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: yes/and

2021 / Driftless Recordings
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現代の息吹にこだまするアメリカン・プリミティヴ・ギター

02 August 2021 | By Takuro Okada

ケヴィン・モービーやパフューム・ジーニアスのサポート・ギタリストとして、そして自身もSSW作品をリリースしているハンド・ハビッツことメグ・ダフィーと、プロデューサーであり、マット・キヴェルの作品などをリリースする《Driftless Recordings》の設立者ジョエル・フォードによるアンビエント・プロジェクト、yes/andのファースト・アルバム。

ここ数年のニューエイジ/アンビエント・リヴァイヴァルについては周知のとおりであるが、バレアリック、ヴェイパーウェイヴを経由した電子音楽としてのニューエイジと、ジョン・フェイヒィ、ロビー・バショーやウィリアム・アッカーマンらアメリカン・プリミティヴ・ギターを発端とするウィンダムヒル的なアコースティック・サイドのニューエイジは、リヴァイヴァルにおいては別々の分脈軸で捉えられてきた印象であったが、本作ではそれらが再び邂逅し、見事に昇華されたと言えるのではないだろうか。メグの神秘的なフィンガー・ピッキングと、ジョエルのメディテーショナルな電子テクスチャーが美しいサウンドスケープを聴かせる。

時に注目して聴きたいのがメグのギター・プレイで、彼女のギタリストとしての新たな引き出しが試みられている。「Ugly Orange」や「More Than Love」、「Centered Shell」でのミュートの掛かったアコースティック・ギターやフローティング感あるギター・テクスチャーの使い方は、ジョン・フェイヒィのアメリカン・プリミティヴ・ギターというよりは、ブレイク・ミルズが『Mutable Set』や『Look』で聴かせたプレイに近い印象。ダウン・チューニングされた幽玄なギターを響かせる「Making A Monument」はローレン・コナーズの幻影が瞼の裏に浮かぶ。ミニマルなギター・コードを反復させる「Tumble」はもう10分聴いていたいような心地良さ。やはりシンセを中心にするではなく、アコースティック楽器のアーティキュレーションから生まれる質感が中心となることで、数あるアンビエント作品の中でも本作を個性的な作品に仕立てるのに一役買っているように感じる。ともすれば00年代のフォークトロニカ的メランコリアに包み込まれてしまいそうであるが、アメリカーナなギター・タッチとある種の淡白なバランス感が20年代らしい作品にさせている。曲尺も3分前後の短いものが多く、そこにジョエルによるウエストコーストらしいカラりとした鮮やかなシンセサイザーの音色が加わり、《Leaving Records》周辺の作品にも通じるポップでカラフルな実験音楽に仕上がっている。

ギター・ミュージック不遇の時代も完全に完全に靄が晴れたよう。アメリカン・プリミティヴ・ギターの新たな世代の流れを感じることが出来る。(岡田拓郎)

 

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