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屋敷: 実家

2021 / ミロクレコーズ
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失意と再生、ニヒルとタフネス

22 December 2021 | By Dreamy Deka

シンガー・ソングライター“屋敷”のファースト・アルバム『実家』。本日休演の岩出拓十郎がプロデュースを担当し、その名の通り岩出の実家を改装したスタジオで、一年半かけてレコーディングされたという。しかも、現在は岩出を中心に運営する《ミロクレコーズ》からのリリースなのだから、一般的なアーティストとプロデューサーという関係性を超えた結びつきの中から生まれた作品であることは想像に難くない。

一聴すると完全にオーセンティックなフォーク・ミュージックだが、不思議なことに、密室的あるいは懐古的なテイストは感じない。シンプルな歌とギターの向こう側に、新鮮かつ深遠な世界の広がりが感じられるのである。

この奥行きを生んでいる要素の一つは、いわゆる宅録のイメージを裏切る高品位な音像だろう。岩出が録音を担当し、家主や田中ヤコブも手がける飯塚晃弘がミックスを、そして同じく家主や台風クラブなども手がける風間萌によるマスタリング。このサウンド・プロダクションが屋敷の繊細なボーカルに凛とした強度をもたらし、kiss the gamblerこと“かなふぁん”、パーカッション奏者の宮坂遼太郎(蓮沼執太フルフィル他)も参加した演奏を一層豊潤なものに仕立てている。

二つ目は、影響を受けたアーティストとしてエリオット・スミスやレナード・コーエンをあげる屋敷のメロディメーカーとしてのセンスだ。人懐っこいが、過度に聴き手の感情に阿ることのないメロディには気品すら漂う。中でも6曲目「朝」のひっそりとした美しさは、安易な共感を拒むほどの孤独を感じさせる。

しかしなんといっても最大の特徴は、フォークソングの定型を踏まえながらも、2021年を生きる青年の価値観をありありと浮かび上がらせる歌詞にある。例えば1曲目「あきらめ」や2曲目「ニートの仕事」における、人生に対する達観と大望の間を、時にシリアスに、時に不敵にたゆたう言葉たち。これらはまるで行き詰まりと諦めを前提とした世界の中で、自分の居場所を探しているポスト氷河期世代の気分を端的に表しているようにすら思える。もし世代という主語が大きすぎるのならば、本日休演、台風クラブ、家主といった、音楽産業の構造変化を横目に、自分たちの音楽を誠実なスタンスで鳴らし続けているバンドに共通する価値観を総括している、と言い換えてもいい。このアルバムは彼らが作り上げてきた重要作に連なり、この時代の空気を象徴する一枚であることは間違いないからだ。

そしてここからは蛇足かもしれないが、最終曲「あなたのいない街で」を聴くと、どうしても思い浮かべずにはいられない、ある夭折したミュージシャンがいる。屋敷、岩出にとって大切な仲間だったはずのそのミュージシャンへの思いがこの作品の根底にあるならば、この作品は失意からの再生を記録した、ドキュメンタリー性をも帯びているということなのかもしれない。(ドリーミー刑事)

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