重力圏外
追いつけ、さもなくば道を空けろ。伝統に縛られたやつはくたばれ。
これはいつかのロック・スターがインタヴュアーに吐き捨てた文句でもなければ、野心に滾るスタートアップ起業家が書き連ねたビジネス書(刊行:ダイヤモンド社)に踊るアジテーションの類でもない。これはリオ・デ・ジャネイロで現在最も騒々しく、世界中のブッカーが札束の山を用意して待ち望んでいる、DJハモン・スセッソというプロデューサーの『Sexta dos Crias 2.0』というミックス集のキャプションに添えられた最後の一文だ。え、大言壮語? そうだな……少なくともハモンのミックスを一定のサウンドシステム下で大音量で浴びたものならば、その可能性には疑うことなくベットしていることだろう。2002年生まれ、酒やタバコに手を伸ばさず今もなお教会に通うという敬虔な福音派の青年は、ここ2〜3年でバイレ・ファンキ・シーンのエッジィに屹立する奇才として揺るがぬ地位を確立したのだ。
マイアミ・ベースの変種として20世紀にリオで勃興したバイレ・ファンキは、街中に点在するファヴェーラ(貧民街/スラム)のパーティーにおける精神的なガソリンとして、アフロ・ブラジリアンを中心にブレーキを欠いたまま加熱していった。現在まで続く警察による弾圧にも簡単に屈することなく、ある意味で密室芸のような破天荒さをキープしたまま、その熱はリオの外にも伝播していく。2000年代にはディプロが『Favela On Blast』というドキュメンタリーを制作するまで没頭し、昨年にもザ・ウィークエンドが「São Paulo」で大々的にフィーチャーするなど、ポルトガル語でのスピットとベース・オリエンテッドな凶暴的なサウンドのミックスは数多のアーティストを魅了してきた。
ここ数年で急速にメイン・ストリームへと進出したバイレ・ファンキ。2024年にはプロデューサー・コレクティヴ/レーベルの《Love Funk》が仕掛けるメドレー・シリーズの「THE BOX MEDLEY FUNK 2」が異例のブラジル国内シングル・チャートで1位を獲得し、アニータが『Funk Generation』でファンキのグローバル規模での可能性をもう一度レプリゼントした。ここ日本でもバイレファンキかけ子の着実な仕事などにより、「破滅的なダンス・ミュージック」としてその存在を認識したナイト・タイム・ラヴァーも多いのではないだろうか。(*1)
興味深いのは、メイン・ストリームでの露出が増えたことにより、アンダーグラウンドでの先鋭化も進行したという点だ。例えばウガンダの《Nyege Nyege Tapes》はDJ アンデルソン・ド・パライーゾやDJ Kといったブラジルのプロデューサーをここ1〜2年で急速にフックアップ。DJ アンデルソン・ド・パライーゾは有閑なミナス・ジェライスの州都であるベロ・オリゾンテを拠点にMCを束ねあげ、DJ Kは60年代に活躍したマルクス主義革命家のカルロス・マリゲーラに作品を捧げるなど、ダンス・ミュージックに留まらないバイレ・ファンキのポテンシャルをそれぞれ証明した。《Modern Love》からデビュー作を発表したザヴィズフォン(xavisphone)や多作なDJラメーメス(DJ RaMeMes)をはじめ、現在のバイレ・ファンキ・シーンを下支えするプロデューサーはサブスクリプション・サーヴィスではなく、SoundCloudやbandcampをメインのプラットフォームとして使っているのも特徴的だ。
そして、その潮流の象徴的存在こそがDJハモン・スセッソなのだ。16歳より地元のコミュニティを中心に活動していた彼、その知名度を一気に引き上げたのは縦型のリールだった。自宅のサウンドシステムを前にコントローラーを叩きながら、無数の声とビートをマッシュアップし、キックとベースが流れる度にカメラが振動する。サッカー・シャツを着たその出立ちはTLの流れを堰き止めるには充分すぎるほどの破壊力があったのだ。蜃気楼のように揺れる画面は、彼がフロアで放つ電撃のような瞬間を捉えていた。
バイレ・ファンキの中でも、DJハモン・スセッソはハイ・スピードなタンボルザォン(Tamborzão)・スタイルのプロデューサーだ。同スタイルではBPM130〜150程度をキープしながら打楽器を中心にノンストップでビートを繋いでいくのがセオリーだが、ハモンは声やサンプルの短いループをアト・ランダムに配置することにより、即興的なコラージュ作品を瞬発的に繰り出していく。キックであれヴォーカルであれ、セットに流れる時間は全てがハモンの身体一つに委ねられている。その飛び抜けたダイナミズムにより、彼はウワネタ/ドラムスに縛られない特異なビートを作り出すことに成功した。事実、ハモンのセットはキックやベースの鳴っていない時間がたっぷりと設けられてはいるものの、凶暴性を保ったままスイングしている。
その証左として『Sexta dos Crias(仲間たちとの金曜日)』シリーズの最新作となった第二集を聴いてみよう。Aサイドの「Rompendo o Espaço-Tempo(時空を切り裂いて)」はネーム・タグからMCの掛け声に繋がり、中途でやや歪んだサンバのパターンが強引に雪崩れ込んでくる。DJハモン・スセッソの特徴として、サンプルごとの音圧が不揃いであることにより、同じ時間軸を共有していたとしても重力の捻れのような勾配が生じる瞬間がままある。これが彼の超越的なサウンド──まさに「時空を切り裂いて」──の所以の一つだ。老婆や幼児のごく短いサンプルにシンセのフレーズが乗っかり、そのシンセの響きに5〜6つほどのヴォイスが応答し、4小節を待たずとも遷移していく……ここまであっという間だ。
よりカオティックなのはBサイドの「Distorcendo o Universo(宇宙をねじ曲げて)」だ。鼻歌からシャウトまで横に並べて一斉にキックで吹き飛ばすような暴力性と、その暴力性すら2秒後に引っ込めてシェイクするような展開の妙味。数多のMCの声が混入しており、中にはブラジル現地でのスターもいるらしいのだが、ノンクレジットで彼は闇鍋に突っ込む。
もちろん、上に連ねたセットの実況は、『Sexta dos Crias 2.0』のほんの一部でしかない。恐らくその全てを書きおこすのならば数万文字にも及ぶのだろうが、そんな無為に時間を割いている隙はないだろう。ほんの30分ほどスピーカーを拝借するだけで、業火も氷塊も雷鳴も静寂も天竺も煉獄も、波の形をしてあなたの頭上を飛来してくるはずだ。その苛烈な無重力状態に敬意を表し、「Distorcendo o Universo」のラストに据えられたMCの言葉で本稿を締めたい。
そんな感じで、みんな
俺はこのへんで失礼するよ
マジでありがとう
マジで感謝してる
1枚目のアルバムの反響も含めてね
そんな感じ、ありがとな
で、これが2枚目、俺戻ってきたぜ
みんなに広めてくれよ
聴いてるやつはさ
インスタでタグ付けしてくれ
@djramonsucessofc
(風間一慶)
(*1)ちょうど本稿を書いている最中にbandcamp dairyで「Building a Home for Brazilian Funk in Japan」という日本におけるバイレ・ファンキ受容をまとめた特集記事が公開された。ぜひご参照を。
https://daily.bandcamp.com/features/bailefunk-kakeko-feature
(*2)なんとGeniusでは「Distorcendo o Universo」のリリックがまとめられている。ほぼチョップドされた声の書き起こしなのだが、参考までに。
https://genius.com/Dj-ramon-sucesso-distorcendo-o-universo-lyrics
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ウガンダの気鋭レーベル《Nyege Nyege Tapes》と《Hakuna Kulala》を、2022年のリリースから考える
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