ナンバーだ。レーベルを《Capitol Records》に移籍後はこれまでの電子音を抑えて、ピアノやギターの力強い側面を出すバンド・サウンドが多くなった。それでも自らの楽曲にはすべて“悲しみ”が共通していると語るようにどこか痛みを感じるのはPeteyのヴォーカルによるものだろう。落差のあるメロディー・ラインやシャウトをテンポよく繰り返し、静から動へと加速していく。そのさまは激しくも内省的なPeteyのアイデンティティを開放していくようでもあり、より爽快に感じられた。(吉澤奈々)

Sheer Mag – 「All Lined Up」

フィラデルフィア・ルーツのインディー・バンド、シアーマグは、70年代パワー・ポップ・ライクのカラっとした小気味いいバンド・サウンドと、ティナ・ハラデイの嗄れ声をパワフルに聴かせる印象的なヴォーカル・スタイルをもってこれまで自主レーベルからリリースしてきた過去作が各批評メディアにて軒並み高評価を獲得してきた。そんなバンドがこの度ジャック・ホワイトが主宰する《Third Man》とサイン。そしてリリースされた本曲は、これまでの彼らのバンド・サウンドを踏襲しつつもダンサブルで、軽やかなポップ・ナンバーに仕上がっている。現行インディー・バンドの中でもオールドスクールな、パンク、パワー・ポップ・スタイルを貫いてきたシアーマグだけに、次なる展開に期待が高まる。(尾野泰幸)

Skrillex, PEEKABOO, Flowdan & G-Rex – 「Badders」

黒々とした闇の中にわずかに感知できる、赤い光とうごめく生命体の気配。この白銀色の金属臭はどうやら血液のそれらしい。ミュータント化した昆虫の羽音のようなワブル・ベースも、Kingpin Skinny Pimpのカットアップされたラップも、ただリズムを刻むために奉仕する。凶悪なビートは、視認できないが膨大なエネルギーを増幅、蓄積させていく。スクリレックスがdrift phonkとriddimと、ふたりのプロデューサーの力を借りた享楽的な音は、私たちの孤独な心を豪快にドリフトさせる。かつてダブステップの破壊者とされたスクリレックスはこうして、夜を楽しむための音楽=ダブステップの古典的な在り方を取り戻したのだ。(髙橋翔哉)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

BLUEVALLEY – 「Hello」

ミナミタニキクミ(Vo/G)のソロ・プロジェクトから発展し、名古屋を拠点に活動するベースレス編成のスリーピース、BLUEVALLEYの新曲。昨年発表したファースト・アルバムは、人懐っこくも巧みに捻ったポップ・センスをタイニーかつローファイなサウンドで炸裂させていたが、今作はより直線的な疾走感で聴く者の心を鮮やかに奪っていく。夏の終わりのギター・ポップにふさわしい、成長と喪失を歌ったリリックもグッとくる。かつて青い森からやってきた4人組、スーパーカーのファースト・アルバムにも同じタイトルの名曲が収録されていたが、思わず並べて聴きたくなるような、成熟を拒否する未完成な魅力がこの曲にも宿っているように思う。(ドリーミー刑事)

Dream Sitch – 「Guessing While It Goes Around」

アメリカを拠点とするマイケル・ナウとフローティング・アクションによるサイケデリックかつプライベートな空気を共有したプロジェクトから、次作を期待させるシングル連発の中でも出色の1曲がリリース。つまづくように停止を挟む5拍子のリズムの上で滋味深いヴォーカルが流れる独特なバランス感の中に、奇妙だけれど穏やかな時間が生まれる。ナウのソロ作にも通底するフォークを基調としたソングライティングにサイケ、エクスペリメンタルのエッセンスがほどよく落とし込まれ、本曲のみならず勘所を押さえた曲が多い。ときおり坂本慎太郎が描く風景と交錯する瞬間もあり、国内でもより多くの人に届く余地があるのでは、と思わずにはいられない。(寺尾錬)

Flyte – 「Speech Bubble」

フライテはロンドンのハックニーを拠点にするウィル・テイラーとニック・ヒルのプロジェクト。セカンダリー・スクールで出会ったふたりの両親は共に国語の教師で、彼らも育つにつれて文学の影響を受け、英国の小説家であるイヴリン・ウォーの『ブライズヘッド再訪』の登場人物セバスチャン・フライテからプロジェクト名を拝借した。この優しく柔らかいアコースティック・ギターと控えめなピアノだけで歌われる小品は10月27日リリースのサード・アルバム『Flyte』からの先行トラックで、まさに秋を迎えつつある今の時期に聴きたい。7月末にリリースされた「Tough Love」ではローラ・マーリングが参加。彼女がお気に入りの人も、そしてキングス・オブ・コンビニエンスのファンにもおすすめ。(油納将志)

KID FRESINO – 「rose」

充分に響きを含んだサウンドは、リンドンと鐘が鳴っているかのように神聖で、継続的に横に流れてゆく。そんなメロディ上ではリリックならぬ、「」(カギ括弧)で囲まれた会話が進む。楽曲内では「Can I see a rose? 」「OK.OK.」 などの言葉に彼の声色が乗り、相手の反応や表情から感情を読み取ることで進むであろう会話を成立させているように思う。独り言のように聞こえることが多かったKID FRESINOの楽曲が、開けた対象に向かっていると感じられるこの「rose」。そして「」をより楽しめる、山田智和監督、小松菜奈出演のMVも見逃せない。(西村紬)

Niia – 「Targa ft. Ian Isiah (Logic1000 remix)」

ナイアの『Bobby Deerfield』に収録された楽曲を、シドニー出身でベルリン在住のDJ/プロデューサー、Logic1000がリミックス。“do it”、“Targa”など原曲で特徴的だった合いの手は一切カットし、ストイックなアシッド・ハウスに。詞にはタイトル通りタルガやパナメーラといったスポーツカーが登場する。スローモーションのようにピッチダウンされたヴォーカルは涙が車の後ろに落ちるほどのハイスピードを、耳を打つキックはその胸の高鳴りを、アルバムの制作時にナイアはスピードを感じさせるサウンドを最初にイメージしたというが、Logic1000は疾走感も高揚感も音の重みで生み出している。(佐藤遥)

pmxper – 「Lavender Milk」

Buttechnoとしても知られるPavel Milyakovと、PerilaことAleksandra Zakharenkoがエクスペリメンタルな新ユニットを結成。ふたりのDJ/プロデューサーが探求してきたエレクトロニック・ミュージックのテクスチャーをベースにしながら、ギターやベースによるアンサンブルが基調になっていて、アンビエントとシューゲイズが優美に絡み合うさまは、ジム・ジャームッシュ監督作品のサウンドトラックに収録されていてもおかしくない。発表されたデビュー作のなかでも、ポスト・パンクなサックスとリズムボックスにスポークン・ワードが折り重なるこの曲は、とりわけ匂い立つような空気感をまとっている。(駒井憲嗣)

Provoker – 「Valley Ghoul」

Yung LeanやViagra Boysらを擁するスウェーデンのレーベル《Year0001》より、ロサンゼルスのバンドProvokerのニュー・アルバムがアナウンス。2021年に同レーベルよりリリースされたデビュー・アルバム『Body Jumper』はその年の私的ベストのひとつでしたが、こちらの新曲はさらなるネクスト感で新作への期待もより高まります。レーベル印のエモ・ヴォーカルに泣きのニューウェーブが醸すメランコリーは、敢えて言うならあの頃の《Captured Tracks》に感じた以上の感動。サウンドというよりもその存在感という点において、今のbar italiaに対抗できるのは彼ら、と言っても過言ではないのでは。(小倉健一)

Ricardo Dias Gomes – 「Real News」

カエターノ・ヴェローゾにアート・リンゼイといったトロピカリアの大名たちからの薫陶を受け、朴訥なアヴァンギャルド〜ノイズ・ポップを生み出しているベーシストのヒカルド・ヂアス・ゴメス。今年6月にリリースした最新アルバム『Muito Sol』が絶賛を集めている最中、二つのシングルがドロップされた。その一つ、ゼロ年代のNYダンスパンクを思わせる「Real News」は、関わりのあるメタ・メタ周辺のアーティストたちとも繋げたくなる一曲。リバイバルの網ではおいそれと掬えない、良い意味での「食えなさ」が表出しているようなポップ・ナンバーだ。(風間一慶)

Turnstile & BADBADNOTGOOD – 「Mystery」

ターンスタイル『GLOW ON』(2021年)の中からBADBADNOTGOODが3曲リミックスしたEP『New Heart Designs』からの1曲。このEPの原曲の中でも最もハードコア/パンク色の強い楽曲だったが、BADBADNOTGOODの特色の一つであるエモいドラムをここでは封印し、最小限の楽器でBrendan Yatesのヴォーカルを際立たせた哀愁を帯びた楽曲へ作り変えている。このアレンジによって、様々な意味に解釈できる「頭に銃を突きつけられている」という歌詞が、戦争や紛争が絶え間なく続くこの状況をどうすることもできないのだろうかという憂いが滲み出ているように聴こえてくる。(杉山慧)


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