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Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Ainsley Farrell -「Fireworks」

カリフォルニア出身で現在はシドニーを拠点に活動するSSWのAinsley Farrell 。6月に発売されたニュー・アルバム『Dirt』からの「Fireworks」は陰鬱と爽やかさの入り混じるインディー・ロックだ。一貫してギターに軸をおいた音作りは伝統を重んじるよう。イントロのひび割れた音色、ギター・ソロのバッキングのリズムまで小気味良く覆いかかる。さらにヴォーカルの伸びやかな歌い回しも開放的。力強い女性ブルース・シンガーに影響を受けたそうで、アレサ・フランクリン、ベッシー・スミス、ビッグ・ママ・ソーントンなどを挙げている。MVはエメラルドグリーンの刺激が印象に残る。消え入りそうなギターの泣きにも耳をとめたい。(吉澤奈々)

Fiddlehead -「Sullenboy」

来る8月に来日公演も決定した、ボストン拠点のポスト・ハードコア・バンド、フィドルヘッドによる最新楽曲。力強く叫ぶヴォーカルと、シンプルだが厚みのあるサウンド・メイキングはまさにハードコア・ルーツのものだが、そこにバンドの特徴でもある快活でキャッチーなメロディーを組み合わせることで楽曲全体としてはライトで、耳馴染みよく構成されている。人生における避けられない恐怖や喪失感との対峙を歌うシリアスなリリックも印象的だが、それは「憂鬱という感情が有するねばつきの感覚」が大きな一つのテーマとなる8月にリリースされるサード・アルバム『Death Is Nothing to Us』と通底するものとなっている。(尾野泰幸)

KAROL G – 「WATATI (feat. Aldo Ranks) [From Barbie The Album]」

映画『バービー』のサントラからの先行シングル第2弾は、カロルGによる超ごきげんなレゲトン。8分で刻みつづける軽快な音に乗せて歌うのは、「ディスコで楽しい時間をすごそう/煙とお酒がいっぱいでもうフラフラ」と刹那的だがどこまでもハッピーなヴァイブス。フィーチャリングのAldo Ranksはパナマ出身のレゲエ・ミュージシャンで、2000年代から着々とキャリアと評価を築きあげてきた実力者。MVはピンク、イエロー、ライトブルーを基調としたキュートな色使い。カロルは映画でのマーゴット・ロビーと同じ衣装に次々と着替えながら、ビーチやショーケースや宇宙船(?)で踊る。そんなバブルガムで箱庭的なポップネスを携えた映画にも期待は募るばかり!(髙橋翔哉)

The Parade – 「I’m a Dreamer」

これがデビュー曲。つまりまだこの1曲しかない。スウェーデンはストックホルムの3人組という情報以外の詳細は何もわからず、ロウ・ティーンと思しき写真も本当に当人たちなのかわからない。けれど、少なくともこの曲はすごくいい。めちゃくちゃいい。90年代初頭、登場した頃のセイント・エティエンヌを思わせるノスタルジックでキッチュなダンス・ポップ。「音楽雑誌が貴重な財産であり、レコードショップが10代の夢想家たちの大切な聖域だった時代へのオマージュ」とのことで、実際にPVもヴェイパーウェイヴ感たっぷりだ。注目の双子女子による7ebra(デビュー・アルバム『Bird Hour』)と合わせて、スウェーデンのポップ新世代にぜひ注目したい。(岡村詩野)

Ragz Originale – 「not everyone can be a star (feat. LOLA)」

『BARE SUGER』はRagz Originaleのデビュー・アルバムだが、彼を新鋭と呼ぶのは少々憚られる。トッテナム出身の彼は、Oscar #Worldpeace、BenjiFlowと共にMinikingzでも活動している他、FKAツイッグスやソフィーとのコラボでも知られているが、何よりグライム・シーンで最も重要な曲の一つ、スケプタ「Shutdown」のプロデューサーとして多くのリスナーに認知されているだろう。そんなRagzが作り上げたのは、R&B/ヒップホップを中心にしっとりとした落ち着いたトーンで統一感のある、募った期待に答えるような素晴らしいアルバムだ。正直この中からどの曲を紹介してもいいのだが、彼のアイデンティティを最も端的に示すオープニング曲「not everyone can be a star」を選んだ。Ragzはデビュー作をルーツであるウガンダの言葉の朗読で始めている。(高久大輝)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

Boslen – 「Crazy」

バンクーバーに拠点をおくCorben Nikk Bowenのプロジェクト、Boslen。これまでの楽曲はラッパーとしての楽曲が多かったが、本作ではR&Bシンガーとしての彼の魅力が発揮されている。一聴すると清涼感溢れる歌声とメロディーが初夏を彩る爽やかな一曲だが、彼女と親友の関係を知り、彼女への憤りを歌うという真逆の内容だ。何度もリフレインされるクレイジーという言葉は、R&Bにおいて愛に溺れその魅力に抗えない表現として多用される。ここにはそうした側面も表現されているのではないだろうか。それにしても、この内容の曲をここまで爽やかに歌い上げる彼を、クレイジーだと思うのは私だけだろうか。(杉山慧)

The Crying Nudes – 「blood meadow」

今年の春先に配信のみのリリースでひっそりとデビューしていた詳細不明のバンド?プロジェクト?、The Crying Nudesの新曲が最高。《World Music》 = Dean Bluntが新たに送り出すのも納得、LolinaとJoanne Robertsonの間を行くような、あるいはbar italiaのデモか未発表曲のような…というか実は本人?というくらいDean Blunt節ダダ漏れの甘くも危険なポップ・ミュージック。これはぜひアルバムまでいってレコード盤を作って欲しい。今の《Matador》が気づいたら即サインしそう。(小倉健一))

dadá Joãozinho – 「Cuidado! (feat. Alceu, Bebé)」

サンパウロを拠点に活動するラッパー/プロデューサーのdadá Joãozinho。彼がデビュー・アルバム『tds bem Global』を、BADBADNOTGOODらを抱えるLAの《Innovative Leisure》よりリリースする。先行解禁された「Cuidado!」は、バリトンボイスを操るラッパーのAlceuと、プログレッシヴR&Bからブーンバップまで乗りこなすシンガーのBebéを迎えた一曲。ダビーなビートにクラリネット、そして三者三様の飄々としたヴォーカルが重なる、灼熱の車内でカーステレオをフルテンにして聞きたいアグレッシヴなナンバーだ。合わせて公開されたプレイリストには、ブラジルの先人に紛れてボブ・マーリーやカンの名前も。8月末のリリースが楽しみだ。(風間一慶)

Hand Habits – 「The Bust of Nefertiti」

電子音を大胆に取り入れ新境地に達したサード・アルバムを経て、さらに野心的な進化をみせるMeg Duffyのプロジェクト、ハンド・ハビッツのニューEPより。アンビエント・ジャズを宿した灰色のオルタナ・フォークから鮮やかなディスコ・ハウスへと展開するのだが、そのあまりにシームレスな移行と5分弱の中に詰まった多彩なアイデアに驚いた。ダンサブルに跳ねるグルーヴの上でゆったりと波を描くサックスもニクい。なんでも昨年夏にソングライティングの講師を務めたことを機に、自身の内面にフォーカスする曲作りから少し距離を置き、より偶発的な閃きや遊びに身を任せるようになったとのこと。僅かな音の瞬きも聴き逃せない。(前田理子)

Helios – 「Intertwine」

キース・ケニフのプロジェクトの一つ、Helios。彼はこの名義で、2004年からアンビエント作品をリリースしてきた。ギターとピアノとシンセ、テープを使用したやわらかい音の輪郭、聴く者の不安や憂鬱を包み込むリヴァーブ、そんな特徴と魅力が8月にリリースされる『Espera』のこの先行シングルにも詰まっている。互いのすき間を埋めるように、寄り添うように絡み合うギターのフレーズから始まって、後半からはゆったりと時を刻むビートが、最後には揺らぎのあるシンセの音が重なる。Heliosの楽曲は雄大なのに、ベッドルームの隅で手元を照らす光のようにひっそりとそこにある。夜が来るのも夜が明けるのも、一緒に待ってくれる。(佐藤遥)

Homeparties – 「I know that」

2022年結成、名古屋を拠点に活動するバンド、Homeparties。新作EP『AB』からの一曲。90〜00年代のオルタナ/インディー・ロックをルーツとするという彼らだが、時折さりげなく顔を見せる非凡なメロディ・センスに心をつかまれてしまう。とりわけこの曲の、ティーンエイジ・ファンクラブを彷彿とさせる甘酸っぱいメロディ、切実だがどこか甘やかさを感じさせる痛みと成長を描いた歌詞は、聴き手である私がもう若くないことを改めて痛感するほどに眩しい。現在はメンバー脱退に伴い新ギタリスト募集中とのことだが、これからも強く輝いて、私の魂を往日の彼方に置き去りにしてほしい。(ドリーミー刑事)

Pinty – SoulseekQT

ピンティはロンドン南部のペッカム出身のラッパー、DJ。地元のリズム・セクションから発表されたデビュー・シングルはキング・クルールがDJ JD SPORTS名義でトラックを提供、メトロノミーと共作EPを発表するなど、南ロンドンのコミュニティ内で頭角を現してきている。本トラックは7月14日にリリースを控えるミックステープ「Pinty’s House」からのリードトラックで、トレンドとなっているドラムンベースの軽やかなリズムの上で踊るように気持ちの良いラップを繰り出していく。このドラムンベース・リヴァイヴァルの波に乗ってテムズ川の対岸へと歩を進めていきそうな勢いに満ちている。(油納将志)

Purr – 「Who Is Afraid Of Blue」

2020年の『Like Now』はとにかくコロナ禍にリピートし続けていたのだけれど、このニューヨーク出身のデュオは、新作でサウンドの幅をさらに広げることに成功している。前作に続きフォクシジェンのジョナサン・ラドをプロデューサーに起用。ふたりのソングライティングのセンスとLAのソフトなサイケデリアの融合というトーンにシューゲイズ的アレンジメントを加える一方で、レファレンス元のひとつにジョン・ブライオンが手掛けた00年代のエイミー・マンを挙げていたりするのも納得。アルバム・タイトル曲は、柔らかなヴォーカルとシンセが絡み合う冒頭、きらめくコーラス、そしてアウトロのエモーショナルなギターソロに至る構成美が目を見張る。(駒井憲嗣)

壱タカシ – 「いせのせ – FILM_SONG.」

橘潤樹が監督した映像にミュージシャンがそれぞれのアプローチで音楽を合わせる企画に参加した壱タカシの新シングル。複雑なビート・プロダクションとジャズや現代音楽を咀嚼した和声で抽象的なエモーションを立ち上がらせるのは壱タカシのサウンドがもともと得意とするところだが、別のクリエイターの作品のメッセージに寄り添ってみせた歌詞は驚くほど率直でオープンだ。「もうすぐ消えるネオンライトみたいに/何者でもなくなっちゃう」。アイデンティティを巡る問いは、現代の若者にこそ重くのしかかってくるものだ。そして、後半の上モノのどこか“ドリーミー”な響きは彼らを励ますとともに、地に足のついた高揚をもたらす。そのバランス感覚は、ソングライター/プロデューサーとしての壱タカシの新境地だ。(木津毅)


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