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BEST 14 TRACKS OF THE MONTH – January, 2022

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Daniel Rossen – 「Shadow In The Frame」

グリズリー・ベアのダニエル・ロッセンの、意外にも初となるソロ・アルバム『You Belong There』が4/8にリリースされるが、バンドの中枢を担っているのはやはりこの人か!と思える素晴らしい先行シングルだ。ソロとしては2012年にEPが発表されているし、2018年にも楽曲を公開しているが、この曲はそれらと地続きでありつつも、ティム・バックリィを思わせるような歌とフラメンコ調のギター・プレイなどでメランコリックなメロディに深い陰影をつけていく寂寞感ある仕上がりになっていて、人類の消滅、衰退を連想させるリリックにも震えがくる。現在サンタ・フェ暮らしのため録音はLAだそう。アルバムは今年のベスト候補になりそうですぞ!(岡村詩野)

Fred again.. , Romy, HAAi – 「Lights Out」

昨年はネット上に転がったサンプルをふんだんに用いて、この困難な時代を書き留めたプロデューサー、Fred again..。本楽曲は彼が様々なアーティストと毎月コラボレーションを行うシリーズの第1弾らしい。今回招かれたのは2020年にソロ・デビュー曲「Lifetime」(この曲にもFred again..はクレジットされている)をヒットさせたThe XXのロミーと、その「Lifetime」のリミックスも行った、現在ロンドン在住のプロデューサー/DJのHAAi。SNSには制作時の動画も投稿されており、その楽しげな雰囲気も微笑ましく、何より本人たちの意図通り、ライヴを締めくくるに相応しいクラブ・アンセムとなっている。「終わって欲しくない」。響くロミーの歌声は、朝を憂うダンス・フロアをそっと抱きしめてくれるだろう。(高久大輝)

ginla – 「Carousel ( feat. Adrianne Lenker) 」

ジョン・ネレンとジョー・マンゾリからなるエレクトロ・ポップ・デュオ、ジンラが3月にリリースするニュー・アルバムからのシングル・カット。フィーチャリングに迎えられたエイドリアン・レンカーの名前にまずは目を惹かれるが、元々ジンラの二人はニック・ハキムのレコーディング現場で出会い、エイドリアン・レンカーがソロで演奏する際のバック・バンドも務めていたというのだからビッグ・シーフ周辺人脈からいってここでのエイドリアンの参加も納得。一昨年にリリースされたエイドリアン・レンカーのソロ・アルバムを思わせるような穏やかで生々しいアコースティック・ギターの音色に乗りながらスモーキーなエフェクトをまとった歌声が心地よく耳へと届く。(尾野泰幸)

Tomberlin – 「​​​​idkwntht」

NY拠点のSSW、Sara Beth Tomberlinはこの曲で「誰がこれを聞くことを必要としているか分からない」と、自ら立てた問いの答えを確かめるように歌う。その確認作業は、ブルックリンのバンドTold SlantのFelix Walworthをヴォーカルに招いて行われ、特筆は、2人による歌唱が輪唱になっているところだ。同じ詩と(1オクターヴ違いで)同様のメロディ・ラインが反復されることで、その問いを考えるためのゆったりとした濃密な時間を曲中に作り出している。また、エイドリアン・レンカーの最新ソロ2作を手がけたエンジニアのPhilip Weinrobeが関わっていることが、素朴ながら奥行きのある音響に一役かっている気もする。(加藤孔紀)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

Amber Mark – 「FOMO」

NYを拠点に活動するシンガー、アンバー・マークのデビュー・アルバム『Three Dimensions Deep』には「人生の意味とは?」「回復は痛みを伴う工程」「自分を認めること」といったスピリチュアリティを感じさせるトピックが随所にちりばめられている。そんなことを常々考えながら部屋に閉じこもっていれば、取り残されることへの不安(FOMO )に飲み込まれるのも無理はない。どんな思考も感情も、一時的なものにすぎないと分かっているはずなのに。そもそも、幸せってなんだろう……? ええい、とりあえず外に出るのだ。グラスに氷が当たる音が聞こえてくると、なんかとりあえずこれで大丈夫な気がしてくる。(奧田翔)

DJ Python – 「Angel」

ディープ・レゲトンを標榜するDJパイソンが、2020年の『Mas Amable』以来となる新曲を発表。ディープ・レゲトンとはいわば、レゲトンのリディムであるデンボウに、環境音楽のミニマリズムと90年代のIDMへの憧憬を纏わせたような没入感のあるサウンドだが、彼はこの新曲で、そんなスタイルの中にラリー・ハードのディープ・ハウスの煌めきとDJスプリンクルズの浮遊感のある繊細なシンセ・ラインをミックスし、我々の時間感覚を喪失させる。その自分のいる場所と音が鳴る場所の距離を曖昧にするような音像は、昨年Soshi Takedaが《100% Silk》から発表した『Floating Mountains』と共振しているようでもある。(坂本哲哉)




Kae Tempest – 「More Pressure」

4月8日に4作目『The Line Is A Curve』をリリースするケイ・テンペスト。2020年8月にノンバイナリーであることを表明し、ケイトからケイへと改名して初の作品となる。その新作からのファースト・カットとなるこの曲を耳にして驚いたのは自分だけではないはずだ。その驚きは、言葉への装飾を限りなく排して、言葉と語感を際立たせる傾向がアルバムごとに強まっていたが、新曲では高揚感のあるエレクトリック・サウンドをまとい、楽曲との一体感が図られるようになったからであり、抑圧からの解放を訴えるポジティヴなリリックと共にケイの新たな出発を強く印象付ける。これまでの作品と同様にダン・キャリーがプロデュース、ブロックハンプトンのケヴィン・アブストラクトをフィーチャー。(油納将志)

Laundry Day – 「Did You Sleep Last Night?」

ギターのアルペジオと陽光そそぐ歌い出しは、ヴァンパイア・ウィークエンドの小気味よさを思い出させる。だが次の瞬間、バックストリートボーイズばりにどポップなコーラスへ雪崩れ込む展開に面食らう。LAUNDRY DAYのカタログを遡ると、この5人組は以前からラップも、オルタナティヴR&Bも、ダンスポップも一緒くたに混ぜ込んできたし、そういう「バンド」も今では珍しいものではない。しかしMVや制作風景のビデオに映る彼らはとりわけ、わちゃわちゃとして愛おしい。今夜、僕たちはなんだってできる。そんな突き抜けるような全能感とユーフォリックなヴァイブスもまた、2022年の幕開けに本来期待していたものだったりする。(髙橋翔哉)

Melody’s Echo Chamber – 「Looking Backward」

メロディ・ポシェットの彷徨は2010年代においてサイケデリックとはなにかを象徴していた、と言っても過言ではないだろう。ストックホルムでドゥンエンのレイネ・フィスケそしてフレドリック・スバーンを共同プロデューサーに迎えた2018年の『Bon Voyage』は、彼女の混沌としたサイケデリアがアナーキーなまでに振り切れていた。両者とのコラボレーションが再び実現した新曲は、グルーヴィーなベースが牽引するアップリフティングなナンバーで、4月にリリースされるアルバム『Emotional Eternal』が2012年のファースト・アルバムと『Bon Voyage』のちょうど中間に配置されるのでは、という期待を与えてくれる。(駒井憲嗣)

The Smile – 「You Will Never Work In Television Again」

トム・ヨークのキャリア史上最も明快なインディー・ロックと言ってもいいだろう。イタリアのベルルスコーニ元首相のスキャンダルをモチーフに、権力の腐敗を糾弾するリリックもいつになくソリッドで痛快だ。気迫のこもる歌声と荒々しいギター・ストローク、ベースを弾く盟友ジョニー・グリーンウッド、そしてパンキッシュなドラムを叩くトム・スキナー。この新プロジェクトが単にガレージ・ロックを志向しているわけではないことは3回に及ぶライブ配信やシングル第2弾「The Smoke」からも明らかだが、多様なキャリアを歩んできた3人が鳴らすからこそ一息で駆け抜ける2分48秒がどこまでも清々しく鳴り響く、この上ないデビューソングだ。(阿部仁知)

Two Shell – 「home」

ロンドン拠点のエレクトロニック・ミュージック・デュオがポップネス弾ける清涼なUKテクノをデジタル・リリース。なおホワイト盤のみ昨年11月に少量リリースされていた。デンマークのポップ・ミュージックからサンプリングしたどこか悲しげなメロディーや、ジャケットのグラフィックをそのまま音にしたような瑞々しい電子音にも心惹かれるけれど、何と言っても特徴的なのは、トレモロやフランジャーがかかっているであろうボーカルとシンセの蜃気楼のような揺れが生み出す不思議なグルーヴだ。揺れによる倍のテンポと疾走感溢れるビートにのって過ぎ去ってしまう、この掴みどころのない心地よさを求めて何度もリピートしたくなる。(佐藤遥)

北里彰久 – 「オアシスのまばたき」

去年の11月、名古屋城で開催されたお祭りで、久々に北里彰久のライブを観た。コロナ禍が少し緩んだ束の間を楽しむ人々でごった返す中、サウンド・チェックのために彼が童謡「赤とんぼ」の一節を歌い出した瞬間、会場の喧騒が消えたことを鮮明に覚えている。一年ぶりの新曲はそんな彼の光と憂いを湛えたボーカルを中心に据え、彼自身が演奏したギターや鍵盤が彩りを、光永渉によるドラムが安らぎをもたらした絵画的な美しさがある。一見シンプルなようで、配置や残響にまでこだわり抜いたことが伝わってくる丹念な仕事ぶり。まるであの(もう訪れないかもしれない)晩秋の光景をそのまま写し取ってしまったかのようで、深いため息が出てしまった。(ドリーミー刑事)

Sofia Kourtesis feat. Manu Chao – 「Estación Esperanza」

昨年のEP『Fresia Magdalena』で自分と家族の軌跡を綴ったパーソナルなハウス・ミュージックを開花させた Sofia Kourtesis。新曲はその内省的なアプローチを少し外に広げた印象だ。再生と同時に響き渡るのは、生まれ故郷のペルーで行われた反同性愛に対する抗議デモのチャント。トロピカルなコードと乾いたビートが先導する色鮮やかなダンス・トラックには、アクティビストとしても知られるスペイン系フランス人のSSWマヌ・チャオの楽曲の一節がふんだんに散らされている。そこにしっとりと重なる彼女の歌は祈りにも似た響きを持ち、より良い世界を思い描くための力を私たちに与えてくれるようだ。(前田理子)

王ADEN – 「妳是我寶貝ㄟ」

飲料メーカー・咖啡廣場CaféPlaza主催のコンテスト「站出來 音樂挑戰賽」の2019年第8回高校生の部で優勝を果たし、音楽活動をスタートした王ADEN。彼のサウンドメイキングは一貫してコンテンポラリーR&Bの潮流を強烈に感じさせ、その姿には台湾のみならず世界を見据えた強い意志を感じる。今回のシングル「妳是我寶貝ㄟ」は昨年リリースした初EP「ldfk」で見せたハードなビートとメロウなラップはそのままに、随所で聴かせるロマンティックなギタープレイ、上手く効かせた重層的なコーラスが加わり、その洗練さに磨きがかかっている。ØZIが先陣を切った台湾新世代R&Bシーンの進化から目が離せない。(Yo Kurokawa)


【BEST TRACKS OF THE MONTH】


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Text By Sho OkudaHitoshi AbeYo KurokawaHaruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiRiko MaedaDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoDaiki TakakuKoki KatoTetsuya SakamotoYasuyuki Ono

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