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BEST 12 TRACKS OF THE MONTH – October, 2020

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Claud – 「Gold」

フィービー・ブリジャーズが「ジャンルに関わらず良い曲を」と10月に立ち上げたレーベル《Saddest Factory》からの早速のリリースが、ブルックリン拠点のSSW、ClaudことClaud Mintzの新曲だった。緑と青で半々にカラーリングした髪型とツナギが印象的で、1人の中に異なる2色が存在するこの姿がClaud自身の感情の分裂を表しているようにも思える。関係性が冷え切っていく様子を、ゴールドがやがて錆を纏うという経年変化に例えた歌詞でもまた、色と感情を結びつけていく。本人曰く矛盾を歌ったとのことで、変化する感情や時に別々の感情が同居する矛盾を、多様な今の世界を見つめながら肯定しようとしているのかもしれない。(加藤孔紀)

daine – 「Ascension」

チャーリーXCXにフックアップされたことでも注目を集めているフィリピン系オーストラリア人でティーンエイジャーのシンガー・daineのダブルAサイドシングルから1曲。同じくオーストラリアはアデレードのプロデューサー兼シンガー・Lonelyspeckによる叙情的なギター・フレーズと荒々しいキックとサブ・ベースが重ねられたトラックの上に、彼女の儚げな歌声が響く。ビリー・アイリッシュらと並び“ダーク・ポップ”などと呼ばれるその音楽性はもちろん、「Disillusioned Generation(幻滅した世代)のアーティスト」を自称する彼女がどこへ向かうのか、引き続き注目したい。(高久大輝)

Gotch – 「The Age(feat. BASI, Dhira Bongs & Keishi Tanaka)」

時代を見つめ、切実なまでの愛と希望をそこに刻んだASIAN KUNG-FU GENERATION「新世紀のラブソング」(2010年)から10年。その間、意図的に時代とマッチアップしてきたGotchはラップを織り交ぜた歌唱に乗せ、数々の仲間を迎えながら、足元の時代を描く歌を再び作り上げた。ゴスペル的質感とモダンだが緩さもあるビートが混交するサウンドの気持ちよさはゴッチのソロ近作におけるキーマンであるシモリョー(the chef cooks me)の編曲がなせる技。「この世は生きるに値する」。(現代政治)批判と友愛のメッセージが刻まれた、BASIとの共作となるリリックの果てに記されるこの一文に、救われる人がどれだけいるだろうか。(尾野泰幸)

Helado Negro – 「Lotta Love feat. Flock Of Dimes」

ヘラド・ネグロが《4AD》と契約! これは今年後半のビッグ・ニュースだ。ギレルモ・スコット・ヘレンのサヴァス・アンド・サヴァラスのメンバーとして活動していた頃から、その特異なグローカル・ポップ感を発揮していたロベルト・カルロス・ランゲによるソロ・プロジェクト。ニール・ヤングのこのカヴァーは比較的ストレートな解釈だが、それだけにメロディありき、ヴォーカルありきのポップ・ラヴァーズとしての彼のもう一つの側面を射抜いている。《Sub Pop》と契約したフロック・オブ・ダイムスのジェン・ワスナーをフィーチュアしているのも象徴的。去年の力作『This Is How You Smile』に続くアルバムはどうやら来年になる模様だ。(岡村詩野)

Squirrel Flower – 「Explain It To Me」

いま、Z世代たちが90年代へのリスペクトを奏でているという現象については別稿にて触れたが、ここにも一人、そんなSSWが。米《Polyvynal》から今年デビューしたSquirrel Flowerことエラ・ウィリアムズがカバーしたのは、90年代のオルタナクイーン、リズ・フェアのデビューアルバムからの1曲。ただ、93年リリースの原曲は荒削りなギターが印象的な楽曲であるのに対し、Squirrel Flowerのカバーでは軽やかに爪弾くギターを、賛美歌のような多重録音のコーラスのみが包み込み、繊細な音像を描く。リズ・フェア=荒涼とした過激さという固定化した図式から、あえてメロディの美しさを切り出すというのもまた、時代が一巡りしたがゆえに登場した新たな感性だろう。(井草七海)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し注意の楽曲をピックアップ!

椅子樂團(The Chairs)「一個人的街頭」

冷たい月の寒さが滲みる冬の夜に、時折私たちを飲み込もうとする孤独も、この温かいハーモニーがあればもう怖くない——台湾の3ピースバンド椅子樂團の最新アルバム『Real Love Is…』の1曲、「一個人的街頭」を聴く度そんな感慨に襲われる。ビートルズやビーチ・ボーイズなど60年代ロック音楽の影響を公言していることからも分かる通り、彼らの魅力の一つがスムースなコーラスワークだ。その魅力を遺憾なく発揮した本曲では、音が重なるにつれ深みを増す優しいハーモニーが堪能できる。星の瞬きのようなエレクトロ・サウンドやドラムが畳みかけるブリッジなど心憎い細部もセンチメンタルなムードを盛り上げる快作だ。 (Yo Kurokawa)

Jean Dawson – 「Dummy」

LAを拠点とするジーン・ドーソンのアルバム『Pixel Bath』は、00年代のミクスチャー・バンドを思わせる。特にサンプリングを多用し、粗削りなギターも使いながらダンス・ミュージックとしてまとめた「Dummy」は、さながらガーリングのよう。肌の黒い彼は、こうした音楽性について「なぜ白人にフィットさせようとするのか」と責められたというが、メキシコから国境を越えカリフォルニアの学校へと通学し、国籍や人種という無意味な線引きが差別や偏見を助長する過程を体験してきた彼にとって、この音楽性はそれらに対するアンチテーゼであると同時に、音楽は作り手の個人史の一部であることをも示しているのではないだろうか。(杉山慧)

Kamal. – 「autopilot」

“UKのビリー・アイリッシュ”と形容されるシンデレラ・ボーイ、Kamal.はSound Cloudから火が点き、大学進学前にレコード会社とスピード契約したソウルフルなボーカルとキャッチーなメロディがウリのティーンSSWである。今作ではエモーショナルなギターと渇いたスネアドラムが心地のイイ浮遊感に満ちたトラックに乗せ、ジャスティン・ビーバーを彷彿とさせる甘くしっとりとしたボーカルで、日々の喪失感と“旅”の癒しを歌う。「だから僕は夜行バスに乗る 誰も見つけられない 旅はぼんやりと オートパイロットで 僕は自分が誰か忘れた」筆者は山梨在住のため仕事で東京へ向かう途中全く同じ感情を抱き、窓の外を眺めている。(望月智久)

Rhye – 「Black Rain」

来年1月リリースの最新作『Home』からの先行シングル。メディテーションとアンビエント・ミュージックに重点をおいたツアー生活を送っているライだが、本曲ではダンサブルな側面が強調されることで、甘美なヴォーカルワークと緻密なサウンドメイクがより際立っている。50年代のセットを用いて録音されたドラムは淡々と刻みつつも肉感的なタメを作り、ストリングスやピアノもファンキーなディスコサウンドを鳴らしたかと思えば内省的な没入に向かい、複数のアプローチから重厚に絡み合っていく。ますますバランスを欠いた昨今の時勢だが、精神と肉体は相互補完的に高め合う、そんなことが改めて示されているのではないかと思えた。(阿部仁知)

Sawa Angstrom – 「BOOKS」

浜田淳、吉岡哲志、児玉真吏奈からなる京都のユニット。それぞれキャリアを重ねた関西の重要人物で、録音やMVで全員が山本精一の新作にも関わっている。エレクトロニカやIDMを中心に横断的なアプローチを行う彼らだが、今回は音色の種類をおさえたミニマルな仕上がり。やわらかな音粒とポリリズミックなリズム構成はレイハラカミ直系とも思えるが、ある程度の音の隙間を保ったまま、トラックがメロディに引き上げられるようになめらかに展開するさまはポップ・ソングとしてとても心地が良い。元々日本語でアシッドな宅録フォークを歌ってきたSSWである児玉が、英語詞で魅力的なフレージングを披露しているのもポイントだ。(吉田紗柚季)

Ty Dolla $ign – 「Real Life ft. Roddy Ricch & Mustard」

客演王=タイ・ダラ・サインの最新作『Featuring Ty Dolla $ign』収録の、「Ballin’」や「High Fashion」を生んだロディ・リッチとマスタードのコンビを招いた一曲。マスタードらしいバウンシーなビートの上で、Ty$とロディは自らの豪勢な生活ぶりをひけらかし“Threeway”に興じる。それでもコーラスの「現実では警官が黒人を殺している」という1行が浮いて聴こえないのは、ビートからほのかに漂う哀愁と、本年の《BET Awards》におけるパフォーマンスでBLMの力強いステイトメントを発していたロディの配役のせいだろうか。Ty$のチームプレイヤーぶりが光る恰好となった印象。(奧田翔)

マーライオン – 「北北西に飛んでいった」

シンガーソングライター・マーライオンの新曲は、彼らしい人懐っこい歌声に、アコースティックギターとフルートを添えたシンプルで優しいアレンジ。しかしこの曲の主役は、音と音、言葉と言葉の間の広い余白にあるように思う。あまりにも特別な2020年に私たちが味わった言いようのない喪失感を、この言葉にならない沈黙こそが何よりも切実に代弁してくれている気がするのだ。「北北西に飛んで行った 歌い尽くせなかったアイラブユー」を、果たして来年は歌えるのだろうか。誰にもわからないまま冬が来てしまう。しかし必ず季節は巡る。冬の後には春が来る。今はそれしか言えないけど、それだけは言える。(ドリーミー刑事)


【BEST TRACKS OF THE MONTH】
アーカイヴ記事

http://turntokyo.com/artists/best-tracks-of-the-month/


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