ノイズのその先にある真実を見つめて
ここに広がるのは、幻想的なだけのノイズではないし、ましてや夢見心地にさせるためのノイズではない。これは、真実を見つめようとしたときに立ち現れる矛盾や不条理が響かせるノイズだ。
UKダンス・カルチャーのヒーロー、アンドリュー・ウェザオールによるフックアップや、《Phantasy Sound》のオーナーであるエロル・アルカンからのスカウトをきっかけに、2012年から活動を躍進させてきたダニエル・エイヴリー。5枚目となるこのアルバムではどうやらいままでとは違った方向を見ているようだ。
冒頭「New Faith」で、ピアノの旋律の背後から徐々に大きくなっていくノイズにのみこまれると、ノイズをメインに据えた比較的短い楽曲を挟みながら最後まで辿りつく。アルバムを通して聴いたときにまず気づくのは、本作を総べているのが激しい音割れやヒスノイズをはじめとしたさまざまな質感のノイズということだ。「Devotion」や「Higher」はこれをかき消すかのようにエネルギッシュなドラムンベース。タイトル曲「Ultra Truth」ではサブベースを背景に温もりのあるシンセのメロディがくり返され、「Lone Swordsman」ではさらに短いモチーフがハーモニーによって展開していくのだが、同じ輪郭を何度もなぞってそこからなにかを見出そうとしているようにも聴こえてくる。ノイズがあってこそ感情的なメロディが暗闇に灯るたいまつのように切実にきらめく。
いままでになく多くのゲストが参加していることや、歌詞や詩といったことばをゲストたちの声で積極的に取り入れていていることも大きな変化だろう。参加しているのは、親友のHAAiやKelly Lee Owens、HAAiと同じくオーストラリア出身でアンビエントを制作しているSophie HutchingsやJonnine Standish、サム・スミスやムラ・マサなどに楽曲を提供し活動を重ねてきたA.K.Paul、レイヴを軸するDJで、エレクトロニック・ミュージック・レーベル《Hooversound》と黒人やLGBTQ+のコミュニティーにフォーカスした《BEAUTIFUL》のオーナーでもあるSHERELLE。そして、DJであり、ロンドンでの生活をリアリティをもって描き出す詩人のJames Massiahなど。エイヴリー自身がこのアルバムに具体的なコメントを寄せていることからも、メッセージ性を携えた作品であることが窺える。そのなかで
「この時代を切り開く方法は、人生で大切な人たちを身近に置いて、一緒にノイズを乗り越えていくことなんだ。」
と述べている。こう聞くとより一層、このようなゲストたちと制作を共にし、ノイズに包まれたアルバムでゲストたちのことばや声を重ね合わせることは、都市やコミュニティ、時代の様相を含めエイヴリーや彼の大切な人たちを取り巻いているものの先にある、自分たちを取り巻く真実を浮かび上がらせようとしているように思えてならないのだ。
最終曲「Heavy Rain」は、なにかが崩れ去るような轟音を響かせて終わる。そのあと、そこには何が見えるのだろうか。きっと光が差し込んでいると信じたい。(佐藤遥)
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