BEST 13 TRACKS OF THE MONTH – July, 2024
Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!
HYPER GAL – 「OVER FUSSY」
関西在住の石田小榛(ヴォーカル)と角矢胡桃(ドラムス)によるノイズ・ロック・デュオ。前作『Pure』の時点でMelt-Banana、Merzbowといった影響源を明らかにしていたが、わたしはこの新曲「OVER FUSSY」を聴いて初期POLYSICSやパレ・シャンブルグ(Palais Schaumburg)を連想した。つまり、彼女たちの散らかった意匠をつなぎとめるのはニュー・ウェイヴなのでは。HYPER GALはLAUSBUBとも違った形で、ニュー・ウェイヴを現在の日本に更新している。荒々しいノイズには似つかわしくない、コケットな発声と飾らない歌詞の繰り返し。そのズレこそ、いま思い出されるべき感覚のような気がする。(髙橋翔哉)
Katie Gavin – 「Aftertaste」
ケイティ・ギャヴィンはLAを拠点とする3人組、MUNAのリード・ヴォーカリスト。MUNAの最新作と同じフィービー・ブリジャーズの《Saddest Factory》から初のソロ・アルバム『What A Relief』を10月25日にリリースすることがアナウンスされたが、そこからの先行曲になるこれはとてもオーセンティックでコンテンポラリーなポップスとして仕上がっていて、先月ステージで共演も果たしたアラニス・モリセットやサラ・マクラクランのような90年代の女性シンガー・ソングライターたちを彷彿とさせる。アルバムにはミツキも参加しているそうだし、フィービーやボーイジーニアス周辺との連携もガッチリだし、新時代の“リリス・フェア”はじわじわ加速しているのかも。(岡村詩野)
Klein – 「Blow the Whistle」
太陽のギラつく“brat summer”の影で、サウス・ロンドンの実験音楽家、Kleinは純粋な意味での“brat”を真に体現しているのかもしれない。充満するメタリックなノイズ、意図的にヴォリュームを下げたサウンド、宙ぶらりんのアカペラ……《RA》のレヴューでは「手に負えないレヴェルのカオスが繰り広げられるアルバム」とさえ言われたKleinの新作『marked』は今夏、最も謎めいていて、自由で、最も魅力的なレコードの一つだ。とても内省的なようで、とても挑発的なようで、言ってしまえば掴み所がないのだけれど、そんな掴み所のなさがときおりとてつもなくポップにも聞こえる、そんなアルバム。今回選んだのはその中でもDreamcrusherを思い出すようなノイズとマシン・ビートが印象的な1曲です。(高久大輝)
Lutalo – 「The Bed」
これまでも反戦について独自の見解をソング・ライティングで表明してきた、ルタロ・ジョーンズ。彼は創作に没入するために都会やノイズから意図的に距離を置き、バーモント州を拠点としている。9/20リリースのデビュー・アルバム『The Academy』から「The Bed」は、彼が幼い頃に父親からプロパガンダと戦争を煽る教育を受けたことがもとになっている。そしてアメリカ国民である以上、国家の取引に間接的とはいえ関わってしまう現状についても。重苦しくなりがちなテーマだが、ドラムとアコースティック・ギターを打楽器のように同音連打させた軽快なフォーク・ナンバーだ。現代のネオヒッピー・スタイルを貫く、ルタロと似たような心境の人も多いのでは。(吉澤奈々)
Suburban Eyes – Headlight Torches
2010年代を通じて進行した90`sエモ・リバイバル(第四波エモ)を受け、90年代に名作を残したエモ・バンドたちは再び脚光を浴びた。サバーバン・アイズはエリック・リヒター(クリスティ・フロント・ドライブ)、ジェレミー・ゴメス(ミネラル、ザ・グロリア・レコード)、ジョン・アンダーソン(ボーイズ・ライフ)と、まさに90年代エモのオリジネイターらによって結成されたバンドであり、8月にリリースされる最新アルバムからのリード・シングルが本曲である。90`sエモのいわゆる定型化されたアルペジオや、クリア・トーン・ギターを想像するなかれ、ソリッドなエレクトリック・ギター・サウンドを主軸としたメランコリックで美麗なメロディーが心に突き刺さる。(尾野泰幸)
Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!
Clothing – 「Paper Money (feat. Elliott Skinner)」
7月に新札が発行され、ちょうど紙幣の価値について考えていたところで、ニューヨークのエレクトロ・デュオであるClothingが発表した「Paper Money」という楽曲を紹介。つい先日、デビュー・アルバム『From Memory』がリリースされ、そこにはアンバー・コフマンなど豪華なヴォーカリストが参加しているが、この曲ではエリオット・スキナーの一つ一つが異なってさえ聴こえる声のレイヤーに注目。音大で学んだ後、ソウルやジャズの現場で活躍しているのも頷ける。 ベースとヴォーカル、ビートだけのシンプルすぎる内容にも関わらず、「Pro Toolsファイルには、少なくとも200バージョンはある」という。洗練されたひとつひとつのアレンジも聴き逃せない。少ない音数の隙間にファルセットで、暑すぎる夏を乗り越えられるかもしれない。(西村紬)
Cobalt boy – 「Breath」
福岡を拠点に活動するバンド、Cobalt boy。2021年リリースのアルバム『SANSO』は真夏の切なさを真空パックした名盤だったが、約3年ぶりの新曲は、シューゲイザーの影響を受けた…と言うか、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン「when you sleep」のリフをそのまま引っこ抜いて、胸キュンのメロディとマッシュアップした最強のサマー・チューン。聴いた瞬間「こんなのずるいでしょ!」と膝から崩れ落ちた。しかしもしかするとこんな大胆なふるまいが許される季節を、私たちは夏と呼んでいたのかもしれない。マイブラなんて知らない若者たちがこの曲を背景に海辺を走り、花火を見上げ、恋に落ちる瞬間がありますよう!(ドリーミー刑事)
Cwondo – 「Me, Tanish and Panoi」
青くなっていく明け方の街を記録しているような楽曲。自身や友人のピアニストによるピアノのフレーズを元に作り始めたそう。それらのフレーズは穏やかな波のように、止まることなく進む時間を落ち着いて刻んでいるみたいだ。どちらも揺蕩うような音だが、Ulla & Ultrafog『It Means A Lot』のギターの残響が個人的な空間を捉えているとしたら、この楽曲のピアノの音の連なりは感知する範囲を外に押し広げている。以前Cwondoがマイクを握って叫ぶ姿とその声でつくられる音楽を聴いて、こんなにうるさくてやさしいノイズがあるんだと驚いた。耳に近いハミングや何かが起動するような電子音などもライヴでの声と同じやさしさを持っている。(佐藤遥)
Holy Tongue meets Shackleton – 「The Merciful Lake」
イタリア出身の打楽器奏者であるValentina Magaletti、UKベース・シーンのAl Wootton、大阪生まれロンドン在住のZongaminことSusumu Mukaiによるトリオ、Holy Tongueが、シャックルトンとの共作を発表。この熟練した音楽家たちのシャーマニックなコラボレーションは、彼らが同じフェスティバルに出演したことをきっかけに実現した。リード・トラックの「The Merciful Lake」は、蛇行するベース・ラインに遠くから聞こえる笛の音、水面から立ちのぼる水蒸気のようなヴォイスが揺らめくポストパンク・ダブ。例えるなら《On-U Sound》の痕跡を辿って迷い込んだ森の奥地で繰り広げられる現代の祭り、だろうか。(前田理子)
Magdalena Bay – 「Image」
LAに拠点を置くデュオ、マグダレーナ・ベイ(Magdalena Bay)の最新作からの先行楽曲。これまでも音楽面ではチェアリフトやNiki & The Doveなどを感じさせてきたが、本作はそうしたゼロ年代から始まった80年代リヴァイヴァルの中でも、特にエンパイア・オブ・ザ・サンの影響を感じさせる。奇抜なメイクと仮装大賞的な異世界感だけでなく、ハウスやエレクトロ・ファンクを通過したレトロ・フューチャーなディスコ・ポップもそれを強く感じさせる。説明もなく当たり前のように繰り広げられるドラッギーな映像を、ポップスとして成立させているセンチメンタルなメロディーのミックスは、情報過多の現代でもその強いインパクトに引き込まれる。(杉山慧)
Maria Beraldo – 「I Can’t Stand My Father Anymore」
サンパウロを拠点に活動するコンポーザー/クラリネット奏者のマリア・ベラルド。今年10月にリリースされる新作『Colinho』のリード・シングルとしてリリースされたのは、「もうお父さんには我慢できない」と挑発的に笑いながら告げる、ジャンキーなインダストリアル・ポップだ。チン・ベルナルデスらが参加した2018年の初のソロ名義作『Cavala』でレズビアン・コミュニティのスピーカーとしての立場を気高く表明したマリア。幼い頃にアメリカで過ごした記憶を取り出し、あえて英語詞で吐き捨てた新曲からは、来る新作に向けた彼女の決意が感じ取れる。(風間一慶)
Rejjie Snow – 「All Night」
レジー・スノウの軽やかなフロウは夏の蒸し風呂のようなこの暑さに似合う気がする。ケイトラナダのプロデュースによるニュー・シングルからの先行曲は、「自分が70年代に作った曲」がテーマだった「Egyptian Luvr」(2018年)の続編とも言えそうなスムーズなファンク/ディスコ・プロダクション。きらびやかなグルーヴとダナ・ウィリアムズのソウルフルなヴォーカルをフィーチュアし、ダンスフロアの享楽を正面切って描写していて、つくづくこのふたりが70年代ディスコのムードに夢中なのだなと感じさせる。6年を経て原点に戻ってきた感のあるふたりのコラボレーションが、今後どのように展開していくのか注目したい。(駒井憲嗣)
Rosie Lowe – 「In My Head」
ロージー・ロウは南ロンドンをベースとするシンガー・ソングライターで、これまでに3枚のアルバムを発表。直近作である『Son』はケンドリック・ラマーやヴィーガンらのプロデューサーとしても知られるデュヴァル・ティモシーとの共作で話題を呼んだ。本トラックは8月16日リリースの4作目『Lover, Other』からの先行トラックで、ヒップホップやジャズ、R&Bなど、彼女が「このアルバムはコラージュのようなサウンドにしたかった」と語るように多種なジャンルのサウンドが混在しており、共演経験のあるリトル・シムズやソランジュ、ロイシン・マーフィーに通じるアトモスフィアをまとっている。来たるべきアルバムではより多彩なサウンドが展開されそうで期待が高まる。(油納将志)
【BEST TRACKS OF THE MONTH】
過去記事(画像をクリックすると一覧ページに飛べます)
Text By Haruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiRiko MaedaNana YoshizawaIkkei KazamaTsumugi NishimuraDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono