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Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

A Beacon School -「Jon」

ニューヨークを拠点に活動するパトリック・J・スミスによるソロ・プロジェクト、A Beacon School。ドリーム・ポップ風の楽曲が並ぶセカンド・アルバム『yoyo』の中で唯一、エレクトロニックなナンバーが「Jon」だ。これまでも彼の楽曲で見られたジャングリーに交差するサウンドが、アップ・テンポな四つ打ちと共に差し迫る。伸びやかなギターをサイド・チェインの如く膨張させたかと思えば、幾層にも重ねたシンセ・パッドやエコー、自身のヴォーカルの形をもゆっくりと撓わせる。柔らかな音使いにどこか切迫したシリアスさを感じるのは、こうした複雑な交わりにあるのだろう。5年ぶりとなる新作への意欲をとくに感じた1曲。(吉澤奈々)

Dazy – 「Forced Perspective」

リッチモンドを拠点に活動するミュージシャン、ジェームズ・グッドマンによるプロジェクトによる最新楽曲。共同プロデュースを手がけるのは、国内ではゆるふわギャングや水曜日のカンパネラ、国外では《Saddle Creek》より意欲的な新作をリリースしたシンガーソングライターのシャロームの作品をプロデュースしてきたライアン・ヘムズワース。轟音ギターと、ローファイな質感をまとったぶっきらぼうなヴォーカル・スタイルからなるメランコリックなオルタナティヴ・ロック楽曲だが、イントロを含め楽曲各所に施されたファニーなサウンドの意匠によりポップな印象に。こういう90年代オルタナティヴロック・リバイバル。アリだと思います。(尾野泰幸)

deary – 「Sleepsong」

子供のころ確かに行った公園の景色、カーテン越しに揺れる朝日、忘れていた笑い声。そういう存在したはずの記憶や解体された感情の抜け殻を、このロンドンの2人組はまとめて白昼夢と呼んでいる。バギー風のドラムにガラス細工のギターが光を落とすと、古い単語帳から抜け落ちたみたいな言葉の断片が、かろうじて意味やイメージを保ちながら漂い始める。眠りに落ちなくても、秋がやがて冬になっても、ドリーム・ポップは変わらずちょっぴりシュールな夢を見せつづけるよ。彼岸、約束、別れ、永遠。音は個人の記憶をつたって変容していく、だから90年代の先達を引き合いに出すまでもない。か細い声はまた、次の誰かの既視感≒夢を呼び覚ますだろう。(髙橋翔哉)

Klein – 「no weapon shall form against me」

サウス・ロンドンのコンポーザー/プロデューサー、Kleinによる、ノイズ/アンビエントにR&Bがほのかに混じり合った素晴らしい新作『touched by an angel』収録の1曲。静かな信号は徐々に大きくなり、ノイズに塗れていくと、聞き取れない距離で人の声が響き、その声は少しずつ悲鳴か、慟哭か、切迫した何かへと変わっていく。4分10秒ごろ声は一時的に止み、台風の目のような静寂が訪れる。そしてまた、ノイズと聞き取れない声の嵐の中へ。インダストリアルなビートが炸裂する非常に重苦しい時間を耐えていると、それらはバラバラになって砕け、最後は再び静寂に包まれる。畏怖の念すら抱く、圧倒的な10分40秒間。(高久大輝)

Sheherazaad – 「Mashoor」

パキスタン系アメリカ人のアルージ・アフタブが2022年度グラミー賞グローバル・ミュージック・パフォーマンス賞を受賞したことの意味と影響はやはり大きい。すぐさま名門《Verve》に移籍し、今春ヴィジェイ・アイヤー、シャザード・イスマイリーとの共作アルバムをリリースしたが、今度はやはり自分と同じアジア系アーティストのプロデュースに着手した。それがこのサンフランシスコ出身のインド系SSWのデビュー曲だ。移民2世として育った彼女は西洋のクラシックと南アジアの音楽の系譜を受け継いでおり、ここでも伝統的な旋律とギター・フレーズを用いて幻想的な歌をくゆらし、エキゾチックで美しいフォーク・ポップを聞かせている。ニルス・フラームなどで知られる《Erased Tapes》からのリリースというのも興味深い。(岡村詩野)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

Caroline Polachek – 「Dang」

文句なのか称賛なのか、もごもごした声を“Dang”と小気味良く切り捨てていく気持ちよさ。しかし後半では“tell me more”と加わり、聞こえないことを悔やんでいるように思えてくるし、断片的なイメージのリリックもどうしようもないことを指している気がしてくる。凶暴なオーケストラ・ヒットもちょっぴり虚しい。プロデュースはセシル・ビリーヴとおなじみダニー・L・ハール。最近のリリースを聴くに、歌唱のリズミカルさがより目立つパツパツとカットされた声はセシル・ビリーヴの提案かも。2ステップを軸にしたビートにバイレファンキ風味の音、ストリングス、クラベスみたいなクリックなど、余白の多いプロダクションでの音の連なりが心地いい。(佐藤遥)

English Teacher – 「Nearly Daffodils」

リーズ出身の4人組で、今年1月のシングルはスピーディ・ワンダーグラウンドからリリースされたが、その1枚で早くも注目を集めてアイランドと契約。スピーディ・ワンダーグラウンドらしいフックのある展開ながら、良い意味でメジャー感もあったので青田買いされたのかもしれない。実際、アイランドからのデビュー・シングル「The World’s Biggest Paving Slab」は今や売れっ子プロデューサーのマルタ・サローニとがっちりタッグを組んで、スケール感が増したサウンドを鳴らしている。このメジャー第2弾もマルタが手がけ、バンドが本来持つポストパンク的な要素を残しつつ、ダイナミックな展開へと昇華。2024年に予定されているアルバムもかなりいい線いきそうだ。個人的にはレーベルメイトのザ・ラスト・ディナー・パーティーよりも断然こちらを推す。(油納将志)

Guiba – 「ハアト」

South Penguin、Helsinki Lambda Club、odolのバンドメンバーで結成したバンドのファースト・アルバムが10月下旬にリリースされた。先行シングルとして同月に公開されたこの曲は、イントロの音の広がりが終始ずっと反響し続けており、さらにスローテンポで歌詞を聴かせる、広い空間を持っている楽曲だ。時代に逆行しているようで、サウンドは新しい、そんな意味でも幅があると思う。South Penguinの上に掛かっている薄いベールを感じるし、はっきり話す言葉はHelsinki Lambda Clubのようで、細部にわたってアレンジされたodolのベースも聴こえる。それぞれのバンドが見え隠れしながらも、ただ混ぜ合わせ、良いとこ取りしたのでは完成しない、核心のようなこの楽曲に注目している。(西村紬)

Melqui – 「Thinking of You」

ブエノスアイレス出身、現在はアムステルダムを拠点に活動するミュージシャン、Lautaro Hochmanによるフォーク・プロジェクトのMelqui。10代の頃にドビュッシーやフェルドマンといった作曲家たちのスコアに魅せられた青年は、いつしかクワイエットな音風景の中に自己を見出すようになった。12月初旬にリリース予定のデビュー・アルバムからの新たな先行曲は、サポートとして参加しているアムステルダムのジャズ・ミュージシャンたちとのアンサンブルが光る一曲。昨年に発表したEPよりも動的な、アンディ・シャウフやトムバーリンの近作など粒立ち豊かなフォークソングたちと並べたくなる、柔らかな芯の強さを感じさせるナンバーだ。(風間一慶)

Mustafa – 「Name of God」

ザ・ナショナルのアーロン・デスナーがコ・プロデュースに参加した新曲。ふたりの最初の邂逅は2014年の《オタワ・フォーク・フェスティバル》、デスナーは当時18歳だったスーダン系カナダ人であるムスタファのスポークン・ワードを目の当たりにし、その声と言葉に魅了されたという。『When Smoke Rises』(2021年)ではエレクトロニック・ミュージック経由で表現されていたフォークへの傾倒がより率直に推し進められ、今夏亡くなった兄への思い、そして敬虔なイスラム教徒としてのアイデンティティと葛藤が浮き彫りになる。深い嘆息に満ちたヴォーカルに重なるデスナーによる軽やかなアコースティック・ギターのストロークがメランコリーをさらに増幅させている。(駒井憲嗣)

Omar Apollo – 「Live For Me」

2023年度のグラミー賞において最優秀新人賞にノミネートされたり、シザの『SOS』ツアーに抜擢されるなど、オマー・アポロへの注目度はどんどん高まっている。本作は、彼が家族に初めてゲイであることをカミング・アウトした時の事を綴った「Ice Slippin」を含むEPからの一曲。彼の魅力は、一つは「Pilot」などでも見られるジェイムス・ブレイク以降のトラック、もう一つは本作で聴けるカリードなどにも通じる歌声だろう。「Ice Slippin」で生き方を否定された彼はこの曲で救いを求めるかのように歌うが、ここでのコーラス・ワークやシンセサイザーの響きなど、さながら讃美歌のようだ。(杉山慧)

佐藤優介 – 「反時代ゲーム」

スカート、ムーンライダーズなどで活躍するキーボーディスト、佐藤優介が超名曲「UTOPIA」以来約2年ぶりの新曲を発表。なかなかのスローペースだが楽曲を聴けば納得せざるを得ない。シンリズム、西田修大、佐藤奈々子をゲストに迎えて作り込まれたフレーズの集積は軽くアルバム1枚分の情報量。そしてYMOの遺伝子を感じさせるメロディセンスとファンクネスを基調に、リフレインがほぼ存在しないまま8小節ごとに景色が切り替わり続ける構成はため息が出るほどの贅沢さ。独特の言語感覚が織りなすディストピア的な歌詞も現実の混沌を言い当てているかのよう。長谷川白紙「Mouth Flash」と並び立つ異次元のポップ・ソングである。(ドリーミー刑事)


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Text By Haruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiNana YoshizawaIkkei KazamaTsumugi NishimuraDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono

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