Review

Liv.e: PAST FUTUR.e

2024 / Self-released
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力強い意志に支えられた軽やかな衝動

21 May 2024 | By Daiki Takaku

リヴ(Liv.e)の新作は軽快で奇妙なポストパンク・レコードである。シンセ・パンク、あるいはシンセウェイヴと呼んでもいいだろう。まあどう呼ぼうが、2020年の『Couldn’t Wait To Tell You…』あるいは昨年の『Girl In The Half Pearl』を聴いていた人を驚かせるリリースであったことは間違いないはず……。

ダラス出身で現在はLAを拠点に活動するリヴは、音楽一家で育ち、名門として知られるブッカー・T. ワシントン・ハイ・スクール・フォー・ザ・パフォーミング・アンド・ヴィジュアル・アーツを卒業。シカゴ美術館附属美術大学を中退し、ソロ・アーティストとして実験色の強いオルタナティヴなR&Bを探求してきた。ソロ以外でもJade Foxという名義を用い、ピンク・シーフとGhoulfive(Lord Byron)の2人と組んだKryptonyteとして2018年にセルフタイトルのアルバムをリリース。メンフィス的なヒップホップ・サウンドの上でラップを披露していたりもする。その音楽性における折衷的なアプローチはソウルクエリアンズ周辺のフォロワーとして捉えることもできるだろう。



とりわけ、前述した2020年の『Couldn’t Wait To Tell You…』は20曲におよぶ、ところどころ液状化した断片がゆるやかに折り重なるサイケデリックな素晴らしいデビュー・アルバムであり、続くセカンド・アルバム『Girl In The Half Pearl』はよりダークで緊張感の漂う、ジャンルの壁をさらに曖昧にする傑作だった。どちらもローファイな質感を併せ持つ作品ではあったが、この『PAST FUTUR.e』はそれらのアルバムがウェルメイドに感じるくらいにはボロボロで、崩れ落ちるギリギリのところを疾走している。くぐもったヴォーカル。壊れたおもちゃのようなシンセ。繰り返し打ちつけられるマシン・ビート。そのサウンドは、さながらLAの乾いた風を浴びたスロッビング・グリッスル……?




まあどう呼ぼうが、目を見張るのは、そういった奇妙でスリリングなサウンドにどこか爽やかさを感じる点である。そしてそんな印象の一つの要因は、おそらく本作の制作スピードにある。日本時間で言えば3月29日の午前3時頃、リヴはXに「remember when I did hoop dreams? I made that hoe in 24hrs- no label? yea I’m bout to do that kinda thing again..tomorrow #synthwave」とポストし、本作はその数時間後にBandcampでリリースされている。この驚異的なスピードは、ポスト内で触れている『::hoopdreams::』(2018年)や、不眠不休の一夜でレコーディングしたというミックスなしの『RAW DAYBREAKS VOL​.​1』(2017年)など、これまでも制作の速度にこだわって作品を発表してきたリヴだからなせる技だろうし、本作は時間を掛けていないからこそ、フレッシュなフィーリングを、衝動を、そのままパッケージすることに成功しているのではないだろうか。




リリックがとてもストレートに聞こえるのも、そんなスピード感あってのことかもしれない。例えば、ラスト「$$$$ $」での「金が足りない!」という叫びの清々しさったらないだろう。また、(あえて引用しないでおくが)いくらか打ちのめされる覚悟のある年長のおじさま方は「Poor Daddy」を聴いてみるのも良いと思う。さらに言えば、ノイズまみれのスポークン・ワードがリスナーに勇気を与えてくれる1曲「Mashed Feelings」にある一節は、こうして我々の予想を裏切りながら進むリヴを象徴する言葉でもあるだろう。曰く、「ほっといて、私はいつも自分が幸せな気分になることをする!」。つい「最高!そのままやってくれ!」とエールを送りたくなるが、ともあれ、瑞々しくも今にも崩れ落ちそうな『PAST FUTUR.e』は、きっと自らを強く信じ、肯定する意志によって屹立しているということだ。(高久大輝)

(参考)
https://www.ableton.com/ja/blog/just-feeling-it-mapping-lives-musical-evolution/



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