BEST 12 TRACKS OF THE MONTH – August, 2024
Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!
Fievel Is Glauque – 「Rong Weicknes」
これはもう10月25日のニュー・アルバム発売が待ち遠しすぎる。ベルギーのギタリストとNYの女性ヴォーカリストによる、ブルックリンを拠点の二人組の新作からの先行曲。これまでの作品は初期エヴリシング・バット・ザ・ガールをお手本にしたような洒落たジャズ・ポップという印象だったが、《Fat Possum》からのリリースとなるこの曲は、フルートのような管楽器も効果的に生かして、トロピカリズモ時代のブラジルの精鋭たちはもとより、フューチャー・ジャズ系、あるいはk.d.ラングやリッキー・リー・ジョーンズらがかつてやってきた小粋なルーツ音楽の咀嚼を思い出させる仕上がりにまで踏み込んでいる。ソンドレ・ラルケやKIRINJIあたりとのシンクロも見えてくるし……まあ、申し分のない曲です。(岡村詩野)
Geordie Greep – 「Holy, Holy」
ブラック・ミディが解散または無期限活動休止したけど、ギター/ヴォーカルのジョーディー・グリープはなんと単独作品を用意していた! 相変わらずだよ、ジャズ~フュージョン、プロッグ、なぜかマンボ、が無邪気につぎはぎされて……つぎはぎというか全て有機的につながっていて、ブラック・ミディ以上にコラージュ感は希薄。とにかく前半のリフは最高にかっぴょういいし、ブルドーザーのように侵攻するドラムスも無双してる。歌詞についても触れとくと、自分を聖人だと思ってる語り手が意中の女性をなんとかものにしようとする、女性は性産業従事者であることを匂わされていて、語り手はヘリクツを塗り重ねて引き返せないとこまで行ってしまうって話。(髙橋翔哉)
Hank – 「DYLM」
デビューEP『Twist Grip』を《Dalliance》より9月12日にリリースするロンドン拠点のバンド、Hank。「Do You Love Me」の頭文字を取った喪失と失恋の楽曲は、終始荒々しいノイズ・ギターが響く。スロウコアに通じるテンポに簡素なギターリフを乗せ、弾くというよりも音色を鳴らすのに重点を置いているようだ。ブリッジではエフェクターの割れた高音が鐘の効果音に化け、ギターソロでは重厚な伸びを震わせる。グランジとメランコリーな歌声を合わせるサウンドは、スロウ・パルプを想わせた。ただ、こうした複数のギターのアイデアはプロデュースにJamie Neville (leather.head、PVA)が加わっているのが大きな要因だろう。(吉澤奈々)
Public Service Broadcasting – 「The South Atlantic(Feat. This Is The Kit)」
ロンドンのエクスペリメンタル・バンド、Public Service Broadcastingによる最新楽曲。作品ごとにウェールズ石炭鉱業の盛衰や、第二次世界大戦後の米ソ宇宙開発競争といった明確なテーマを設定し、イギリスの国営放送アーカイヴなどからテーマに沿った過去音声をサンプリングしつつエレクトロ・ポップを構築するのがこのバンドの特徴だ。本曲が収録される最新アルバムは、女性として初めて大西洋飛行横断に成功したアメリア・イアハートの物語がコンセプト。ディス・イズ・ザ・キットをフィーチャリングした本曲はイアハートが初めて赤道以南を飛行した際の様子を歌った曲。オーケストラルなサウンドを背景に、メロウな歌声がまるで目の前に開けた雲一つない青空のように伸びやかに広がる。(尾野泰幸)
Tinashe – 「No Broke Boys」
簡潔で無駄がなく、同時に多彩だった昨年リリースの前作にして傑作『BB/ANG3L』(読み方はベイビー・エンジェル。覚えておきましょう)の続編的作品としてリリースされたティナーシェの最新作『Quantum Baby』。TikTokに後押しされた今夏のヒット・ナンバー「Nasty」を収録したこちらも素晴らしいアルバムで、これまで通りR&Bに実験的要素を注ぎ込んでいる点では相変わらずだが、今作ではこれまで以上にキャッチーでポップな側面が強調されている。とりわけこの「No Broke Boys」のスタジアムを震わせる親密なフックはそういった本作のポップネスを象徴している。自信に溢れたリリックも最高です。(高久大輝)
Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!
Cornelius, Arto Lindsay – 「BAD ADVICE」
ソロ活動30周年を迎え、アニヴァーサリー公演やアンビエントを軸とした作品集『Ethereal Essence』のリリースなど個人史の編集作業を進めているCornelius。新作12インチに収録された「BAD ADVICE」は、あのアート・リンゼイをヴォーカルに迎えた1曲だ。以前からライヴで共演し、2018年リリースの『デザインあ 2』収録の「TIME」でもタッグを組んでいた2人。今作には『アンビシャス・ラバーズ』期のアヴァンなファンクにボサノヴァへと傾倒していた90年代末〜ゼロ年代前半の柔らかなヴォーカルが乗る……というアートの個人史まで内包されている。ユニークな軌道を描く二つの巨星の直列、今年の夏はいいもん見れた。(風間一慶)
Cuushe – 「Faded Corners」
2020年の『Waken』以来の新曲である本作は、写真作品「湖 Awaumi」のために制作された子守唄だという。ゆっくり潜り長い時間を辿るように、おぼろげで推進力のあるトラック。幼い子供の知覚や感情を言葉にしたような詞や、それを真剣に受け止めるような詞。それらは宇宙から深海までを繋ぎ、はっきりとしないが確かにある記憶を結び合わせる。人の内面にふっと触れ、感覚を遠くに飛ばすこの楽曲は、サ柄直生やuamiといったアーティストと並べて聴くこともできるだろう。今月9月には、ausによるリプライズ、サラマンダ、アサ・トーンのメンバーでもあるMelati ESPによるリミックスも収録のEPがリリース。(佐藤遥)
The Dare – 「You’re Invited」
ザ・デアーは、タートルネックというインディー・ダンス・ユニットとして活動していたハリソン・パトリック・スミスがポートランドからニューヨークに移住してスタートさせたニュー・プロジェクト。この曲は、9月6日にリリースされたばかりのデビュー・アルバム『What’s Wrong with New York?』からの先行トラックで、ハリソンのファッションがモッズっぽいのでパンク~ブリティッシュ・ビートなのかなと思って聴いてみたら、エレクトロクラッシュ~ニュー・レイヴ~ダンス・パンクのリヴァイヴァルで、なるほどそういうタイミングになったのかと認識した次第。イヴ・トゥモアやチャーリーXCXが気に入って前座に起用するのも理解できるし、適度にポップ感もあるのでアルバムを機にさらに名前も音楽も広まっていきそうだ。(油納将志)
maya ongaku – 「Anoyo Drive」
オフビートのベースラインから流れる、疾走感のあるドライヴ・ナンバー。独特のアシッドさを極限まで抑えた、アーシーなイメージのあるナチュラルなサイケデリア。キーボードが入った瞬間の響きに惚れ込んだのだが、その正体や如何に。左右に壁があり、ピンポン玉のようなものが右往左往している? と思いきや、小さな部屋などではなくやまびこかもしれないと思った。跳ね返ってくる音に充実した余韻がのっている響きは、山の中で聴く音に似ている。もしくはあの世ではこのような響き方をするのかもしれない。音響に呼応する、ぷつっと切れたひらがな数行の歌詞からは、ぼんやりと靄がかかった情景が浮かび、彷徨うのだが、さらに遠くへ行きたい方は……同EPの「Meiso Ongaku」(1〜3)もおすすめ。(西村紬)
Mk.gee – 「Lonely Fight」
LAを拠点とする27歳、Mk.geeが2024年2月にリリースした『Two Star & The Dream Police』は衝撃的だったが、その延長線にある曲だろう。エリック・クラプトンも注目する彼のギターを主軸にすえた、80年代のポップスを思わせるシンプルな構成だが、鍵盤由来の発想を感じさせるフレージングと、「バリトンのようなトーン」と本人も述べるキーを低くした変則チューニングが、「ツイン・ピークスのテーマ」などを連想させる非凡な表情を与える。どこか見え隠れするスピリチュアルな感触に、ライヴ・サポートではサム・ゲンデルが参加しているのも納得。トドメのメロディーも素晴らしく、油断しているとつい口ずさんでしまう。(寺尾錬)
Noah Guy – 「JAMEELA」
ラジオから流れてきたNoah Guyの歌声、一聴して驚いた。ハスキーな響きを感じさせながらも艶やかな歌声は、ミゲルの歌声を思わせたからだ。この曲は、ヴァン・マッコイ「The Hustle」をスロー・テンポに作り変えたような雰囲気を持った楽曲である。MVでは、艶やかさと同時に爽やかな夕暮れ感も演出されており、聴いていて心地よい。レトロな質感の映像はディスコの熱気とは距離を置きつつも、80年代の雰囲気を懐かしんでいるようにも感じられ、この楽曲を見事に表現している。LAに拠点を置き、SSWとして2019年からコンスタントに楽曲をリリースしている彼の活動に今後も注目していきたい。(杉山慧)
柴田聡子 – 「Reebok(tofubeats remix)」
2020年代ポップ・ミュージックの殿堂入り間違いなしの柴田聡子のアルバム『Your Favorite Things』(ニュー・アルバム『My Favorite Things』が10月23日に発売)。特にこの「Reebok」からのラスト3曲が描く、人生という天気図が気まぐれに表情を変えていく様は何度聴いても手に汗を握ってしまう…などという、こちらの思い込みを軽やかにいなし、tofubeatsは軽やかかつ上品な手つきで、この曲が持つ歌謡曲的なポップネスを立体的に浮き上がらせていく。しかしさりげなく施されたディレイに耳を澄ましていると、あの文学的世界に時間差という概念が加わり、更なる奥行きが生まれているのではないか。そんな妄想が離れないのがこの名曲の恐ろしいところである。(ドリーミー刑事)
Text By Haruka SatoShoya TakahashiNana YoshizawaIkkei KazamaRen TeraoTsumugi NishimuraDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono