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Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Anitta – 「Savage Funk」

昨年グラミー賞で最優秀新人賞にノミネートされたブラジル出身のポップ・スター、アニッタは6作目のアルバム『Funk Generation』はメインストリーム的なアプローチを避け、官能的でパワフルなダンス・ミュージックにフォーカスしている。もっと言えばそれはブラジルのバイレファンキ、あるいはファンキ・カリオカと呼ばれる音楽を中心に据えたものであり、つまるところ自らのルーツを称えるものである。今回選んだのは、そんなアルバムの中でもとりわけ挑発的な歌詞と荒々しいビートの映える1曲で、欲望を、ダンスを、その衝動を、ひととき激しく煽り立てる。1分半に満たない曲だが、翌日の大人しい計画を振り払うには十分な興奮剤だ。(高久大輝)

Kara Jackson – 「Right, Wrong or Ready」

昨年素晴らしいファースト・アルバム『Why Does the Earth Give Us People to Love?』をリリースしたシカゴのシンガー・ソングライターの新たなるリリースは、ヘッドライナー・ツアーを記念して録音されたこの曲。彼女の現在のライヴでは、カレン・ダルトンの1969年のこの曲のカヴァーが大概1曲目となっているようで、ミュージシャンとして本格的に活動する以前、2019年に既に全米青少年桂冠詩人に選ばれたこともある彼女にとってはとても大切な“ことば”であり“うた”なのだろう。カラは「完全なラブソングではなく、孤独な人たちへのラブソング」と解釈。その通りに、アコースティック・ギター1本でそっと歌に向き合っている。美しく気高い。(岡村詩野)

O. – 「176」

ロンドン拠点のバリトン・サックスとドラムスによる2人組アート・パンクユニット。サクソフォニストはニュージャズバンドのヌビヤン・ツイストでも活動中。バックビートを強調したドラムに乗せて、饒舌なサックスが四方八方に口角泡を飛ばしまくる。スクイッドやブラック・ミディに倣う存在ではあるが、その脱臼されたリズム・セクションはそのどちらにも似つかないものだ。同時に、彼らが紛れもないポストパンク〜ノー・ウェイヴの系譜に位置するバンドであることを示している。不協和音はサイケデリックに旋回し、ビートはダンサブルさを残したまま、ひとかたまりのソニックとなって推進していく。デビュー・アルバム『Weirdos』は6/21にリリース予定。(髙橋翔哉)

Otha – 「I Hate You In The Morning」

ノルウェー/オスロ拠点のシンガー・シングライター、Othaは耳に残るエレクトロ・ポップを作り出す。2018年に発表した「I’m on Top」がSoundCloudなどネット上で注目を集めるも、翌年の「Tired and Sick」から目立った活動はなかった。その間も彼女のSpotifyプレイリストには、チャーリーXCX、トロイ・シヴァン、Yaejiなどのダンス・ミュージックが次々と投げ込まれていくのが印象に残っている。今回のそわそわと蠢動するキックやサブベースといった電子音の連続はこれまでのモードを反映しているようだ。アルペジエーターを駆使してエッジの効いたフレーズを鳴らす、Othaの今後に注目したい。(吉澤奈々)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

Fine – 「Days Incomplete」

NewJeansの「New Jeans」「Cool With You」「ASAP」をErika de Casierと共同作曲したことで注目を浴びたプロデューサーのFine Glindvad Jensenがソロデビュー。これまでエクスペリメンタルなエレクトロニック・ポップ/R&B的作風の印象が強かったが、このFine名義では「想像することの喜びを歌った歌」という紹介にふさわしく、夢の中をあてもなく徘徊しているような、ゆらめくフォーキーなムードがにじみ出す。一足早くアルバム(傑作!)をリリースしたAstrid SonneとCoinedというユニットでもファースト・シングル「Your House」をリリースしたばかりで、引き続きコペンハーゲンと《Escho》周辺のシーンから目が離せない。(駒井憲嗣)

FUKHED – 「No C No A」

ブリスベンで生まれ育ち、現在はシドニー在住のFUKHED。ニア・アーカイヴスのツアーのサポートを務めたり、同じくシドニー拠点のNinajirachiらと共演したり、主にDJとして活躍している。ファースト・シングルとなる今作のタイトルは多々ある名前のタイプミスが由来らしい。ダブステップやフォー・オン・ザ・フロアを行き来するタフなビートと、植物のつゆのようにフレッシュで儚いフレーズからは、それがフロアで流れたときの感情やムードを想像してしまう。シンセやヴォーカルの質感からはKUČKAが思い浮かんだ。MVに映るのは、友人たちとおそらくレイジ・ルームに出かけた日のこと。楽曲もヴィデオも、親友たちとつくり上げたという。(佐藤遥)

Goat Girl – 「motorway」

デチューンしたシンセサイザーの印象的なリフとサブベースが煽る不気味な高揚感。最初のヴァースに入ると、タイトル通り幻想的な光と霧に包まれた夜の高速道路の情景が浮かんでくる。「ルーズ」や「ぶっきらぼう」という形容詞で語られることが多いロッティのヴォーカルは、この曲ではむしろ艶やかさが際立っているように思う。点滅したり這いずり回ったりする電子音、滲むオルガンの音色、ワイルドなドラム・ビート…シンプルな構成の中で多様なアイデアをダーティーにまとめる様は実にゴート・ガールらしいのだが、最新のアーティスト写真を見るとギター(と時々メインヴォーカル)のL.E.Dが写っておらず、脱退等の公式発表はないものの少なくとも本作には参加していない模様。それがどんな影響をもたらすのか、アルバムの全貌が分かるのは6月だ。(前田理子)

Kehlani – 「After Hours」

初期ミックステープでは、オッド・フューチャーやチャンス・ザ・ラッパーなどのヒップホップに対するR&Bからの回答として注目を集めたケラーニ。そんな彼女の最新曲は、アフロビーツやアマピアノといったR&Bシーンの大きな潮流を作ったタイラ「Water」に対する彼女からの回答としてこれ以上ない出来だと思う。ニーナ・スカイ「Move Ya Body」(2004年)とマイケル・ジャクソン「Liberian Girl」(1987年)をサンプリングすることで、タイラも影響を受けたであろうUSのR&Bが紡いできたビートの歴史に敬意を示す。これは、彼女のヒップホップ的な出自も踏まえた楽曲にもなっている。(杉山慧)

Lau Ro – 「Onde Eu Vou」

英ブライトンを拠点に活動するネオ・サイケデリック・バンド、Wax Machine。そのリーダーであるLau Roがソロデビュー作『Cabana』を《Far Out Recordings》よりリリースする。彼は幼少期をブラジルで過ごし、その後に移民としてヨーロッパを転々としながら10代を過ごしたという。先行シングル「Onde Eu Vou」から伺えるように、Lau Roがソロデビュー作で志向したのはルーツであるブラジルのグッド・ミュージック。イブ・ジャービスやビビオ 、さらには《Far Out》のレーベルメイトであるブルーノ・ベルリとも共振する、アンビエント・フォーキーな傑作の誕生を予感させてくれる一曲だ。(風間一慶)

marucoporoporo – 「Conceive the Sea」

ausのリミックスなども手がけてきた愛知県在住のシンガー・ソングライター/ギタリスト。2018年以来となるニュー・アルバム『Conceive the Sea』からの先行配信曲。直訳で「海を身籠る」というタイトルの通り、低音のドローンが作りだす深い深度のはるか上で、揺蕩う陽光のようなシンセが踊り、幽玄なギターとコーラスが大きな海流を描き出す。時間の感覚すら希薄になるようなサウンドスケープは、人智の及ばない深遠のようでもあり、人間それぞれが内包する極めてパーソナルな原風景のようにも見える。角堂真実、クレア・ラウジーに続く、エクスペリメンタル・フォークの傑作の予感。(ドリーミー刑事)

Overmono & The Streets – 「Turn The Page」

ウェールズのエレクトロニック・ミュージックデュオが、ザ・ストリーツのクラシックをリミックス。本稿を執筆する前にその原曲が収められたデビュー作『オリジナル・パイレート・マテリアル』を聴き直したが、アンダーグラウンドだったUKガラージを一気に表舞台へと押し上げたエネルギーが減衰していないことを確認しただけでなく、ブリット・ポップ終焉後に居場所を失って彷徨っていた英国人のアイデンティティの拠り所がここに落ち着いたんだなという気付きもあった。ベース・ミュージックを原点にテクノやハウスの要素を取り入れながら拡張を続けるオーヴァーモノにとって、このリミックスは自らの原点の確認と先人への敬意が込められていると言っていい。(油納将志)

カネコアヤノ – 「ラッキー」

前作「タオルケットは穏やかな」では、いよいよタガが外れたようなオルタナ的爆発力も垣間見せたカネコアヤノ、約1年ぶりのニューシングルでも攻めの姿勢が崩れていないのが嬉しい。これまで通底してきた弾き語り起点のソングライティングの影を一瞬振り払うような新鮮さは、にじりよるリムショットと絡むベースの上から放たれたオクターヴ・ファズで歪んだようなギター、その強烈な存在感によるものか。対照的に「ラッキー」と第一声に歌う彼女の声はむしろ輝きを増すようにさえ感じる。ドロドロとしたサウンドとキラキラとした歌声の極端な高低差が生み出す、他でもない彼女だからこそのサイケデリックなムード。最近は坂本慎太郎やOGRE YOU ASSHOLEなどとのライブで名前を並べていたことも頭をよぎった。(寺尾錬)

小沢健二とスチャダラパー – 「ぶぎ・ばく・べいびー」

1994年の「今夜はブギー・バック」の復刻か?! 同様にナイトクラブを歌う歌詞からは「今夜、踊ろうぜ!」と大声で呼びかけていた若者が、時を経て大人になって「皆さん最近踊ってますか?」と、メロウに問うている印象を受ける。私はよくクラブに足を運ぶのだが、同じ若い世代を見かけることがあまりない。時間がなかったりお金がなかったり……なのかもしれないが、だからこそこのリリースがよく効く。ちょうどあれから30年、オリンピックは7回も開催されているし、消費税は7%も上がった。そもそも私は当時まだ生まれていなかった。その間にダンスフロアの様相は変化したかもしれない。けれど、小沢健二はあるところでは相変わらず王子様で、スチャダラパーの日本語ラップはやはり、ストレートでユーモラスだ。そんな2組ゆえに説得力がある。踊っていたい気持ちと男女のときめきは今も色褪せない。(西村紬)


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