Review

Seefeel: Squared Roots

2024 / Warp
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26分のマインドフルネス瞑想が創造性を高める

15 January 2025 | By Shoya Takahashi

こんな素晴らしい作品のレヴューに、ふざけたタイトルで申し訳ない。最近は記事や動画のタイトルに「トランプ」と入っているとビューが伸びたと聞くし、そんなインプレッションが何よりの財産となったパンデミック以降のYouTube/イーロン・マスク以降のXを経由した、政治ブームや自己啓発、瞑想ブームはさもありなん……って感じで、何かの偶然でより多くの人がこの作品に“出会ってしまう”ことを期待している。

シーフィールは、主に90年代と2010年代初頭に活動してきたイングランドのバンド。90年代には、ポスト – エイフェックス・ツイン/マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなアンビエント〜エレクトロ・シューゲイズ〜ポストロックとして脚光を浴びた。その後、メンバーの交代や別ユニットでの活動を経て、2011年にはダブ的な音響に挑戦した『Seefeel』を発表。現在は、Mark CliffordとSarah Peacockの二人組となり活動している。

2024年に発表された『Everything Squared』(すべて2乗)、『Squared Roots』(平方根)の2枚のEPは、シーフィールにとって13年ぶりのリリースである。どちらもアンビエント〜ダブ・サウンドを展開しており、タイトルどおり対を成す作品として捉えられる。『Everything Squared』のサウンドが、丸みを帯びたキックと、ぶわんぶわんと鳴るベースで特徴づけられるのに対し、昨年末にリリースされた『Squared Roots』は、そのアンビエンスの繊細な揺らぎによって定義づけられる。

『Everything Squared』と『Squared Roots』のリスニング体験は、マインドフルネス瞑想の主な方法論とされる、“集中瞑想”と“洞察瞑想”にそれぞれ近い。つまり『Everything Squared』は、比較的大きな音量で配置された一つ一つの音に集中させることで、それ以外の外界をシャットアウトする。『Squared Roots』は、その集中力の拡散的なプロセスによって、聴き手である「わたし」の形をくっきりと浮かび上がらせる。以下では後者『Squared Roots』について記述する。

1曲目「So Shall You Be」は、急速に近づいたり遠ざかったりするノイズの“震え”によって、まず聴き手の注意を引き寄せる。次第にその震えはゆったりとした“揺らぎ”に変わり、聴き手の集中力は空間的に前後左右、上下へと移動しながら、正確な位置感覚へとアジャストさせていく。

EPの前半のハイライトである「As X Is Y」は、“やさしいワブルベース”とでも言えるような低音が、外耳から鼓膜に至るまでをゆっくりとシェイクする。高音も絶えずゆらめきつづけ、一定のテンポで打ち鳴らされる温かなキックは、聴く者の身体的・精神的バイオリズムと共振し、あるべき周期へと導いていく。

エイフェックス・ツインの『Selected Ambient Works Volume II』や、クラフトワークの「Mitternacht」のような、電子の揺らぎが見せてくれる深淵は、ときに心象のかたちを映し出し、浮世から切り離された「わたし」の実体をあぶり出すかのようだ。アートワークに刻まれた亀裂のすきまに虹色の光が浮かび上がって見えるころには、あなたも新しい何がしかを掴めるはずだ、そろそろ水風呂から上がった方がいい。ふざけた原稿タイトルで申し訳ないが、新生シーフィールの音響体験を正確に記述するためには、賢そうな言葉や情報の集積によってでは到底満足できないのである。おやすみなさい。

スーパー銭湯(静岡県)の休憩スペースにて

(髙橋翔哉)

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